V・チューバー宮が配信するアマス   作:・V・

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Vesper

世界会議の開幕を控えたパンゲア城の社交の広間には、各国の王族が集い、華やかな笑い声が響き渡っていた。

 

「それでそのカバが自爆する前になんと言ったと思う?

 

『人はいつ死ぬと思う……?人に忘れられたときさ……!!!』

 

……だってさ!まっはっはっはっは!!!」

 

ひときわ下品な笑い声。ドラム王国のワポル王だ。

 

「相変わらずですね、ワポル王」

 

凛とした声。

 

「げぇっ!ビビ王女!!?」

 

アラバスタ王国の王女、ネフェルタリ・ビビが、ワポルを睨みつけている。

 

ワポルが後ずさるのを見て、ビビの父であるコブラ王が誇らしげに頷く。

 

広間の一角では、ジェルマ王国のヴィンスモーク・ジャッジが、平和すぎる雰囲気に苛立たしげに腕を組んでいる。

 

王たちの間を、世界経済新聞社長モルガンズが忙しげに回り、取材を続けている。

 

そして、噴水の傍らでは——

 

ドレスローザ国王ドフラミンゴが、神の騎士団の一人、ソマーズ聖と、何やら密やかに言葉を交わしている。

 

誰もが、それぞれの思惑を胸に、この世界会議に臨んでいた。

 

そして——

 

壇上に、スポットライトが当たった。

 

「皆様、ごきげんようアマス!」

 

そこに立つのは、イーザンバロン・V・チューバー宮。

 

完璧な笑顔。完璧な仕草。

 

世界が熱狂する、神の配信者。

 

「本日は、世界会議の開幕を記念して、特別配信をお届けするアマス!」

 

配信電伝虫が、その姿を世界中に映し出す。

 

チューバー宮は、台本通りに、世界政府を賛美する言葉を紡ぎ始める。

 

平和の象徴として。希望の象徴として。

 

その声が、世界に響き渡る。

 

だが——

 

========================================

 

——マリージョアの地下。

 

革命軍モーリー——オシオシの実で地中を自在に泳ぐ巨人——が作った秘密の空間。

 

聖地の真下。イム様でも、ここなら消し飛ばせまい。

 

私は、配信電伝虫の前で息を整えていた。

 

世界各地で、革命軍が息を潜めて待っている。この配信の終わりを合図に、一斉に動き出すために。

 

「……ヴィヴァ」

 

小さく、呟く。生きる。万歳。イワンコフが教えてくれた、私の道。

 

壇上のチューバー宮——いや、私に化けたボン・クレーが、演説を続けている。

 

あと少し。あと少しで、合図が来る。

 

——今!

 

ゲルニカからの合図。

 

私は、ベガパンクから託された電伝虫を起動させた。

 

その瞬間、世界中の全ての映像電伝虫が、強制的にこちらの映像に切り替わる。

 

検閲も、遅延も、録画も存在しない。

 

たった一度きりの、真実の生配信。

 

私はカメラに向かい、微笑んだ。

 

「V・チューバー宮が配信するアマス」

 

========================================

 

その瞬間——

 

全ての映像電伝虫が、一斉に切り替わった。

 

『な、なんだ!?』

『配信が……ジャックされた!?』

『チューバー宮が二人!?』

『なんだかわからんが、すごいパフォーマンスだな!!』

『ビッグ・ニュースの予感がするぜ!』

 

ざわめきが広がる。

 

ビビは、息を呑んだ。

 

そこに映るチューバー宮の表情は、いつもの完璧な笑顔とは違う。

 

本気の、覚悟の顔だった。

 

「では、壇上のチューバー宮は何者だ!?」

 

誰かが叫ぶ。

 

ソマーズ聖が、混乱する王たちをかき分けて壇上へと向かう。

 

しかし——

 

そこには、もう誰もいなかった。

 

「チューバーちゃん!?」

 

ビビの声が響く。

 

「チューバーちゃん……!」

 

ボン・クレーは、誰にも聞こえない声で一人呟くと、マネマネの実の変装を解き、華麗なステップで混乱の中を駆け抜ける。

 

