トトト、とせわしなく鳴る軍靴の音をかき消す勢いでガシャンガシャンと巨大な歩行音が響く。行軍とはかなりの体力を要する行為であり、非常に軽量なEDFの装備でも街1つを跨いで走り続けるのは楽ではない。
そうして駆けつけた速さで救える命の数が変わる今、自分の体力を言い訳にはしたくないところだ。
……コンバットフレームはスロットルを前進に入れて待機しているだけなので移動中は暇なのだが。前方のレンジャー隊からたまにやっかみが飛んでくる。
さて今は場所も時間も変わって任務中。肝心のコンバットフレームは話に聞いたとおり健在で、破損したという脚部アクチュエータも新品と取り替えられて問題なく動作した。そういうわけで再び愛機に乗り込み進むは渓谷の舗装路。
「空軍がやってくれるんだよな」
「しかし大型円盤は金色の装甲で守られてる…」
「塔、アンカーの根本と同じ材質なんじゃないか」
「あれは戦車砲も弾くって話じゃないか。もしそうなら空爆
ミッション番号はかなり飛んで11、天空の炎。安全な場所を探すくだり*1がまるごと無くなって基地での待機・訓練時間となった関係で次の任務がこれだった。強固な装甲を纏った大型円盤…テレポーションシップの大編隊が街へ向かっているから空軍の攻撃で撃墜してしまおうという作戦なのだが…どういうわけか現場の士気は低い。
「バルガで殴れば落とせるかもな」
金色の装甲。既存の兵器の殆どをシャットアウトする恐るべき装甲技術。その理解はテレポーションシップとの交戦記録からのみならず、バルガによってへし折られたアンカーを片付ける過程で色々試す機会があったために228基地の面々はその強度をよく知ることができていた。
だからこそ「これ無理じゃね?」と気づいてしまったというか。
今は歩兵として隊を先導する軍曹も口には出さないが時おり渋い顔をしているし、部下たちもやるだけやってやるという構えでいる。史実においてもこの作戦は失敗したし、彼らの心配は尤もだ。
『そんなことしなくたって俺が落としてやります』
「でかいのは図体だけにしておけよ」
「本当にうまく行くのか?」
『当てられるかだけが問題っすね』
今回はその心配を、絶望を打ち破るための秘密兵器を携えている。ニクスの右肩、ミサイルポッドのかわりにおわすは大型榴弾砲ショルダーハウィツァー。無理を言って搭載してもらったこれが今回の切り札だ。
『皆も交戦記録を見たでしょう。どう考えてもあの中に収まりきらない量が投下されている。アンカーの転送装置と同じ技術じゃないかと思ったんですよ』
「そして、アンカーの例を見るに転送装置は装甲されていない…そこを突けば破壊できると踏んだんだな」
『そういうことです』
空軍の攻撃が失敗した後、何度かテレポーションシップがハッチを開いてフライパスする。そこにブチ込めれば撃墜…は叶わずともダメージが入ることを証明できる。それさえ分かればどこかの戦線で遠からず撃墜の報告が上がるはずだ。
逆に今証明しなければ初撃墜は開戦から5ヶ月後*2となり、その間やられっぱなしとなってしまう。そして総人口の数割が死ぬ。
そうさせまいと活動しているのが俺だけではない以上、そうならないことはもはや確定しているようなものだが。
「似合ってるぞ戦友」
「良い銃だな」
「お前もそいつで落とそうってか?」
ハンマーズの推薦のもと射撃試験で抜群の成績を叩き出し狙撃兵に一発合格、強力な対物ライフルを融通できる権利を引っ提げて軍曹チームへ帰ってきたストーム1。濃紺の大型対物ライフル、ライサンダーを掲げてやる気満々だ。
そして視線を上げてはニクスの右肩に搭載された武装を見つめ満足げに頷いている。お眼鏡にかなえて光栄です。
「見えたぞ!敵だ!」
「怪物を駆除する!」
と、ついに作戦地点へ到着。既に投下されたか待機していたα型に銃弾を放ち躯に変える。2隊からなるレンジャー隊の一斉射撃は数で劣る敵を圧倒して勝利。リボルバーカノンの引き金を引くまでもなかった。
あまり乱用できるほど装弾数が多いわけでもないため助かる。なにせ本番はこの後だからだ。
《まもなく大型円盤の編隊が上空を通過する。円盤は空軍に任せ、投下された怪物を駆除しろ!》
「了解した。しかし作戦が失敗した場合に備え…提案がある」
《軍曹か。提案とは何だ?》
