魔法軍部のパレードの終盤。私は風音や雫と雑談をしながら観覧していた。
色々心配することは多かったが、何も起こらなかった。でも、それはいいこと。ここにはいないある学生も必ず起きるとは言っていない。そう思っていても何処か、嫌な予感が拭えない。そう思っていた矢先、魔法スタジアムの外から何かが飛ぶのが見えた。何か見慣れない、重そうな装甲を着たまま魔法で飛ぶなんて中々出来ることではない。魔法軍部の最後の催しだろうか。
……え、視線が合った?
……なに、あれ。あまりにも、あの装甲からは魔素が満ちている。それだけでじゃない。パレードをしている魔法軍部側も、不審な何かに警戒を抱いているようだ。魔素の流れが不自然だったこともあるけど何より……その高い場所から魔法を使おうとしている。
「な、何よあれ……」
私たちの前に割って入る学生の背中が見えた。
「壁礫層……波状展開!!」
見たことのない魔法に眼が丸くなる。観客席とフィールドの双方から石の礫を壁のように作り、あの重そうな装甲から観客席にいる私達を隠すように伸ばしている。
その直後、稲光のような轟音と業火のような熱が飛んでくる。幸い、自分達に怪我はなかったけど、魔法を使って自分や観客たちを守った学生……石垣君が膝をついた。
「大丈夫、石垣君!?」
「くっそ……防ぐだけでこんな」
荒い息を吐き、全身を力ませながら魔法を防いだ石垣君は膝を震わせながらも立ち上がる。黒い装甲は慌ただしく逃げる学生や一般人、フィールドから魔法銃で迎撃する魔法軍部を見向きもしない。
「あれ、私達を見ている、の?」
「ね、ねぇ……私達も逃げないと」
2人はそう言うけど、私には分かっていた。狙いは自分なのだ、と。
「櫛灘さん、あいつの狙いは貴女です。だから、貴女だけは不味いです」
「で、でも、どうするのよ。あいつ、まだまだ魔法を撃つつもりよ!?」
「下に降ります」
「は?あいつだけじゃなくて魔法軍部にも囲まれたら、それこそ私達がピンチなのよ!?」
風音が私の言いたいことを言ってくれた。もし挟まれたら、逃げ場が今度こそない。
「だから利用しましょう。魔法軍部があれに反撃している時点で、彼らにとっても予想外なんです。仮に敵対するとしても、一般人や他の学生達を逃がす時間を作ることには協力すると思います」
黒い装甲を着た奴は自分達の動きを見定めているようで、直ぐに魔法を撃ってくる様子はない。お陰で、落ち着いて考えることが出来た。
「……確かに、そうかもね」
「あの人だったら、そう言います。利用できるものは味方だろうと敵だろうと、何でも使ってきましたから」
この状況で誰の事を言っているのかなど、口にせずとも分かる。だから、石垣君の言う事も信じられた。
「そ、だったら間違いなさそうね。いいわ、石垣君の案に乗る。風音と雫は早く脱出して」
「で、でも……」
「いいから、早く!」
……風音の目が、怯えていない。
「……私は、逃げないわよ」
「な、何で!?」
「考えるまでもないでしょ。私も火ノ華と同様に魔法の成績が優秀で、度々あいつから魔法軍部へ行くよう何度も言われてた。火ノ華の次はきっと、私を捕まえるはずよ」
「で、でも危ないよ」
「そうよ。だけどね、こうなることを見越して裏でずっと準備していた奴を一人知っているの。そいつは今ここにいないけど、こうなると読んで準備していた。だから、戦うわ」
……もしかして、風音は知っていたの。一貫くんが何をしていたのか。
「あいつは言ったわ。生きることは戦うことだって。きっと、ここに来る前からそういう無茶をずっとしてきたのよ。聞いた時は気後れしたけどね。それでも、この今を知った上で逃げたのなら、私は二度とあいつに何も言えなくなる」
──そうね、なら私も戦わないと。私が、私でいられるように。あの楽しい日々を明日も皆で過ごせるように。
「悪いけど雫、ここは逃げて」
「わ、私だって2人の友達だよ、それに一貫君だって……」