「やり遂げなさいよ……!」

 

彼の役目は、終わった。あとは、友の想いを信じるだけ。

 

だが——

 

その逃走の最中、ほんの一瞬。

 

誰にも気づかれぬように、一本の糸が、ボン・クレーの懐に伸びた。

 

ドフラミンゴは、指先で手繰り寄せた小さな紙片を確認すると、口の端を歪めて笑った。

 

========================================

 

「『空白の100年』。神を名乗る天竜人が、世界から消し去った歴史」

 

私は、語る。オハラの学者たちが命をかけて守ろうとした真実を。ベガパンクが密かに研究してきた禁断の知識を。

 

「天竜人は奴隷を虐げ、歴史を消し、世界を支配してきた」

 

世界が、息を呑むのが分かった。

 

「でも……この私は……」

 

声が、わずかに震える。

 

「天竜人の父と、奴隷の母の間に生まれた——希望」

 

両親は、私を愛してくれていたのだと、今ならわかる。

 

画面の向こうで、誰もが固唾を飲んで見守っている。

 

マリージョアの社交の広間すらも静寂に包まれた。

 

私は、深く息を吸う。

 

「母から受け継いだ、私の本当の名前は……」

 

長い沈黙。電伝虫の瞳だけが、私をじっと見つめている。

 

「ヴェスパー・チューバー」

 

その名を、初めて世界に告げる。母が残してくれた、たった一つの遺産。

 

世界が、息を止めた。

 

「Vは、ヴェスパー」

 

私は、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

「宵の明星、夕暮れを告げ、夜をもたらす者」

 

私は、カメラに向かって、静かに微笑んだ。

 

「それでも、夜の後には、必ず夜明けが来る」

 

私は、世界中に呼びかける。

 

息を吸う。最後の言葉を、紡ごうとする。

 

「Dは、Dの意志は——」

 

その瞬間だった。

 

目の前の配信電伝虫が、糸に切り裂かれた。

 

配信が、途切れる。

 

「そこまでだ」

 

背後から、声がした。

 

振り返った先に立っていたのは、ドフラミンゴと小さな少女。そして、その背後に立つソマーズ聖。

 

「……どうやって」

 

ドフラミンゴは、楽しそうに笑いながら、一枚のビブルカードを指先で弾く。

 

言葉は不要だった。

 

ドフラミンゴの隣に立つ少女が一歩、前に出る。

 

ああ、そうか。これが、私の——

 

========================================

 

そして世界から、一人の少女が消えた。

 

「すごいおもちゃの宣伝だったな!まっはっはっは!!」

 

ワポルは、腹を抱えて笑っていた。

 

「じゃあこの手紙は、誰から……?」

 

ビビは、手紙を握りしめて涙を流していた。

 

差出人のない、一通の手紙。読めば読むほど、胸が締め付けられる。

 

「でも、どうして……私、誰のことを……」

 

涙だけが、止まらなかった。

 

「あちし、ずっと変身していた。でも……誰に?」

 

ボン・クレーは、鏡を見つめた。

 

鏡の中から、知らない少女が笑い返す。

 

マネマネの実で誰かに化けていた。

 

大切な誰か。

 

顔はわかる。なのに名前が思い出せない。

 

「一生、忘れない……」

 

頬を、涙が伝った。

 

そして——

 

マリージョアの地下に一つの声が響く。

 

「命令するわ」

 

ホビホビの実の能力者、シュガー。

 

触れたものをおもちゃにし、世界中からその人物に関する記憶を消し去る、悪魔の能力。

 

床に転がったのは、可憐な少女の姿をした人形。

 

金色の髪、碧い瞳、繊細な指先、どこか儚げな表情。

 

絶対服従の命令を発するために、シュガーが手を伸ばそうとした、その時。

 

「——させるか」

 

影が動いた。

 

「CP0!?何を——」

 

ドフラミンゴが糸を放つ。

 

だが、男はそれをかわし、人形を抱えて地下の奥へと走り去った。

 

