私は君の手を握る   作:久遠の語部

31 / 33
第11話-2 君の背中を追いかけて

 魔法スタジアムの扉を開いたら、目の前に在ったのは扉を埋め尽くすほどの土の塊。え、ナニコレ?

 

 「あ、すいません。消し忘れました」

 「え、これ、石垣君が?」

 「はい、時間も無かったんで粗いですけど」

 

 石垣君に魔法を解いてもらった瞬間、むせ返るほどの魔素を全身で感じ取って急激な吐き気に襲われる。

 

 「やっば、これ……」

 「う、ぷ……」

 

 石垣君と土屋先生も同様に苦しんでいるけど、私はとっさに腕で口元を隠す。こうすうると不思議なことに、気持ち悪さが落ち着くから。急ぎたい私は一歩、また一歩と足を先に奨める。早く到着すれば、助太刀が出来る。そう思って進んでいると……

 

 「……え?」

 

 軍服を着て、武器を持っている魔法軍部の人達が泡を吹いて倒れていた。魔法軍部の人って魔法使いじゃなくて一般人も就いているとは聞いたことあったけど、魔素が濃すぎるとこんな光景が出来るものなの?

 

 「櫛灘さん、はや……え?」

 「まぁ、この魔素濃度ですからね……」

 

 うっぷ。呆気に取られて口元を塞ぐの忘れてた。

 

 「っふぅー……」

 

 何とか気持ち悪くならずに呼吸出来ているけど、石垣君と土屋先生はそうじゃないよね。かと言って、魔法軍部の人達を放置する訳にもいかないし、一貫の助太刀にも行きたいし、どうしたら……

 

 「行って下さい。魔法使って、ここの人達をどかしたら追い付きます」

 「そうね、本当は付いて行きたい所だけど、私も動くのにもう少し時間がかかるし……いいかしら」

 

 魔素が濃すぎて霧のようになっている中、口元を手で塞ぎながら先へ進む。初めは動きが鈍かった足も次第に動くようになってきた。早く安心したくて足の歩幅は大きくなる。今までの人生で、こんなに必死になったのは何時振りだろうか。

 1つは間違いなく開來市に来るきっかけとなったあの事件、今でもあの日のことは忘れないし、忘れることはないんだろう。燃え盛る公園、逃げ惑う人達、そして人の形をした……そこまで思い返し、頭の中で浮かんだ記憶を振り払う。

 嫌な考えは幾らでも頭に浮かぶ。でもこれはきっと、何時まで経っても忘れることなんて無いんだろう。確かに、私は魔法の素養が高い。そうじゃなきゃ、あんな大惨事なんて起きなかったんだ。

 

 ……本音を晒すのなら、授業ではなく戦闘として魔法を使うことが怖い。間縞の時は怒りのあまり真っ白になったけど、誰かをあの日のようにしてしまうんじゃないかという気持ちがいつも、どこかにある。

 でも、その気持ちは私が私である限り、変わることはないし変えてはならないことなんだ。じゃあ何で今、私は関わりたくもない場所に向かっているんだろう。

 

 (……そんなの、決まっているよね)

 

 声に出すまでもない。この1ヶ月、色々なことがあった。その全てにあいつが関わっていて。そのあいつがいなかったら、私は今こうして立っていることすら無かった。下手したら、私だけじゃなくて風音や雫だって同じ目に遭っていたかもしれない。そんなあいつは私達を当然のように助けておいて、何を求めることもしなかった。他の学生だったら、俺と付き合えとか言い寄って来るのにね。

 

 意味が分からなくて、知らなきゃ気が済まなかった。魔法学園にいる学生の半数以上は、魔法使いであることが唯一の存在意義になっている。なのに、一貫にはそれがない。当然、学園内からは浮くし、味方になろうとする人も表立っては出てこない。両親は既に亡く、元居た場所からは追い出され、1人でこの場所にいるという。そんな状況ならずっと前に心が潰れてもおかしくないのに、あいつは自分というものを崩していなかった。確かに一貫は一人でもやっていけるんだろう。でも、一人にさせたくなかった。

 

 「一体、何処まで移動しているのよ」

 

