ずぼらで年上グラマーで若干見た目幼い首元にほくろがあるタイプのダウナー系なお姉さんと二人暮らしをする真面目でしっかり者の微ショタ好青年が、家族のように慕ってきたお姉さんに対して異性としての魅力を感じ取り性癖確定させられる話

の、貞操逆転モノ。

なお、当然の権利のごとく激重屈折感情を持ちながら生まれつきのSであり、かつ、優しいいい子に育てられたので、自分の性癖をどうすればいいのかわからず良心と性癖の間に板挟みになる様子。


有るもの↓
貞操逆転
性癖(作者の)

無いもの↓
シリアス
美醜逆転
偏った男女比
文才



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設定的にちょいガバなのは許して?


第1話

夜も更けた時間。

人も魔物も息を潜めて眠り、夜の生き物が目を覚ます時間に、僕は突然の訪問者の相手をしていた。

人里離れたこの家を訪ねてきた人物は、僕がここに住み着いてから初めてのことだった。

 

 

金髪、長く鋭い耳、端麗な顔立ちをした男、

そして、同じく金髪に長く鋭い耳をした、凛々しさを持つ女。

この世界において、「エルフ」と呼称される人種。

 

僕が今、住んでいる地域には居ないはずの、僕と同じ種族、同じ森の人間。

 

訪問者である彼らは、労働を知らない白く細い指に、里の王族の証である指輪をしていた。そして、それらの身を隠すかのように、薄汚いボロの布で全身を隠している。暗闇の片隅で、まるでその存在そのものが後ろ暗いかのように。

 

視線を下に移すと、男の方は明らかに高価なものである白く厚い布を抱えていた。その手はしっかりとしていながら、足はとうに限界を迎えていたのだろう、疲れで震えているようだった。

 

僕は彼らを知っている。彼らも僕を知っている。

 

男は、その身の辛さを押し殺すかのように、青くなった唇を笑わせながらこう言った。

 

「やぁ、ラーク。君と会うのは150年ぶりかな?」

「まさかこんな遠くまで行っていようとは。探すのに苦労したぞ」

 

そこには、ボロ布の奥に、優しい瞳をした、一組のエルフの夫婦がいた。

 

 

大きな声を出して問い詰めたくなる衝動に駆られる。

 

しかし、彼らのその疲れた笑みが、穏やかな触れ合いを求めているように思えた。

浮かんでは消えた様々な言葉をぐっと飲みこみ、まるで昨日会ったばかりの友人たちに朝の挨拶をするかのように、何気ない声で、僕は返事をした。

 

「そうだね、150年ぶりだ。フルード」

 

訪問者の男の名前はフルード。僕がかつて生きていた森の一族の王族。

 

新たに立ったはずの、現女王の王配。

 

そしてもう一人の名はカーラ、

現在のエルフ族の、女王である。

 

子どもの頃の思い出を共にした、唯一の親友たちだった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

僕は戸を開けたままにしながら、部屋を照らすのに十分な大きいランプに、再度明かりを入れた。

そのまま小さな火を起こし、二人分の茶を温める。

 

下の人里で買ったものではなく、ずっと昔に行商から購入した、エルフに馴染みの葉の茶。

 

フルードたちは少し下を向いて、遠慮がちに差し出された椅子に座った。

しかし、茶を差し出しても彼は手を伸ばそうとしない。

 

僕はそこで初めて、彼が両手で抱える白い布に目をやった。

魔術を介した布は、僕の目をもってしてもただの布にしか見えない。

 

違和感を感じない、という違和感を覚えるほどに。

 

 

少しの間、無言の時間が過ぎる。

重い空気と懐かしい空気が混ざり合う。

 

自分の分の茶を入れて飲んだ。普段は飲まない秘蔵の味に、少し心が軽くなる。

そこに混ざる重い空気を無視するかのように、昔話に花を咲かせるように、穏やかな声色で僕は尋ねた。

 

「僕が、森を離れてから、150年。誰にもここを話したことはなかった。どうしてぼくが此処にいると分かったんだい?」

 

また、フルードは穏やかな口調で返す。

 

「同族の匂いくらい分かるさ。ましてや、生まれてから半分の時を共に重ねた君のことはね」

 

カップに口を付けながら細目を向けると、フルードはばつが悪そうな顔をして笑った。

 

「本当のことだよ?ただ、男のエルフが度々この近くの人里に現れるって噂を聞いて、それを追いかけてきたともいえるかな」

 

それが本当だろう。事実、この森で手に入らない食事に必要なものを買うため、半年に一度くらいは人里を訪れていた。

 

「いいのかい?君たちが二人そろってこんなところにいて」

 

フルードが続けて返す。

「いいや、まったく。臣下には無理を言ってここに来ている。本当なら、今すぐにでも踵を返して森に戻らないといけないよ」

 

昔からフルードは飄々としていて、冗談を言うのが好きだった。ただ、久しぶりに会ったからか、どうも言葉にキレがない。

いや、大人らしくなったと言うべきだろうか。

 

茶をもう一口飲み、俺は会話とも独り言とも取れないような口調で、こう言った。

 

「150年か、森で過ごした時間と同じ年月を、森を離れて暮らしていることになるな。

...実は、気に入っているんだよ、ここでの生活を。一族のしがらみを気にせずに、好きなだけ魔法の研究ができている...食べ物に慣れるのには、少し苦労したけどね」

 

フルードは何とも言えない表情をした。僕が森を恋しがっていると思っていたのだろうか。

 

「君はどうだい?王女様とは、その後。」

 

会えて、かつてのような仰々しい態度を引っ込め、軽口を叩く。今更ながら、二人はそれを咎めなかった。

 

