私は君の手を握る   作:久遠の語部

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第3話-2 例え、魔法が使えなくとも

 その日も代り映えの無い一日だった。

 

 魔法区を襲撃したレジスタンスは未だ見つかっていない。引き続き魔法軍部が捜索していて、放課後は速やかに自宅へ戻るように指示が出る毎日だ。ここ最近、空気の重い連絡が重なっていて、クラス全体どころか学園全体がピリピリしている。

 

 「……」

 

 風音が言うには、レジスタンスの捜索は魔法軍部がしているらしいけど、この前から続いている学生誘拐事件だって、魔法軍部が事件解決に乗り出しても解決の兆しが見えていない。本当に魔法軍部を信用してよいものなのだろうか。

 その日午前最後の授業は教養科目と魔法理論について、魔法理論の授業内容は一通り頭に入っているから簡単で、復習の意味合いが強い。ただ、今日は違う視点から授業を受けていた。

 

 ──そうそう。水や風、火や土といった現象を魔法として扱うのがてんで駄目だ。元となる魔素自体は扱えるが、どうにも魔法として使えないんだよな。

 

 魔法を制御できるようになって数年の時間が経ち、この街にやってきた小さな魔法使いの魔素制御の面倒を見ることもしていた身だからこそ、彼の異常さを理解している……つもりだ。魔法は基本的に大気や物質の魔素に干渉してイメージした現象を、形を作るモノ。それが全くできないというのは、イメージの力が欠けているのか、あるいは……もっと別の、根本的な理由があったりするのかも。

 

「櫛灘さん」

「はい」

 

 珍しく私に質問が飛んできたけれど、拍子抜けするほど簡単なもの。こんなの、私に振るものなの?

 

「珍しいわね」

「うん。答えられたし、別にいいんだけど」

 

 魔法軍部の偉い人が来るからかもしれないから?だったら、答えない方がよかっただろうか。

 

 昼休みの時間になると、他の学生から食堂で一緒にご飯を食べないかと誘われたものの、人が集まって食事どころじゃなくなるからと丁重にお断りし、雫と風音と一緒にお弁当を食べていた。

 

「今更だけど、怪我は治ったの?」

「うん、お陰様で」

「良かった。でも、怖いよね。最近は」

「うん、どことなく先生達もピリピリしているし……」

 

 レジスタンスもそうだけど、学生が行方不明になる事件も進展がない。

 

「そうね。私も巻き込まれたけど、もう一度同じ目には遭いたくないわ」

「火ノ華でもそう思うんだ」

「そりゃ怖いわよ。自分の魔法で誰かを打ち倒すなら兎も角……」

 

 ……その先は言いたくなかった。

 

「でも、良かった。火ノ華が無事で」

「何よそれ」

「ほら、知っている誰かが突然居なくなるのって怖いから……」

「…………」

 

 雫がある席に視線を向ける。そう、私の他にも先日の事件に巻き込まれたクラスメイトがいたらしい。その人は私以上に重傷らしく、まだ復学できる状態ではないという。一方で、その学生は実は入院すらしていないという噂があり、その日を境に休みが続いているとも言えた。もしかしたら、もしかしたらかもしれないけど……

 

 「早く収まると良いんだけど」

 「うん……」

 「……」

 「……」

 

 どうも楽しい話が最近ないわね、なんかいい話題……

 

 「そ、そういえばさ」

 

 雫?

 

 「うん、なに?」

 「火ノ華、復学してから少し落ち着きがないけどどうしたの?」

 

 雫の問いかけにどう答えたものか、少し困ってしまう。そりゃあ返さなきゃと思ってそれとなく探していたけど、そんなあからさまに探していたっけ?

 風音はにやにやしているし……別に、そういうのじゃないわよ。

 

 「うん、落とし物の持ち主。病院では探す宛がないからって、私が預かったの」

 「ふー、んー……?」

 

 風音はそういう話、好きよね。まぁ、私も好きだけど。でも、あの落とし物はきっと、確実に返さないと。

 

 「とにかく、まずは落とし物を返さないといけないの」

 「そういうところ、律儀よね火ノ華」

 「悪い?」

 

 目を見れば分かる。風音は絶対に揶揄っている。

 

 「ううん、寧ろいいと思っているわよ」

 「実はこの前、授業サボった時に会ったはいいけど……渡しそびれちゃったのよね」

 「そうなの?」

 「意外に話せる奴でちょっと驚いたわ。何か、あいつが屋上で寝だしたから渡しそびれちゃって」

 「「……」」

 

 な、何よ二人して……そりゃ、他の人に比べたら対応が違うとか思うだろうけど。

 

 「というか、何をあいつは落としたのよ」

 「あー……そのー……」

 

 2人なら言い触らすことはしないだろう。ただ、あの落とし物は家の鍵とか財布とかと違う、もっと大事なモノ。私の予想が正しければあれは……

 

 「ごめん。ちょっと言えないわ」

 

 少しの間を置いて、雫が変なことを言う。

 

 「多分だけど……今日、一般区のスーパーに行くと思うよ」

 「何で分かるの?」

 「今日は特売日だから。以前も見掛けたことあるんだ」

 

 なるほど、懐事情が厳しいらしい彼らしい理由だ……よし。

 

