「あ゛〜」
頭と背中が痛い。目が覚めて、目前の暗闇が妙に
ベッドの上で寝入ったはずが気がついたら下にいた、という怪奇現象に思考が硬直しかけるも、すぐにそれが物理の神の仕業だと気がつく。
こういうときのため設置していたルームカメラを確認すると徐々にベッドへ沈み込んでいく自分の姿が映っていた。シュールだ。
「髪にホコリ付いてるぞ」
「取ってくれ」
しかしこのタイミングか。経験則として、こういう事は1度起こればしばらく続く。ハヴォック神がお怒りモードになってしまわれた。
本当に祝福なんじゃないか──とか、そういう発言が気に触れたのかも。思い上がるなと。
「うわぁこっちにも…どうしてまぁこんなに」
「ハヴォック神の怒りかな」
「怒りもあるのか、難儀だな」
同僚は取ったホコリをその辺に放りながら言う。それは地下通路を吹き抜ける生ぬるい風にさらわれどこかへ消えていった。
「そのうち収まるさ。収まってくれなきゃ困る」
「次の瞬間に俺が吹っ飛んだりしないよな?」
「正直分からない。半歩下がってろ」
「了解」
ここまでの流れで俺も学んだ。今まで起きていないということは今後も起きないことの証明にはならないと。ハヴォック物理についてもそうだし、なによりこれからの戦いについて。
正史の今ごろは安全な場所を求めて彷徨い、結局見つけられずに侵略生物と格闘しているはずだったのだ。それが基地に戻って休むことができた。
今後まったく同じ展開になるとは考えにくい。
「それで、B3番倉庫だったよな。軍曹から話があるとか」
「ああ、見えてきた」
人には大きいゲートをくぐればすでに整列した隊員が。出遅れたか。いや違う。
あれは…
「整列!」
EDF標準アーマースーツを身にまとった隊員たちの列。どこかぎこちない動きは在りし日の俺と、入隊当初のそれと同じ。民間人からEDFへと変わってすぐのそれだった。
…そうか、彼らは。
「ひと通りの教練は終えた、お前たちはもはや民間人ではない。人々を護り、この星を守る兵士だ!EDFだ!その意味をよく覚えておけ!」
「「「サー、イエッサー!」」」
「はい」*1
「覚悟はいいか!」
「「「サー、イエッサー!」」」
「問題ない」*2
「覚悟はいいか!」
「「「サー、イエッサー!」」」
「OKだ」*3
基地からここまで、激動のトンボ帰りの中でついに守りきった民間人たち。それが今や同じ立場となった。なってしまった。これは…喜んでいいのかな。
そんな割り切れない気持ちは1人だけ気の抜けた返事をする隊員とその横で裏返った返事をする隊員を見て霧散した。ストーム1と先輩だ。彼らがEDFのアーマースーツで身を飾る姿には感慨深いものがある。
一方は画面越しにその背中ばかり見ていたものを、こうして正面から…おお…
そしてもう一方は…救えなかったものの象徴として救われるはずだった存在。それは早期に救われて、短い旅をして、気が付けばこうだ。なんだか泣けてくる。
救えなかったものを数えるよりも、こうして変えることができたものを数えた方がいい。きっとそうだ。例えこれから失うことになったとしても。
「ん、もう来たのか」
と、教官役をしていた隊員…軍曹がこちらに気づいた。同僚と二人で敬礼をする。
「状況は…見ての通り。みなEDFに志願してくれた。これからは背中を預けあう仲間だ。思うところもあるだろうが…彼らの代表の言葉を借りれば、何もせず隠れるよりも武器を持ち立ち向かったほうが長生きできると思ったと、それで自分たちのような存在も守れるかもしれないと…そういうことだ」
「…それなら、俺達も全力で行く。宜しく頼みます」
「EDFは仲間を見捨てない。ですよね、軍曹」
「ああ。落伍者を出さないためにも…我々が頑張る必要がある。わかっているな」
「はい!」
EDFからしても戦力の補強という面でありがたいことだ。きっとこれはモデルケースとなり各地のベースにて志願者を募ることになるだろう。正史でも行われていた事ではあるが、その時期が早まるかもしれない。
