私は君の手を握る   作:久遠の語部

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第3話-4 例え、魔法が使えなくても

 情報収集から帰ってきたメンバー達の報告は、風潮達にとって信じがたいものだった。

 

「はい。恐らく魔法軍部には現在、複数のマニピュレーターが保管されており、その稼働に魔法学園の学生が使われているみたいです」

「学生を使っていると言ったな、どうやって集めたか分かるか?」

「……正確には分かりませんが、誘拐の可能性が高いかと」

 

 風潮の口元が苦々しく結ばれた。周囲を見渡せば、その場にいた全員の顔が強張っている。

 

「誘拐だと時間がかかる筈だ、どうしてそう思った」

「理由は主に2つです。1つ目は学生の名前が分からない事。既に風潮さん達も知っていると思いますが、行方不明になった学生達は魔法軍部へ体験入隊している、という体になっています。しかし、どの学生が体験入学しているかが未だに出ていない。優秀な学生であればそもそも氏名を隠す必要はないですし、成績の悪い学生向けの補習だとしても、まだ5月。後者であれば名前を出す必要はないですが、時期が早すぎる」

「もう1つは?」

「ここ最近起こっている魔法区の異常です。既に知っていると思いますが、二十名を超える学生が理由不明で行方不明になっています」

「あぁ、そうだな。その状況を不審に思ったあの人が我々をここへ派遣した」

「はい。被害届は一般区の警察に届けられているようですが、半月前に棄却されて調査も魔法軍部主導になっています。我々が先行で魔法区を調査しようとした時に、魔法軍部の兵士とかちあったのはそんな理由からですね」

 

 確信するほどではない。だが、関連性がないと言い切るには、あまりに符合しすぎていた。

 

 「……奴等の可能性は?」

 「そっちの線も探ってもらいましたが、ここ数ヶ月の間に侵入された形跡はないようです。私達のような抜け道がある私達はともかく、基本的に開來市への出入りには許可がいる。その上、一般区へ潜もうにも警察が、魔法区には魔法学園や魔法軍部がいる。彼らでは、長い間潜伏することは難しいでしょう」

 「……分かった。戻って休んでくれ」

 

 報告をしたメンバーを下がらせた後、風潮は大きくため息をつく。

 

 「……そこまで、そこまで堕ちたのか。魔法軍部と魔法学園は」

 「現時点であそこまでの報告がある以上、確認しない訳にはいかないですね。かと言って、応援を呼ぶにも先日の騒ぎがあった中では……」

 「あぁ、増援は厳しいだろう。だからこそ、ここにいる我々でやるしかない」

 「……それで、何時頃行きますか?」

 「霧影、覚悟が決まっているのは有難いがな。あそこへ忍び込むことは容易じゃない。下がらせた彼らでは見つかった時の対応が難しい。なら、ここにいる魔法使いで潜入するしかない。ただし、何が起こるか分からない以上、捕まらないこと最優先で動くぞ」

 

 力強い返事に心強さを覚えつつも、風潮の胸中には一抹の不安がかすめた。

 

 

 数日後の夜、彼らの作戦は決行される。最小限のメンバーで確実に行う為、魔法使いのみで構成されたメンバーで魔法軍部の敷地へ潜入する。彼ら以外のメンバーで魔法軍部に詳しい者がいたため、警備の隙を突くのは造作もないことだった。

 そうして迷うことなく学生達がいるであろう場所を特定、発見に成功した。しかし……

 

 「これは……」

 「彼らの情報は本当だったか。しかし、これは……」

 

 彼らが見ているのは人の形をした装甲、その装甲から繋げられているチューブの先には円筒型の水槽があり、何かの液体が蓄積されている。その水槽には抽出した何かの判別をする為に顔写真が貼られている。抵抗していないことから装甲の中で眠らされているのだろう。

 その光景の悪辣さに風潮は喉から怒気を漏らしそうだったが、一度深呼吸して自分についてきた三人へ問う。

 

 「これを、解除出来るか?」

 「可能ですが、時間がかかります」

 

 その指摘は正しい。単純に数が多いのだ。対象が数人ならこっそり解除して連れ出すことも出来ただろう。だが、その数は数十機。どのような目的でそれだけの数を用意したかは不明だが、その全てを短時間で救出、運搬するには無理があった。

 

 「くそっ、予想以上に数が……」

 「どうしますか?」

 「…………」

 

 風潮に三人の視線が集まる。次の行動を伝えようとした時、数名の走る足音が僅かに耳へ届く。

 

