私は君の手を握る   作:久遠の語部

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エピローグ 友人として

 1週間後、魔法スタジアムで起きた襲撃のあらましが公表された。間縞が中心となり暴れ回った事件は、勇気ある魔法学園の学生達によって完膚なきまでに破壊された。魔素を絞り出す装置は独断で持ち出されたもので、あくまで個人の暴走だった……という話になっているらしい。よく言うわ。

 首謀者の間縞は逃亡して行方不明の扱いとなっている。魔法学園の学園長、教頭は白を切っていたけど、真っ先に逃げたことを学生達から非難されたり、その後に開いた会見とやらで行方不明になった学生の多すぎると指摘されていた。更には、保護者達の声も入って、会見は中止したとか。

 その後、学園長達から一貫君や石垣君、それからレジスタンス以外の人が参考人として呼ばれて事情を説明する機会があった。後から知ったけど、自分たちが悪くないという建前を作るために呼ばれたそうだけど、裏事情まで知っている私達が黙っているはずもない。私のやりとりを風音が魔法で拡散したおかげで、保身に走っているのが学園内に丸わかり。焦って対処しようにも学生どころか教員からも反感を買っている。

 全く、ざまぁみろよ。そんな事態になったから、魔法学園は臨時休学となった。

 

 これを機に魔法の修練をする人もいれば、捕まっていた学生の一部は実家に帰って療養したり、先生達がつききりで面倒をみているそうだ。そんな中、私は……

 

 「別に、俺に構う必要なんてなかっただろ」

 「……まだそんなことを言うの?」

 「何だ、そのため息」

 

 ため息をつきたいのはこっちよ。何であの後病院へ行かないまま、最低限の手当だけして家に帰ったのよ。石垣君に聞かなきゃ知らないままだったわよ。それからこいつ、私が部屋に来ているっていうのに何の反応もないのはどういうこと?

 

 「どうした?」

 「なんでも」

 「……あぁ、今回の結果に納得できてない感じか」

 

 全然ちが……いえ、それも納得してないのは事実ね。まだ、あの学園長や教頭は辞めた訳じゃないんだし。

 

 「レジスタンスが連行した時点でこうなるとは思ってた。まぁ、魔法学園や魔法軍部に預けたりでもしたらもみ消されただろうから、まだマシか」

 「……間縞はどうなったと思う?」

 

 一貫は少し考える素振りを見せて、怠そうに答えた。

 

 「どうでもいい。俺が出てから時間も経っている。方針が変わっていてもおかしくない」

 「どうでもいいって、一貫……」

 「もう、俺に出きることはない。加えて、奴も何もできないはずだ」

 

 何もできないって、どういうこと?

 

 「あいつなら脱走するとか、考えない?」

 「無理だな。捕らえた魔法使いには魔法封じの首輪をさせる上、実践だけなら間縞より強い魔法使いは両手の指の数くらいはいる」

 「え、レジスタンスってそんなに強い人たちが揃っているの?」

 「総合的には劣ると思う。だが、間縞自身が戦闘に不慣れだからな。それに、当分あいつは首輪を外せない」

 

 確かにそれなら、大丈夫かもしれない。

 

 「何れにしろ、俺達には終わった話だ」

 「……そっか」

 「俺は傷が治ってきている。東雲さんや雨森さんと一緒にモールへ行ってきたらどうだ。何にもないただのワンルームだぞ、ここ」

 

 パレードの前日まで、ここはレジスタンスの資材を置く物置として使っていたらしく、元々使っていた荷物の殆どを別の場所に移しているらしい。だから、この部屋には寝袋以外何もない状態だ。

 

 「はぁっ……」

 「……何でまた、ため息ついたんだ」

 

 そんな部屋に何で好き好んでいるかなんて気付いてくれると思っていたけど、一貫くんのことだ。心底そう思っているんだろうなぁ。

 

 「私、何度も助けてもらっているの」

 「そういえばそうか。病院へ送った時と狙撃の2回だったか?」

 「間縞のことは?」

 「櫛灘だって戦っただろ。俺は元々誘拐事件で調べていたんだし、貸し借りなしだろ」

 