フルードは少しはにかんで、隣に座るカーラに目配せをした。

 

「あぁ、上手くやっている...と言えるかな。少なくとも、カーラとの仲も、一族のまとまりも、不和があるわけではないよ...今はね」

 

それから、少しずつ、止めてあった川の流れが再度流れ出すように、話が進んだ。

 

 

ーーー

 

 

フルードは王族に仕える一族の末端の出だ。エルフの中では高貴な方だが、本来なら王女と結ばれるには立場的に少し遠い。

 

150年ともう少し前、当時、王女だったカーラがフルードに惚れ、求婚した。

当時から王族に仕えていた僕は、それはもう面倒な問題に巻き込まれた。その後、紆余曲折あったが、今では身分を超えた恋という美談として語り継がれていたり、エルフの理を乱す出世として妬まれたり恨まれたりしているらしい。元気そうで何よりなことだ。

 

その件で彼ら達の仲を取り持った僕は、内々に彼らから褒美を頂戴した。

 

 

それがこの出奔である。

 

 

僕はエルフの一族がどうしても好きになれなかった。

規律、歴史、文化、自身の高潔さを誇り、他種族に対し傲慢。文化的洗練さを理由に、哲学的多様さを失っている。

勿論、カーラやフルードといった個人的に好きになれる者もいることはいる。しかし、それを差し引いてもあの森の窮屈さに癖癖していた。

まぁ、幼い頃から腫れ物扱いされていたというのもあるが。

 

カーラとフルードは難色を示したが、説得の末、最終的には納得してくれることになり、

 

そうして森を離れ、遠く離れたこの地に根を張ることになったのだった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「しかし、こんな辺鄙な場所に暮らしているとは。何日も探し回ったおかげでへとへとだよ」

 

「しょうがないだろう?外ではエルフは希少だ。おいそれと人間に見つかれば面倒は避けられない。お前もここに来るまでに実感しなかったか?」

 

「あぁ、嫌というほどにね。正直、君に会うためでもなければ、二度と外に出たいとは思わないよ」

 

「...まぁ、そういわないでやってくれ、いいやつもいるにはいる」

 

少し言葉を交わして、互いが未だに友人と思っていることを知る。

もう聞いてもいいだろう。

 

「久しぶりの再会を喜びたいところだけど、そうもいかないみたいだね。

 

...聞かせてもらおうか、森を抜けたエルフである僕を、わざわざ女王と王配が護衛もつれずにやってきた理由を」

 

 

 

少しだけ、空気が真剣なものになる。

すると、それまで黙って茶を飲んでいたカーラが、代わりに返事をした。

 

「...見てくれ」

 

そういうと、フルードは自分が抱えていた白い布をほどいて中身を見せた。

 

「私とフルードの子だ。女で、ルーラと名付けた」

 

認識が阻害されていた布は、一人のエルフの赤子をくるんでいた。

フルードの手に収まっているその赤子を見る。

何が問題なのかが一目瞭然であり、自然と顔が険しくなった。

耳がまだ小さいのは仕方ないとして、それ以上にその赤子は、だめだ。

 

 

続くカーラの声が、少しこわばった。

「ルーラは銀髪のエルフだ」

 

 

銀髪のエルフは魔力を持たず、魔法が使えない。

 

森に伝わる有名な嘘話である。

4000年は生きるエルフの中で、イレギュラーとして生まれてくる非常に稀有な存在として伝えれらている。

エルフ族では、伝承上の忌み子として伝わる存在。エルフがエルフを名乗るためには、精霊と対話し、体に魔力を介さなければいけないのだ。この子が仮に大人になったとしても、森の一員として認められないだろう。魔力を持つことが前提としたエルフの社会においてはそれ以前に、ただ普通に暮らすことすら出来ないであろうことは明白だ。

 

大体は、魔法を覚えたばかりに悪戯を働いた子どもを諫めるときに、「悪いことをしていると髪が銀色になってしまうぞ」と脅しをかけるときなんかに使われてたりする。半ばおとぎ話扱いだ。

 

書物を紐解くと、かつては実在していたという記録が残されているため、それはおとぎ話ではないということを僕は知ってはいた。銀髪のエルフを抱えたため、災害や疫病が森に起きたとされる昔の部族の伝承もある。

 

自分の目を疑いたくなるが、目の前にいる以上この子がそうなのだろう。

 

「勘違いしないでくれ」

 

カーラの言葉が思考を遮る。

 

「私たちはこの子を愛している。例え銀髪であっても、だ」

フリードもそれに頷く。

 

「しかし、この子を私たちの下で育てることはできない。折角黙らせたはずのフリードを娶ったことが気に入らない連中がまた声を立てるだろうし、なにより後の女王として教育を施すことができない」

 

2人の真剣なまなざしが僕を見つめる。

こいつらはこういうやつだ。伝承や噂話に踊らされず、エルフの森に生きながら、合理的な考えを重視する。

きっと本当に、自分たちの子がおとぎ話のような厄をもたらすものではないと、心の底から信じているのだろう。

 

「森の者たちには、この子の存在を秘匿する。知っているのは出産に立ち会ったごくわずかの忠臣と、私たちだけだ」

 

後に続くであろう言葉が何なのかは、分かった。

それでも僕は、それを遮らずに最後まで聞いた。

 

 

「ラーク、頼む。この子を任されてはくれないだろうか」

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

「師匠、起きてください。もう日が高く昇っています」

 

ガラス窓に朝日が反射し室内を明るく照らす。外で元気に飛び回る小鳥のさえずりが朝の訪れを熱心に伝えていた。

 

私の朝一番の仕事は、かまどに火を入れ、朝食の支度をすることだ。

師匠は食通で、かつ、こだわりが強い。朝は小麦を多めに使ったパンを二つとチーズ、ミルク、森でとれたキノコや山菜を師匠お手製の調味料で味付けしたもの。

 

