私は君の手を握る   作:久遠の語部

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第11話-3 君の背中を追いかけて

 私は魔法を使って、一貫くんと間縞を追う。魔法スタジアムの駐車場ではなく、反対方向にある雑木林へ向かっていったらしい。向かっていく途中、何かが爆発した音を聞き、空を見上げる。

 

 「バーコードね、空中に飛んで何を……まさか」

 

 半壊しているマニピュレーターを着用したまま飛んでいる。きっと、一貫くんがあそこまでやったんだ。だったら後は私が。

 

 「やら、せ……ないわよ!」

 

 魔法を使える程度には回復した。今ならあいつを撃ち落とすのも容易なはず。

 

 「え?」

 

 そう思って魔法を準備していたら、間縞がある方向目掛けて急降下している。多分、そこにいる。まずい、魔法の弾幕を張られている。いくらなんでも弱っている状態じゃ……

 

 「──あ」

 

 そうして見てしまった。青い炎を放とうとする間縞に対して、あの武器を構えて突撃しているところを。

 

 ──その昔、1つの家族が在った。

 一般的な家庭だった。父は仕事に出て、夜には家へ帰ってくる一般的な社会人だった。母はまだ健常で、一緒に買い物もしていた。そんな細やかで幸せな暮らしは、私が魔素発現したことで燃え尽きた。

 

 燃えたモノは戻らない。炭になって、ただ朽ちるだけ。一貫くんはまだ生きている。でも、あのままでは相討ちだ。そんなのは、そんなのは嫌だ!

 

 「ああああああああッ!!」

 

 そんな光景は二度と見たくない。もうありったけだ。周囲の有りったけの魔素で巨大な水泡を落とす。

 

 「っ!?」

 「あ?」

 

 押し潰したと思ったけど、間縞は膝をいただけだ。

 

 「────!」

 

 全身が軋むかのような痛みに耐えつつ、今度は雷を落とす。

 白い火花を散らす。音だけで気絶してしまいそうだ。加減なしで放ったからか、全身がつりそうだ。

 

 「……くそ、が。まさかこの俺が、学生2人に負けるなど……」

 

 着ていたマニピュレーターは破片だけ。多分、もう戦えないと思う。動くにしても、あれだけの戦いをしていた今なら、すぐには動けないと思う。

 

 「そうだ、一貫は……!」

 

 最後に見たのは、間縞の放った火の魔法に突撃していた時だ。あれから、どこにもいない。

 

 「うそ、うそ、うそ……!!」

 

 もしかして、間に合わなかった……?

 

 「いや、櫛灘さんが原因なんだが」

 「……あれ?

 

 ずぶ濡れの一貫くんが、心底呆れた顔で私を見ている。

 

 「……無事、だったの?」

 「どっかの誰かさんが使った、魔法のお陰でな。まぁ、流されたせいで戻ってくるのに苦労したんだが」

 

 言われてようやく彼の状態に気がついた。既に満身創痍と呼べるほどズタボロで、黒い迷彩服は形こそ保っているけど、一部だけ。ノースリーブと短パンみたいになっている。着用していたはずの手袋とアームガードも焼失して、左肘の火傷跡も見えている。それでも、それでも無事だった。

 

 「一、貫!!」

 「────────っ!!」

 

 本気で痛かったのか、私を突き放した。

 

 「ご、ごめん……」

 「………………」

 「そ、その、急に魔法を使ったりして……」

 「まずは確保をお願いします。風潮さん」

 

 え?

 

 「あぁ、もう取り掛かっている。済まないね、ここまでしてもらって」

 「全くだ。その過程で服も燃えたし、携帯していた武器も焼失した。立替を頼みますよ」

 「そのぐらいはするさ。霧影、確保と連行を」

 「準備していた魔法も没収だ。さっさと立つんだな」

 

 って、あいつまだ意識があったの!?