「でも、雫は魔法戦闘が苦手でしょう。相手が誰だか分からないけど、魔素の出力具合から学生のレベルじゃない。はっきり言って強敵よ。私一人だと厳しいと感じるくらい」
雫は魔法による実技が苦手としている。だから、できるだけ安全な場所に居て欲しい。
「……でも!」
それでも、食い下がる雫の気持ちも分かる。ずっと守られるだけなのは、辛い。それでも今は……
「櫛灘先輩に東雲先輩、先に降りて下さい」
「……え、でも」
「分かったわ。いくわよ、火ノ華」
「え、ちょ……」
一度だけ、雫を見る。心配そうに、悔しそうに私達を見ている顔が辛かった。
私は一人、その場に立ち尽くしていた。風音と火ノ華ちゃんがこれから危険と立ち向かうのに自分はそれについていけない。
「……火ノ華ちゃん、風音」
自分の不甲斐なさを悔しく感じたのは久し振りだった。以前は高等部へ進学した時のこと。友人の風音は別のクラスになり、暫く馴染めずに浮いていた。
それに併せて魔法の成績も振るわなくなって……そんな自分が嫌で嫌で、学園の屋上へ行った時のこと。──を考えていた私は、一貫君に助けられた。学園で聞く蔑称は普通の学生なら軽蔑の証のはず。
だけど、気にすることなく自然体で過ごせるその強さに目を見張った。あの日起きたことを、何年経っても私はきっと忘れないだろう。あの姿を見たから、諦めかけていた魔法にもう一度取り組むことが出来たんだから。
「…………」
さっきの風音達の言葉は事実だ。私は火ノ華ちゃん以上に魔法を戦闘で使うことが苦手だ。でも、何か手助けをしたかった。助けられてばっかりで、不甲斐ない自分が嫌だった。脚に力が入らない。あまりに自分が情けなくて、悔しくて、泣いてしまいたい。
「えーと、雨森先輩でしたっけ」
「石垣、君?」
彼は、一貫君の後輩だという。
「ここから降りたいんですけど、木の棒とか作れます?」
「う、うん。その位なら」
それは私にとって難しいことじゃない。直ぐに作って、手渡した。
「ありがとうございます。それで、雨森先輩は避難するんですか?」
……悔しい。一緒に戦うと言えない自分を今すぐにでも引き裂きたい。あの日を境に、もう一度魔法を鍛え直して風音と同じクラスになれた。なのに、結局は助けられかりだ。私だって二人の……一貫君の友達なのに。
「──わたし、は……」
何も出来ないまま、ただ守られるだけなんて嫌だ。でも、自分が役に立てないことも分かっている。
「じゃあ、手伝ってくれませんか。俺達の」
「え?」
「この魔法スタジアムの裏側に行って下さい。そこには、この一月半に誘拐された学生達が今も残されています」
「え、え……え?」
何を言われているのかが理解できない。だって、どうしてそんなことを石垣君が……?
「その移動を手伝って欲しい。一部の先生達も既に手伝っていると聞いています。魔法軍部は今、一般人や学生の避難を優先しているので邪魔されない。回収部隊も撤退させられたみたいですし。そっちを手伝ってくれませんか」
「で、でも、自分だと迷惑に……」
反射的に出てしまった。そういう自分が嫌だと思っているのに……
「──それでも、出来ることを探している」
「……!」
心臓が止まるかと思った。そうだ、いつも助けられている自分が嫌で嫌で……それでも、何かをしたかった。
「それは……私でも、大丈夫?」
「はい、とにかく人手が欲しいんで。お願いします」
「……ううん。ありがとう」
目的が見つかった。脚にも力が戻ってきている。なら、行かないと。
「お願いします。俺は2人の援護に行くので」
そう言って、石垣君は観客席から飛び降りた。あの高さから飛び降りて怪我せず着地して、風音達の戦いに混じったことには驚いたけど、そのまま三人の戦う様子を眺めている訳にもいかない。
「……待っていて、皆」
私は火ノ華ちゃんや風音のように魔法の実力が高い訳じゃない。一貫君のように一人でも強い人じゃない。そんな自分を理解しているから一緒に戦える……とは言えなかった。
でもね、そんな、そんな私だけど……私だって、友達なんだから。できることを……やってみせるよ。