RUBICON III IN UNAC   作:スキーム

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Ep.0 敵小規模拠点襲撃

 

 

 

 それまで戦場を支配していた無人機に取って代わったのは、有人機…つまり、生身の人間が搭乗した機体だった。

 それからは、多少のコストは度外視して強力なパイロットを作る研究が盛んになった。

 

 ありとあらゆる方法が講じられ、当然その中には非人道的なものも含まれていた。最強の機体と最強のパイロットとを目指した企業勢力の研究は、遂に留まることなく、中にはパイロットが人の形を留めないほどにまで切り刻まれた例も存在する。

 

 だが、その空前とさえ言える強化人間の流行に一人、どうしても納得したくない者がいた。

 

 

 

「──違うな、ここまで来たら後退しながら射撃だから、メモリチップはこっちの値を弄って……」

 

 その男は崩壊したガレージの中で一人きり、誰にも操縦権限の無いアーマードコアの制御システムを構築していた。

 

 今日も今日とて試作したUN-ACを駒に、男は戦場へと身投じていった。

 

 

 

 

 

 

『ユニット1、目標地点に到達』

 

 作戦目的地域、基地の前方2000メートル圏内に辿り着くまでは好調。むしろルート構築を自分の手で行っている都合、正しく到着してくれなければ困る。

 

 ──雇い主はベイラム・インダストリィ。今回の仕事は、前哨拠点に駐機している予備機を含んだ、全てのMTの及び防衛兵器の撃破だ。

 歩兵の火器ではACに有効なダメージを与えられないので、ACに対抗しうる兵器さえ破壊してくれればいいというのが、今回ベイラムから課されたミッションである。

 

 作戦地域はベリウス南部、汚染市街の一区域。ベリウスそのものが、立地からして戦略上の要衝にはなり得ないはずだが、現地人(ルビコニアン)やら二大企業の先遣部隊やらが挙って主導権を取り合っている不毛な土地だ。

 それが、このUN-ACの絶好のテスト環境であることも含め、何かと衝突の絶えない理由である。

 

『スキャナー使用します』

 

 ユニット1からの連絡を受け、送られてくる敵情報に注目する。既に地形データは読み取っているから、あとは転送された情報と照合して統合データをユニットに送ってやればいい。

 

「…よし、転送完了。今度はちゃんと動けよ」

 

 半ばジャンクの頭部、HD-2000 FINDER EYEに追加スキャナーを、同じくボロのコア、CC-2000 ORBITERに小型の偵察機発射機を、それぞれ搭載したことで索敵能力の大幅強化に至っている。

 そのために消費エネルギーは馬鹿にならないが、AIAC単機での作戦遂行能力は得られていた。

 

 だが、AIといっても自己判断能力が欠如した旧型の人工知能。思考のプロセスはアーキテクトがプログラムし、導いてやる必要がある。

 

 例えば──

 

『ユニット1、敵MTを確認。攻撃開始』

 

 偵察機発射機から打ち出されたリコンユニットと情報を共有したAIACのアイセンサーが敵を視認し、それと同時に予め武装によって定められた性能保証距離に則って射撃を開始する。

 

 右腕アサルトライフル、RF-024 TURNERの性能保証距離、つまりほとんどの目標に対して跳弾を引き起こさない距離が170メートルのため、少し余裕をもって160メートルから射撃するようにプログラムしている。

 

 射撃した弾丸は、建物にもMTの持つパーソナルシールドにも当たることなく、5、6発と的確に動力ブロック近辺に吸い込まれていく。

 

『てっ、敵襲!?』

 

『機体が見える!…独立傭兵か!?』

 

 こちらの…と言うよりは、ACユニットの構成フレームは全てRaDの惑星探査用フレーム。安価で、レストアしやすいジャンク品がそのあたりに転がるほど普及し、数を揃えるのには適していた。

 

 武装もライフルにパルスブレード、ミサイル、パルスシールドと、一通りできる以外のことはない、器用貧乏が良いところのACだ。

 

『敵MT撃破』

 