 

 「……もしかして、気付いていたの?」

 「そりゃあな。こういうのは終わったと思った時が一番危険だ。処理が終わるまでは気を抜いちゃ駄目なんだ」

 「魔法封じの錠はしたので、後は任せてください」

 「頼んだ」

 

 そのまま、風潮さんと霧影と呼ばれた人が間縞を連れ去っていく。ようやく、ようやく終わったんだ。周囲は魔法の戦闘跡によって荒れている。人がいなかったから被害はないけど、これが市街地だったら思うとぞっとする。こういうのと、一貫くんはずっと戦ってきたのね。

 

 「二人共、無事!?」

 「……土屋先生!」

 

 それに、風音に雫も!

 

 「良かった、良かった……」

 「こっちに来る途中、強い魔法が使われたの分かったから、焦ったわ。火ノ華がなんとか……」

 

 ふと風音が、石垣君に支えられた一貫くんを見る。あれだけぼろぼろなのに、しっかり意識がある。石垣くんからの質問を、だるそうに答えている。

 

 「そう。最初から最後まで、私達は助けられたのね」

 「かず、ぬきくん……」

 「そうよ。いなかったら、私達はここにいられなかった」

 

 でも、そんな一貫くん。まだ警戒心を解いてない。なんか、雑木林へ視線を切らさないようにしているけど……まだ、何かがいるの?

 

 「……いるんですか、兄貴」

 

 石垣くんも気付いたみたい。まだ、誰かいるの。もう、私だって風音や雫に支えてもらえなきゃ動けないのに……

 

 「……いい加減、出てきたらどうだ。反逆正理」

 

 確か、その人って……

 

 「……久し振りだね一貫、1年半振りかな」

 

 一貫くんと同じように黒い迷彩服を着た男性だ。随分としっかりした体つきをしている。

 

 「俺が気付いてなかっただけで、どっかで見ていたんじゃないのか。収穫の短期バイトは兎も角、何で集配所でバイトしてることまで知ってたんだ」

 「そりゃ、生活苦でバイトしているって風潮と霧影に聞いたからね」

 「あー、そういやどっかで話した気がする。いつもの、知らない内にアンタが知ってたパターンじゃなかったか」

 

 反逆正理ってレジスタンスのトップだよね。かなり気安く話しているけど、どんな関係だったのよ。

 

 「……で、何の用だオヤジ」

 「あ……」

 

 以前、自身を孤児だと言った。そして、拾ってくれた人達に育てて貰ったと言っていた。その人が反逆正理だったの。じゃあ、一貫くんは生まれから育ちまでがレジスタンスで……そこを追い出されてここへ来た?

 

 「彼の処罰は僕が引き受けていいかい、一貫」

 

 確かにこの人達がいたから他の学生も助けられたんだろう。でも、でも……

 

 「ちょっと虫が良すぎだろ。いくら魔法学園にやらせるよりマシだとしても」

 「当然、出来る見返りは用意するつもりだ」

 「そうかよ。で、なにを用意してくれるんだ」

 「まずは君の装備。今回焼失したモノ含めて予備を渡しておこう。それから生活費だ。学園には圧をかけておくから、それで生活は楽になるはずだ。君がようやく人らしくなれたから、そのお祝いをしたいところだけど……」

 「──どうでもいいんだよ、そんなこと」

 

 一貫くん、すごくイライラしてない?

 

 「まぁ、それはこっちで勝手にやっておこう。それにしても嫌われたものだよ。まぁ、君が僕を殺そうとしにきたあの日から、分かりきったことじゃあるけどね」

 

 ……は。一貫がこの人を殺しにかかった?

 

 「合理的に動くのがお前の方針なのは知っているがな。アイツのようにあんたらの施設で育った奴の遺骨くらい、育った場所に戻してやるなど幾らでもできただろう」

 「その言い振り……まだ、持っていたのか。あの子の楽器を」

 「俺が本格的に戦うことになった理由を、クソオヤジは嫌になるほど知っているだろうが!」

 「…………」

 

 楽器、アイツ、遺骨……そういう、ことなのね。

 

 「いいぜ。俺はまだ腕も、脚も折れていない。今からここで、あの日の続きをしてやるよ」

 

 無理よ。そんなことをどうして今、しようとするのよ!