他のエルフの方がもっと偏食だよ、と師匠は言うけれど、私は他のエルフに会ったことがないからよく分からない。

 

師匠は自分でも料理ができる癖に、いつも私にやらせている。本人は修行だとか言っているけど、絶対朝起きるのが面倒だからに違いない。

 

...私がまだ小さかったころは、師匠がご飯を作ってくれていたのだ。たまには師匠が作ったご飯を食べたいと、時々恋しくなる。

 

「師匠、入りますよ?」

 

師匠の部屋の戸を開ける。床には私では判別ができない何かの実験に使ったであろう様々な道具が放置されていて、足の踏み場を作るので一苦労だ。

 

少し前、あんまりにも部屋が汚かったことが我慢ならず、師匠に掃除をさせてほしいといったことがある。師匠が「貴重なものもあるからなるべく触らないように」と言い張ったため、自室の外は散らかさないようにすると約束させるので精いっぱいだった。

 

私は知っている。本当に貴重なものは地下の部屋にきちんと整理整頓されて保存されていることに。ただ面倒だからそういって断っただけということに。師匠は本当はちゃんとしている人なのに、最近どんどん表面が適当になってきている気がする。

 

「師匠、おはようございます。起きてください」

 

その次の仕事は師匠を起こすこと。放っておけば夕食と朝食が入れ替わってしまう師匠は、私が寝かせて、起こしてをしないと、そのうち夜の眷属になってしまうのではないかと心配になる。

 

なんとか道をつくりベッドの傍まで歩いていく。師匠は寝起きが悪い。普段から半分寝ているみたいなおっとりした人だが、寝起きすぐは輪をかけて酷い。

 

 

ベッドには、布団を深くかぶり反対を向いて寝こけている師匠がいた。

師匠の肩を撫でながら再度、呼びかける。

 

「師匠、師匠!朝ごはん、できてますよ?」

 

「...いや」

師匠はコロンとこちら側に寝返りをうつと、また眠ろうとする。

 

「いやじゃありません、また昨日夜更かしをして魔法の研究をしてたんですか?ベッドに入ったらおしまいにすると約束したじゃないですか」

 

「んんっ...うーん...や...」

 

まるで子どもが駄々をこねるように布団から出ようとしない師匠に、少しずつ揺さぶる力を強くしながら呼びかける。

 

何度か攻防をしていると、ようやく段々目が開いてきた。

 

「...んぁ...ルーラ、おはよう」

 

「...おはようございます。起きたのなら体を起こしてください」

 

のそっとした動きでようやく布団から体を起こす。

綺麗で透き通った金色の髪が朝日に照らされ、水色の瞳が半開きのままこちらをのぞき込んでくる。寝起きで髪が乱雑になってなければ、とても幻想的な光景だっただろう。

 

...いいや、多少の髪の乱れを加味しても、十分綺麗な人だ。

 

私は師匠以外の他のエルフを見たことがないが、師匠がとびぬけて美人だと確信を持って言える。

少なくとも、森の外に暮らす人間の男たちと比べれば、身内贔屓をなしにしてもそうだろう。人間の知り合いに連れられて、街一番の男がいるという酒場に行ったことがあるが、はっきり言って師匠の方が何百倍も美人だった。

 

全然運動をしていないだろうに、なぜか細く引き締まった体。優しい印象を受けるやや童顔な顔立ちに、視線を奪うのどぼとけと首筋のほくろ。

私より長く生きているはずなのに、下手したら私より年下と思われるような見た目をしている。

ややたれ気味の大きな目でこちらを見つめられると、否応なしに目を惹きつけられる。パッと見の印象にそぐわないくらいに出るところは出ていて、抜群のスタイルを維持している。近づけば男の人だと分かるいい匂いがして、それでいて街の人間とは違い教養や品も別格だ。

 

...いや、怠惰という欠点もあるが。

 

「ルーラ、おはよう?」

 

そういうと、師匠はこちらを向いて両手を広げた。

 

「...もう」

私はその師匠の背中に腕を通すと、小脇を持って抱きかかえるようにして師匠をベッドから出した。

師匠がまたベッドに潜らないうちに、用意してあった着替えを取り出す。

 

「はい、こちらに着替えてください。顔を洗って歯を磨いたら朝ごはんにしましょう」

 

そういうと、また師匠はこちらを向いて両手を広げた。

 

「...今度はなんでしょうか?」

 

師匠は寝ぼけ眼をこすりながら、なんてことのない様子で私に言った。

 

 

「きがえさせて?」

 

 

何年たっても造り物のように変わらない、綺麗で妖艶な顔で、こちらを信頼しきった笑みを浮かべながら微笑みかけるその姿は、他の何にも代えられない色気に溢れていた。

 

いつも着ているからか若干伸び気味になった寝間着が、片方の肩から零れ落ちそうになる。師匠の絹のような綺麗な肌が露になり、胸の上の方までが晒されてしまったその姿を、惜しみもなくこちらに向けてくる。

 

細くて白い鎖骨の更に下、その服のふちから零れ落ちそうになるのは、綺麗なピンク色の...

