私は君の手を握る   作:久遠の語部

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第3話-3 例え、魔法が使えなくても

 その後、喧嘩を売ってきたあいつらを気絶させた私はあいつを追おうとしたんだけど、雫と風音からはパスされてしまった。まぁ、朝に不要不急の外出は控えるよう言われたばかりだし、黒星をストーカーしていたみたいな風評被害が出たら困るのは二人だし仕方ない。それにしてもあいつ、普段から魔法を使わないせいで魔素の特徴が分かり辛いわね。他の人だったら普段から魔法を使う関係で、魔素が漏れ出ているから追いかけやすいんだけど。

 

「あ、いたいた」

 

 本当、事前に雫から行先を聞いてよかったと思う。何とかあいつがスーパーに入るところで見つけられた。

 折角だから私も見てみようっと。一般区で買い物ってモール以外にあんまりしないからちょっと新鮮ね。

 えーとあいつは最初に何処へ……魔法区の物価と比べて安いわね、雫が言っていた通りだ。物価が違うのかな。

 私も私でこの前まで入院していたから、冷蔵庫の残りが少ないから色々と買っておこう。えーと……あ、卵が安い……って。

 

 「あら、一貫君じゃない」

 「……ああ、昨日以来だな」

 

 今、露骨に嫌な顔をしたわね。今まで色んな学生に話しかけられたりしたけど、こんな対応は初めてだ。

 

「そうね。ところで、さっき校舎近くで見かけたんだけど、何かされていたの?」

 

 まぁ、全部見ていたんだけど。

 

「今思い出した……さっき、あの場所にいたよな、3人で。だったら必要なかったか」

 

 さっきのあれ、ね。ということはあの時、私がいたことには気付いていなかったのね。ふーん、ということは

 

「あいつらはしばいたから追っ手なんて来ないわよ。ま、私達に気付かないであんな魔法を使ったんだから当然の結果よね」

「助かった。これに懲りて暫く放置してくれればいいんだが」

「それはどうも。使う場所や相手は考えないとね」

「全くだ。魔法が使えない奴に制御してない魔法を放った上、仕留め損なっているからな」

 

 仕留め損なうというよりはあんたが魔法を叩き落とした、でしょ。それより、あんな芸当が出来るならサボる必要なんてないじゃない。まぁ、肝心の魔法が使えないから、だとは思うけど。

 

 「そう言えば聞いた、レジスタンスの話?」

 「……何だ、それ?」

 

 あ、ちょっとだけ食いついた。今朝、土屋先生が話していたのを覚えていて良かった。

 

 「この前の襲撃した犯人だって言われているの。まぁ、まだ見つかっていないらしいけど」

 「そうだろうな。魔法区にいなければ魔法軍部としても探し辛いし、魔法区で起きたことなんざ警察も積極的に関わってこないからな」

 

 ここのスーパー、お米の値段が意外に……って、しれっとお米5kgを片手で持ち上げたわね。

 

「私達としては何とかして欲しいけどね……って、どうして警察は関わってこないの?」

「そりゃ……」

 

 言い淀んでいるわね。こう、何て言おうか迷っているような……

 

 「警察だって、何しでかすか分からない魔法使いのことに関わりたくないだろ」

 「んな……」

 

 私達は危険物だって言うつもり……でも、危険と思われても仕方ないか。さっきの一貫にやったみたいなことを、私達は道具も無しに出来るんだから。

 

 「襲撃できるだけの勢力ってそういないから、レジスタンスくらいだろうな。あそこなら魔法使いも多いし、魔法軍部が出てくるのは分かる」

 「何で、魔法使いが多いって言い切れるの?」

 「反逆正理自身が魔法使いだ。元々危険な魔法使いを相手にしている集団の頭が魔法使いなんだから、そりゃ他の魔法使いだっているだろ」

 「確かに……」

 「おまけに、レジスタンスの相手は無法行為をする魔法使い達だ。警察側にしても、捜索するメリットがない」

 

 なんか、やけに詳しいわね。魔法が苦手だから、憧れとかあったりするのかな。

 

 「で、でも街に被害が……」

 「その場所、魔法区だけだっただろ。つまり、お互いに分かっているんだ」

 