 「……撤退だ」

 「し、しかし!」

 「ここで我々が捕まれば、解決不可能になる。加えて、残っている彼らで対応出来るのか?」

 「……ぅ」

 

 言われたことに思い当たる所があり、霧影を始めとしたメンバーが顔を歪める。その間にも、続々と足音が聞こえてくる。迷っている時間など、残されていなかった。

 

 「分散してでもいい。何としてでも脱出するぞ!」

 

 何とか施設を抜け出した彼らは空を飛んで逃げようと試みる。ある者は魔法で兵士達を吹き飛ばして施設から逃げ出し、ある者は開けた窓から飛び出し、ある者はその姿を隠して脱出を図る。そうして無事に全員が出られたのは良かったが……

 

 「……む」

 「これは一体……」

 

 魔素を手繰り寄せようとした風潮の指先に、痺れるような違和感が走った。魔法が、発動しない。突然のことに焦る3人だったが、風潮は落ち着いていた。

 

 「既に魔法妨害装置を起動しているようだ。あれは持って来ているな?」

 

 三人が頷き、懐から液体の入った小さな小瓶を取り出した。それを一斉に呷った彼らは次の瞬間、妨害装置の影響を跳ねのけて魔法を使い、上空へ逃げ出した。

 何とか魔法軍部の敷地から脱出できたのは良いものの、呷った液体の効果が切れたのか、風潮以外は肩で息をしている状態だ。それでも急いで立ち上がり一般区の方へ逃げ始めているが、そんな彼らには追っ手が迫っている。

 

 「……行け」

 「ですが!」

 「誰があれらを伝えるんだ!」

 「は、はい!」

 

 霧影を始めとした3人が走って魔法軍部から離れていく。そこに、魔法兵器を担いだ兵士と彼らを指揮する若い男性が姿を見せた。

 

 「やぁ、レジスタンスの諸君。ここへ立ち入らなければ見逃したと言うのに……おっと、1人か」

 「あぁ、そうだ。全く、立ち入る原因を作ったのは誰だと思っている。妙な噂が無ければ、我々もこちらへ来る必要なんて無かったんだ」

 

 尊大な男の言葉に呆れたと言わんばかりに言葉を返す。が、魔法軍部から照らされる照明で見えたそれには、思わず顔も強張った。

 

 「あぁ、これか。凄いだろう。君は見てしまったから見逃せないが……ある男が魔素の提供を持ちかけてくれてね。お陰で完成したんだ。本来だったら貯蔵して運用する手筈なんだが、想定外に集まったお陰で一発だけ試し撃ちが出来るんだ」

 

 口角が立っている男の目には、好奇心が隠せていない。

 

 「……待て、それを使う気か?」

 「実践として利用可能か検証するのは大事なことだよ」

 「それの威力は分かっているのか?」

 

 問題はそれを自分に使われること……ではない。自分のいる先に何があるかを分かっている。

 

 「そりゃ、威力が高いと分かっているさ。一極化はせず分散機能を組み込んでいるからそれなりの威力で収まるはずだ。本来なら君達に向けるモノではないが、見てしまった。であれば、我々としては逃がせないし、折角だからパレードの前に検証したい。彼らの魔素でも実用出来るかどうかを、な」

 「やはりあれは、魔素の集積装置か。だが、制御出来ると思えないが」

 「だからこそ、これから使うのも最小限の利用だ。只の試し撃ちで奮発するほど、十分な予算なんてないからね」

 「暴発したらどうなる。この後ろに何があるか分かっているだろう」

 「だから、逃走ルートをここにしたのでは?」

 

 その指摘は事実だが、理解しきれない道具を使う危険性を、この男が理解しているようにはどうしても見えなかった。それでも今、彼らはどうあっても準備した魔法兵器使うつもりだろう。息を整える、冷や汗が止まらない、心臓の鼓動で全身が脈打つようだ。

 

 

 ──やることは決まった。別に、戦うことが目的じゃない。

 

 自分たちが立つ先に何があるか分かっている以上、防げるものは防ぎたい。しかし、所詮は個人の魔法使い。兵器として運用される魔法に勝てる道理などない。

 

 「おおおおっ!!」

 

 ならば、自身に使える魔法の限りを尽くして攪乱し、何としてでも被害を最小限にして逃げることだけだ。

 

 「撃て!」

 

 そんな風潮の考えなどいざ知らず、男は好奇心のままに指示をした。

 そうして、魔法軍部周辺の敷地から落雷したかのような轟音が鳴り響いた。

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