 魔素の濃度も落ち着いた。だから、腕をマスク代わりにしなくても走っていける。魔素の感じだと、2人は魔法スタジアムから離れてその奥。一般区へ向かう為の林道へ進んでいる。

 

 (早く、早く、早く……)

 

 急がないと、あの日のように間に合わないかもしれない。そんな焦燥が私を急かしていた。

 

 

 

 

 魔法戦闘なら分があると読んでいた。自身の見立ては正しく、魔法学園の学生の中でも屈指の実力を誇る櫛灘火ノ華、東雲風音に加え、何故かいた石垣という学生が加わっても優位に戦えていた。それでも今、自身は追い詰められている。

 魔法の使い方をほとんど知らない、魔法学園の中でも特に見るべきところがない学生一人に、苦戦させられている。

 

 「この、魔法使いの出来損ないが!」

 

 奴の攻める手段は両端に金属の塊を取り付けた棒だ。原始人かと罵りたいが、その一撃がどれも重い。体重を乗せた一振りは装甲を凹ませ、俺の放つ魔法すら一振り、あるいは一突きで撃ち抜いてくる。

 

 「近付くんじゃ、ねぇぇ!!」

 

 さっきから魔法の着弾点を読まれている。数で責めているが、その魔法が奴の前で不自然に落下する。

 

 「だったら、さっさと倒れてくれ」

 「っ!!」

 

 あり得ない。幾ら魔素の動きが奴に向かって動いているとは言え、そんな真似が可能なのか、或いは意識的に叩き落としているのか。

 

 「っくそ!」

 

 使える魔素にも限りがある。それでも奴を倒さなければ、俺の未来はない。ここで何としてでも倒さねばならない。

 

 「おおおおおおっ!!」

 

 あの武器もどきを燃やせば攻めも鈍ると思ったが、奴の纏う魔素の影響か、壊れる様子がない。それでも熱が伝われば手を離すかと思ったが、黒い手袋をしているせいでそっちも期待できない。

 挙句、土、水、風、雷を纏った魔法すら、悉く撃ち落とされる。

 

 「なんなんだ、なんなんだお前は!」

 

 突撃の勢いを殺そうと土壁を貼っても、奴はその土壁すらあの武器もどきで撃ち抜き、あろうことかその土壁の土を礫のように飛ばして攻めてくる。泥で動きを捕らえようにも、魔素の動きを読んでいるかのように避けられ、風で吹き飛ばそうにも奴の周囲に漂う魔素と武器もどきで受け流される。

 

 魔法使いが自衛も兼ねて魔法以外の戦闘手段を持つことはあったが、奴は何もかも逆だ。魔法ではなく武器を主体とし、魔素を戦闘の補助に使っている。だが、それだけならまだ勝ち目はあると考える。一番の不可解な点は……

 

 「何故、魔素を思う様に使えない!!」

 

 先程から妙に魔法が使い辛い。全身に重しを乗せられているような感覚だ。関連性は不明だが、確実に奴が原因だろう。

 その証拠に俺が魔法を使おうとする度に奴が顔を歪め、口などから血を流す。そうした場面を何度も見た。偶然ではないとしたら、奴は意図的に魔素を制御している。あの黒い霧が奴の魔法と呼べる本体か。あるいは……

 

 「ぐっ!」

 

 だが、奴は俺に考える余裕を与えない。そのまま続ければ自滅すると思うが、それまでにこのマニピュレーターが残っているとも思えない。

 

 「うおっ!」

 

 武器もどきの先端が胸元を掠め、肝を冷やす。只でさえ一度、兜の上から受けたその衝撃を覚えているだけに尚更警戒してしまう。

 

 ──あぁ、恐ろしい。

 

 振るわれたそれが奴の手元に戻れば、休むことなく突きが飛んでくる。しまっ……

 

 「ガッ……フォガァ!」

 

 蛇のような動きながら、岩をも貫くような一撃だった。肩に受けたから荒い息で済んでいるが、まともに胸元へ喰らったら魔法どころか、呼吸すら危うい。

 魔法に自負はあるが、武闘は疎い。そんな自分でも、奴がレジスタンスにいた時は今のような戦い方をしていたことなど容易に理解出来てしまう。今と同じように一振りの棒を持って、魔法使い達がいる場所で戦い続けてきたのだ。迷いなく、自らを壊しながら。

