MTG(マジック:ザ·ギャザリング)を広めたいお姉さんの奮闘。



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デッキ配りお姉さん

 

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 噂に聞いたことがある。カードショップには『デッキ配りお姉さん』とかいう生き物が存在するらしい。

 

 ショップに通う他ゲームのプレイヤーに言葉巧みに近づき、無料で推しゲームのスターターデッキを押し付けようとする不審者だ。

 

 カードゲーマーは皆『無料でデッキを!? アドやん!』という思考をするので、まんまと受け取ってしまうという手口を用いている。

 

 デク姉(デッキ配りお姉さん)の目的は色々あるらしいのだが、主目的は新規プレイヤーの獲得という所になる。

 

 ここまでがリアルの話。ここからは夢や幻の話です。

 

 本作はフィクションである。ある程度のキャッチーさは必要であろう。

 

 つまり『多種多様な美少女たちが、綺麗なお姉さんに優しく手解きをされる的なヤツ』という事になる。

 

 ではどうぞ。

 

 

 

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 デッキ配りお姉さんの通称はデク姉。ショップの蛍光灯にキラキラと輝く夜空のような長い髪と、神秘を内包する月の光を思わせる美貌を特徴とする、熟練のプレインズウォーカーだった。

 

 金曜の夕刻。デク姉は経営するカードショップへと向かっていた。大きな幹線道路に面して建つ、小さな二階建ての一軒家を改装して営業中のカードショップ【スペルブック】がデク姉の城であり、領土であり、領域だった。

 

 大きな肩掛けカバンの中にはデッキケース、プレイマット、ダイスの入った巾着、メモ帳とボールペン、そして布教用のスターターデッキを収めたストレージをいくつか。

 遊ぶ気に満ちた装備であり、カードゲーマーの正装でもある。

 

「ごきげんよう」デク姉はガラガラと音を立てて引き戸を開けた。

 

 並んだショーケースの中身を適当に眺めながら進み、レジにいる店長に丁寧な挨拶をする。

 

 店長はデク姉が面接をして選んだ、なかなかの腕前を持つ歴戦のプレイヤーだ。

 

「今日の集まりはどんな具合かな?」とデク姉は尋ねた。

「今の所三人来てますね。開始までけっこうあるんでもうちょっと増えそうな気もしますけど」

 

 デク姉は店内をざっと見渡し、複数居る客の中から顔見知りの三人を見つけた。長い時間をカードゲームに捧げた人間だけが身につける独特な雰囲気を纏い、談笑している。

 

 今夜の獲物(あるいは狩人)の確認を終え、さらに他の客を観察する。

 

 カードショップ【スペルブック】が扱うのはMTGだけでは無い。その他国産TCGの扱いもある。それは経営を成り立たせるための戦略であると同時に、撒き餌でもある。

 

 他ゲームのプレイヤーを、MTGに引きずり込むための撒き餌。

 

 デク姉の瞳は、友達の付き合いでやってきたもののちょっと暇だな~って感じを出してる少女を捉えてギラギラとした光を帯びた。

 

 

 

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 さりげなさを装い、デク姉は暇そうな少女の視界内に紛れ込んだ。

 デク姉は自分の容姿に自覚がある。取り込んだ光を乱反射させて煌めきを放つ宝石のように、水面を優雅に飛んで渡る水鳥のごとく、思わず目を向けて追ってしまう引力を持つ己の姿を活用する。

 

 デク姉の思惑通り、少女の視線はデク姉に吸い込まれた。

 視線を感じたので振り返ったらバッチリ目が合っちゃった、という体でデク姉は蠱惑的に微笑んだ。

 

「こんにちは。いらっしゃいませ」とデク姉は声をかける。

 

「こ、こんにちは……」と少女は会釈しながら答えた。「お、お店の人?」

 

「そうです。お店の人」デク姉はゆっくり近づきながら言葉を放った。「私のお店に来たからには楽しんでもらう」

 

Q.カードゲームはやったことある?