「地上から円盤の転送装置を攻撃すれば撃墜できるのではないか、部下からそういう話が出ている。あくまで機会があればの話だが、念の為記録を」
《…うむ、分かった。戦略情報部に掛け合おう。しかし空軍の攻撃が優先だ。巻き込まれないよう下がっていてくれ》
「了解。この位置で待機する」
本部も軍曹には一目置いているからか話半分でも受け止めてくれた。彼の発言権は役に立つ。作中でもそういう貫禄があったが、順当に昇進していればもっと上にいたという周囲の評価は本物だ。
《空爆が始まるぞ!》
「下がっとけよ!誤爆で死んだら笑いもんだ!」
「出しゃばるつもりは無いさ…」
《こちらスカイバット!攻撃を開始する!》
見えてきたテレポーションシップ編隊、飛び交う戦闘爆撃機。攻撃開始の掛け声で次々と爆弾が投下され船団上部で爆炎の花を開く。ほとんど全弾が命中、船団は回避行動を取らぬまま十数秒の間爆撃を受け、空がオレンジに染まり、衝撃波が機体を揺らし、やはり無傷で飛び続けていた。
《む、無傷だと!?》
《効いていない!》
《回避しないのはその必要が無いからだ!》
「やっぱりか…」
「手も足も出ずかよ」
「いや、まだ策がある。そうだろう」
悲痛な声をあげ去っていく空軍に項垂れるレンジャー隊。俺は期待の声に応えるべくショルダーハウィツァーの照準システムを起動する。
『やるだけやってみます。ガッカリしないでくださいね』
「わざわざ換装したんだ、期待値は高いんだろう」
『それはまぁ。失敗したらよろしくお願いします…君も、狙撃よろしく』
「はい(定型文)」
言うは易し、実際のところ上空を通過するテレポーションシップの投下ハッチにピンポイントでブチ当てるのは非常に難しい。自分の機体を貰えるくらいにはコンバットフレームの扱いに慣れてきた自負はあるが、別に射撃の名手とかではないのだ。
ショルダーハウィツァーの搭載に伴って砲撃モデルにインストールされる長距離照準システムを輸入しているので、下駄を履かせてもらおうか。
それにストーム1withライサンダーという特大の保険もある。ひと声かけると彼は得物を構えて狙撃姿勢をとった。こうなれば何もせずとも彼が落としてしまうだろう。
…が、言い出した以上はしっかりやらねば。
「怪物を投下しています!」
「撃て!怪物を倒せ!」
「撃墜も試みろ!転送装置には攻撃が効くかもしれん!」
金属が軋むような音、転送装置を覆うハッチの開く音。紅く光るそれをすっかり晒してテレポーションシップがフライパスする。投下されるα型はレンジャー隊に任せて照準に集中、ど真ん中を狙う。投下の終了を狙い、斜め上に来たところで……トリガー!
ズガァン!
外したぜ!
「…誰だって外すことはある!」
「行っちまうぞ!次は当てろ!」
照準のやや左に逸れた榴弾はテレポーションシップをスカして飛んでいき、俺にはフォローと愚痴と蟻酸とがいっぺんに飛んでくる。そんな折にテレポーションシップのハッチから爆炎が噴き出した。俺の代わりに誰かが当てたらしい。
もちろんストーム1だった。
「大型円盤に損傷を与えたぞ!」
「マジかよ!本当に効いてるぜ!」
「もっと当てろ!落とせるぞ!」
《まさか、本当に効果があるとは…》
偉大な1発により確証を得たレンジャー隊はとたんに勢いづいて転送装置への攻撃を試みる。その多くは届かないかハッチドアに阻まれて火花を散らしていたが、少なくない命中弾を出してハッチからは爆炎が噴き出し続けている。
空軍の全力攻撃すら無効化する金色の装甲、その穴をついてダメージを与えられた興奮は相当に大きい。
一方の大型円盤、集中攻撃を受けているテレポーションシップは明らかに泡食った様子でα型の投下を切り上げ離脱しようとしている。逃がすわけにはいかない。
1射目から誤差修正して2射目、今度こそ当てる。
トリガー!
ズバァァァァァン!!
榴弾は閉まりかけていたハッチのど真ん中、数々の命中弾により煙を噴いている転送装置へ突き刺さり、数キロもの高性能炸薬の爆発エネルギーを解放した。
今までの比ではない量の爆炎が吹き出し、光を失った転送装置が粉々に崩落し、各所の発光部品も消灯し、浮力を失った大質量が落下する。
ゆっくりと、ゆっくりと。
そして大地に触れ…
ドゴォォォォォン!!
