モモイ「先生!来たよ!」
ミドリ「失礼します」
先生「やあ、二人ともいらっしゃい」
シャーレの執務室で書類整理をしていると二人の生徒が訪ねてきた。ミレニアムサイエンススクール1年生の才羽モモイと双子の妹、ミドリだ。
先生「今日は当番よろしくね」
ミドリ「はい、よろしくお願いします」
先生「モモイは途中で帰るんだっけ?」
モモイ「ちょっと用事があってね、夜には帰れるんだけど」
ミドリ「用事って……お姉ちゃん、ゲームのイベントでしょ?」
モモイ「ありゃ、バレてたか」
先生「てことはどこか行くの?」
モモイ「うん! 春秋葉原でポ◯モンのイベントがあって入場者特典で色違いのジガ◯デがもらえるんだって!」
先生「ミドリはいかなくてもいいの?」
ミドリ「私まで当番の仕事を放り出すわけにはいかないので」
ミドリ(それに、先生と居たいですし……)
先生「気にしなくても行ってきていいよ」
ミドリ「いえ、平気です。そこまで熱のあるゲームじゃないので」
軽く会話を交わした後で仕事に入る。
ミドリ「今日は何をすればいいですか?」
先生「そうだな……じゃあ二人でそこの棚の中身を整理してくれる?」
モモイ「わかった!」
二人に仕事を割り振って自分の席に戻る。しばらく書類とにらめっこしていると……
モモイ「終わったよー」
先生「え、はや」
ミドリ「次は何をすればいいですか?」
先生「うーん……どうしよっかな……」
モモイ・ミドリ「「?」」
先生「いや、実は今日これ以外に仕事がなくて」
自分の前に積まれた書類たちを指差す。
先生「こんなに早くあのぐちゃぐちゃの棚が片付くと思ってなかった」
先生「先に休憩室へ行っててもらえる? 私もこれを終わらせた後で行くから」
モモイ「わかった! 行こう、ミドリ」
ミドリ「あ、うん」
モモイ「なにしよっか、久しぶりにあれもいいしこれも……」
二人の話し声が少しづつ小さくなっていくのを見送り、机の上の書類に再度視線を落とす。
*********
四十分程して書類整理が終わった。
先生「ふぅ……さて、と」
席を立ち休憩室へ歩を進め、三回ノックして部屋に入る。
先生「お邪魔します」
モモイ「あ、先生来た!」
先生「何してたの?」
ミドリ「今はぽよぽよテトニスで対戦してました」
先生「お、そのゲーム最近練習してるんだよね」
モモイ「じゃあこのまま三人対戦に切り替えよっか」
ミドリ「先生、どうぞ」
コントローラーを受け取って3Pに登録する。あぐらをかいて地べたに座ると上にモモイが座ってきた。
ミドリ「お姉ちゃんなんで先生の上に座ってるの!? うらやま……じゃなくて、先生困っちゃうよ」
モモイ「ええ〜、別に困らないよね? 先生」
下から同意を求める声が上がる。
先生「平気だよ。ただ、頭で顎を攻撃するのはやめてね。痛いから」
モモイ「うっ……き、気をつけるよ」
前にゲーム開発部の部室でゲームをした時もモモイは私の上に座っていて、彼女が動いた拍子に顎が破壊されたことがある。あれは痛かった……
*********
部屋で三人、画面に集中して手元のコントローラーを動かす。カチャカチャとコントローラーを操作する小気味よい音とゲームの効果音だけが部屋に響く。
ミドリ「……」
ミドリ(お姉ちゃん、なんだか先生と距離が近い。それに先生あんなに楽しそうにしてる)
先生とお姉ちゃんが話しているのを横目に見ていると胸がモヤモヤしてくる。私のほうが先生のこと、好きなのに。
ミドリ(あれぐらい近くにいたほうが先生にはいいのかな……)
ミドリ「あっ……」
いけない。先生とお姉ちゃんのことを見ていたら操作を誤ってしまった。急いで修正しないと。そんな中でもまだ胸のモヤモヤは晴れない。