 「それじゃあ放課後、スーパーで待ち伏せね」

 「えぇ、只でさえ放課後は早めに帰ってと言われたばかりでしょ」

 「え、えぇ……」

 

 ちょっと、何で二人して引いているのよ。風音は風音で全然情報が無かったって言っていたし、雫も何か気にしている風なのに。

 

 それから放課後、私達は後見先生に呼び出されたあいつが玄関から出てくるのを校門で待っていた。私も私で教諭から呼び出しを受けていたんだけど、それは逃げてきた。魔法軍部には入りたくないって何度も言っているのに、しつこいにも程がある。だったら逃げてしまえばいい、どっかの誰かさんみたく。

 

 本当だったら玄関で待つつもりだったんだけど、5分も経っていないのに私達へ話しかける奴が出てきたのには驚いた。しかもそいつは魔法軍部へ入りたい上級生らしく一緒に行きたい、なんて言い出したもんだから、反射的に魔法で吹き飛ばした。だから、待ち構える場所を玄関から校門へ場所を変えたのだ。

 

 そして、待つこと5分。私達が見たのは、不良グループに絡まれて逃げ出したあいつだった。魔法が使えないから逃げ出すのは仕方ないと言えるんだけど、なんかこう……納得いかない。危険な場所で私を見掛けた上、魔法区から一般区まで移動して病院まで運んでくれた奴が何もせずに逃げている……そんな光景が。

 

 それでもっと情けない光景がもう1つ。あいつに逃げられた数人が魔法を使っているのに、それを悉く避けられているものだ。

 

 「うわぁ……」

 

 風音の呆れた声はどちらに対してだろうか。魔法をろくに当てられないあいつらに対してか、逃げることしか出来ないあいつに対してか。一方、雫はそわそわしながらあいつを見ている。多分、何時当たるか分からない攻撃に冷や冷やしているんだろう。いや、ちょっと待って。

 

「どうしたの、火ノ華?」

「あ、うん……気のせいだと思うんだけど」

 

 (あいつ、背中を向けているのにどうやって魔法を避けているの?)

 魔法を撃っているあいつらの魔法の練度が低いのもあるんだろうけど、そう何度も出来ることなんだろうか。

 

 「ねぇ、あれって……」

 

 魔法の起こりに気付いた雫が、嫌悪感を隠さずにそれを指す。

 

 「何やってんのよあいつら……」

 「ほんと、私達に当ったらどうするつもりよ」

 

 あいつらは避けられ続けたことで苛立ったのか、周囲の魔素を集めて規模の大きい魔法を使おうとしていた。しかも、不完全な火を使った魔法を、だ。

 

 「……あれは不味いわね。私が抑えるわ」

 

 あいつが避ければ私たちに魔法が飛ぶ。ここであいつがいなかったら、もう少し近付けばあいつらの頭上へ直接雷を落とせるけど、ちょっと距離が遠い。折角だ、この前助けて貰った礼代わりにあの魔法からあいつを守っておこう。

 

 「私もやるわよ」

 「私も手伝うよ?」

 

 折角二人もこう言ってくれているし、力を借りようかしら。よし、こっちに来ても問題ないようにしてっと。

 あ、あいつが私たちに気付いた。

 

 「げ……」

 

 何よその反応……って、いきなり魔法の方を向いてどうするのよ。

 

 「あんた正気!?」

 

 2人も同様に驚いている。何で逃げるんじゃなくて、抵抗しようとするのよ。殴ってどうにかなるものじゃあ……

 

 ──直後、あいつの周囲で土煙が上る。恐らく、あいつらが放った魔法に直撃したんだ。

 

 「──」

 「……」

 

 風音はその様子に目を顰め、雫は目を大きくする。私も私で言葉が出ない。確かに、魔法で狙われるという話はあったが、こんな風にやるものなのか、と目の当たりにして言葉が出ない。魔法を撃った連中は今頃当たった、と騒いでいるのだろうけど、私の心は怒りで火がつきそうだ。

 

 自分を一人の人として当たり前のように助けてくれた人が、魔法使いによって魔法を受けてしまった。確かにこの魔法学園は魔法の実力が優先されていて、手合いとかも合法だ。だから、よくあることでもある。だけど、こんな弱い者いじめみたいな使われ方を、自分を助けた人に使われるのは嫌だった。

 

 さぁ、どうしてやろうか。燃えるモノがあれば火はついて、燃え尽きる。なら、あいつらには……

 が、不思議なことに、煙が晴れる前に私達の横を誰かが走り抜けた。

 

 「え?」

 

 後ろを見れば、あいつが軽快な足取りで校門を走り抜けていった。

 

 「「「……は?」」」

 

 全く、授業中の私に言い返してやりたい。なにが代り映えの無い一日だ。今、とんでもないことが起きたわよ?

 

 ……あ、あいつらも外したことに気付いてあいつを追おうとして、私達に気付いたわね。関係ない素振りで私達を通り過ぎようとしたから、警告なしで雷を直撃させる。

 

 いやぁホント、怪我するレベルの魔法を平気で人に向けて撃つって意味を叩きこんであげないわね。どうやら、私達を見て頻りに謝っているようだけど……

 

 「あんたたち……覚悟はいいわよね?」

 

 とりあえず、病院送りでいいかしら。

 

 

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