「……まぁいい。なんだか知らんが、あんな人形が欲しいとはな」

 

ドフラミンゴは舌打ちした。

 

妙な苛立ちが胸を過ぎる。なぜかはわからない。だが彼は、追うことはしなかった。

 

そして、無意識のうちに手の中の小さな紙片を床に落とす。

 

床に落ちたビブルカードが、風のない地下で——ぴくりと動いた。

 

========================================

 

ゲルニカは、理由も分からぬまま、ただ本能に従って走り続けた。

 

腕の中の人形が、何なのかも分からない。

 

それでも、守らなければならない——そんな衝動だけが、彼を突き動かしていた。

 

「……何をしている」

 

そこにいたのは、ナス寿郎だった。

 

「わかりません。ですが……」

 

ゲルニカは、人形を抱きしめた。

 

「これが自分の正義だと……そう、感じるのです」

 

ナス寿郎は、長い沈黙の後、静かに告げた。

 

「……行け」

 

「しかし——」

 

「行け、と言っている」

 

ナス寿郎は背を向けた。

 

その背中が、わずかに震えていた。

 

その時、人形の小さな手が、ゲルニカの手を——ほんの少しだけ、でも確かに、握り返した。

 

ゲルニカは深く頭を下げると、闇の中へと消えた。

 

そして——。

 

後には、配信電伝虫だけが、静かに残されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

========================================

 

とある島の海岸で、一人の少女が波打ち際に打ち上げられた電伝虫を見つける。

 

「これ……」

 

少女が触れると、それは突然、ノイズ混じりの映像を映し出し始めた。

 

——白亜の城で笑顔を見せる少女。

 

——海の上。帆船の甲板で、少女が潮風に髪をなびかせながら、遠くの島を指差す。

 

——研究所の前で、白衣の老人と少女が並んで立つ。

 

——砂漠にかかる、大きな虹。少女と同い年くらいの青い髪の女の子が、手を振っている。

 

——色鮮やかな街並み。ドレスの女性が、優しく微笑む。

 

——巨大な電伝虫の船。ピンクの髪の少女が、そっと肩を抱く。

 

——ゴミ山の夕日に向かって、麦わら帽子の少年が両手を広げて笑っている。

 

「……!」

 

映像は続く。

 

——海上レストランの賑わい。

 

——造船所、職人たちの活気ある声。

 

——海軍本部の威容。

 

——カジノの華やかな照明。

 

——黄金の船。

 

そして——

 

——男と、少女が並んで立つ。二人が、笑顔を交わす。

 

映像は、そこで途切れた。

 

「……あなたは、誰?」

 

電伝虫は、何も答えない。

 

だが、少女の胸に、不思議な温もりが広がった。

 

誰かの想い。誰かの意志。

 

それは確かに、ここに残っている。

 

少女は、電伝虫を抱えると、歩き出した。

 

海に沈む夕日が、少女の影を長く伸ばす。

 

宵の明星が、夜の訪れを告げる。

 

それでも、夜の後には、必ず夜明けがやってくる。

 

 






主人公の名前だけをふと思いつき、
「これは誰かに先を越されてはいけないぞ!」と勢いで一話を投稿し、
そのまま走り出した筆は止まらず、気づけばここまで——。

一日一日を“ライブ感”で更新しながら、物語に引っ張られるようにして最後まで辿り着きました。

原作の世界観に導かれ、想像以上に暗い物語になってしまいましたが、
それでも、ほんの少しでも希望の光を残せていたなら幸いです。

「Vesper」はラテン語で「夕暮れ」を意味します。
夜明けに対する夕暮れ、という対比はもちろんのこと、
「ヴェスパー・チューバー」は、「Vtuber」でありながら、「夕・チューバー(ユウ・チューバー)」という小さな洒落でもあります。

また、「Vesper」は宵の明星——金星も意味します。
テゾーロの求めたステラ(同じくラテン語で、星)、五老「星」、
そして、主人公を育てたイーザンバロン・V・ナス寿郎(ヴィーナス=金星)。
それらとも静かに響き合う、そんな不思議な星のもとに生まれた名前です。

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