 確かに一般の人が住む場所は攻撃されていないから問題ないと言えば問題ない……のね、納得はできないけど。それでさっきから気になっているんだけど、凄く淡々と、当然のように言っているけど……

 

 「あんた、随分と落ち着いているわね。自分たちが狙われているのに、危機感も無いの?」

 「何時攻めてくるのか分からない連中をいつまでも気にしろ、と言うのは結構疲れるぞ。必要以上の警戒は余計に疲れるだけだから、いざとなったら直ぐに切り替える位が丁度いい」

 「自分が狙われるって、考えたことないの?」

 「仮に狙われた所で、俺は外見が黒髪黒目だ。一般人に紛れられる俺をそういう奴等がわざわざ狙うのか」

 「ひどい自虐ね」

 

 なんだか可笑しくなってきた。他の皆はなにかしら不安そうな表情を見せていたのに、こいつからはまるで感じられない。よりにもよって、皆が下に見ている黒星の一貫は誰よりも冷静だった……なんて聞いたら、殆どの人が嘘をつくなと言いそうだけど。

 

 「実際そうだろ。それに、巻き込まれそうになったんなら逃げればいい。それくらいなら俺でも何とか出来る」

 「そんなこと言ったら、先生達にまたどやされるわよ。特にあのバーコード頭の間縞教諭に。あいつ、自分より実力の無い学生や先生を露骨に見下しているんだから」

 「言えてるな。昔は魔法兵器の主任だったことを自慢しているみたいだが、髪や今の職を指摘されて顔を赤くするなら増毛の魔法でも開発すればいいのに」

 

 ずけずけと、それでいて裏表のない言いぶりには清々しい。同級生や上級生と話す時のような値打ちするかのような視線もないし、媚び諂う様子もない。同年代の子でここまで気を張らずに話し続けた同学年の男の子はいなかった気がする。男の子と言うには少し厳ついけれど。

 

「アハハハハハ……皆あいつには思う所があっても中々言えないのに、あんた、悪びれずに言うわね」

「実力があったとしても、方針どうにかなんないのかよ、あれ」

「分かる。小さい子達が早く普通の生活を送れるようにするには直ぐに魔素制御を覚えさせなきゃいけないのにあいつと来たら……一番後回しにするんだから頭にくるわ」

 

 本当、名前すら呼びたくないわよ、全く。……あ、そうだ。今の流れなら聞けるかも。

 

 「そう言えば、一貫君って苗字は?」

 「元々の苗字は忘れたよ」

 

 ……え?

 

 「ああ、気にするなよ。親代わりはいたし、家族みたいなものもいたからさ。そこで俺は年下の面倒を見ることが多かった」

 「……そう、なんだ」

 

 一貫君には血の繋がった親がいない。加えて、昔いた場所すらも魔法使いの素質があることで引き離されて……今は一人きり。自分は親が、お母さんがいるから魔法を頑張ろうと思っているけど、一貫にはそれらがない。おまけに、自分の居場所だった所からも引き離された上に、魔法学園でも一人浮いている。……寂しくは、ないんだろうか。

 

 「じゃあ、俺は先に会計済ませるわ」

 「……へ?」

 

 感傷に浸っていたからか、反応が遅れてしまった。私も急いで並ぼうと思ったら、特売の影響で人が多かったのであっという間に一貫の後ろには数人の主婦が並んでいる。

 

 「え、ちょ、待ってよ!?」

 

 私も慌てて列に並んだはいいけれど、あいつはもう会計を始めていた。いつの間にか取り出していた買い物袋に米や他の食材を入れて、財布からお金を取り出している。

 

 なんだろう、この敗北感──

 

 私もようやく会計を終えて荷物を仕舞い終えたけど、あいつは既にスーパーを後にしていた。一般区での魔法使用は緊急時以外禁止されているけれど、あんな話をしてまで逃げる為の時間稼ぎをしていたってこと?

