やはり俺の結婚生活は間違っている   作:ヒューイK

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読んでくれた皆さん、本当にありがとう!

今回は、文化祭を通して少しずつ成長していく瑠美の姿を描いています。
支える側だった奉仕部が、今は支え合う側へ。
その小さな変化を感じてもらえたら嬉しいです。


第4話 晴れた霧の向こうに、光がさす

放課後の特別教室。

黒板には「文化祭実行委員会」と大きく書かれている。机を囲んだ生徒たちは、それぞれ担当する役割について話し合いを始めていた。

 

「模擬店の配置はこっちの方がいいんじゃね?」

「いやいや、人の流れ考えたら逆でしょ」

「パンフレット作りは誰がやるの?」

 

次々と声が飛び交い、再び空気はまとまりを失いかけていた。

 

その最前に座る委員長――瑠美は、緊張で少し肩を強張らせながらも、勇気を出して声を張った。

 

「ちょ、ちょっと待ってください! ……順番に進めましょう」

 

一瞬、ざわめきが収まる。視線が集まり、瑠美の喉が小さく鳴った。

だが彼女は黒板に歩み寄り、チョークを握ると震える手で項目を書き出した。

 

「えっと……まずは、模擬店の配置から。意見が分かれているので、それぞれの利点を出して比べましょう」

 

生徒たちは戸惑いながらも従い、意見をまとめて口にしていく。瑠美は必死に聞き取り、黒板に書き込みながら整理した。

 

「なるほど……人の流れを考えるなら体育館前がいい。でも、設備の準備がしやすいのは中庭……」

 

しばらく考え込み、瑠美は小さく息を吸い込んだ。

 

「じゃあ――配置は体育館前にしましょう。その代わり、準備の分担を増やして、中庭で予定していたグループに手伝ってもらう形で」

 

一瞬の沈黙。だが次の瞬間、数人の生徒が「まあ、それならいいか」と頷いた。

 

(……やるじゃないか、委員長)

後方で腕を組む八幡は、思わず口元を歪めた。声には出さないが、かつての奉仕部を思い出す光景だった。

 

結衣がそっと耳打ちする。

「なんか、前より頼もしくなってきたね」

 

八幡は小さく肩をすくめる。

「……まあな。まだまだ危なっかしいけどな」

 

議論が再び進んでいく中、瑠美は一人ひとりの意見に耳を傾けながら黒板にまとめ、収束へと導いていった。

ぎこちなくも確かな一歩を踏み出したその姿に、委員長としての自覚が静かに芽生え始めていた。

 

――――――――――――――――――――

 

実行委員会の教室。

黒板には「装飾・広報・渉外・買い出し・当日進行」と書かれている。

 

「装飾はやりたい人多いんじゃね?」

「いや、どうせ女子に押し付けられるんだろ」

「買い出しとか雑用ばっかじゃん、誰やんのよ」

 

意見は飛び交うが、誰も責任ある役を進んでやろうとはしない。

教室には、じわじわと重い空気が漂いはじめていた。

 

委員長席に立つ瑠美は、唇を噛みしめた。

声を出そうとするが、喉が詰まって言葉にならない。

 

(……まただ。私、ちゃんとまとめられない……)

 

うつむきかけた、その時――。

 

「……だったら、やりたい奴が責任持ってやればいい」

 

後方から、だるそうな声が響いた。

全員が振り向く。八幡が机に肘をつき、眠そうな目でこちらを見ていた。

 

「口だけなら誰でも言えるだろ。やりたいって言うなら最後までやれ。やりたくないなら、黙って雑用でもしてろ」

 

一瞬、空気が凍る。

だが妙に説得力のあるその言葉に、ざわめきが収まっていった。

 

「……正論ね」

雪乃が小さく呟き、瑠美を見やる。

「委員長、あなたが決めなさい」

 

視線を集められ、瑠美は一度大きく息を吸った。

 

「……じゃあ、装飾は希望した人でチームを作って責任を持ってください。広報は――」

 

震えながらも、少しずつ言葉がつながっていく。

生徒たちはメモを取り始め、場がようやく動き出した。

 

八幡はその様子を見て、心の中でぼやく。

 

(……あー、懐かしいな。この感じ。俺もあの頃は、面倒ごとを押し付けられてばっかだったっけな)

 

だが今は、委員長が前に立っている。

彼女の声はまだ頼りないけれど、それでも確かに場を動かしていた。

 

――――――――――――――――――――

 

放課後の実行委員会室。

机の上には資料や資材リストが散乱し、生徒たちの声が飛び交っていた。

 

「いや、その担当は俺忙しいから無理」

「じゃあ誰がやるのよ!」

 

押し付け合いが続き、会議は一向に収束しない。

委員長席に座る瑠美は唇を噛み、やがて小さく手を挙げた。

 

「……じゃあ、その分は私がやります」

 

その一言に、ざわめきが止まる。

だが同時に、次々と同じような仕事が彼女に押し付けられていった。

 

八幡は腕を組み、ため息をつく。

(……ああ、これは既視感。高校時代の雪ノ下とまるっきり同じだ。責任感で全部引き受けて、結局一人で潰れていくパターンだな)

 

結衣が心配そうに瑠美を見つめ、雪乃も静かに目を細めていた。

 

――――――――――――――――――――

 

文化祭の前日。

突発的に舞台発表の責任者が体調不良で来られないという報せが入った。

 

「どうするの……代わりなんて、もう――」

 

実行委員の空気が一気に重くなる。

 

瑠美は立ち上がり、毅然とした声で言った。

「私がやります。――委員長ですから」

 

誰も反論できなかった。

その日、瑠美は朝から夜まで会場設営に駆けずり回り、資料を抱え、進行表を調整し続けた。

 

――――――――――――――――――――

 

当日の朝。

開場まで、あと一時間。

 

瑠美は最後の確認をしていたが、顔色は蒼白で、手に持つクリップボードがわずかに震えていた。

 

「……大丈夫、です。私がやらなきゃ……」

 

そう言いかけた瞬間、ふらりと身体が傾いた。

 

「瑠美ちゃん!」

結衣が慌てて支える。

 

雪乃は駆け寄り、冷静な声で告げた。

「もう、限界よ」

 

八幡は深く息を吐いた。

(……やっぱりな。昔の雪ノ下そのものだ。けど、今度は放っておけない)

 

――――――――――――――――――――

 

八幡は瑠美の肩に手を置いた。

 

「委員長だからって、全部背負う必要はない。責任ってのはな、押し付けるもんじゃなくて、分け合うもんだ」

 

瑠美の瞳が揺れる。

 

結衣が笑顔で頷いた。

「そうだよ! みんなでやればいいんだって!」

 

雪乃もほんの少しだけ表情を緩める。

「あなたが倒れたら、誰も救えなくなるのよ。だから――任せなさい」

 

その瞬間、瑠美の頑なだった表情がゆっくりとほぐれていった。

涙をこぼしながらも、小さく頷く。

 

八幡は心の中で呟く。

(……あの時の俺たちとは違う。今度は支えられる。こいつが一人で潰れないように)

 

会場に差し込む朝の光の中で、実行委員会は再び動き出した。

――今度は、仲間と共に。




準備を重ねてきた文化祭も、ついに当日を迎えます。
それぞれの想いが少しずつ形になって――そして、試される瞬間がやってくる。

次回、文化祭エピソードの最終章。
奉仕部と実行委員会の物語が、ひとつの答えを見つけます。
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