私は君の手を握る   作:久遠の語部

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第10話-3 私が私であるために

 私と風音がフィールドに降りると、黒い装甲を着た奴もまた着地した。魔法軍部の人達は武器を持っていない人が避難の手助けに向かい、残りは共闘するつもりで魔法銃を撃っているけど、その悉くが魔法で作った物理障壁のようなもので防がれている。

 魔法だけだと物理的な脅威は完全には防げない。それをああも簡単に防いでいるってことは結構な魔法の使い手ってこと?

 兵士達は戦意を無くさずに銃を構える様子は心強いけど、返って冷や冷やする。

 

 「まずは一般の人の安全を優先してください。狙いは私ですから」

 「だが、君達は……」

 「本格的な魔法の撃ちあいになれば、魔法を防いで守ることなんて出来ません。弾も通っていないみたいですし、まずは一般人の避難をお願いします」

 

 苦渋の顔を浮かべている兵士達は何度かの葛藤を経て、受け入れた。

 

 「……済まない、力不足で」

 

 兵士は、私以外の何かに謝っているようだったけど、今は関係ない。

 不思議なことに、奴は兵士達が撤退するまで何もしなかった。単純に、魔法を存分に使う上で邪魔になるからどけたかったのかもしれない。

 

 「準備はいい、風音?」

 「そっちこそ」

 

 お互いに震えがあった。こんな形で魔法を使った経験はあんまりない。だから、この先どうなるかが全く分からない。少なくとも、相手に加減する余裕なんてものはない。

 

 「良かった。まだ始まってなかった」

 「石垣君!」

 「何で遅れ……って、何その棒は?」

 「俺は先輩達と違って、風を扱う魔法が不得手なんです。だからこうして……」

 

 細長い棒の輪郭が崩れて大気に溶ける。魔法の効果が切れたらしい。

 

 「雨森先輩に簡易な棒を作ってもらって、飛び降りました」 

 「え……ってことは、あそこから魔法もなしで飛び降りたの、さっきの棒で。観客席からここまで3、4階位の高さはあるわよね?」

 「ちょっとコツはありますけど、棒を使って高所から降りる方法があるんですよ。まぁ、これもそれも、兄貴から教えて貰ったものばかりですけど……と、来ます!」

 「ちょ、まだ……!」

 

 溶岩の濁流を思わせる火の波状攻撃が大波のように襲ってくる。あれって規模は大きいけど溶岩流を模した魔法ってこと!?

 急いで範囲の外へ逃げてやり過ごせたけど、相手の実力があまりにも異常だ。

 

 「一人の魔法使いが扱える密度と量の魔法なの、あれ?」

 

 いくらなんでもおかしい。周囲の魔素濃度も気分が悪くなる程になってない。なのに、何処からあんな魔素を持ってきているのか。状況的に特殊とは言えど、地形すら変える魔法を只の1人で扱える訳がない。

 

 反撃の糸口を考える。でも、狙われている私は防ぐだけで精一杯だ。十を超える火巻鷹を一度に出したり、地上に残っている熱を使って火を纏った蛇が私を狙ったり、土を迫り上げて私の逃げ道を塞いだかと思えば、雷でわたしのを狙ってきた。それらの魔法の質、精度は学生のレベルじゃない。

 

 「いった……」

 

 よけたつもりだったけど、避けきれていなかったらしい。雷を受けた時の痺れや火巻鳥の余波を受けていた。

 

 「あ……れ?」

 

 必死に魔法で防御していたけど、気付いたことがある。いつもより魔素を集めやすい。これ、何でだろう。

 

 「撃ち抜いて!」

 

 そこを考える暇もないまま、私から距離を取っていた風音が周囲の魔素を凝縮して細く、鋭い竜巻を作り上げてあいつ目掛けて放った。

 竜の槍巻。槍を模した風の竜巻は、風音が使える魔法の中でも一点突破に長けた魔法。その槍は周囲を削るように推進して、あれは避けることすら出来ずに直撃した。

 

 「やったっ……!」

 

 あれなら、流石に……

 

 「……東雲先輩のフォローに周ります。櫛灘先輩はあいつの動きに気を付けてください」

 「……え?」

 

 今の一撃は、まともに喰らえば体に穴が開く。幾ら装甲を着ているとは言え、無傷なはずが……

 

 「う、そ……」

 

 確かにあの重い装甲を着たあいつを数十メートル後退させることに成功した。だけど、奴は装甲含めて無事だった。

 じゃあ何、もしかして魔法で防いだってこと!?

 

 「風音!」

 「そん……」

 

 お返しだと言わんばかりに、風音に暴風を撃ち込んだ。魔法のダメージよりも……凄い勢いで飛ばされている。あんなのでフィールドに直撃でもしたら……!