 

 

 

 

 

「っ...!きっ!...着替えくらい、自分でしてください!!!!!」

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

「師匠、ベッドに入ったらきちんと眠ってくださいといつもいっていますよね?」

 

「うん」

 

「寝不足は体を壊すといいますよね?」

 

「うん」

 

「男が夜に起きていると、夜の神に見初められるといいますよね?」

 

「それ嘘だよ」

 

「なんで分かるんです?」

 

「昔は昼夜逆転生活だったけど、そんなこと特になかったから」

 

「その昔って、私が生まれるより昔だったりします?」

 

「うん」

 

120年前じゃねーか、そんなことしてたのか。

 

おかしい。私が子どもの頃にはもっとマシな生活をしていたはずだが。

 

もそもそと朝食を取る師匠に小言を言いながら、師匠のコップにお代わりのミルクを注ぐ。

相変わらずよく食べる人だ。

 

「...まったく、昔はもっとしっかりしていたじゃないですか...ここ50年くらいでますます幼児退行していませんか?」

 

「そんなことないよ?」

 

あると思う。

もきゅもきゅとパンを口に押し込むと、師匠は満足げな顔を浮かべながら口を拭っていった。

 

 

「今日もおいしかったよ?」

 

 

「...ありがとうございます」

 

美人の笑みには有無を言わせない力がある、という言葉がある。まさにその通りだと思った。もし師匠が上目遣いで何かを願おうなら、きっと女神すら言葉を失うに違いない。

 

「それとね、ルーラに甘えたいなって思うのは、ルーラが頼りがいのある立派な女に育ってくれたからだよ?」

 

 

...ほんとに、もう。

 

 

食事をして目が覚めたであろう師匠は、元気よく立ちあがると、指先を軽く振るう。

どこからともなく水が現れ、師匠が使っていた食器から汚れを拭いとった。

大きく伸びを一つすると、先ほどより幾分かきびきびとした動きでこちらを向いて言う。

 

 

「それじゃあ、しよっか」

 

 

ーーー

 

 

私の師匠は何でもできる。

特に戦闘面では無類の強さを誇るほどに。

 

騎士道に乗っ取った剣術から、魔物との立ち回り方、臆病な鹿に気づかれずに森で狩りをする方法、はては薬学や貴族の礼儀作法、

 

 

そして、魔法まで。

 

私は幼い頃からずっと、師匠にその技術を叩きこまれている。

曰く、「なんかあったとき出来たほうがいい」から。

 

そして大体、どれも厳しい。

 

ゆるふわな雰囲気の男とは思えない苛烈な剣戟を手加減なしに叩き込まれることがあれば、にこりと笑いながらできるまで何度でも薬の調合をやり直しさせられたりする。

 

毎回勘弁してくれないかな、と思いつつも、何十年も続けられると、慣れてしまった。

 

「足元、遅いよ」

 

そういいながら私のすねを木剣で叩く師匠。

上からの攻撃に注意しすぎて、足元を痛打される。

 

転びそうになりながら、体をひねりつつ師匠の側面を剣で狙う。

師匠はそれを防ごうとして、私への追撃の手が一瞬遅れた。

 

その間にひと駆けして距離を取り、息を整える。

 

「ん、今のよかった。前までは打たれるばかりだったけど、反撃できるくらいには反応できてる」

 

修行を始めてから100年くらい、全く強くなっている気がしない。

私より頭一つ分くらい背の低い華奢な師匠に未だ滅多打ちにあっている気がして、若干女として落ち込む。

 

師匠が一つ呪文を唱えると、私の体についた打撲跡がすっと癒える。

 

私は魔法が使えない。なんでかは分からないが、使えないものはしょうがない。その分、剣や弓や教育を叩き込まれた。ぶっちゃけ魔法が使える師匠を羨ましいと思ったのは一度や二度ではないけれど、ないものねだりをしても何かが変わるわけではない。

 

「今日はおしまい、お昼ご飯にしようか」

 

 

 

魔法云々は抜きにして、私の負担が大きい気がするのは気のせいじゃないはず。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

「塩漬け肉用の塩、もう少ないね、それにワインも。前に買い物に行ったのってどのくらい前だっけ」

 

「ひと月ほど前ですね。あ、こら、もうできますから、つまみ食いしないでください。それと、蝋燭がもう残り少ないです。師匠が夜中に無駄遣いするせいで」

 

「無駄ではない。必要な出費」

 

「この際ですから、またまとめて買ってきますよ。師匠も来ますか?」

 

「いい、森の出口にあった人里ってなくなったんでしょ?」

 

「ええ。それもう30年くらい前の話ですけど。今はもっと北に大きな街ができて、そこで集まって暮らしてます」

 

「人里の方が近くて便利だったのにー」

 

「買い物もして、だと、往復一日以上はかかりますからね。私、明日は買い物に行ってきます。いつも通り、私は街で一泊してから帰ってきますので、夜ごはんと明日の朝ごはんはまとめて作り置きした分を自分で食べてください」

 

「早く帰ってきてね」

 

 

 

 

 

と、いうやりとりがあったのが昨日のこと。

私は件の人間の街に来ていた。

 

師匠はなぜか1日に3回も食事をする。朝夕だけじゃ足りないらしい。そのせいで、我が家は二人暮らしであるにも関わらず食料の消費が早い。

師匠があの体を維持しているのは、きっと1.5人分の栄養を一人で抱えているからに違いない。なんでお腹が出たりしないんだろう。

 

この間までは森を抜けたところにある人里で買い物ができていたので楽だったが、そこがなくなってからは少し買い物に時間がかかるようになった。

私の足でも駆けて半日はかかるところにできた、新しい街。彼らは都市と呼ぶその場所。名前は忘れた。

ただ、街の規模は人里とは桁違いに広く、様々なものが手に入るので、実は私はこっちの方が気に入ってたりする。

しかし、何度か買い出しに来ている街だが、いまだに人間の多さには慣れない。

 

「通って良し」

 

衛兵から簡単な質問をされて、門を通される。

師匠から預かった魔法の道具で耳を隠した私は、そこらの人間と区別はつかない。人間の中では、銀髪は茶髪や金髪と同様、一定数いる。

 