 確かに、間縞と戦った時は協力していた。ただ、肝心な所は全部一貫の攻撃だったよね。まぁ、いっか。一貫がそう言うのなら。

 でもね、そうじゃない、そうじゃないんだよ。私は確かに人気があると言われてる。それはきっとこの先も変わらない。だけど、それは魔法使いとして価値があると思われているだけで、魔法使いの櫛灘火ノ華に利用価値があるってだけなんだよ。

 だけど、一貫くんは初めから私と言う人を見てくれた。魔法使いが嫌いだと言いながら、私を助けてくれた。

 魔法学園で一番の魔法使いと言われ続けている私に対して、魔法と切り離して接してくれた。魔法軍部には行きたくないことを聞けば、私達に注意もしてくれた。嫌いなはずの魔法使いの学生達も、誘拐されたと知ったから助けようと動いていた。

 私は、そんな一貫くんの在り方に救われた。強情……とも言えるけど、誰かに言われたことじゃない、自身がそう信じたものを全力で貫く強さがあった。

 

 「そんな訳ないよ。私はね、一貫に本当に何度も助けられた。起きたことにじゃないよ。一貫が何気なくしてくれた、沢山のことに」

 「あー、そう、そうか?」

 「そん。だって、一貫に関われたから私……言えるようになったんだよ。本当にやりたいこと」

 

 昔から魔法使いだからこうしなさい、強い魔法使いならその力を生かすべきだ……沢山の人にそう言われてきた。それが嫌で嫌で、一時は後見先生の部屋に泊って泣きじゃくったこともあった。進路のことだってそうだ。魔法軍部だけじゃなくて、他の部門からも沢山声が掛かっていたけれど、その殆どが私のことを本当に考えて話をしてくれるものじゃなかった。風音と雫以外と話す時は自然と気を張っていた。壁を作っていた。

 一貫くんは何時だって、魔法関係なく接してくれた。思いがけずに言ってしまった私がやりたいことも、肯定してくれた。

 

 「それは別に俺のお陰じゃない。櫛灘さんにとって元々やりたかったことだっただろう」

 「でも、それを言葉にできたのは一貫くんのお陰」

 「……?」

 

 よく分からないといいたげな顔をしている。なんで、そう思えるんだろうなぁ……

 

 (……どんな風に助けられて、それがどれだけ助けられたか一つずつ説明しようかな)

 

 それを本当にやったら、私は恥ずかしさで悶えるからしないけど。それでも、知っていて欲しい。

 貴方は今までやってきたことを失った人だと言った。その成果も、関係者以外には知られることがないんだろう。勿体ない、と思う。

 だって、似たようなことをやっているはずだ。そうした行動が誰にも知られないなんて。あぁ、でも。むやみに知れ渡って欲しくない、かも。

 でも、貴方が全て失くした空っぽな人だとは思わないで欲しい。だって、その時に培った生き方は生きている。私が貴方に救われたように。

 

 ──ただ、疑問を持ったのなら、きちんと疑いな。それで納得できないなら、一番譲れないものの為に動けばいい。

 ──他人の意見なんて、所詮は選択肢の1つでしかない。

 

 こんな私でも自分のしたいことを、自分の将来を決めていいんだ、と言ってもらえてくれた気がした。きっと、一貫くんにとっては当たり前だけど、私にとってはそうじゃなかったんだよ。私はそんな一貫くんに、なにを返せるんだろう……あ。

 

 「……これから時間はある?」

 「あるぞ。今の状態じゃバイトもできないからな」

 「ちょっと行きたい場所があるの、付き合ってくれる?」

 「まぁ、鈍った体を取り戻すには丁度いいか」

 

 バスに乗って、自然公園前で降りる。そうして目的の場所へ向かうまで、周囲を見ながら登っていく。よく考えたら、入口からこうして自然公園に入ったの、初めてかも知れない。

 

 「初めて来たけど、結構距離があるんだな」

 「うん。魔法学園の近くでも似たような景色はあるけど、ここは一般区だから離れているから基本的に学生が来ないの。こういうのは嫌い?」

 「割と好きだな。建物が沢山あるところはどうも、別のことを考えそうだしな。ところで、何で俺よりも疲れているんだ?」

 

 う、それは言われたくなかったのに……

 

 「……普段は魔法で来るから」

 「脚で登ってきたことはなかった、と」

 「言っておくけど、帰りは歩いているからね」

 