 

 「こんの、イカレ野郎が……」

 

 魔法使いは今や時代を支配する存在だ。魔素を扱えるだけで優位になれる。魔法さえ極めておけばどうにでもなる……はずだった。

 

 (……ばかな)

 

 不意に、奴と眼が合った。こんな状況だと言うのに、自分に優位を取っているというのに、奴に昂りはない。東雲や櫛灘は自分へ激昂していたのに、だ。狂乱も、怒りも、興奮もない。強い魔法が使えた時や魔法戦闘の授業で結果を出せた時、自分の実力を発揮できた時には誰しも昂るだろう。だが、こいつにはそれらがない。

 

 ──一体、どれほどの戦いを越えてきたのか。

 

 一度頭に過ぎれば血の気が引く、息が切れる。自分の半分すら生きていないこのガキに、怯えている。そんな訳、そんな訳が……

 

 「っ!」

 

 不意の一撃を喰らいかけたが。何とか空中に逃げられた。だが、奴は続けて俺を引き摺り落とそうとするだろう。まともに戦ってなどいられない。

 

 「てめ、まさか!」

 

 さすがと言っておこう。そうだ、俺が飛ぶ先は魔法軍部が避難兼、パレードの緊急時に用意していたマニュピレーターを配置している場所だ。恐らく、まだレジスタンスもいるだろう。お前との闘いは引き分けだが、奴らを人質にすれば俺の勝ちは揺るがない。

 

 「そうだ、これでいい」

 

 肩で息を吐く。何故、学生相手に死闘を繰り広げたのか未だに分からないが、それでもこれで俺の勝ちだ。奴が集めていた魔素は既に霧散して、周囲に紛れていった。今更集めるにもこちらが逃げ切る方が早い。奴も外付けでなにかしていたようだが、それも時間切れ。流石に奴の不可思議な魔素を使った戦闘ともおさらばだ。

 

 「これで……!?」

 

 が、そのマニピュレーターが重い。飛べなくなるほどに重い。おかしい、たしかに装甲の重量はあるが、それだけで飛べなくなるほどの脆さじゃない。

 

 「あ?」

 

 気づくのが遅すぎた。奴の攻撃を受けて凹んだ部分から、黒い霧が僅かに上がっている。まさかこれが、俺の動きを妨害している?

 

 「な……」

 

 マニピュレーターの不調はあれど、こいつが邪魔をしているのははっきりした。掠った箇所も含めば、腕、脚、胴と装甲で覆っている箇所全てだ。加えて、あいつはあの武器で俺のことを撃ち落とそうとしている。

 

 ──逃げられないなら、道連れにしてやる。

 

 「黒星ィィィッ!」

 

 奴を真似るのは腹立たしいが、できることはなんでもやってやる。装甲の重さを活かした突進だろうが、奴の武器を折って戦う手段を減らすことだろうが、なんでも!

 

 「くそが、そんな魔法を隠していたとはなぁッ!!」

 「……は?」

 

 何が腹立たしいかと言えば、奴は己の魔法の才覚を、よりによって自分の手で潰している。

 

 「まだやる気か。さっさと降伏してくれよ。俺が楽だから」

 「あいにく、お前と違って、後がないんだ」

 

 その、黒髪は気付かないだけで変質していたことに、俺以外の誰もが気付いていない!!

 

 「はぁ、魔法の技術を別で活かせば、こんなことになってなかっただろ」

 「……魔法を使うことを潰した黒星が、今更何を言うか」

 「一体なにを……まぁ、どうでもいいか」

 

 奴が踏み込んでくる。槍の突きも、武器の変形もない。だが、俺を倒すだけの威力がある。

 下手な魔法を撃っても、無駄になる。かといって、強力な魔法を使おうにも奴はそれをかわし切る。

 

 「くそが、今更これに頼るとは」

 

 様々な種類の初歩的な魔法を礫のように飛ばす。流石に違う種類の魔法を動きが遅くなるだけだ。かといって、奴を倒せる魔法を組むには十分な時間が稼げた。

 

 「くたばれ、黒星ィィッ!!」

 

 ありったけだ。この──青炎の間縞の完全燃焼でただ、燃やしてやる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。