 確かに、話しながら食品を入れていたのは見ていた。だけどまさか、私のことを置いて帰る奴がいるとは。これが荷物も無くて魔法区だったら遠慮なく魔法をぶっ放していたのに、一般区のスーパーにいることすら利用して逃げられるなんて初めての経験だ。初めは魔法でもぶつけてやろうかと思ったけど、最早通り越えて感心してしまった。何だろう、あの度胸。

 

 「一旦、この荷物を持って帰ろっか」

 

 だけど、それとさっきまでの私の気持ちは別だ。どうか、魔法で痛い目を見て欲しい。それはそうとここのスーパー、悪くないわね。

 

 最寄りのバス停から魔法で移動して帰った私は、買ってきた食材を冷蔵庫へ入れる。当然、このまま逃げられたままなのは悔しいので、ちょっとした嫌がらせでもしてやりたい。

 

 「さーて、あいつは何処にいるのかしら」

 

 本当だったら、音楽を聞きながら魔法の鍛錬でもしようと考えていたけど、もうそんな気分になれない。こうなったら日が暮れるまで探してやりましょう。魔法はやりすぎると良くないからほどほどにするとして……どう懲らしめようか。そう意気込んであいつの居場所を探す。風の音、地面の振動。それから、さっきまで近くにいてようやく気付いた分かった、あいつの魔素の感覚を追って……あれ?

 

 「なんだ、いるじゃない」

 

 意外と直ぐに見つかった。第一、魔法区内にいるとすら思わなかった。今日も魔法区には人が少ないこともあって見つけやすかったとはいえ、拍子抜けだ。

 

 「って、あそこは……」

 

 あいつの魔素の感覚を頼りに近くまで来るとそこは……少し前に修復が終わった場所だった。ということは、先日のレジスタンスと魔法軍部が接触した場所かもしれない。何でそんな所にあいつがいるの?

 

 「まぁ、私も私か」

 

 見た所買い物袋を持っていない。つまり、一度家に戻って出てきたのだろう。うん、丁度いい。生活が苦しいのに特売で買った食材を台無しにするのは気が引けたから。それにしても、何をしているんだろう。とりあえずあいつから私が見えないようにして、と。

 

 「…………」

 

 魔法で周辺の音を探る。水を使ってレンズを作る。こうして、私の目で直接見えなくても、一貫の動きを追えるようにする。一体、何をしているんだろう。パッと見はごみ拾いに見えるけど……

 

 「ここにも無いか。仕方ないな」

 

 何かを探している?

 

 「全く、何処で落としたんだか。病院へ運び終えた後の帰りにはもう無かったんだよな。とは言え、一般区で落としたとも考え辛いし、落とすならこっちのはずなんだが……」

 

 あ、あれ、立ち止まった……?

 

 「……で、さっきから本当に何の用だ」

 

 魔法以外は魔素が漏れないように注意していた筈なんだけど!?

 

 「さ、さ、さ、さっきぶりね。一貫君?」

 「ストーカーとか、いい趣味してるんだな」

 

 ……は?

 

 ズガガッ!!

 

 ……あ。

 

 「おいおい、修復終わったばかりの場所を壊そうとするなよ」

 「ああ、ごめんね。つい、聞き捨てならない言葉が聞こえたから」

 

 あまりの言葉に反射的に雷を落としてしまった。というか、よく避けたわね。

 

 「そりゃあ下校しようと思ったら会うわ、普段他の学生が来ないはずのスーパーで見かけるわ、おまけに隠れて見られていたんだ。おかしいと思うだろ」

 

 確かに、普段関わりがない相手に行く先行く先で会えば、思う所はあるか。

 

 「う、それは……」

 

 何て、答えよう。気になるからなんて言えば変な勘違いされるし、落とし物を渡したいだけでこんなに必死になって探しているのも変だよね。

 

 「さ、さっき逃げられてなんかムカついたのと……一貫君が面白そう、だから?」

 「何でそこ疑問形なんだ。全く、近くに魔法使いがいるってだけで落ち着かねえのに」

 「え。寮に戻れば、嫌でも魔法使いなんているじゃない」

 「あー、それか。俺、寮を追い出されているんだ。家賃とか光熱費は出てるから何とかなってるが」

 

 この学園都市にやってきた魔法使いの卵達は、魔法使いが住む区画に住所が与えられる。基本的に入ってきた人順に部屋を割り当てされるが、魔法の成績が優秀な人であれば学園に近く部屋も広いマンションへ移ることも可能だ。だけどまさか、追い出されて一般区に住んでいるなんて……

 

 「本当に、大変なのね」

 「ま、そういうのは慣れだ慣れ……それで、本当に何の用だ」

 

 そうだった。おかげで少し冷静になれた。

 