 前から思っていたけど、体力凄いわね。聞いてもどうせ、鍛えているからって返されるんだろうけど。

 

 あぁ、ようやく見えてきた。前々から景色もいいのに何で人が来ないんだろうと思っていたけど、行くだけでこんだけ疲れるんだから途中で引き返すわね。

 

 「あれか。目的の場所は」

 「うん、ここが私のお気に入り」

 「へぇ、開來市の外れに自然公園があるのは知ってはいたけど、これは……」

 

 自然公園の最奥、そこには休憩所の東屋がある。そこから見える景色と風が私のお気に入りだ。どう、思うのかな。

 

 「いい風が吹いている。日差しもあるし日向ぼっこに最適だな、こりゃ」

 「日向ぼっこって、いっつも学園の屋上でしているじゃない」

 「言えているな」

 

 穏やかな風が吹いている。ここには魔法区の人が早々来ないし、ここまでやってくる人も少ない。

 

 「……もう、気付いていると思うけど、今でも魔法を人に向けて使うの、怖いんだ」

 「だろうな。赤い髪をしているのに、雷を主体としているのは火の魔法を使いたくないからなんだろ」

 

 (やっぱり、気付いていたんだ)

 

 「以前、櫛灘さんの部屋で話した時、あの痕に過剰に反応したんだ。そりゃ嫌でも気付くさ。それに……向こうに集まった奴にも、色々な事情があったからな」

 「……本当はね、お母さんの様子を適時見られるのなら、魔法軍部でも仕方ないのかなって思ってた。だけど、言ってくれたよね。生きるとは戦うことだったって」

 「あぁ、今は鈍っているオヤジからの受け売りだがな」

 

 パレードの前日に一貫くんと話せていなかったら、魔法軍部へ入らない道をしっかりと言えていたか、今でも分からない。

 

 「うん。その時に聞いたよね。どうして逃げなかったのかって」

 「あったな、そんなこと」

 「『逃げてもいい。だけど、後で辛くなるだけだ。楽になろうとして余計に苦しんで、そうして大事な物を失ってようやく間違いに気付くんだ。だから逃げない、逃げられないだけだ。』って」

 「よく覚えていたな、そんなこと」

 「だって、気付かされたから。私はただ、自分から、周囲から逃げていただけなんだって」

 

 (そうした一貫の言葉が、今もこうしてすっと声に出てくるの。)

 

 「そう言われても、何もしてないぞ、俺」

 

 しばらく、2人で流れる景色と風を眺めている。そうだ、風音から聞いていたことがあった。

 

 「……1つ、聞いてもいい?」

 「答えられる範囲なら」

 「反逆さんから提案されたんだよね。どうして断ったの?」

 

 一貫くんがかつてレジスタンスでなにをどこまでしていたのかは今でも分からない。だけど、分かることもある。以前レジスタンスにいて、魔法使いとの戦闘に非常に慣れている。多分、相応の役割を持っていたんじゃないかな。だとしたら、どうして未だにここにいるのだろう。嫌いな魔法使いが集まっている、この場所に。

 

 「幾つか理由はある。まずは単に学歴無いからさ。高校でないとマズい気がする」

 

 確かにそんなことを以前も言っていた。教養科目の成績も悪かったっけ。

 

 「後は……そうだな。アイツらに納得してないことはあったんだ」

 「え?」

 「今だから言えるが、櫛灘さんを病院へ送った日、俺が笛を落としただろ」

 「うん」

 「詳細は省くが、あれは遺品だ。墓すら建てて貰えなかったアイツのな」

 

 分かっていた。でも、遺品と聞くとやっぱり、私もクるものがある。

 

 「あの時はそんな余裕が無かったんだろう。火葬して集合墓地に入ったとは聞いた。だけど、俺と同じようにレジスタンスで育ったなら、遺骨でも持ち帰ることぐらいしろってんだ」

 「一貫くんは持ち帰ろうとしなかったの?」

 

 そういうことはきっちり言いそうな気がするけど……え、左腕の服をまくってどうしたの?

