私は君の手を握る   作:久遠の語部

30 / 33
第11話-1 君の背中を追いかけて

 魔法スタジアムの入り口から出た彼らは魔法スタジアムの外を見るや否や急いで駆け戻り、更には魔法を使って入り口を封鎖した。1人を置いて。その残った一人は、まるで目の前で起きていることが分かっていたかのように落ち着いている。

 

 「驚いたぞ、黒星。僅かな時間稼ぎの為に命を投げるとは」

 「…………」

 

 見た限り、一緒に扉から出てきた櫛灘と土屋は周囲にいる兵士達と私を見て反射的に逃げたのだろう。だが、あの1年とこの黒星は違う。魔法を使ったのは、僅かにでも時間を稼いで籠城する為だろう。しかし、奴は1人で前に出た。さっきは手痛い一撃を受けて頭部の装甲を吹き飛ばされたが、今は周囲の兵士達が魔法銃を向けている。何故、臆さない。

 

 「何か言い残したいことでもあるのか?」

 

 そう言われることを想定していなかったのか、奴が一瞬目を見開いた。

 

 「……じゃあ、1つだけ。バーミンマナでもないのに、何で誘拐なんて真似をした。学生の採血とかでやりくり出来たんじゃないのか?」

 

 でてきた言葉に、思わず目を見開く。その言葉が出てきたことへの驚きと……

 

 「お前、レジスタンス出身だったのか」

 

 今まで不明だった、奴の過去が初めて分かったからだ。魔法使いの素養を持つ子供を別の国へ連れ去って高額で売り払う人攫い集団の蔑称を知る者は限られている。その年齢でなら、レジスタンスくらいしかいない。

 

 「で、聞いたぞ。答えは?」

 「生憎と、お前に教えてやる義理もない」

 「聞いたのにか。関連なさそうな辺り、予想はつくけどな。だったら、尚更やっていることのマズさも分かっているんだろ」

 

 だが、それでも違和感が拭えない。これから殺されるのに、一向に焦る様子がない。まさかまた、接近戦が同じ手を使えると思っているのか。確かに動きは獣のように俊敏で、奴の一撃は重い。それでも、数十発の銃弾には叶う訳がない。

 

 「それにしてもこの状況が分からないとは……一周回って面白いな、黒星」

 「いいや、よく分かってる。最新式の魔法銃を数十丁向けられて、魔法使いのあんたは見た事のないマニピュレーターを着込んでいる。物理戦闘は魔法軍部に、魔法の戦闘はあんたがやる手筈だな。対魔法使いでも、ここまでの準備はそうできない。学生相手に……いや、それほど櫛灘さんを買っていた訳か」

 

 分かっているならば、何故冷静なのか。泣いてとまでは言わないが、許しを乞えば捕まえるだけで済ませてやろうと思ったが、気が変わった。

 

 「撃て」

 「は……?」

 「撃て、と言っている」

 「しかし、相手は……」

 「撃たなければ、お前達はどうなると思う?」

 「……!」

 

 軍であろうと、魔法使いと一般人には大きな力の差がある。こうすれば否が応でも動くし、一番の不確定要素を消せる。最も、怒った櫛灘が暴れ出すだろうが、それは自分で倒せばよい。

 彼らに迷いはあり、魔法で脅しをかけようとも思ったが、奴を中心に黒い霧が出たことで警戒した彼らが一斉に引き金を引く。良心から意図的に外した者もいたがまぁいいだろう、撃てとして言っていないからな。それでも数発は当たっているはずだ。

 

 「全く最期までおかしな……」

 

 (……妙だ。何故、魔素が急激に発生した。)

 

 「警戒を解くな!」

 「し、しかし……!」

 

 一体、何が起きている。あの短い時間だけで銃弾の礫を避けられるなどとは思わない。それでも、だ。この異様な魔素の発生と収束は何だ。一体、何が起きている。

 魔素を扱う素養はある。集積した魔素を踏んで移動するなどの離れ業こそあったが、それだけだ。この魔素の発生と収束は説明がつかない。

 

