私は君の手を握る   作:久遠の語部

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第1話-3 名も知らぬ誰かに助けられて

 予定通り五日で退院し、迎えた翌週の月曜日。私は短い通学路を歩きながら、風音から送られてきた情報を頭の中で整理していた。

 

 数日前の事件は魔法軍部の施策に反対するレジスタンスによる犯行らしい、と学園側から連絡を受けたものの胡散臭い。風音曰く、その情報自体が学園側で方針決定されたものらしく、何かしら意図的に変えている部分がありそうだという話だ。遠くの音を拾い上げる風音の耳を疑うつもりはない。

 

 「レジスタンス、か……」

 

 彼らの主導者である反逆正理(そりさか しょうり)は魔法学園を優秀な成績で卒業したOBらしいと聞いたけど、どうしてレジスタンスを組織したのかという経緯は風音すら知らない。一部の人は躍起になって捕まえようとしているけど、悪事を働く魔法使いを倒す彼らは一般の人から見れば有難い存在なので、見て見ぬ振りをしているらしい。私にとって魔法軍部へ盛んに勧誘する教諭や魔法軍部よりも、無条件で助けてくれたあいつの方が信用出来ると感じるのと同じなのだろう。

 ──そんな物思いは、響いてきた声で嫌でも中断させられる。

 

 「おはようございます。火ノ華さん」

 

 思わず、天を仰ぎたくなった。眼前に広がる光景が嫌だった。どうして復学して直ぐに、何人もの学生が自分のことを待ち構えているんだろう。

 

 「……おはよう」

 「テロリストに襲われたと聞きましたが、大丈夫でしたか?」

 「一人でレジスタンスを追い払ったと聞いています。ありがとうございます!」

 

 襲撃された話が広まってしまうのは無理もない。そして、油断していた私も悪い。だけど、やってもいない話が勝手に広まるのは勘弁して欲しい。まぁ、それで止まったことは無いんだけど。

 

 「ちょっと怪我しちゃったけどね」

 「え、だ、大丈夫なんですか!?」

 

 正直、こいつらの大袈裟な反応には辟易する。どうせ、適当なことを言って親しくなりたいだけでしょう。だからこうして……

 

 「……今はこの通りよ。とりあえず、教室に行かせてくれない?」

 

 自分の周囲に魔法で作った雷を落とす。これ以上自分に近付いたら同じように雷を落とす、と言わんばかりに。

 

 「す、すいませんでしたっ!」

 

 そうすると、一斉に道が開く。……そうね、近くの地面を焦がすまではやり過ぎた。

 

 「全く……」

 

 尚も視線を向けて欲しがっている学生達を無視して教室へ向かうと、そこにいたのは学園のクラスメイト。だけど、その殆どがさっきの学生と同じでうんざりだ。

 

 「櫛灘さん、おはようございます!」

 「火ノ華さん、おはよう」

 

 彼らも彼らで、私と仲良くなって何かしらの恩恵にあやかりたい人達ばかり。中には純粋に、魔法の使い方や訓練に苦戦していて困っているから教えることもあるけど、最近はその頻度を減らしていた。……以前、男子学生に変な勘違いされたから。

 

 「…………!!」

 「──!!」

 

 座席に座り、いつも通り空に浮かぶ太陽が憎い。まるで、私の逃げ場が何処にもないと言っているような気がするから。

 

 

 (被害妄想もあると思うけど……)

 

 

  だって、寝ているフリでもしないとクラスメイトが我先にと話しかけてくる。現に今も……

 

 「火ノ華さん、おはよう……」

 「……少し、黙ってくれる?」

 「……ごめんなさい」

 

 あ、思わず口に出ちゃった……まぁ、魔法で困っている人でもなさそうだし、いっか。

 

 「機嫌悪いわねぇ……」

 「まぁ、悪くもなるよ、あれは……」

 

 だったら二人とも、助けてくれない?

 

 「……よし」

 

 とりあえず、1時限目は授業に出よう。煩いままなら、様子を見てサボればいい。どうせ1回や2回サボったところで、私の評価は変わらない筈だ。

 

 結局、1時限目の魔法に関する授業も大したものじゃなかった。だから、適当に話を聞きながらテスト範囲のまとめを作ってた。問題は休み時間になった途端、私に襲撃があった時の状況を知りたいらしい他のクラスメイトが集まってきた。

 

 もう我慢の限界に来ていた私は、荷物を持って教室を出た。雫と風音にはノートを頼んだし、後で見れば分かるだろう。

 

 「はぁ、全く。落ち着ける場所すらないのは困ったものね」

 

 普段ならもう少し学園の優等生らしくしていたけど……復学したばかりだったから、我慢の限界だった。

 

 「うーん、どうしよう」

 

 教室を出たのは衝動的で、この後のことなんて何にも考えていない。でも、家に帰った所ですることなんて何にもない。どうしようかな、いつもの森林公園に行くのもいいけれど……

 

 「どうせなら、普段いけないところに行こうっと」

 

 思い浮かぶのは、この学園の屋上。いつも鍵が掛かって入ることが出来ない場所だから、そこにいても人なんて来ないはず。問題があるとすれば、鍵が掛かっているから校舎の外から入らないといけないこと……なんだけど、足を向ける先なんて、最初から決まっていたのかもしれない。気づけば私は、屋上へ続く扉の前に立っていた。

 

 「あー……」

 

 こうなったら、物は試しということで開くかどうか試してみよう。駄目だったら、ちょっと面倒だけど外から魔法で飛んで屋上へ入ればいい。少し固い丸ノブの扉に手を掛けて……

 

 「……あれ、開いた?」

 

 何で開いているかは知らないけど好都合だ。他の人が見ていない内に、さっさと屋上に出てしまおう。

 

 

 

 

普段はあまり来られない学校の屋上から見える光景は……とても新鮮だ。開來市は一般区と魔法区に分かれていて、魔法区は文字通り魔法使いの為の区画だ。だから、魔法使い向けのお店はあるけれど、一般向けのお店は最低限しかない。その代わり、一般区にはそれらが揃っているから、休日はそこへ出かけるのが私達学生の休日の過ごし方だ。

 この校舎、魔法区から少し外れた場所の一般区の開來市は地方都市の1つとして数えられている。新幹線こそ通ってないけど、住居や商業施設が建っていて足りない施設があると思わない。

 魔法区側は緑の山と青い空が、一般区の活気を遠目からでも教えてくれる。そんなこの場所が一目で気に入った。

 

 「ふぅ」

 

 学園でようやく1人になれたからか、少し昔のことを思い出す。

 

 ──ここに住んでもう8年、か。私にとって、ここがもう1つの故郷になっている。きっと、後見先生みたいな人がいてくれたお陰だと思うけど……お母さんは元気かな。最後に会ったの……何年前だっけ。あの日の怪我も治っていたらいいんだけど……難しい、か。

 

 「……いい風ね」

 

 五月の下旬、これから暑くなり始める時期だけど、この魔法学園を吹き抜ける風は気持ちがいい。魔法区周辺は遊ぶ場所がないので退屈する時もあるけど、一般区に行けばあるからマシだろう。ぼうっと心地の良い風に身を委ねて油断していたからか、先客の存在に全く気付いていなかった。

 

 「あ、誰かいるのか?」

 「……へぇっ!?」

 

 二重の意味で驚いた。勿論、既に誰かいたこともそうだが、何より……

 

 「あんたは……学園の有名人か。今朝も校門周辺が煩かったけど、何だったんだありゃ」

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