 

 「何あれ、一人の魔法使いだけであんなこと出来る、普通!?」

 

 ちらっと、石垣君が見えた。既に魔法を使っていて、分厚いながらも柔らかい粘土のような壁を厚く作り上げている。気にはなるけど、信用していい。だったら、私のやることは……

 

 「…………」

 

 使った魔法を見る限り、魔素の密度と量は普通じゃない。先ほどから自分達に向けた放っている魔法に加えて、装甲に使っている魔素を考えても、平然としている。人一人には有り余る魔素を扱っているにも関わらず、使った魔法が暴発しているようにも見えなければ、魔素の欠乏で苦しんでいるようにも見えない。

 

 「……あの装甲が魔法の補助を?」

 

 あいつがまた、魔法を使おうとしている。私は一貫くんほどの精度じゃなくても、その魔法の規模が分かる。

 ──あれは、私が止めるしかない。

 

 「やるしか、ないわね」

 

 相手が何者かは分からない。だけど、自分を狙って、多くの人を巻き込んだ。自分を援護しようとした友人を害そうとした。きっとこいつを倒さないと、日常は間違いなく帰って来ない。

 

 「ふぅーー……」

 

 きっと一貫くんは、こんな戦いを何度もしていたんだろう。そう思うと、一層負けられない。

 

 

 

 一方、思わぬカウンターを喰らった東雲は魔法の制御が出来ないまま吹き飛ばされていた。

 

 「ちょ……まず!」

 

 全力の一撃には自信があった。自分ではどこかにいる誰かのようにはできない。だからこそ、全力で攻撃して少しでも隙を作る。そんな算段だ。でも、実際は少しの間、動きを止めただけ。消耗していたから抵抗できないまま吹き飛ばされた。せめてもの抵抗で、衝突の瞬間までに全身を守るように魔素をかき集めて防御に全身を集中させ……

 

 「……?」

 

 だけど、その衝撃はクッションのように柔らかい。不思議に思い、恐る恐る目を開けて後ろを見れば、土の壁が出来ていた。そして、その近くには荒い息を何度も吐く石垣君の姿があった。

 

 「た、助かったわ、石垣君。さっきから難しい魔法を連発しているけど、大丈夫なの?」

 「正直、ちょっと、きついです」

 

 先程から魔法を連発しているせいで消耗していて、肩で息をしている。向こうでは火ノ華とアイツが魔法の撃ちあいをしている。その威力は互いに凄まじいと言えるけど、同時に怖くもなった。

 

 「東雲先輩って、結構、気が短いんですね」

 「わ、悪かった、わね」

 

 思わず、声も震えてしまう。このままアイツと戦い続けて大丈夫なんだろうか、という不安が過る。

 

 「周囲に兵士がいないし、不意を突くつもりで突撃、したんでしょうけど。いきなり倒れたら不利になるのは、こっちなんです。相手の力量が、まだ分かってないんですから、気を付けて下さいよ」

 

 だけど、目の前でそれを見ている石垣君は戦う意志を捨てていない。なら、こんな所で弱音なんて吐いていられない。直ぐに立ち上がって、2人の様子を観察している。

 

 「……えぇ、用心するわ。でも、疑問に思わないの。あんな規模の魔法を連発して疲れや緩みがないなんて、聞いたこともない。アイツ、どう考えても普通の魔法使いじゃないわ。あんな魔法を連発すれば、火ノ華だって気を失いかねないのに」

 「実は、そっちの検討がつきました。多分、ブーストしてます」

 「え?」

 「あの装甲に、異常なまでの威力と潤沢な魔素。そうか、あれがそう、なのか」

 

 待って、あれを知っているの?

 

 「ここへ来る前に聞いた話です」

 

 息を整えつつある石垣君から、手短に説明を受ける。それは自分が生まれた頃には製造が中止されたと聞いていた。開発当初は魔法による攻撃やドローンを使った攻撃から、魔素を放出することで魔法を打ち消す。ドローンを撃ち落とすことで被害を防ぐ防衛装置として使われた。以降は、魔法を使った攻撃にも転用されたこともあったけど、魔法の過剰使用による死亡事例と言う運用ミスにより使用を禁止された。何故、死亡事例が多発したのか。それは使用の際に魔法使いを眠らせる為、加減が効かない為だ。その兵器の名は……

 

 「それがマニピュレーター。俺もこうして中に人が入って戦うタイプは初めて見たんですけど、兄貴は以前見たことがあると言っていました。だから多分、そうなんでしょう」

 「……なん、ですって?」

 

 そんなものをどうして今更魔法軍部が使ったのか。怒りを通り越えて、体中の血管が千切れそうだった。

 