 「な、に?」

 

 黒い霧が薄まり、ようやく奴の周囲がはっきり見えてきた。銃弾は皆、地面に落ちていた。いや、正しくはあの黒星へ届く前に落とされていた。奴がもし何もない状態で銃弾を止める手段を持つなら、先日の狙撃を防いだような棒を使うか、衣服を脱いで魔素の濃度を極限まで上げて壁にしたかだろう。

 

 

 それでも、こびりついた違和感がある。噎せ返りそうな程に濃い魔素を奴はどこから持ってきた?魔法スタジアムでは疑問に思わなかったが、奴はこの魔素の中でも平然としている。レジスタンスの戦闘着にそのような機能があるのか、あるいは……

 

 (まさかと思うが、やつは……)

 

 学園で教える魔法は魔素を魔法という容で外へ放つ手法が一般的だ。今ようやく気付いたが、奴の周囲に漂う魔素の流動は、逆だ。誰かに向けるのではなく、自らが飲み干そうとするかのよう。そんな魔素の扱い方をする魔法使いは見たことがない。安全限界を超えた環境下では魔法使いですら魔素の影響を受ける。そう、酸素濃度が高過ぎればあらゆる生物は生きられないように、魔素濃度が高い場所に居続ければ、心身に悪影響を与える。それを自ら集約し、纏わせるなど……

 

 「──正気か?」

 

 自殺にしてはおぞましい。だが、先程の銃弾を防いだのは、そうでなければ話が合わない。

 

 「おい、次を撃ち込ま……なに?」

 

 もう一度撃てばいい。ようやくそのことに思い立って周囲を見れば、周囲の兵士達が泡を吹いて意識を失っていた。立っているのは……俺と奴だけだ。間違いない、こいつは……

 

 「現在でも魔法使いの戦闘に一般人が助太刀できないのは、魔素への耐性が低いからだ。魔素を能動的に弾けず、コントロールできない為に魔素酔いを起こすからだ。だが、魔法使いすら卒倒するような魔素を何処から持ってきた?」

 「魔法使い同士の戦闘が近くであって、その前に魔法軍部は魔法兵器を使ってパレードをした。そりゃ当然、この辺りの魔素が濃くなっても不思議じゃないだろ」

 「では、一斉に兵士達が倒れるほどの魔素が急激に現れた理由は?」

 「さぁ、誰かが魔法を使う時のように一ヶ所に魔素が集まったから。それが一般人には耐えられない魔素濃度だっただけだろ」

 

 言っていることにおかしな点はないが、正しいことも言っていない。何せ、一時的とは言えど櫛灘や装甲を着た俺すらも超える魔素を奴は1人で纏っている割に平気な面をしている。推測が正しいのなら、奴はおそらく誰もやりたがらない悍ましい方法で魔素を扱っている。

 

 「魔法使いを相手にする際、彼らは一時的に魔素の影響を受けにくくする頓服薬を飲む。それでこれだ。が、お前は違う。自分にどんな悪影響を与えるのか分かった上で使っているのか?」

 

 見た所、口、目から血が流れ、顔の皮膚には酸に触れたかのような跡が薄っすらとできている。過剰な魔素は体に激痛を与えるという通説が正しいなら、激痛に耐えた上で自分が扱える魔素以上の魔素を無理矢理纏っている。そんな痛みにどうして、耐えられるのか。

 

 「──当然だろ。そうしないと出来ないことが沢山あった。そうしなければ守れなかった時もあった。その選択があるなら、使うだけだ」

 

 奴は迷いなく断言した。あり得ない。リスクしかない手段を平然と取ることも、魔法使いもどきのこいつが危険とはいえ膨大な魔素を扱う力があるなど……!