ミドリ(そうだ、お姉ちゃんが帰った後で少し先生を困らせてみようかな)
いつもと違った雰囲気で私のことを意識せざるを得ない状況を作ってみようか。もっと強く押せば先生ドキドキしてくれるかな。驚き、戸惑っている先生を想像すると胸が熱くなる。なんてそんなことを考えていたら、自然と笑みがこぼれた。
モモイ「お? ミドリ、余裕そうだね。これでどうだ!」
ミドリ「それくらい……!!」
先生「やば!! まって、ああ……」
私は相殺できたけど自信満々だったはずの先生は相殺が間に合わず一気に積み上がってゲームオーバーになってしまった。その後のお姉ちゃんと私の一対一は私の勝ちで幕を閉じた。
モモイ「最後のあれなんなの!? あんなのどうやって対処するのさ!?」
先生「あとちょっとだったんだけどね」
モモイ「うう〜、悔しい〜!」
先生「あいた!」 モモイ「あ、ごめ」
先生がお姉ちゃんの頭に顎を直撃され後ろに仰け反った。ただお姉ちゃんも驚いた顔をしているのでわざとではないようだ。さすがにわざとやるとは思わないが。
ミドリ「先生!? 大丈夫ですか!?」
先生「う、うん。大丈夫」
いてて、と顎をさすりながら薄く涙を浮かべて先生が言う。
*********
三人でリ◯レウスとリオ◯イアを倒したところでモモイが時計を確認して立ち上がった。
モモイ「あ、時間だ。じゃあそろそろ行くね」
先生「気をつけてね。いってらっしゃい」
「うん!」と元気な返事を残して部屋を去ろうとするが……
先生「あ、待って、その扉は内開き……」
モモイ「あだっ!」
私の制止を聞かず飛び出そうとしたモモイが扉を開きそこねて激突した。
ミドリ「もう、お姉ちゃん……」
先生「気をつけて……、怪我はない?」
モモイ「へーきへーき! じゃあね〜」
ミドリ「落ち着きないんだから……」
先生「ははは、それがいいところでもあるんだけどね……」
モモイを見送ったあとで散らかしたゲーム機を二人で片付け、部屋を出る。
*********
ミドリ「……先生、楽しそうでしたね」
執務室に戻るとミドリが口を開いた。
先生「? やっぱり大人になってもゲームはいいね。楽しかった」
ミドリ「そうじゃなくて、お姉ちゃんと話すの楽しそうだったなーって」
ミドリは、笑っている。でも雰囲気が笑っていない。
先生「ど、どうしたの?」
先生(少し怖い……)
ミドリ「どうもしませんよ?」
ミドリ「いえ、やっぱり嘘ですね」
ミドリがゆっくり近づいてくる。一歩一歩、確かめるように。何かを試すみたいに。
先生「あの……ミドリ、さん?」
ミドリ「先生、私を見てください」
先生「ちょ、ミドリ……? ち、近いよ。ちょっとほんとにどうしたの?」
ミドリの圧に押され、彼女が一歩踏み出すのに合わせて私も一歩、また一歩と後ずさる。背中が壁に押される感触があった。
先生(に、逃げられない……)
ミドリ「……目を、逸らさないでください。先生」
互いの息遣いがわかりそうなほどの距離、彼女の潤んだ瞳にじっと見つめられながら絞り出すように言われ、息が詰まる。動悸が激しい、早鐘のようにうるさく心音が響く。
そっと、ミドリの指が私の胸に触れた。私よりも幾分背が低いミドリは私を見上げる形で問うてくる。
ミドリ「先生は私のことをどう思っていますか?」
先生「どうって……もちろん、大切な生徒だよ」
焦りと戸惑いの中で必死に吐き出した言葉は彼女に歓迎されるものではなかった。
ミドリ「私が言いたいのはそうじゃなくて、生徒としての"才羽ミドリ"ではなく私個人、ただ一人の女の子としての"ミドリ"のことをどう思いますか?」
