怪獣8号 〜 舞え 灰被り 〜   作:あめんぼユカイ

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第2話 邂逅と戦闘

 

右手に形をとった光が、ゆっくりと剣の形を戻していた。

月の光を受けたそれは、かつての“正宗”によく似ている。

だが、どこか違う。

鋼ではなく、この星の空気そのものを凝縮したような質感だった。

 

「……俺のものではない、か」

 

それでも、手の内に収まる感覚は懐かしい。

剣があれば、戦場の言葉は通じる。

 

風が鳴った。

葉がざわめき、夜が息を吹き返す。

その中で、地の底から唸りが広がる。

 

咆哮が森を割いた。

音が厚くなり、空気が波打つ。

木々の枝葉が一斉に吹き飛び、灰が風に舞う。

 

セフィロスは顔を上げた。

霧の向こうに、巨大な影。

山のような体躯、いくつもの突起、脈打つ熱。

全身が黒鉄の装甲で覆われ、内部から赤い光が滲み出ていた。

 

「……これが、この星の“怪獣”か」

 

声は低く、観察の温度を保ったまま。

戦場に立ちながらも、興味が勝っていた。

 

一歩。

足裏が湿った土を踏む。

重さ。

この星の重力は、わずかに軽い。

その差が、斬撃の戻りに影響する。

 

もう一歩。

呼吸を整えながら、空気の流れを測る。

酸素濃度が違う。

呼吸の共鳴が浅い――酸素が薄いのか。

肺が慣れるまでに、二、三度の戦闘は必要だろう。

 

怪獣が吠えた。

咆哮が鼓膜を焼く。

空気が引き裂かれる音。

その瞬間、森が“生物の反応”として揺れた。

 

「なるほど……環境そのものが、兵器のようだな」

 

セフィロスは剣を上げる。

銀の刃が夜を映す。

その姿は、人間というより儀式のようだった。

 

怪獣が地を蹴る。

大地が鳴動する。

突風が、音よりも先に襲う。

 

セフィロスは半歩ずらした。

空気の層を読むように滑る。

衝撃が脇を抜け、背後の木々を粉砕した。

破片が飛び散り、頬を掠める。

 

一撃。

観測。

それで十分だった。

 

「動きは重いが、軌道の精度がある」

 

独り言のように呟き、姿勢を変える。

剣の角度を五度下げる。

その位置で、重心が一気に安定した。

 

『焦るな、セフィロス。敵はお前の呼吸より速くは動けない』

 

――記憶の声が、脳裏をかすめた。

音ではなく、響きのような残響。

懐かしく、温かい。

 

セフィロスは瞼を閉じ、再び開いた。

瞳に迷いはなかった。

 

怪獣が再び突進してくる。

速い。

土が爆ぜ、木が裂ける。

その圧だけで肺が軋む。

 

セフィロスは動かない。

次の瞬間、地を蹴る。

 

銀の閃光が夜を裂いた。

音が追いつく前に、衝突が起こる。

刃が、巨体の左腕を断ち切った。

 

赤い体液が飛散し、地を焼く。

鉄の匂いが夜気を満たす。

 

怪獣がのたうつ。

咆哮。

鼓膜が震え、血管が熱くなる。

 

セフィロスは無言のまま構えを解かない。

目で、観察する。

筋肉繊維の動き、切断面の再生速度、

体液の発光強度――すべてを見ていた。

 

「再生能力……想像以上か」

 

彼の声は冷たかった。

だが、興奮でもある。

未知を前にした“兵士の本能”が静かに燃えていた。

 

再生が始まる。

裂けた肉が蠢き、泡を立てながら結合していく。

その様子を、彼はまるで研究者のように見つめていた。

 

「この星は、進化を速めすぎている」

 

吐息のように零す。

その言葉は、誰にも届かない。

ただ、夜がそれを呑みこんだ。

 

怪獣の修復が終わる。

次の攻撃の予兆が空気を満たす。

熱が上がり、風が変わる。

 

セフィロスはわずかに足を開いた。

呼吸を合わせる。

風の流れを感じ、

地面に伝わる震動を脈拍として数える。

 

「……次は、こちらからいこう」

 

そう呟いた時、月が雲の切れ間から顔を出した。

銀の光が刃を照らす。

彼の影が、怪獣の影と重なった。

 

夜が、息を潜め、風は止まる。

虫の音も消え、森のすべてが息を潜めた。

世界が、彼らの戦いを見つめているようだった。

 

セフィロスは剣を軽く傾ける。

刃先に映る月が、細く揺れる。

その刃に、血はない。

一太刀ごとに風が洗い流していく。

 

「……この世界の“命”は、速いな」

 

独白のように呟く。

怪獣が咆哮を上げた。

声は怒りではなく、本能そのもの。

己を脅かす存在に対する、純粋な恐怖の音だった。

 

セフィロスは眉をわずかに動かした。

そこに“意志”を感じたからだ。

 

「お前にも……守りたいものがあるのか」

 

その問いが空気に溶けると同時に、怪獣が動いた。

突進。

大地をえぐる一歩ごとに、風圧が爆ぜる。

破片が舞い、世界がぶつかる音がした。

 

セフィロスは剣を構えた。

腰をわずかに落とし、足先で風を測る。

呼吸を止める。

すべての動きを、世界と合わせる。

 

――音が消えた。

 

月光だけが残る。

灰が宙に漂い、時間が止まったように見えた。

その中で、セフィロスだけが動いていた。

 

一歩。

その一歩が、世界を裂く。

重力が遅れる。

空気が音を取り戻す前に、剣が閃いた。

 

銀の弧が、闇を貫いた。

怪獣の胸郭を真横に裂き、内部の熱が外気に触れて爆ぜた。

白い光が迸る。

夜が昼に変わる一瞬。

 

衝撃が遅れて森を襲った。

木々が弾け、血が雨のように降る。

 

セフィロスはその中心で立っていた。

剣を納める。

刃先についた黒い滴が、地に落ちる音がした。

 

怪獣は二歩ほど進んで、崩れた。

赤い光が弱まり、やがて消える。

 

静寂。

風が戻る。

 

セフィロスは振り返らない。

ただ、遠くを見ていた。

 

「……この世界は、まだ戦いを覚えている」

 

声が淡く響く。

その響きに、悲しみも怒りもなかった。

ただ、理解だけがあった。

 

空を仰ぐ。

雲の隙間から、月が覗く。

光が彼の髪を白銀に照らした。

 

ーー 英雄とは、勝つ者ではなく、歩き続ける者だ。

 

記憶の底の声が、微かに蘇る。

その言葉を胸に、セフィロスは森を抜けた。

 

剣を携え、風の向こうへ。

足跡の上に、灰がゆっくりと降り積もっていく。

 

夜が、また静かになった

 

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