 

 「あり得ん。いや、そんな真似をして正気でいられるものか!」

 「誰かがやらなきゃいけなかった。偶々、適性があった。戦えるだけの心構えがあった。ただ──」

 

 奴が数mの距離を直ぐに詰めてきた。奴の手法で呆気に取られていたが、大前提として……

 

 「それだけだ」

 

 奴はレジスタンスの戦闘員の中でも、指折りの実力者だ。どうしてこんな場所にいて、今まで実力を隠していた!

 

 

 

 

 ほぼ無人の魔法スタジアム。全身疲労した体に鞭を打つように、私は走る。

 

 「あっ!」

 

 走って走って……でも、あしのつりや疲労、恐怖からの。そこで、追っ手が来ていないことにようやく気がついた。

 

 「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……来て、ないの?」

 「だ、大丈夫、櫛灘さん」

 「はい、何とか……」

 

 私と先生の顔は青い。もう戦う必要はないと思っていたのに、外へ出て見たらあの様だ。魔法軍部だけなら、事情を説明すれば何とか銃を下ろして貰えるという期待もあった。でも、そこにはマニピュレーターを着ている間縞がいた。これでは魔法軍部を倒した上で、もう一度間縞を倒さなければならない。しかも、魔法軍部が周囲にいる状況で……どうすればいいの?

 

 「どうし、よう……」

 

 あまりの気持ち悪さに吐きそうだ。何故、自分がこんな目に遭うのか。ただ、普通の学生生活を送っていたかった。風音や雫と一緒に過ごしながら魔法の知識や実力を付けて、学園を卒業して……お母さんに恩返しすること。そんな些細なことすら認められないのが悔しくて、悔しくて堪らない。

 

 「……」

 

 座っていると二度と立ち上がれなくなりそうだったからか、ふらつくように立ち上がり、誰もいないフィールドに出る。ここから見える空は快晴だ。それが、魔法軍部や間縞を祝福しているみたいで嫌になる。何もかもが嫌になり、自分の中で最悪の思考が浮かんだけど、それだけは直ぐに消えた。

 

 「……」

 

 じゃあ、どうしたらいいんだろう。ここにいたら皆を巻き込むことになる。魔法スタジアムの周囲には、後見先生に風音、雫もいれば、私を心配してくれた土屋先生に石垣君、そして……

 

 「……え?」

 

 いない。ここにいるはずの、最近出来た私の友人が、いない。魔法こそが全てのこの場所で、最も魔法から離れた場所にいた彼が、いない。

 

 「ち、ちょっと待って……一、貫は?」

 

 怪我とか体調の具合で言えば、私以上に酷いはず。私より身体能力が高いから近くにいると思っていたけど、もしかして逃げ遅れて……!?

 

 「先生、一貫は何処!?」

 「……石垣君、答えてくれますか」

 

 遅れてやってきた石垣君が、スタジアムの外を見ていた。まさか、まさか、まさか……!

 

 「兄貴なら今頃、あの人数相手に戦っていると思いますよ」

 「……う、そ」

 

 顔が青くなるを通り越して、真っ白になったかのようだ。そんな真似をして、生きていられる訳がない。私は、私は、折角できた友人を身代わりにした。自分可愛さに、身代わりに、したん、だ。で、でも、それならなんで……?

 

 「な、何で、今まで黙っていたの?」

 「聞かれなかったから。で、どうするんですか」

 

 どうしてこの一貫の後輩は、自分が尊敬している人を見捨てたのだろう。

 

 「だ、だとしたら、何であんたは、一貫の所にいなかったのよ!!」

 

 今すぐにでも魔法を撃とうかと思った。だけど、一貫を慕ってここまで来た石垣くんに対して、そんな八つ当たりのような真似は……できなかった。

 

 「怒りは最もです、俺だって残ろうとしましたから。だけど、兄貴に頼まれた。まずは避難させてくれ、って」

 「──は?」

 

 青くなった顔が今度は赤くなりそうだ。ふざけないで、さっきまで一緒に戦っていたのに、そんなことを、言ったの?