エルフだとバレるとろくなことにならない、というのが師匠談だ。

 

師匠の場合はエルフだからというより、見目のいい男だからじゃないだろうか。師匠がそこらの人間の女に暴行されるとは微塵も思わないが、それはそれとして厄介な者もいるのだろう。

 

以前来た時とは少し街のつくりが変わっていて、若干道に迷いながらも目当ての店を巡る。

 

昔は細かい道がいくつもあったが、今は大きな一本道が真っ直ぐに延びており、そこから左右に枝分かれしている。枝分かれした道はショートカットになって楽なのだが、治安悪化の温床になるとかいう理由で塞がれがちだ。

以前は粗雑だった道にはしっかりしたレンガが敷き詰められており、一定の間隔で配置された街頭や笑顔で住民と会話をする衛兵が、この街の治安のよさを物語っていた。屋根はオレンジや緑といったカラフルな色で塗られ、行き先では時々木や花が植えてある。

 

特にここ10年くらいで、もともと大きかったこの街は更に大きくなった。たった10年でこうもガラリと変わってしまうのだから、人間はやはり自分とは違う生き物なのだということを肌で感じる。我が家なんて、カーテンの柄くらいしか変わっていない。

 

店に着くと、他の客がする一般的な買い物より少し多いくらいの量を購入する。

もちろんそれだけでは一週間と持たないので、街中にある同じ種類の別の店を回って量を揃える。以前、同じ店で半年分をまとめて購入しようとして、いらない悶着を起こしてからは多少面倒ながらもこうして買い分けているのだ。

大の女二人が余裕で入るような巨大な背負い袋に、買ったものを片っ端から入れて背負う。ワインが樽ごと入ってもなお容量に空きがあるそれも、師匠謹製の魔法の道具だ。見た目より丈夫で、なぜか重量が軽く感じる。

 

多少道行く人に珍しがられるが、こればかりはしょうがない。

 

私はメモを頼りに街を巡って足りないものを買いそろえる。街が幾重にも拡大していたため、回りきるのに夜までかかったことに少し驚いた。

人が増えて様々なものの値段が少し上がった気がする。ただ、蝋燭の値段が前来た時よりも落ちていた。なんでも、便利な魔法の道具が開発されたとかで、光源の主流がそちらに移りつつあるとのこと。そういえば、あの街頭がどうやって明かりを灯しているのかは知らなかった。試しに一つ見せてもらったが、中々使い勝手がいい。一つ買っていって師匠に同じものを作ってもらおう。

 

師匠は何やら魔法の道具を作ってはそれを年に一回くらいどこかに売りつけて、莫大な金銭を稼いでいる。後ろめたい金ではない、と言っていたが、明らかにカタギのそれでもないんじゃないかと思っている。

 

そうして背負い袋がいっぱいになったら、一度宿に戻り、別の背負い袋をしょってまた買い物に出かけるということを繰り返し、4つか5つの背負い袋をいっぱいにする頃にはちょっとした荷馬車分ほどの量になる。

 

それをどこか街の外の適当なところに魔法で隠しておいて、街の外にでてからそれらの背負い袋をさらに大きな背負い袋でひとまとめにし、持って帰る。荷馬車一つ分はあるかのような巨大な袋だ。流石にこんなものを背負って堂々と門を出ようものなら衛兵に呼び止められることは火を見るより明らかだろう。

後は、夜どおしそれを背負って走り抜ければ朝が来る前には家に帰れる。

 

が、そうはしない。

この街に買い物に来るようになってすぐの頃はそうしていたが、最近は宿を取って一泊してから、翌日に帰るようにしている。

 

昔はこの街はもっと粗雑で、あまり長居したいとは思えなかった。あまり清潔ではなかったし、宿もとてもじゃないが寝たいと思えるそれでなく、そのため多少眠いのを我慢してでもさっさと帰っていたのだが、今はそうでもない。食事をして、眠気を取ってから帰ろうと思えるくらいには、この街の生活水準は上がっている。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

日が落ちると街頭に明かりが灯り、大きな街道の両脇には椅子やテーブルが並べられ、そこかしこで酒盛りが行われている。酒場には収まりきらない客が道に溢れているのだ。

 

街の外縁に近い酒場の方が粗野な輩が多く、中心に行くに連れて段々と客の質が良くなってくる。平民の中でも商人や地主といった金回りのいい連中だ。

こういう多くの人間が集まり大規模な街をつくる上で、人間同士の文化的な差が日常的な争いに発展しないための工夫なのだろう。上手くやっていると素直に感心する。

 

そんな街道を巡って、目的の店を目指す。いくらか街の中心部にほど近い、一際大きな酒場が今日の飯場だ。

 

酒場の入口近くまで来ると、見知った顔がこちらを向いて手を振っていた。

 

「おうルーラ、さっきぶり、遅かったなぁ!道に迷ったか?」

 

そういって慣れ慣れしく私に話しかけるのは、茶髪にそこそこ上等な化粧と着物を着た淑女然とした女。

この街のちょっとした知り合い、マルカだ。

 

マルカは少し前まで蝋燭や石鹸といった生活小物を仕入れては売る地味な商会を営んでいた商人だったが、ここ最近ではずいぶん羽振りが良くなった。なんでも、新たに光源になった魔法の明かりを街に売り込む過程で随分上手い事やったらしい。蝋燭で十分だという下流層には今イチだったが、上流層には相当受けたようだ。道理で貴族みたいな装いをして、こんな上等な酒場を指定したわけだ。

 

私は前々から雑多なものをまとめて買うときはマルカに頼んでいて、今日の昼にもこいつの店を訪れていた。以前、まだこいつの商会が小さかった頃こいつの荷馬車が盗賊に襲われていたのを追っ払ったことで知り合い、それ以降何かと親交がある。