 MTの一機がライフル弾の直撃を浴び、爆発し倒れる。MT程度ならライフルやミサイルの数発で貫徹し破壊できる程度の装甲しか持たないものの、BAWS製MTが装備する専用兵装はどれもAC級の破壊力を持ち、まともに受ければ上位機種と言えど長くは持たない。

 

『アラート確認。シールド展開』

 

 警告音と共に、こちらのヘリのモニターに投影されたACユニット1のカメラが、自機に向けて飛んでくるグレネードキャノンの弾頭を捉えた。

 

 だが、同時に淡い水色の防壁がACの前面を覆った。パルス技術を用いたエネルギーシールドである。ACのものは低出力だが、展開した一瞬は非常に効果的な防御性を備えているため、瞬間的な判断が可能なAIが使うのが最も効率的なのである。

 

 思惑の通りに、シールドはMTからのグレネード弾を弾き、ないし相殺する。それでも軽減しきれないダメージを受けたが、多少の衝撃と装甲剥離は許容範囲内だ。

 

 反撃とばかりにミサイルがMTへ向けて放たれた。同時に発射された四発の直撃をまともに受けて、敵機は膝を折る。

 

『何!? クソッ、ACSにエラーが…!』

 

「よし、いいぞ…順調だ」

 

 そのままライフルを二発、速射し直撃させた。

 

 これで、二機撃破。MTの強みは数を頼んだ包囲殲滅戦を展開できることであり、数を揃えられては即座の離脱判断が難しいAIに勝ち目は薄い。

 

 つまるところ、このまま押していけば各個撃破の形に落とし込める。

 

『敵MT撃破』

 

「よし…!」

 

 手のひらに爪が食い込むほどに拳を握りしめ、固唾を飲んでモニターを注視する。

 直接戦うわけではないので、細かな指示を下すことはできない。理想通りの動きが出来ているなら諸手を挙げて喜ぶし、敵に追い詰められていれば悔しさに歯噛みもする。

 

 そのまま続けて三機、四機と敵を破壊する。

 

 これは順調に見えるが、まだ作戦成功に必要な要項全てを達成できていない。MTだけではなく、防衛設備の全てを破壊しなければならないからだ。

 

 作戦内容は前哨拠点に駐機する全MTの撃破、そして防衛兵器の破壊。この時代において、いやどの時代においても、防衛兵器とは定点から大火力を叩き込み続けるもの。

 技術力では惑星外企業に一歩も二歩も劣るBAWSが世に送り出したのが、火力の高い実弾の火砲群である。

 そして、火砲の最大の魅力はACが持ちうる兵器のどれをも上回る射程。つまりは、AIが認識できない長射程距離からの狙撃や砲撃には、AIACは限りなく弱い。

 

 その証拠に、照準レーザー照射を受けてもなお、敵の位置を把握できていなかった。

 一瞬の閃光をカメラが捉え、そしてACユニットは強い衝撃を受けて大きく仰け反る。

 

『AP、50%。リペアキット使用します』

 

 酷く大きいダメージを被ったが、惜しみなく修復装置を投与することで、コア各部の小型ドローンが失った装甲材を溶接し、繋ぎ止め、穴を塞いでいく。

 

 

 

 

「…俺が現役だった頃は、こんな都合がいいものは無かったよな。せいぜい補給車両があるくらいで……」

 

 今はもう見ることもないであろう、青春を丸々擲ったゲームに思いを馳せた。それに比べてこちらの世界のACは、ネクサスのようであり4のようでもある、独特の機動性と既視感のあるデザインに、俺の知っているようで知らないアーマードコアだと気付かせた。

 それが、ファンから長年切望されていた《VI》の世界なのだろうことにも、容易に思い至った。

 

 

 

 

『ユニット1、敵防衛兵器を確認。攻撃開始』

 

 攻撃の正体を確かめるべくシールドを構えて前進していたACが、漸くキャノン砲台を視認したようだ。二度目のリコンユニット発射とともに大きく離れた距離を埋めるため、アサルトブーストを用いて急速に接近した。

 

『くそっ、来るぞ!』

 

『撃て!』

 