 

A.ち、ちょっとだけ……。

 

Q.お友達との付き合いで、とかかな。

 

A.そ、そうです。アニメを見て、面白そうだね、って。

 

(素晴らしい)とデク姉は思った。(カードゲームのプレイ経験があり、そしてどうやらドハマりしているわけでは無いこの感じ。布教するには手頃だ)

 

「もし、良かったらなんだけれど」とデク姉は言った。けして威圧感を与えないように、とびきりの微笑みを添えて、言葉を浸透させるようにそっとささやいた。

 

「私と楽しい事をやりましょう」

 

 

 

  3

 

 カードショップ【スペルブック】はそれほど大きな店舗ではないが、10枚ほどのショーケースをなんとかして並べた売り場と、8人ほどがゆったりと座れるデュエルスペースを用意してある。

 

 4人掛けの机を2つ並べ、簡素な椅子が8脚。

 

 デク姉と少女は机を挟んで向かい合って座った。

 

「マジックには五つの属性がある。白、青、黒、赤、緑の五色。この中で好きな色はあるかな?」

 

 カバンの中から布教用デッキが入ったストレージ達を取り出しつつデク姉は少女に尋ねた。

 

「好きな、色……。あ、あんまり考えたこと無い、です」

 

「ふぅむ」とデク姉は少女を見つめた。浜辺で見つけた色のついた石を拾うときのような気持ちが沸き起こり、勢いづく心の逸りを自制しなければならない程だった。「なるほどなるほど。では私が選ぼう。なに、こういうのは得意でね」

 

 適当に選んだ白色のデッキを、デク姉は丁寧な手つきで少女に渡した。

 

「猫は好きかな?」とデク姉は言った。「その白いデッキは、大量の猫ちゃんを呼び出して一斉に襲いかかるというデッキだ。気に入ると良いんだが」

 

 少女は受け取ったストレージからデッキを取り出した。白いスリーブを装着した60枚の紙束と、ゲームで使うトークンが入っている。

 

「この猫かわいい……」少女はトークンを見て呟いた。

 

 デク姉はその姿を見て微笑んだ。

 

 

 

  4

 

 デク姉は少女に、カードの読み方とゲームの基本的なルールを教えた。

 土地カードを戦場に並べ、土地からマナを引き出し、生み出したマナを使って呪文を唱える。そして呪文を駆使して相手を倒す。

 

「実際にゲームをやりながら教えよう」デク姉はティーチング用サンドバッグデッキを取り出しながら言った。

 

 デク姉と少女は交互にカードを引き、交互に土地を並べ、交互に呪文を唱えあった。

 

 戦場に、少女が呼び出した猫人間が現れる。筋骨隆々の肉体に猫の頭が乗った異形の戦士だ。

 

「ね、猫……? これは猫なんですか?」と少女は狼狽えた。

 

「もちろん、猫だよ。レオニンやナカティルとも呼ばれる、多元宇宙では頻繁に見られる種族だ。可愛いね」デク姉は笑ってやりすごした。

 

 そして。

 地球人が見慣れた猫の姿をしたカード《お手伝いする狩人》が現れて少女に一枚の運命をもたらした。

 

 空の青、芝生の緑、花の紫、そして鋼の刃を掲げスラリと立つ聖戦士の白い装束。背後に建つステンドグラスに刻まれた天使の翼が、まるで戦士の背中から広がるように見える。

 

 少女はたった今ドローしたカードに目を奪われた。

 

「あ、え、……綺麗」

 

 まず、カードに描かれたアートが引き込んだ。呪文の名前はあまりピンとこなかった。

 次に、カードの性能が魅了した。オーラ呪文。生物を強くする魔法は、小さな子猫を強大な天使猫に変えた。具体的には1/1を→5/5・飛行・先制攻撃を持った天使・猫クリーチャーに強化した。

 

「つ、つよ……!? 猫ちゃん……猫さん! う、うおぉぉおお!」

 

 荒れ狂う暴威と化した急造の天使が戦場を支配した。デク姉の呼び出したゾンビや吸血鬼は天使に触れる事すら出来ず討ち取られていく。

 

 デク姉は黒い魔法の刃を掌に生じさせた。怖気が走るような黒マナを練り上げて形を得た破滅を振りかぶり、デク姉は空を切り裂く。

 

「ほら、次だよ」デク姉は秘密を打ち明けるような口調で少女をそそのかした。「まだまだ次の命があるじゃないか」

 