 「聞いた話が正しければ、装甲内部には魔法使い達から搾り上げた高純度の魔素が詰められているそうです。それは質の高い魔法を長時間使い続ける為とも、周囲の魔素に頼らず魔法を使う為とも聞いています。装甲で見えないから分かりませんが、疲れがないのはそれが原因かもしれません」

 「待って。だとしたら、あの装甲へ使われている魔素をどうやって集めたの?」

 

 よく、日常の授業でも魔法使いの数が足りない。高密度の魔素は幾らあっても足りない、と平日の授業の中でも耳にタコが出来るくらいに聞いたフレーズだ。そんなものに使っている余裕はない様にも見えるけど……

 

 「…………」

 「ちょっと、知っているなら教えてよ。私だってとっくに、無関係じゃないの」

 「……キレないと約束しますか?」

 「どういう……待って、まさか……」

 「だから、学生の誘拐事件を追っていた。そりゃそうだ。誘拐なんて、兄貴が最も嫌うやり口だ。そりゃあ、意地でも暴こうとしますよ」

 

 犯人が不明な誘拐事件、不可解な魔法学園の態度、執拗な魔法軍部への勧誘。直近でこれだけのことが起きていた。繋がるものだと考えていなかったそれらがもし、1つの結論に繋がるのなら……

 

 「そういう、ことなのね」

 「状況的な推測です。でも、そういうことなんでしょう」

 

 強い熱が、離れている私達にも襲い掛かる。見れば、装甲を着た誰かが圧倒的な魔法の力で火ノ華を追い詰めている。一人で抵抗できていることには驚きだけど、押し負けている。このままでは、負けてしまうのも時間の問題だった。

 

 「一旦、火ノ華を助けてくる!」

 

 だから、石垣君の言葉が聞こえなかった。

 

 「やっぱり、あのマニピュレーターを使っているのは……」

 

 

 

 当初は自分が使える魔法で倒そうと考えていたものの、その間違いに気付かされた。使ってくる魔法の規模は大きいのに、他の学生のように魔素の制御が出来ている。だから、魔法を内側から崩すことも出来ないままひたすら逃げつつ、最低限の魔法で猛攻を凌いでいた。

 

 「ふぅーー……」

 

 攻めようにも、まず魔法が届かない。おまけに、魔法の連撃も止まらない。焦燥と緊張からどうするかを必死に模索しても、浮かぶのは疑問だけ。

 

 どこから、どうやって。

 その魔素を持ってきたのか。

 

 検討はついた。だからこそ使ってくる魔法が、使う相手が気に喰わない。

 

 こうして何度も魔法を撃ちあえば、どんな魔法使いかの判断がついてしまう。魔素を制御出来ないまま魔法を扱う人もいれば、上手く制御して少ない魔素で扱う人もいる。だけど、目の前の相手は魔素の制御は出来ているにも関わらず、魔法の使い方が荒い。魔法学園に通っていれば嫌と言う程感じる、魔法使いという特別性に溺れる姿だ。

 

 自身の魔法の実力が高いことは自他共に認めていて、魔法の危険性を理解している。だからこそ、アイツの魔法を扱うその姿勢に嫌悪する。単純に攻撃するだけなら、何かの形を模した魔法の方が魔素の消費、精神的な消耗も少ない。だけど、アイツは徹底して点ではなく、面を狙った攻撃をしている。

 

 それでも、こうして不利な状況には変わりない。自分のいる場所の上から、土砂の塊が降ってくる。その量も急いで逃げなければ私が埋まってしまう程の量だ。

 

 「く……」

 

 慌てて逃げたものの、続けて火の壁が自分に向かって迫っていた。

 

 「あ、マズい……」

 

 これは躱せない。そう気づいた時に、思い出してしまった。

 

 ──火が帰るべき家を燃やしている。平穏無事だった一家族が、突如として悲劇の舞台の狼煙となる。

 お父さんは自分を助ける為に炭となった。今、その炎が自分に向かっていて……

 

 「──あ」

 

 いつの間にか、自分の背丈を大きく超える炎の壁が目の前まで迫っており、今から魔法で防ごうにも出来やしない。何も出来ないままそれを受け入れようとして──見知った友人によって助けられた。

 

 「遅くなったわね!」

 「か、風音!」

 

 ようやく、我に返った。そうだ、自分には友人がいる。こんな状況に巻き込まれながらも、私を見捨てない友人が。

 

 「あ、ありがとう」

 「さっきまで私がヘマをしてたから、これでおあいこね」

 

 風音は知っていて、口にしない。私の過去を知っていて、口にしない。

 

 「そう言えば、着地は大丈夫だったの?」

 「うん、石垣君が衝撃を和らげてくれたから」

 

 そっか。やっぱり、間に合ったのなら、私が1人で戦っていたのも意味があったんだ。さっきのを見て声が震えているけど、少しだけ落ち着けた。

 

 ……て、アイツは!?