 火力をACに集中させるべく、MTが砲台の陰から二機飛び出し、肉薄してくる。その距離は100メートルを切り、左右から挟み込むように接近していた。

 ACはパーツ次第で全ての戦局に対応可能な汎用兵器ではあるが、それは個々人の能力如何が前提。AIでは単体の敵を狙っているさ中に別の敵をターゲットとすることは難しい。

 

 対複数戦は本来よりコンピュータ制御の苦手とするところで、だからこそかつての()()()()はUNACの単機運用を良しとしなかった。テンプレート通りの用途ならば、そもそも思考プログラムに個別に手を加える必要もなかったのである。

 

 ACユニットからミサイルとライフルの同時攻撃が放たれ、それは右方のMTに殺到した。

 しかし敵とて、戦場の最安値となる命と機体の価値だからこそ、最底辺なりの戦い方を会得している。一方が犬に噛みつかれれば、もう一方が助けるだけだ。

 

 コクピットに警告音が響くのを、モニターと接続するマイクが捉えた。

 

(後方からのグレネード。間に合わないか…)

 

 AIはまだジェネレータ生成エネルギーに余剰がある。ハイブーストでもって回避すればいいと人間なら考えるだろうが、AIACというのはとことん、予め設定された人格通りに動いてしまう。つまり、こいつの今やる行動はパルスシールドの───

 

 

『アラート確認。シールド展開。────被弾しました』

 

 やはり被害を受けた。元が中古品のためか既に機体各部にガタが来ているが、リペアキットの残り一つを切ってしまえばまだ戦える。

 

『リペアキット使用します。残数、無し』

 

 自動修復機構(リペアキット)の最後の一つを使った。

 ふたつしか使っていないが、元々在庫はそれだけだ。あんな高級品、三つも四つも持たせていては金が無くなってしまう。

 

 それに、この世界ではACの命はMT乗りと同等かそれより僅かに上回る程度の価値しか無い。

 リペアキットを持たせるようなのは、死がイコール大損害に直結するような重要戦力か、はたまた余程雇い主に愛された子飼いか……。

 

 いずれにせよ、残された機体ひとつで俺たちはこの仕事を達成しなければならなかった。保険はもうない。組んだプログラムのミスひとつが、負けに繋がるわけだ。

 

『ぐあーっ!』

 

『敵MT撃破』

 

 残る敵機に向き直り、パルスブレードを大きく振りかぶり、ブースタの推進力をフル活用して高速の斬撃を見舞った。

 

『ぐああ!』

 

『敵MT撃破。敵防衛兵器を確認』

 

 全てのMTは撃破しただろう。レーダーにも反応は見られない。あとは砲台をひとつ破壊して終わりだ。

 

 

『全敵撃破を確認。作戦成功です。メインシステム、通常モードに移行します』

 

 ACが火器に充填していた全てのエネルギーをブースタに宛てがい、こちらのヘリのある位置まで後退してくる。

 これで仕事は終わりだ。

 

 

 

 

 

 

 ベイラムから指定のネットワーク上の口座に電子マネーが振り込まれた。額は110,000コーム。

 

 しかし修理費・弾薬費、リペアキット諸々込みで総支出は66,732コーム。

 しめて47,268コームの収入である。

 

 傭兵の仕事が危うい綱渡りなのは、実際に命を懸けるからというのもあるが、それ以上に機体の維持費などで稼ぎの大半は吹き飛び、強力な武器や優秀なパーツで機体を固めるなど、夢のまた夢だからだ。

 

 だから、自分のAC売却分とミッション費用を併せて充分に稼いだと判断したら、早々に見切りをつけて傭兵稼業を引退する者も多いそうだ。

 何せ、1コームあるだけで数ヶ月間は安い食い物で食い繋げられるほどの価値があり、それが数万コームにもなってみれば、大概の家や新車を買えるくらいの稼ぎにもなる。

 であれば、機体の売却分も併せて平和な日常に戻ろうとする者が後を絶たないのも納得できる。

 

 …だが、俺にはこの()()をやめるつもりは無い。

 少々勝手は違うが、念願叶ったAC6の世界。(アーキテクト)なりの視点から楽しませてもらう。

 

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