 

 「それが、左腕の傷を受けた時のことなんだ。あの日、アイツは俺を庇って死んだ。そもそも、俺と違って戦えない奴だったから付いてきた方が悪いと言えば悪い。おまけに、アイツはあんまり体が強くなくて途中から咳き込んでいた。確か、病弱だったとか。それでも、そりゃないだろう」

 「…………ごめん」

 「別にいい。終わったことだし、納得してないことは他にもあった。要は、櫛灘さんと同じだよ。俺は俺の意志で、ここへ残ることにしたんだよ」

 

 1つ聞けば、聞きたいことがどんどん増えていく。聞きたいと思う私と、このままでいいと思う私がいる。

 

 「ま、バイト先への挨拶も面倒だったし、多くの魔法使いが今まで遭った魔法使いばかりじゃないことも知った。戻ったとしても、以前のようにはならなかっただろ」

 「じゃあ、私達のことはどう思ってる?」

 

 どうせ一貫くんのことだ。男女なんて考えてないだろう。そっちを答えてくれてもいいけれど。

 

 「そうだな。魔法学園でできた友人だ」

 「……むぅ」

 「何で不満げなんだ」

 「別に」

 

 予想通りなだけに、面白くない。でも、友人と思っていてくれたことには安心した。あぁ、それなら……今、言ってもいいよね。

 

 「そうそう、言っておきたかったんだけどね……」

 「何だ」

 

 言おうと思って、ずっと言えなかったことがある。さっきの仕返しくらい、いいよね。

 

 「試験勉強とか付き合ってあげるけど、字の練習もしようね。汚いから」

 「はぁっ!?」

 

 自覚がないとは思わなかったけど、面白い顔を見られたからよしとしよう。

 

 「どうしてずっと気付かなかったのよ」

 「そりゃ、書く機会があんまり無かったから」

 

 確かに情報端末使って連絡とか入力ばかりだから書く習慣ってないと思うけど……

 

 「だとしても、教科書とか読んでいるなら気づくでしょ」

 「うぐ……」

 

 私達に話していないこと、話したくないことは他にも沢山あるんだろう。それでも今、ここにいる。それで十分だった。

 

 「まぁ、それはおいおいやるとして……ねぇ、そろそろ帰る?」

 「確かに今から帰ったら18時くらいだし、丁度いいか」

 「そうだ。折角だからさ、風音と雫も誘って一貫の魔法試験合格祝いの時に行こうと思ってた店に行きたいんだ。いい!?」

 「そう言えばやっていなかったな。それでいいぞ」

 

 その手を取ろうとして驚いた。ごつごつとした大きい手で、豆が出来ている。きっと魔法が出来ない代わりに、戦う力を求めたんだろう。間縞と戦った時に使ったような武器を何度も何度も振って、それこそ手が擦り切れるまで振るっていたのかもしれない。

 きっと、私達が想像もできないことを今までしてきたのだろう。その全てを失って一貫くんはここへ来て、私達は助けられた。その今までの道筋を私達は未だ知らないけれど、私達よりもずっと過酷な道を歩んできたはずだ。そう思うと、私が手を握っているのに手を握られていると錯覚する。

 

 (私と同じ年齢なのにね。)

 

 それでも、一貫くんが知らないことを私達は知っている。そう。それは例えば、美味しい食事を出すお店で楽しく食事をすることだったり、モールへ行って色んな商品を見たり、そんなありきたりな小さな幸せ。それだったらきっと、私達でも一貫くんに返せるような気がしている。

 

 「うん、それじゃあ行こう!」

 

 空は青く、自然公園の緑は生き生きと日差しを受けている。まるで、今の私の気持ちのようだ。ぽかぽかとして温かい、この感情も一貫くんにあの日助けてくれなければ、きっと失われていた。きっと、私がこの魔法学園にいる間もその後も、魔法使いとして悩みが無くなることはない。それでも、前を向けている。

 

 (……ありがとう)

 

 失くしたものは戻らない、過去へ戻る魔法はない、それでも私達は生きている。

 でも私は失くしたものを気にかけて、心までずっと過去に置いていた。未来に鍵をかけていた。そうすれば赦されると思っていたのかも知れない。

 だけどそれが間違いなことを、きっとどこかで私は分かっていて、指摘してくれる人を待っていたのかもしれない。実際はただ、利用されていたんだけど。

 

 そうして、私は君の手を繋ぐ。誰よりも戦い抜いた君に感謝を込めて。

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