先生「いや、それは……」
ミドリ「……お姉ちゃんのことが好きですか?」
ミドリ「別に構いませんよ。確かにお姉ちゃんは妹の私から見ても素敵な人だなって、思いますから」
ミドリ「……だから先生? 先生がお姉ちゃんを好きになっても仕方がないです」
すこし呆れたような、諦めかけたような顔をしている。だが、言葉を並べ立てながらも視線を逸らすことなくただ私を見つめ続けてくる。目をそらしたくても逸らせない。呼吸が浅くなり手が少し汗ばんできた。
私は何も言えないまま、自分の心臓の音だけを聞きいて、ただ次の言葉を待つ。
ミドリが少し背伸びをして私との距離をさらに縮め、熱を帯びた表情で見つめてくる。頬に、吐息がかかる。
ミドリ「……先生にはお姉ちゃんよりも私を好きになってもらいますから」
ボソッと、囁くように言われた。顔が熱くなる。反射で顔を背けた。
先生(――!?!? ダメだ相手は生徒、これは絶対ダメだ。深呼吸だ、深呼吸……落ち着け、私。私は何だ? 先生だ。教師なら抑えろ気持ちを落ち着けて……)
焦り、戸惑い、心臓の鼓動がうるさく響き、思考が白熱する。頭の中がぐちゃぐちゃに散乱していてもう何がなんだかわからない。
――ブゥー。
私の思考を現実に引き戻すように突然、机の上で携帯がなった。
ミドリ「……お姉ちゃん?」
怪訝そうな顔をしてミドリが電話を取る。
モモイ『あ、ミドリ? 遅いけどまだ帰ってこないの? 何かあった?』
ミドリ「え? あ、ホントだ」
ミドリが部屋の掛け時計を見上げて呟いた。つられて私も見上げると気づかぬ間に7:30をまわっていたようだ。
ミドリ「ちょっと先生と長くお話ししすぎちゃった。もう帰るから大丈夫」
モモイ『そっか、ならよかった。ご飯作って待ってるからゆっくり帰っておいでね』
ミドリ「うん。わかった」
ミドリが携帯をおいたのを見計らって声を掛ける。
先生「帰るの?」
ミドリ「はい。結構いい時間になっちゃいましたしお姉ちゃんも待ってるみたいなので」
先生「そっか。外は暗いから気をつけて」
ミドリ「では、失礼します」
帰り支度を済ませてミドリが出ていく。その背中を見送りながら先程の会話を思いだす。すると突然ミドリが振り返って……
ミドリ「あ、先生。さっきの話ですけど――」
先生「……」
ミドリは見たことないくらい飛び切りに眩しい笑顔を見せて
ミドリ「ふふっ、そんな顔しなくても。絶対、私のことを好きになってもらいますからね」
今度こそミドリが部屋から出ていく。その背中が見えなくなるまで私は目をそらすことができなかった。
*********
先生「はあ……」
先生(つ、疲れた……)
緊張から解放されたからか一気に疲れが押し寄せてきた。シッテムの箱を手に取り起動する。
先生「アロナ、いる……?」
プラナ『アロナ先輩なら寝てますよ。起こしますか?』
先生「プラナ? いや、いいよ。大丈夫。ちょっと休みたいから30分後に起こしてくれる?」
プラナ『わかりました。30分後にアラームを設定します。おやすみなさい、先生』
先生「んぅ……」
シッテムの箱を置いき、ドサッと音を立ててベッドに倒れ込む。目を閉じるとさっきの熱を帯びたような、それでいてどこか必死なような彼女の顔が浮かんでくる。鼓動はまだ落ち着かない。
先生(教師として、「すでに貴方のことが好きです」なんて生徒に言えるわけないもんな……)
そうこうしている間に気づけば私は意識を手放していた――。
〜fin〜
初めてハーメルンに載せるのと小説執筆自体初心者だから文章力は許して。普段はpixivに載せてるし過去投稿も見てみてくれ。そんなに時間は取らせないから