 

 「その行動は誰にとってもマイナスだ。やる必要がないと思うよ」

 「うるせぇな。てめぇは結局今回も、レジスタンスの影響力を上げたようだな。だが、てめぇがもっと早く来ていれば、対応していればこんなことにはなっていなかっただろうが!」

 「そんなことはない。僕一人だけではできることなど、限られている」

 「どうだか。俺はお前を近くで見ていたからな。敢えてやらなかったことがあるくらい、分かっている。それが必要なことだとしても」

 「なら、いいんじゃないか?」

 

 今の言葉には、私もイラッときた。こっそり魔法を使っていいかな。

 

 「──その態度が気に食わねぇって言ってんだ。正しいことだけやってりゃいいってもんじゃねぇだろ。戦ってもいない奴が、抗ってもいない奴が、軽々しく言うんじゃねぇ。それをかつて、俺に言ったのはどこのどいつだ?」

 

 肝が冷えるような、一貫の声。

 ……待って。気持ちは分かるけど、まさか今から戦うつもり?

 

 「やめて。そんなことしたら一貫が……」

 「これは俺の勝手だ。もう、この誘拐事件とは関係ない。ただの私怨だから、帰っていいぞ」

 「ふざけないで。みんなで一緒に帰るの!」

 「悪いな。こいつは実力がある癖に終わり際にしか出てこない。ぎっくり腰で腑抜けた奴はな、でてきた時に分からせるしかねぇ。たとえそれが、勝ち目がなくてもな」

 

 分かってしまった。本気で言っている。でも、既に戦える体じゃない。

 相手は万全で、私達は弱ってる。何より、そんな体で戦ったりなんてしたら……

 

 「やだ。だって、約束したでしょ。試験に合格したからお祝いだってやるって言ったじゃない!」

 「たしかに、言ったな」

 「それに、一貫だってボロボロよ。だから……」

 「知ったことか。次がないかもしれないんだ」

 

 ……どうしよう。私じゃ、一貫くんを止められない。

 あの人は戦うつもりが全く無さそうだけど、一貫くんの言う限りでは相当に強いはず。いざ戦うとなったら……

 

 「では、あの子の遺骨を回収し、あの施設に墓を建てる。それで手をうってくれるかい?」

 

 多分、一貫がずっとそれを持ち歩いていたのは、その子のことを忘れないため。だから、それを条件にしたってこと?

 

 「足りないだろ。他にもいただろ、そういうのは」

 「……そうだね。多くはないけど、あっただろう」

 「やれ」

 

 あの反逆さんと石垣くん以外、私も含めて冷や汗をかいている。あの短い言葉に、どれだけの感情が籠もっているのだろう。

 それはそうと、あの反逆さん。困ったような顔をしているわね。

 

 「……実は似たようなことを、朱雀の隊から言われていてね」

 「朱雀の隊って、遠距離戦闘だろ。言う理由がないと思うが」

 「君が戦死者扱いになっているのは知っているだろう」

 「風潮からそう聞いている。それについては文句ないぞ。そうしないとこういう場所にいれないから、だろ」

 

 ……一貫の過去が不明なことや戻れないって、そういう意味だったんだ。

 それを淡々と受け入れているのもどうかと思うけど。

 

 「その影響はやはりあってね。今は落ち着いてきたが、以前まで重傷者が多かったんだ」

 「そういうことか。それで、言われるようになったと」

 

 レジスタンスのことは分からない。でも、暴れまわる魔法使いの対処に苦慮している訳だから、そういうことが起きても仕方ないのかも知れない。

 

 「だから、君のそれも受け入れよう。他にも聞くことはあるかい?」

 

 一貫くんからあの圧が消えた。良かった、これで戦うことはなくなりそう。

 

 「今回の件、どうして静観していた。俺はオヤジを知っているからこそ理解できないんだが」

 「魔法使いを多く対処した君なら分かるだろう。魔法使いが暴れたらどうなるかって」

 「…………あぁ、そういう、ことか」

 

 話を聞けたのはここまで。気の抜けた一貫の声を聞けて安心した私は、風音と雫に体を預けて眠りに落ちた。

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