やはり俺の結婚生活は間違っている   作:ヒューイK

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冬の市民ホールで、みんなが“誰かのため”に動く。
それだけで、もう物語は温かい。
笑いあり、成長ありの準備回をどうぞ。


第10話 やはり準備の方が面倒で、終わる頃に尊くなる

小さな市民ホールに集まったのは、生徒会と奉仕部の面々だった。

椅子を並べたり、舞台の位置を確認したりと、

空っぽだった会場が少しずつ形を成していく。

 

「えっと〜、そこの列、あとちょっと右ですっ」

「あっ、違う違う、右の右っ!」

玲の声が響き、作業していた生徒たちは「どっち!?」と苦笑しながら椅子をずらした。

 

大磯がため息混じりに笑う。

「会長、指示がざっくりすぎる」

「え〜? 感覚派なんです私〜! でもちゃんと見てますから!」

 

そのやり取りを横目で見ながら、瑠美が小さく苦笑する。

「……見てる方向は合ってるけどね」

美羽が淡々と補足する。

「あと三度ほど右ですね」

玲は即座に反応した。

「はいっ! 角度のアドバイス感謝ですっ、美羽さん!」

 

八幡はその様子を見て、(……まるで台風の目だな)と心の中で呟いた。

だが不思議と、誰も苛立っていない。むしろ空気が明るい。

彼女の声が飛ぶたびに、周囲の笑いが増えていく。

 

「玲さん、まるで演劇部の舞台監督みたいですね」

美羽が穏やかな口調で呟くと、瑠美が小さく笑う。

「本人は“演出家”のつもりみたいだけど」

 

「え、聞こえてます〜! 私だってちゃんとやってますよ!?」

玲はむくれながらも、テープを手に取って飾り付けを始めた。

 

玲は飾りを手に取り、背伸びする。

その頬に少し汗がにじんでいる。

 

「……真面目にやる時もあるのね」

瑠美が感心すると、玲は笑ってウインクした。

「やだ〜、“あるのね”とか言われるの傷つく〜。普段から真面目ですよ!?」

 

八幡がぼそり。

「その言い訳がもう信用ならん」

「先生ひど〜い! でも当たってるのが悔しいです〜!」

 

周囲の笑い声が弾け、冷えた空気が少しだけ温かくなった。

 

 

設営が落ち着くと、今度は飾りつけだ。

色とりどりの紙テープや風船がホールのあちこちに広げられる。

 

生徒の一人が手を挙げて尋ねた。

「雪乃先生、飾りつけ手伝ってもいいですか?」

「ええ。ただし、危なっかしい真似はしないでね」

 

そのやり取りを聞いていた結衣が、にかっと笑った。

「あー、それ! なんか思い出した! クリスマスの時、ゆきのんとケーキ作ったじゃん?」

 

雪乃は一瞬だけ手を止め、懐かしそうに目を細める。

「……あの時も“手伝う”って言いながら、生クリームを三回こぼしたのは誰だったかしら?」

 

「うわ、それまだ言う〜!?」

 

八幡が後ろからぼそり。

「……生クリームどころか、床までデコレーションされてたからな」

 

「ヒッキーまで!? もう〜、あれは愛情表現だし!」

「破壊的な愛情だな」

 

八幡が苦笑しながら続ける。

「今回はその愛情はいりませんから」

 

「も〜ヒッキー感じ悪いっ! あたしだって料理の腕、ちゃんと上がってるし!」

 

結衣がぷくっと頬をふくらませると、雪乃が静かに息を吐き、

ふっと柔らかく笑った。

「そうね。今のあなたが作ったクッキーは、もう苦味を感じないもの」

 

「それフォローになってないからね!?」

 

部室中に笑い声が広がり、作業の緊張感がふっと和らいだ。

 

玲が段取り表を片手に走り回りながら声を張る。

 

「雪乃先生、電源コードこっちお願いしまーすっ!」

「わかったわ。……でもあなた、もう少し落ち着きなさい」

「え、私が止まると会場も止まるんですよ!? 止まれません〜!」

 

その隣で結衣が笑いながらクッキーの箱を持ってきた。

「はいはい、糖分タイム入りまーす! みんな一回休憩〜!」

「由比ヶ浜先生、まじ天使です〜!」

玲は両手を合わせて拝むような仕草をした。

 

「……やっぱり、一色の再来だな」

八幡が呟くと、雪乃が小さく肩をすくめる。

「あなたがそう言うなら間違いないわね」

「え、誰ですか一色さんって!?」

「歴史の勉強はあとで」

 

玲がぽかんとする中、瑠美と美羽は顔を見合わせて微笑んだ。

 

笑い声が重なり、会場の空気が少しだけ柔らかくなる。

その中で、誰もが自然に笑っていた。

 

喧騒の中にも、不思議な一体感があった。

 

 

準備が進むにつれ、近所の子どもたちが様子を見にやってきた。

「おねーちゃんたち、すごーい! キラキラしてる!」

玲がしゃがみ込んで笑顔で応じる。

「ありがと〜! 本番はもっとキラキラさせるからね!」

「ほんと!? また見に来る〜!」

その声に、生徒たちの動きが少し軽くなった。

 

町内会のお年寄りたちも姿を見せる。

「まぁまぁ、若い人たちがよく頑張ってるねぇ」

「ありがとうございます。当日、笑顔になってもらえるようにがんばります!」

玲の丁寧な一礼に、相手は嬉しそうに頷いた。

 

玲の背中を見つめながら、瑠美は小さく息を吐いた。――この子、やっぱり強いな。

 

その光景を見ながら、八幡はぽつりと呟いた。

「……ああいう時のあいつ、悪くないな」

雪乃が静かに微笑む。

「誰かを笑顔にできる人は、ちゃんと強いのよ」

 

 

控室。

ホールからは、リハーサルのピアノ音が微かに聞こえる。

机の上には進行表とマイクチェックリスト。

 

「じゃあ、最終確認いきますっ!」

玲は手元の資料を片手に立ち上がった。

「由比ヶ浜先生は来賓誘導! 比企谷先生は機材チェック! 雪乃先生は救護班で!

瑠美さん、美羽さんは受付まわりお願いします! 大磯くんは……サンタ帽で場を和ませてくださいっ!」

 

「なんで俺だけそういうの!?」

「雰囲気づくり担当です!」

「職権乱用だろ、それ」

「会長権限ってやつです〜!」

 

笑い声の中、玲が息を吸って真剣な表情に変わる。

「――みんな、本当にありがとう。ここまで来られたの、みんなのおかげです」

「そしてみんなで暖かい本番にしましょう」

 

八幡が椅子から立ち上がり、短く言った。

「……了解だ。会長」

 

その言葉に玲は少し目を丸くし、それからふわりと笑った。

「……はいっ。がんばります!」

 

扉を開けると、夜の冷気が差し込んだ。

 

玲は深呼吸をして、一歩外へ踏み出した。」

その瞬間、冬の空気が頬を撫でた。

 

ステージから流れる不揃いなリハーサルの音が、

どこか懐かしい冬の匂いと一緒に、静かに響いていた。




準備って、終わってみると不思議と尊くなるものですね。
何気ない会話や笑いの中に、少しずつ信頼が積み重なっていく。
この小さなホールで過ごした一日が、
誰かの記憶の中で、静かに優しく響き続けますように。

次回はクリスマスイブに投稿予定です。
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