 「落とし物、したんだよね。あなたが探している物ってもしかして……楽器、だったりする?」

 

 一貫君が目を大きく見開いた。ああ、やっぱりそうだったのね。

 

 「そうか、櫛灘さんが持っていたのか。通りで見つからなかった訳だ。それで、どうする気だ」

 「え、普通に返すわよ」

 「助かる」

 

 さて、落とし物は鞄の中に……あ、急いで出てきたから、鍵しか持ってきていないんだった。

 

 「ごめん、急いで出てきたから家に置きっぱなしだったのを忘れていたわ」

 「それじゃあ、次会った時でいいぞ」

 

 このまま帰られるのは、さっきのスーパーみたいな展開になりそうなんだよね。

 

 「ふーん。それで、一貫君はこの後予定あるの?」

 「……あぁ、バイトが入っている」

 

 今、口元にちょっとだけ躊躇いがあったわね。

 

 「嘘ね」

 「だから、そろそろ帰……」

 

 フフフ、逃がすと思う?

 

 「今の感じだと、本当は空いているんでしょ?」

 「バイトを入れているのは本当だぞ」

 

 これは多分、本当のことみたい。けど、迷ったということは……

 

 「それはこの後直ぐのこと?」

 「……夕方からだけど」

 「じゃあ、その前までは暇でしょ?」

 「行く前にひと眠りしたかったんだが、まぁいいか。バイト先も家から行くより、魔法区から向かった方が近いし。けど、そんなに仲良くもない男を部屋にいれて大丈夫かよ」

 

 こっちは助けてもらった礼もまともに出来ていないのよ。だけど、一貫の言葉には一理あるわね。

 

 「安心しなさい。助けてもらった礼はするつもりだけど、何かしようものなら黒焦げにしてあげるから」

 「そうかよ。櫛灘さんならできそうなだけにおっかないな、おい」

 

 その後、私の家で様々なことを聞いた。一貫君がここへ来る前の生活だったり、学園ではどんな生活をしているのか、とか。魔法関係なく会話したのは風音や雫、後見先生以外では本当に久しぶりだったから、ついつい色々な話をした。例えば魔法学園ではどのような生活をしているか、バイトは何をしているのかとか。

 

 学園生活の方は予想出来ていたけど、魔法が使えないから先生やクラスメイトから相手にされていないらしい。その上、勉強もギリギリなのにバイトをしているから、教養科のテストもいつも悪いんだとか。何やってんだか。

 

 「あ、それでも……」

 

 だからと言って、一貫君が魔法の実技と勉強が出来ない馬鹿かと言うとそうではない。魔法の知識、道具についての知識が豊富で私も驚いた。その魔法の知識は実践的な、戦いを想定したものばかりに偏ってはいるけれど、一貫君はどのように知ったのだろうか。多分だけど教養科の成績が悪いのは、単純に勉強をする時間が無かったか、興味がなかったからかもしれない。

 

 学園や普段の生活について話してくれた一貫君だけど、話してくれないこともあった。それは、彼がこの開來市へ来る前にどんなことをしていたのか、だ。結局、聞けないまま帰る時間になってしまったので、踏み込んで聞いておけばよかったと少し後悔している。それでも、口が動かなかったのはきっと……

 

 「まぁ、私も言いたくないことくらいあるからね。それに……」

 

  彼が私を病院まで運んでくれた時に落としてしまった落とし物。何となく一貫君の私物ではない気がしたから。

 

 「なんか余計に気になってきたわね……って、よく考えたら」

 

 魔法抜きで話が出来るからすっかり忘れていたが、この街に来てから男の人を部屋に入れた記憶は無い。そもそも、今の私の家にいれたのも、同世代の人では友人の風音や雫くらいだ。え、もしかして私って一貫君を風音と雫と同列に見ているの私は。いや、流石にそれは。だって2人は魔法抜きの大事な友達なのに……

 

 「一貫君の言う通り、家に上げなきゃ良かったかな」

 

 それでも、今日は不快な気分もないからぐっすりと眠れる日だと思う。

 

 「って、もう夕方かぁ。ご飯食べて、今日は早めに寝ちゃおうかな」

 

 まさかその夜にあんなことが起きるなんて、この時は欠片も思わなかったけど。

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