爆発四散。
「うおおおおっ!?」
「危ねえ!」
「しかし、墜ちた!墜ちたぞ!」
「大型円盤を撃墜しました!」
《やったぞ!お前たちよくやった!見ていたな、少佐!》
《ええ、ええ!この情報を今すぐ世界中に送信します!》
皆飛び跳ねて喜んでいる。これまで無敵と思われ、まかり間違えばそのまま数カ月間空を支配したはずのテレポーションシップが墜ちたのだ。単独戦果ではないにしろこの手で撃墜することができた俺も全力で喜びたいところなのだが…
『谷が埋まっちまった…』
「あの爆発だ、仕方がない」
ゲームでは落下中に当たり判定こそあれどダメージは存在しなかった墜落テレポーションシップにもしっかりと副次被害がある。
爆風は俺がレンジャー隊の前に出て受け止めたのであまり問題にならなかったが谷の両端が落下する円盤に巻き込まれて崩れてしまった。
戦闘中はともかく全てが終わったら片付けるのか。気が遠くなる。
「撃て撃て!墜とせ!」
「新入りがまた当てたぞ!」
「EDF!」
「…さすがに上手すぎないか?」
そんなナイーヴな気持ちは満面の笑みでぶち当てまくるストーム1を見ているとどうでもよくなってきた。後のことは後、今はとにかく墜としまくればいい。1隻でも多く。
温存していたリボルバーカノンを解禁し、地上を掃射しつつテレポーションシップを狙う。目的が定まり攻撃が集中、あれよという間に2隻目3隻目が地面に叩きつけられ船団は目に見えて混乱し始める。
戦力を投下しこちらを排除しようと動くものは優先的に狙われて墜落、勇敢にも真上をフライパスしようとしたものはすれ違いざまにショルダーハウィツァーを叩き込んで爆殺。
ストーム1が単独撃墜を成し遂げたのを横目に、既に満身創痍の機体へもう一発叩き込んで墜とす。
「うまい!」
「調子がいいな!照準システムに慣れたか?」
『コツが掴めた。一射目を外した俺とは違う!』
墜落するテレポーションシップを背後に気取ったことを言ってもみるが、そろそろ時間切れだ。射角が取れなくなったことで撃墜ペースは下降、船団が離脱に動いていたこともあり以降墜ちるものはなかった。
それでも…
「大戦果だ!」
「7隻落とした!俺たちはやれるんだ!」
「奴らも無敵じゃない!」
《…よし、よし!少佐!情報の共有を急いでくれ!》
《既に完了しています……っ!ヨーロッパ戦線で2隻の撃破報告!北米戦線でも複数隻に損傷を与えたようです!》
《本当か!》
この戦果は希望を与えた。然るべきタイミングで情報を受け取った他戦線の兵士たちが結果を残した。これで"転機"は今となり、未来は大きく確実に変わる。
敵が大規模な過去改変を始める前にできるだけ大きな被害を与えて優位を確実としなければ。
《はっ、オセアニアで空軍が大型円盤を撃墜!ドローンの放出中にハッチへ攻撃を加え撃墜に成功したとのことです!現在はドローンを掃討中!》
《我々もやられてばかりではない、今や巻き返しの時だ!奴らにはこれまでの落とし前をつけさせるぞ!》
「空軍もやるじゃないか!」
「見直したぜ!」
「EDF!EDF!」
正味、その点であまりできることは無さそうだけれど。
適切な情報があればEDFは強いのだ。現に
「ギチチチチ!」
「うおっ!まだいやがった!」
「残骸に隠れていたか!」
『ハウィツァーの弾薬が残ってる。俺がやる』
と、まだ生き残っていた侵略生物αがテレポーションシップの残骸から顔を覗かせた。ショルダーハウィツァーの砲弾がちょうど1発残っていたので操縦桿を倒して進み出る。
せっかくいい雰囲気になったところで変に被害を出したくはないし、こういうのは過剰火力で吹き飛ばすくらいで丁度いい。軽く照準してトリガーを引く。
ドゴォン!
しかしコツを掴んだ気になって弾道のクセを忘れていた俺は盛大にスカし、外れた砲弾は
「ギヂィーーーッ!!」
「おお」
飛ぶわ飛ぶわ。爆風で倒しきれなかったときの挙動だ。俺は間の抜けた声を上げてその軌跡を見つめることしかできなかった。やがて上方向のベクトルを使い果たしたアリは落下に転じ、その地点はここ……
『うゎあああ!?』
「危ねえ!」
「落ちてくるぞ!」
咄嗟にバックジャンプをして躱す。寸前を通り過ぎて地面と再会したアリは粉々に砕け散って体液を撒き散らした。幸いにもこのことで負傷者は出なかったが、だいぶ最悪だ。それに結構な量の酸を被ってしまった。
「エイリアンも吹っ飛ばせるのかよ!?」
「おい、装甲が融解してるぞ!」
「…その、制御できんのか」
『はい…』
呆れ声で訊かれて項垂れる。損傷したニクスから降りて致命的な損傷でないのを確認、回収を要請。輸送機ノーブルが愛機を吊り上げるのを横目に歩き出す。帰りは徒歩だ。
道中で戦闘があれば手持ちの銃器で戦うことになる。あるいは──
「輸送チャンネルの使用を躊躇うことはない。無いよりはあったほうがいいだろう」
コンバットフレームの投下を要請することになる。軍曹はこう言ってくれたがアリのフライトを見た後では気が進まない。俺自身がぶつかられて飛んでいくことばかりを恐れていたが、こうして吹き飛ばす側に回って災害を引き起こすこともありうるのだ。
飛ばしたものがマザーシップのハッチに吸い込まれて爆散するならいいが、味方の方に行ってしまったらえらいこっちゃ。
「かまわず戦ってくれ*3」
「…ああ!」
この戦いで3隻を撃墜した
そう志した帰り道、通りがかった街に円盤が襲来。
俺は迷うことなくコンバットフレームを要請した。
コンテナは激しくバウンドした。
EDF6.2が出るそうですね。PC版はまた2年後かな…
感想、誤字報告など本当にありがとうございます