そんな事を考えてぼうっとしていると他の隊員も集まってきて整列、護送した民間人が志願兵となったことをもう一度説明された。みな訓練を受けた兵士のためその場での心情の吐露は少なかったが、少なからず動揺が感じられる。
彼らを家に帰しに行って、危なくなってやっぱり帰り、次から彼らは同僚ねと言われて急展開に驚かない方が難しいだろう。
「異例も異例だ。しかし…全世界が同時攻撃を受けている今、安全な場所があるかと言われて答えられる者はいない。自ら武器を取って戦うのが最も安全だというのが彼らの出した答えだ」
三々五々に持ち場へ戻っていく隊員たち、新たな家となる宿舎へ通される新隊員たちを見送りながら軍曹が言う。実際問題その通りだ。銃後に降下され、坑道で突破され、じきに地球上に安全な場所はなくなる。
とはいえ侵攻は初期も初期。まだ戦線を制定できてひとまず安全な場所が存在
「彼らにはすぐに任務が与えられることはないだろうが、働き始めたところで我々の仕事が減るわけでもない。この未曽有の攻撃を少しでも早く終わらせるため…当分休みはないぞ」
「そのつもりです…あぁ、すみません、俺のコンバットフレームはもうA32番に?」
「いや、地下1階の即応格納庫にある。この状況だからな」
ひとまず無事だったというコンバットフレーム、その身柄は表層付近の即応格納庫へ。その報せを喜びたいところであるが
「それと、渡したいものがある」
「これは…無線機?」
「前に話したビークルの件だ。まだ個別に指定できるほどの権限はないが、余っているビークルがあれば融通できるはずだ。基地司令はお前の防衛戦での働きを高く評価している。今後はコンバットフレームパイロットとして動かすつもりのようだぞ」
受け取ったのは高出力無線機、ゲーム内でエアレイダーが爆撃範囲を指定する際に使っていたデバイス。通信バックパックの中継を挟まないぶんその用途と通信範囲は狭く、あくまで作戦地域内で展開可能なビークルを寄越して貰える程度らしい。
とはいえコンバットフレームを失った場合の保険にはなるし、他にもビークルの使える隊員…軍曹やストーム1のために投下を要請できるかもしれない。
「ありがとうございます!」
「礼には及ばない。次の作戦で活躍してくれよ。俺は輸送チャンネルの拡大について引き続き交渉してみるつもりだ」
「善処します」
あるだけで嬉しい増加装甲、そのおかわり権が手に入ってしまった。愛機の損失リスクを考えていたところへの一報で飛び上がらんほどに嬉しい。これで物理の暴走が起こっても安心して降りることができる。
228基地の管轄内ならば有り余っているコンバットフレームを好きなだけ投下してもらえることだろう。
うむ、投下。
「………」
「どうした?プレッシャーか?」
いや、ハヴォックだ。茶化してくる同僚にそう告げると彼は真顔になり半歩下がった。
ビークルを要請するとそれはコンテナに搭載されるか直接懸下されてVTOL式輸送機ノーブルにより戦場に届けられる。そして投下される。それが地面に触れたときにどうなるか。
エアレイダーの訓練を見て1連の流れがゲームのそれとほとんど同じように進行するのを知っているし、ビークルを要請する以上その瞬間が訪れるのは避けられない。
はじめ飛び上がらんほどに嬉しかったが、事によってはビークルが飛び上がらんとすることに気づいてゲンナリしてしまった。なるべく輸送部隊のお世話にならないよう、愛機を大切にする他ない。あくまで保険だ。
道路の段差とか地面に埋まってる岩とかのオブジェクトには近寄らないようにしよう。
「それでも…なるときはなるんだろ?」
「……………」
そう、全ては悪あがきでしかない。
結局どうなるかは俺の周辺の物理を司る神の一存で決まる。
「…せめて」
「何?」
「せめて祈っておいてくれ」
「……ああ」
だから本当のところはそう、祈るしかないのだ。
あゝハヴォックよ、静まりたまへ…
お久しぶりです。
プロット決まってるのに筆が進まない。