 

「あぁ、それにお前がこんな上等な酒場を指定したのにも驚いた」

 

そういうと、マルカは得意がって言った。

「そうだろう?私ももうこの街じゃ大商人の仲間さ、安酒を飲んでいちゃあお客との酒の話題もできない、あぁ、心配するな、今日のお代は私持ちだ」

 

「いや、いい。お前に奢られると余計な仕事を頼まれかねないからな」

 

マルカはわざとらしく舌打ちをして言った。

 

「なぁ、さっきも言ったけど、やっぱりウチで雇われないか?最近何かと物騒でな、あんたみたいな用心棒がいると本当に助かるんだよ」

 

マルカは頭が切れるし、勘もいい。ただ、自分を大きく見せようとする癖があるヤツだから、敵もそれなりにいるんだろう。

たまにならともかく、四六時中こいつに雇われるのはごめんだ。

 

何度も勧誘され何度も断っているから、私が頷くことはないと分かっているだろうに、懲りずに話を持ち掛けてくる。

 

「まぁいいや、ほら、今日は飲もうぜ。お前がいるって知って、急いで用意させたんだ。いい酒もたっぷり揃えさせた...今日は楽しめるぜ?」

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

最初はこいつが何を言っているのかよくわからなかったが、店に入るとすぐにこいつが何を言いたいのかを理解した。

 

マルカが用意したという酒場はどうやらマルカが経営権を持つ酒場だったらしく、マルカの趣味で固められていたのだ。

 

それは絵や彫刻の施された内装、紫や赤といった色のついた明かりが煌びやかに光に、上質な酒をこれでもかと揃えている。

 

そして、何よりも目を引くのは、明らかに狙ってデザインされたであろう肌色の多い衣装を着た、男の給仕たち。彼らはみな若く、化粧で誤魔化さずとも顔が整っていた。

 

貴族が抱える執事のような白と黒を基調としたデザインの服を着ているものがいれば、他の酒場にもいるようなこの辺りで一般的に着られている男の服を着ているものもいる。砂漠の国で着られているような水色や銀色のシースルーの布を重ねて作ったドレスの男もいれば、果ては、どこの国の衣装とも分からぬ異国風の装いの者もいる。和服というらしい。

 

ただ、どれもこれも明らかにわざと丈を短くしていたり、脇や腹部をあえて客に見せたりと、改造具合甚だしいが。

 

それだけ聞くと場末の踊り子か娼夫のように聞こえるが、衣装には店の格に似合った装飾が施されており、布は上等なもの。男たちの露出は多いながらも、高級感があった。

 

店はこれまた金回りのよさそうな客で繁盛していた。といっても、これまでに見てきたような酒場で押し合い圧し合い飲むような混雑具合ではなく、テーブルごとに男が2、3人付き、間隔をもって客に酒を注いでいる。

男たちは嫌な顔ひとつせずに客の相手をし、客が気持ちよく話せるように的確な相槌を打つことを忘れず、笑みを絶やさないでいた。

 

「どうだ?見事なもんだろう?たったひと月でこの客の入りようだ。わざわざ私が直々に従業員を育てたかいがあった...!」

 

グラスに入れられた酒をあおりながら、感極まったように握りこぶしをつくりガッツポーズをとるマルカ。矛先はどうかと思うが、その熱量がマネできるものではないという点に関しては、多少、尊敬している。

 

店の一番奥にある一際格の高いテーブルに案内されたこいつは、右手と左手に2人ずつ男を抱え、飲み食いを始めた。まさに我が世の天下といわんばかりの態度だ。尻が大きくて体が引き締まっていて、まだ20とそこそこしか生きていないだろうという茶髪の男たち。彼女のお気に入りだそうだ。

マルカが体を撫でると喉の奥からくぐもった声を出して、マルカに甘えている。

私はその横で、若干呆れ気味になりながら、普通に上手い食事をしていた。

 

私に付かされた金髪の執事服を着たこの店でもかなり若めの少年が、若干困惑気味にこちらをうかがってくる。私が男に会話を振ったり、酒を要求したりしないものだから、調子がくるっているのだろう。

 

「どうしたルーラ、好みじゃなかったか?」

「食事は上手いと思う」

 

マルカは片手をひらひらとあおり、そうじゃないと言った。

 

「男のことだよ。確かそういうの、好きだったろ?」

 

その言葉に一瞬、動揺を隠せなくなる。

 

ちらりと、私に付けられた男を見る。よく手入れがされているであろう肌と金髪、どちらかと言えば大人らしい色香のある男が多いこの店では少数派であろう、少年的な雰囲気の男。あまり積極的ではなくどちらかと言えばこの手のものに不慣れな印象を受けるが、これは演技だろう。

 

食事の手を止め、マルカの方を見た。

 

「おいおい、私は商人だぜ?他人に対する観察眼ってのは生きる生命線でもあるんだ。特に、酒と男の好みってのは付き合っていくなら真っ先に把握すべき超重要な情報よ。なにせ、人が緩むのは酒か男だからな」

 

かなり飲んでいるのだろう、いつもより数段口数が多くなっている。

マルカは傍らの男を撫でながら、続けた。

 

「あんたは酒、あんま好きじゃないだろ?私はあんたを買っているし、長い付き合いにしたいとも思っている。酒で釣れない分、男の好みくらいは把握しときたいと思うのは当然だぜ?」

 

当然とかのたまっているが、こいつの観察力は異常だ。本人もその特別性を認識してるだろうが、それは口にしない。

 

...認めるのはシャクだが、確かにこいつのいうことは的を射ている。こいつに師匠のことを話した覚えはないのに、だ。街を歩いているときに無意識に目で追ってしまったのを見抜かれていたのか、これまでの付き合いで得た断片的な情報から推察したのか。