 

 「ちょっと、それは私も見過ごせないわよ」

 

 土屋先生も怒っている。そうよ。土屋先生は私より余力がある。なのに何で……

 

 「言い方がぶっきらぼうなのは相変わらず。他の人は安全な場所に避難させて、自分だけは危険な場所に向かってく。そんなことされたら、何とかして追いつきたいと思うじゃないですか。ま、俺もその内の1人ですけど」

 「石垣、君……」

 「分かっていた話だし、何でそう言うのかも知っています。こういう場で兄貴と行動を共にしたのは初めてですが、言い方下手くそですよね。不器用すぎるというか」

 

 そうした場面を、過去にも一貫はやってきたんだろう。ため息をつきながら独り零す石垣君には、そんな実感があった。

 

 「……で、どうします。このまま逃げますか。確かに櫛灘先輩一人なら逃げ切れるでしょう。手段を選ばなければ」

 

 そう、それは一瞬だけ頭に過った。身を守る為だけなら、逃げ出してしまえばいい。目の前の人を全員身代わりにして開來市からも逃げ出して、それでどっかに紛れ込んでしまえばいい。

 でも、できない。だって、沢山できた。友達も、色々と面倒を看てくれた後見先生も、私を魔法の先生として慕う下級生もいる。加えて、ここにはまだ私のようには戦えない学生が沢山いる。ここでそんな人達を見捨てたらきっと、私は私を許せなくなる。

 

 「石垣君。君は櫛灘さんをどうしたいの?」

 「土屋、先生……」

 「別にどうも。ただ、櫛灘先輩は兄貴と関わってきたんですよね。なら、一度は聞いたことがあるんじゃないですか」

 

 ──生きることは戦うことだ。

 

 それは、私が一貫と最後に話した日に言っていたこと。つまり、石垣君は……あるいは、一貫はこう言っているんだろう。

 友人も、それまでの居場所も全て捨てて逃げ出すか、今の居場所や友人達を守る為に戦うのか……と。

 

 「あ、分かっていると思いますけど一応言いますよ。兄貴は別に、櫛灘先輩の為に戦っている訳ではありません。だから、逃げても怒ることはしないですよ」

 

 それがちょっと、いや、とってもムカつくけれど。あぁ、そうだろうなと納得してしまう自分もいる。

 でも、それが嫌じゃない。魔法使いの中でも特別優秀だと普段から言われ、先輩達から敬遠される私をあいつは特別視しないから、普通の学生のように過ごせた気がするから。だから私は……

 

 「分かっているわよ。どうせ、今まで魔法軍部に囚われた人を助けていたんでしょ。もう会わないと決めていた、レジスタンスの人に会ってまで」

 「何だ、そこまで分かっていましたか。それで、どうしますか?」

 「決まってるじゃない。石垣君だって、その為にここへ残っているんでしょ」

 「はい。人数は多い方がいいですから」

 

 やることは決まった。後は、追い付くだけだ。だけど……あれ。何か重要なことが抜けているような……

 

 「ちょっと待ちなさい。助けに行くのはいいけど勝算はあるの。幾ら彼が強かったとしても人数差がある。そこを乗越えないことには……」

 「土屋先生に確認します、魔法軍部から応援は来ていますか?」

 「……そう言えば、学生達と一緒に避難した先生からは、魔法スタジアムの周囲が立ち入り禁止になっている以外の連絡がないわ」

 「なら、平気でしょう。早いとこ、倒れている魔法軍部の人達をどかしに行きましょう」

 

 ちょっと待って欲しい。当然のように勝てると思ってない?

 

 「「どういう、こと?」」

 「到着すれば分かります。魔素酔いに気を付けながら、急いで合流しましょう」

 

 その意味を、私達は魔法スタジアムの外で思い知る。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。