 デク姉が指した次の小さな猫、次のレオニン、次の命。次の次の命。

 

 天使に選ばれた定命が息絶え、次の天使が選ばれる。この世の命が絶滅するまでそれは繰り返される。

 この残酷な運命のルーティンは、少女に潜伏していた思春期の病を発症させた。

 

「死ぬまでずっと戦って、死んでもずっと戦って、永遠に戦うんだ……。これが《天使の運命》*1 ……! か、格好良い……!」

 

 最後に、カードに込められた物語が心を掴んだ。与えられたフレーバーと呪文の名前が等号で接続され、立体的な像を結び少女の知覚に刻まれた。

 

「そのデッキ、そっくりそのまま君にあげるよ。それを持って、また遊びにおいで」

 

「は、はいっ……きます」

 

 

 

  5

 

 金曜日の夜。マジック:ザ·ギャザリングにおいてそれはフライデーナイトマジックの開催を意味する。

 カードショップ【スペルブック】では毎週金曜日にスタンダードの大会が行われ、その日最も勝ち星を掴んだ者にはささやかな景品が渡される。

 

「優勝おめでとう」と言って店長は常連の客にカードパックを渡した。

 

「あざーす」

 

 パックを持ったまま常連は辺りを見渡した。机の上にデッキを広げ、むむむと唸り声を上げる新人を見つける。

 

「へっへっへっ、よう新人」と常連は歩み寄って話しかけた。

 

「あ、さっきはどうも……」と新人は言った。

 

 初戦で対戦していた二人はスムーズに挨拶を交わした。

 

「デッキ広げてどうしたの?」と常連は尋ねた。

 

「な、なかなか勝てなくて……、どこか変えた方が、良いのかなって考えてました」

 

「あー」と常連は声を出した。

 

 初心者の構築に口を出すべきか。あんまり出すべきでは無いっぽい、というのが常連のスタンスだった。

 

「難しいことは分かんないけど、強そうなカードいっぱい入ってるデッキは強いよ」と常連は言った。

 

「えぇ……」と新人は呆れた。

 

「はい、これあげる。またやろうね」

 

 常連は持っていたパックを新人に渡した。

 

 初心者は大事にすべきか。なるべく素早く足をつかんで可能な限り丁寧に沼に引きずり込むべき、というのが常連の姿勢だった。

 

「えっ、あ、の、ありがとうござます……!」

 

 去っていく常連を見送って、新人は貰ったパックを開けてみた。

 

「あ、やった。レアは、て、天使のカードだ。え、と。トークンが、2倍の数出てくる。2倍……!?」

 

 是非ともデッキに組み込みたいカードを引き当て、新人は喜びにあふれた。

 

「す、すごい。楽しすぎる。なんだこのゲーム、神ゲー……!」

 

 バックヤードからその様子を眺めていたデク姉の唇は弧を描き、そして次のプレインズウォーカーのために、新しいスターターデッキを作り始めた。

*1
天使の運命 (2)(白)(白)

エンチャント — オーラ

 

エンチャント(クリーチャー)

エンチャントされているクリーチャーは+4/+4の修整を受けるとともに飛行と先制攻撃を持ち、それはそれの他のタイプに加えて天使である。

エンチャントされているクリーチャーが死亡したとき、天使の運命をオーナーの手札に戻す。




おまけ

初心者用白単【猫たくさん】

クリーチャー 21
アジャニの群れ仲間 4
お手伝いする狩人 4
一生の絆の二人組 4
絢爛たる天使 2
誇り高き親 2
初祖牙、アラーボ 1
猫を集める者 2
威厳あるカラカル 2

スペル 15
エリエットの子守唄 2
払拭の光 4
天使の運命 1
栄誉 4
剥き出しの爪 4

平地 24


【久遠の終端】までを使用したスタンダード。なるべく長く使えるように、【ファウンデーション】のカードを多めに採用している。
猫を並べて《剥き出しの爪》で押し込むデッキ。
ここから《アジャニの群れ仲間》のようなライフゲイン戦術に特化するか、トークンの量産に特化するかを選んだりしてデッキを育ててみてね、という事を考えながらデク姉は組んだ。
ピン差しの《天使の運命》は、一目惚れしやすそうという理由で投入されている。ちょっと高価。

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