 

 

マルカはいよいよ興が乗ってきたのか、膝の上にお気に入りの男を座らせてその胸に顔をうずめ、両手でその体を堪能している。給仕の男は甘い声を出しながら、加減を知らずにどんどんエスカレートしていくマルカにされるがままになっていた。

 

 

「あぁー、やっべぇ、最高。悪い、もう我慢できねぇや。私はお先に上の部屋で楽しませてもらうわ。ルーラも気に入ったコが居たら遠慮なく声かけろよ?部屋は用意させておくし、金も払っておくから」

 

そういうと、マルカは傍にいた給仕を連れて二階に上がっていった。

 

私は満足いくまでゆっくり食事をして、自分の分の金銭を払ってから店を出た。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

先ほどの店からやや離れたところに、私の宿がある。

マルカの店ほどではないにせよ、そこそこ上等な造りの宿。ベッドもサービスも及第点以上で、かつそこまで高額でもないため、私はここをよく利用していた。

 

夜もすっかり更け、部屋で私以外に明かりをつけているものはいない。

白いベッドの上に寝転びながら、目を閉じた。

 

少しだけ、私は苛立っていた。

 

マルカの男好きに関しては、私は特に思うところはない。

女としてはむしろあれくらいが普通なのだろう。今に始まったことじゃないし、どう遊ぶかはマルカの自由だ。多少だらしないところがある程度では今更と言える。

 

あいつに連れられて、ああいった店にいくのだって、別に初めてじゃない。食事ができる場所なんて、基本どこも男と酒が用意されているものだ。

 

 

苛立っている原因は、マルカがあの男の給仕をまるで師匠の代わりが務まるかのように紹介したことだ。

 

もっとも、マルカにそんなつもりがあったわけではないことは分かっている。

悪気はなかったのだろうし、楽しませるために良かれと思ってだったのだろう。そもそもあいつは師匠を知らないはずだ。

 

ただ、それはそれとして。

師匠の足元にも及ばないような男に、師匠と人生を共にしている私がなびくと思われたのは我慢がならない。私からすれば、うわべだけを師匠に寄せたどこの馬の骨とも分からない男が、うすら寒い笑みを浮かべながら近づいてきたようなものだ。中途半端に師匠に似ているのも、それに輪をかけて腹立つ原因になった。

 

確かにあの給仕は、この街で見れば有数の美人と言えるだろう。並大抵の女が寄ってたかって求めていても、不思議には感じない。

 

 

ただ、心の綺麗さも容姿の美しさも、圧倒的に師匠の方が上だ。

 

師匠の方が心が綺麗だ。純真のままに魔法を研究し、森や湖の美しさを大切にし、その教養を惜しみもなく発揮して詩を編み、他人のみならず、一片の草木にすら優しさをもって見せる。その気になれば富豪のような生活だってできるだろうに、こじんまりとした森林の小家で、日々慎ましく生きている。

 

師匠の方が笑った顔が綺麗だ。どんな画家だってあの笑顔を書き記すことはできないだろう、優しい目も、穏やかな口元も、こちらを向いて暖かく微笑みかけてくれるその姿も、ずっとずっと綺麗だ。あんな模造品のようなものでは再現できるわけがない。

 

師匠の方が髪の毛が綺麗だ。織物の男神が一本一本、空の星から編んだのではと思わせるような透き通った美しい金色の髪。櫛を通せば一切のよどみなく通っていき、朝日に照らせば宝石のように輝く。油や染材を一切使っていない、混ざり毛のない純金。

 

師匠の方がスタイルがいい。体の引き締まり方、肉付き、男としての肉体的な魅力でも、師匠の方が上だ。

何より、あんな風に会ったばかりの女に体を触らせるような軽薄な体では持ちえない、普段その魅力をありありと魅せつけられながらも手が出せないという、高嶺に咲く一輪の花のような魔性が足りない。

 

 

私の、私だけの師匠だ。

他の何かが、そのひとかけらだって真似することを許してたまるものか。

 

 

 

 

私のこの恋心が、他の何かで発散されてたまるものか。

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

 

いつもの部屋に朝日がさしている。

 

その下のベッドで、師匠が寝ている。

 

また昨日、夜更かしをしたんだろうか。

 

私は師匠のベッドに近づき、そのまま師匠の上に覆いかぶさる。

 

生まれたままの姿に、薄い掛け布を一枚だけ羽織って寝ている師匠。

 

体の稜線をそのまま見せるそれは、師匠の男としての体つきを何も隠さない。

胸も、腹も、その下も、布越しに撫でれば、その体温までありありと分かる。

 

少しくすぐったかったのだろうか、師匠が身じろぎをした。

男性らしい、いじらしい動きに、胸が高鳴る。

 

可愛らしい寝顔を晒しながら無防備に寝転がる師匠に、私はそっと口づけをした。

 

柔らかくて、小さな口。

 

ゆっくりと、味わうように、何度も。

 

そのうち我慢ができなくなって、師匠の両手を枕の横で恋人つなぎし、ベッドに押し付ける。

 

流石に違和感を感じ取ったのか、師匠がゆっくりと目を開けた。

 

 

「...もう、また?...しょうがないなぁ、ルーラは」

 

寝起きで、いつも以上に高い声になっている師匠。

そういうと師匠は、可愛らしくはにかみながら、私のことを受けいれてくれる。

 

私が師匠の胸を撫でると、師匠は恥ずかしそうにし、少しだけ顔を赤らめながら、その顔を両手で隠そうとする。

 

私はそれを許さない。

もっと師匠の顔を見ていたいから。

 