 

 「中々やるわね、石垣君」

 

 私がさっきまで相手をしていた奴は今……石垣君が戦っている。攻撃が届かないと悟り、防御中心になっているけどその立ち回りは中々にクレバーだ。火には土を被せ、風は石壁で、水には足場を作って乗り移り、雷は土で直撃を防ぐ。最低限の魔法で戦うだけの相手の攻撃を凌ぐ技術を持っているらしい。

 

 「えぇ、ちょっと驚いたわ。それで、私達がよく分からないあれのこと、知っていたわよ」

 「え?」

 

 ──風音から説明を受けた時までは平常心を保てていた。怒りはあれど、そういうものなんだと何とか受け入れた。だけど……

 

 「あぁ、そういうことですか。全く兄貴の推測通りで吐き気がしますよ。学生達から魔素を搾り取って、そのマニピュレーターを使っているのはあんただろ、間縞教諭」

 

 ──瞬間、頭が怒りで茹だったかと思った。

 

 「……は?」

 「……」

 

 風音の顔に怒りが滲んでいた。だって、どうして学園の先生が学生を売るような真似を。

 

 「兄貴は前から言っていた、学園内部に魔法軍部と通じている奴がいると。魔法兵器に詳しくて、教師の中でもそれなりの立場にいる。それでいて、ここまで魔法を扱える先生……それはもう、アンタか魔法学園の学園長や教頭あたりだ。でも、その2人は魔法スタジアムの外にいると連絡を受けています。ってことは……アンタだろ。それに、そう気づいてしまえばその装甲がやたらゴツイのも納得だ。だって、あんたの腹はいつも出ているからな」

 

 最後の言葉に憤慨したのか分からないけど、推定間縞が鳥の形を模した火を幾つも石垣君に向けて飛ばす。でも、それを読んでいたのか、石垣くんは火の鳥の下へ潜るように躱して……

 

 「ハッ!」

 

 先端を尖らせた土の槍を間縞へ放った。だけど、大した脅威がないと判断したらしく、避けることなく装甲で受け止める。

 

 カァン!

 

 「え?」

 

 尖った土塊は確かに装甲で留まったものの、金属がぶつかった時のような音がした。そして、石垣君は既にアイツの近くから脱出してい私達の近くにいる、何時の間に。

 

 「あーあ、確かに俺だと厳しいか」

 「……?」

 「けど、分かったこともある。櫛灘先輩、東雲先輩。適当に時間を稼げば何とかなりますよ」

 「何を根拠に言っているの、今のも効いてないし、私達だって碌に反撃出来てないのよ」

 

 そうだ。何を根拠に言っているんだろう。

 

 「躱そうとしなかった。単に避けられなかっただけなのかは分かりませんが、どうやらあの装甲は機敏に動かす機能は無さそうです」

 「それで?」

 

 反撃の魔法を石垣君は土壁で防ぎながら、続きを話す。

 

 「兄貴ならそれで仕留めます。それが分かっただけ、十分です」

 

 倒す手段はある、と言っているんだろう。それでも、聞いておくことがあった。

 

 「ねぇ、石垣君。さっきの本当?」

 

 ──もう一度、確認する。間違いがないように。

 

 「あぁ、あの装甲を着ているのが間縞教諭かってことですね。確認するには装甲を外す必要ありますけど、間違いないかと」

 

 今までを思い返す。不審な所は沢山あった。

 

 「そういうこと、だったの。今まで散々魔法軍部へ行こうと誘導してきたのも……?」

 「お、落ち着いて、火ノ華」

 

 つまりあいつは自分の都合の為にだけに、私や風音、そして……捕まってしまった学生を好き勝手に利用していた訳だ。

 

 「俺はその辺の経緯知らないですけどまぁ、そういうことなんじゃないですか」

 「……そう」

 

 怒りで我を忘れそうになる。無意識レベルで制御できていた魔素の制御すら、今は覚束無い。

 

 「──!」

 

 風音が何かを言っているみたいだけど、良く聞こえない。それよりも、今はどうしても許せないあいつを……

 

 全身から、周囲から噴き出るような魔素が私の体を焼いているようだ。

 あまりの魔素の濃度に吐きそうだ。だけど私の内側からぐつぐつと、ぞわぞわとマグマのように沸き立つ怒りがその気持ち悪さすら押しのける。

 

 「ふぅぅぅ……」

 

 周囲の魔素で火を想起する。あの日、焼け落ちたあの場所のように、跡形もなく残らないように……魔法とも呼べない、魔素の放出。その有りっ丈をぶつけてやる。

 

 「おいおい、勝手にキレるなって」

 

 ──え?

 

 

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