※この作品すべてが「チェンソーマン」と「ドンキーコング・バナンザ」の特大ネタバレになります!!

チェンソーマンの世界に原作履修済みキングクルールをドーン!
マキマ「このゲームはクリアできません」

見切り発車。続かない。

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この話には「チェンソーマン」「ドンキーコング・バナンザ」のネタバレを含みます。




愛する者のために大敵に立ち向かうその豪胆、気に入ったぞ

 

 首のピンに指をかけたタイミングで、マキマが自分の背後に目を向けて固まっていることにレゼは気づいた。

 レゼは、目の前にいる魔女がここまで緊迫していることに驚いた。

 二人ともピンに刺されたように動けなかった。ぼこぼこと不吉に湧き立つ吐き気がしそうな果実の臭いと、それに伴う巨大な殺気に全身から汗が噴き出した。

 凍り付いた二人のすぐそばで、ヘドロのようなドロドロに溶けた果実が熱気を放ちながら流動し、まばゆいばかりの黄金の長髪へ、金の意匠を施した漆黒のスーツへ、ギラギラ輝く赤い目へ成っていく。

 

──地面が揺れた。

 

 足音だとわかるまで数秒かかって、その間に女はレゼのすぐ横を通り抜けていた。

 

 思わず目で追う。

 

 大きい。それがまず最初にレゼが感じた印象だった。とにかく大きい。二(メートル)はあるのではないか。

 手足はレゼの腕を三本重ねても足りないほど太く、それでいて長い。腰はひょうたんのようにくびれていながらどっしりとしていて、ぴっちりとしたスーツは女性の魔性を煮詰めたような極上の美を匂い立たせている。顔は見えないが、間違いなくこの世のものとは思えない美しさなんだと直感でわかった。

 レゼが例え悪魔化しても蹴り一発で粉々にしそうな威圧感を誇る金髪の女は、レゼの細い肩に手をかけながら、彼女を庇うようにマキマの前に立ちふさがる。

 

「久しいな。オレ様がしばらく見ないうちにずいぶんデカくなったではないか、マキマ?」

「……何の用ですか、腐敗の悪魔」

 

 上っ面の優しい声をかなぐり捨てた言葉を耳にしたその瞬間、レゼはどさくさに紛れて逃げるという選択肢を捨てた。代わりに終わったと思った。

 マキマが唯一敵わないと言われた、だがどんなデビルハンターも契約に失敗し殺された悪魔が、目の前にいるのだから。

 

「ン~? いや単にな、地獄を離れたキサマが何をやっているのか気になってなァ」

「よく言いますね」

「それにしても面白いことをしているではないか! 回りくどいお前がわざわざツラを見せてきたと思ったらこんな小娘を弄びに来たのか。しつけのなっとらん犬のほうがまだ行儀がいいぞ」

「……」

「それともえげつないお前のことだ、最近囲い込んだ野良犬のためにこんなくだらんお膳立てをしているのか?」

 

 返事はマキマの指から放たれた衝撃波だった。

 人体などたやすく撃ち抜く破壊の波は、しかしレゼを吹き飛ばして転がすだけで、肝心の女には小馬鹿にしたように首を傾げるだけでそよ風か何かのように無効化された。

 咳き込みながら、自分の見ている光景がおよそ信じられないとレゼは感じた。

 あのマキマが、敵も味方も意のままに操る魔女が、手も足も出ず黙るしかないこの光景が異様で、それこそ悪夢のように思えてならなかったのだ。

 

 それもそうだろう。

 マキマの『支配』は、()()()()()()()()()()()()()()()()()にしか使えないのだから。

 少なくともマキマは、潰れてしまいそうな威圧感を放つ眼前の悪魔を『自分が操れる程度の』だなんて思えはしなかった。

 

 そして、精神的に負けているマキマには手駒の能力(奥の手)を切るタイミングが読めない。

 それがただ一人(チェンソーマン)の為に長年をかけて準備した手札を無為に使いつくすことを意味するのだから。

 なにより苦し紛れをしても、この悪魔は小細工など赤子の手を捻るように無力化するのだと骨の髄まで知っているために──

 

 強張った表情で次の手を考えあぐねているマキマを女はつまらなさそうに見ていたが、フンと鼻を鳴らすと肩をすくめた。

 

「今は手を引け、マキマ。オレ様はキサマをいじめに来たわけではない」

「!」

「なに、オレ様も就職活動中でな。知古のキサマがおままごとをやっていると聞いてわざわざやってきたのだ。キサマのお遊びに()()()()()()()()ではないか?」

「……、何か思惑があるのでしょう? あなたに限ってそんな美味しい話を」

「戯け! せっかくの好意を無駄にするでないわ」

 

 地獄のヒーロー。その言葉に、マキマは本当に頭の中が真っ白になる経験をした。

 

「……どこで、それを」

「おや、オレ様は“地獄のヒーロー”と言っただけだぞ? ……クククク!その顔! キサマにもそんな趣味があったとは。青臭くてなかなか愛いではないか。もう少し熟れていれば頭から食ってやってもよかったがなァ」

 

 支配というあらゆる生き物が平等に勝てない存在を前に不遜な笑みを浮かべ、しかしすぐにそれを消して女は続ける。

 

「キサマも奴を追ってるのだろう。そういうことならオレ様も一口乗ってやるぞ。あの忌々しい悪魔にはずいぶん煮え湯を飲まされてきたからな」

「条件は」

「逆に聞くが、キサマがオレ様を満足させるものを準備できるとでも?」

 

 どこまでもマキマという存在を馬鹿にした態度の彼女を、支配の悪魔は睨んでいるように見えた。

 

「後悔しても知りませんよ」

「面白いジョークだ、欠片とも笑えんところを除けばな」

 

 ねずみに包まれて姿を消していくマキマを呆然と見ていたレゼに、女は屈みこんだ。

 おもむろにポケットから大判のハンカチを取り出し、擦りむいた膝に巻き付ける。

 

「レゼとか言ったな、歩けるか?」

「……は、い」

「あのカフェ…『二道』と言ったか。喫茶店なら消毒薬ていど常備しているだろう。マキマの奇襲に遭っても面白くないのでな、連れて行くぞ」

「えと、あの、」

 

 何か聞かなければいけないとレゼは考えた。

 恐らく彼女はレゼが何者なのか見抜いている。何を思惑に自分を救ったのか。交換条件に何を求めるのか。返答次第では変身して彼女を倒すか、情報を渡さないように自害するかしないといけない。

 

「あの、名前…… 聞いてもいいですか?」

 

 だが口から出たのは、そんな子どものような質問だった。

 あん、と女は首をひねり、豊かな胸を張って誇らしく宣言した。

 

「オレ様の名は“腐敗の悪魔”キングクルール。……この世界の王になる女だ」




Q.なんでこんなクルール強化されてるの?
A.支配は腐敗に勝てないから

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