師匠を覆っていてた掛け布が片方だけはがれ、師匠の胸の、ピンク色のそれが可愛らしく露になる。

より強く、師匠の両手に私の両手を絡ませ、少しだけ体重をかけてベッドに張り付ける。

師匠が逃げられないように。抵抗できないように。

 

「...いじわる」

 

口をとがらせて、ジト目でこちらを見る師匠。

弱弱しく腕を動かそうとして、私に抑えつけられる師匠に、嗜虐心が刺激される。

 

 

答えなんてわかりきっている質問が思い浮かんだ。聞くまでもないそれを、それでも、あえて口に出して聞く。

 

 

「師匠でしたら、この程度の拘束、すぐに抜けられますよね?」

 

 

答えにつまったのか、目線を明後日の方に向ける師匠。

 

「どうしてそうしないのですか?」

 

師匠の長くて綺麗な耳が、先端まで真っ赤になる。

 

分かりやすい人だ。

 

 

「好きなんですよね?こういうの」

 

もはやほとんど力の抜けた師匠の小さな手を、再び握り直す。

 

 

「ほんとなら勝てるはずの弟子に、力で負かされて、なんでもない無力な男みたいに、激しく扱われたいんですよね?」

 

「ほら、いいんですか? ぎゅ~って押しつけらえて、師匠の体、とっても敏感になるまで、あちこちを好きなようにされちゃいますよ? おい、目線そらすな、こっち向け♡」

 

 

師匠はもはや何も言えない。心の内を代弁されながら私に思うがままにされて、隠しきれていない悦びに身を震わせている。

 

次はどんな言葉をかけようかと時間をかけて悩んでいると、

瞬間、視界が師匠の顔でいっぱいになる。

 

 

 

師匠が、私の頬のあたりに手を伸ばし、師匠の可愛い唇を押し付けるように、

小さなキスをしてきた。

 

 

 

唇と唇が触るだけの、子どものようなキス。

師匠の、精一杯の、愛情表現。

 

耐えきれなくなった師匠の、弱弱しい最後の抵抗。

 

 

もう、無理だ。

本当は師匠の口から自分がどうされたいのか言わせるまで意地悪するつもりだった。

 

 

ただ、お預けをさせるような理性は、もう私に残っていない。

本当にずるい人だ。

 

 

 

師匠の潤んだ瞳に吸い込まれるように、その体にーーーーーー

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

 

いつもの私の部屋ではない、見慣れない木目の天井。

暖かい季節とはいえ、朝の時間はいまだ少し冷える。

この辺りは森より若干北だからか、いつもより寒く感じた。

 

若干固いベッドから身を起こすと、ぼんやりとしていた少しずつ頭が覚醒していく。

 

昨日、食事に行ったこと。

買い物で蝋燭が安かったこと。

マルカの軽口のこと。

ここが買い出しに来た街の宿であること。

気持ちが疲れて、泥のように眠ってしまったこと

 

 

さっきまで見ていた、夢の内容。

 

私のいいように弄ばれ、情けなく乱れた姿を見せる私の中の師匠...

 

 

「...っ!!!...!!!~///!!!」

 

 

ベッドの上で、膝を抱えて蹲ったままうつ伏せになる。

 

恥ずかしさや罪悪感や多幸感や、そういった様々な感情がぐるぐると頭を駆け回り、飛び跳ねて逃げ出したくなった。

 

 

 

...だって!だってしょうがないじゃないか!!こっちだってもう立派な大人なんだ!

 

分かってるさ!私が倒錯した感情を師匠に抱いているってことくらい!!!マルカのことを笑えないくらい、性欲を持て余しているってことくらい!

 

男手一つで育ててくれた大切な恩人に向けるべき感情じゃない、汚れた思考の持ち主だってことくらい!

 

私だってわかっているさ!!!

 

私は悪くない!いつもいつも無防備な師匠が悪い!!絶世の美男子が隙だらけで肌をちらちらさせながら、私のことを一番に考えてくれて、一番長い時間を一緒に過ごしてくれるんだぞ?そんなの、自分のものにして、心も体もむさぼりつくしたいと思うのは当然のことじゃないか!

あんなに魅力的な人と四六時中一緒にいれば、そりゃこんな妄想の一つくらいするに決まっている!!

 

大体、師匠も師匠だ!子供のころから距離感変わらないし、同じ生活をしているはずなのにいっつもいい匂いするし、服や下着すら私に洗濯させるし!意識するなっていう方が無理だ!!!

 

 

誰に伝えるでもなく自問自答しながら、布団の中を転がりまわる。感情が高ぶって、手に負えない。

 

きっと、マルカが連れて行った店のせいだろう。あの店には淫猥な気配が漂っていて、それに当てられたんだ。

 

そりゃ、アレみたいな妄想でしたことだって一度や二度じゃない。けど、あんなにもハッキリと夢で見るほど、私ははしたない女じゃないはずだ!!!

 

部屋すら出ていないはずなのに、顔を真っ赤にしながら息も絶え絶えな私。

 

このまま時間が過ぎるのを待ったってどうしようもないくらいに、滾っている。

 

ちらりと窓の外を見て時間を確かめる。...まだ、朝早くだ。

少しくらい時間を使ったって大丈夫だと浮ついた頭で判断する。

 

やっぱり、泊りにしてよかった。

 

師匠のいない完全にプライベートな空間であることが、私の心のタガを外した。

 

 

 

 

 

...ごめんなさい、師匠♡

 

 

 

 

 

 

 









反応求む。
誤字脱字報告、明らかな設定矛盾等も、あれば教えていただけると助かります。
自分でも書いてて全部把握しきれてません。

貞操逆転小説もっと増えろ委員会を立ち上げたい。

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