初志貫徹ってことで
いやでござるーはたらきたくないでござるー
九鬼優亜は、禿げた男と向き合っていた。
立派な椅子に腰掛けている、温厚な顔つきをした恰幅のよい男。
鮫島校長。
遊戯王GXの舞台となるデュエル・アカデミアの校長であり、彼自身もサイバー流デッキを使用するデュエリストである。
穏やかで生徒思いな人物ではあるものの、GXの舞台で起こる事件の影にはこの男が絡んでいることが多く、胡散臭い。
まあ、悪意があるわけではなく間が抜けているだけで、どこか憎めない雰囲気を漂わせているのも、彼の稀有な才能なのだろう。
そんな鮫島校長を、優亜はアルコールの入った脳を総動員して認識する。
どうやら本当に遊戯王の世界に来れたらしい、第二の人生がこれから始まる、喜ぶべきことだ。
しかし優亜の表情は優れない。
眉にシワをよせ、鮫島校長を――否、虚空を睨めつけている。
はたから見れば何やら思案しているようにも見えるのだが、そうではない。
この世界のデュエルディスクはシンクロやエクシーズを認識するのかとか、世界滅ぼされかけるけど大丈夫だろうかとか。
宇宙からいきなりやってきたカードが認識される事を考えると問題なさそうだし、世界が滅びかけようと主人公が何とかするだろう。
そんな楽天的な考えで、優亜は心配などしていないし、微塵も悩んでなどいない。
彼女は憤り、絶望しているのだ。
見つけてしまった。現実を見てしまった。
『ソレ』を見つけてしまった…。
デュエル・アカデミアの教師として、九鬼優亜を迎え入れるといった旨の書類が、鮫島校長の座すデスクの上に存在していた。
神の仕業だろうか、この世界に置ける彼女の立ち位置が頭に流れ込んでくる。
デュエル・アカデミアの新任教師。基本的な部分は元いた世界で歩んできた人生と同じ。
しかし、NE☆ETになることを望みこの世界を選択した彼女にとっては死刑宣告にも等しいことだった。
この場合は神の宣告になるのだろうか、いろいろと無効化されそうである。
何はともあれ、教師なんてもうする気のなかったというのに。
それどころか、働く気すらなかったというのに。
事実を目の当たりにした優亜はよろよろと後ずさる。
「冗、談…よね?」
ポツリと呟いた声には、憎悪が込められていた。
「なんのためにこの世界を選んだと思ってる…? カードゲームで金が稼げて、働くことなくゲームが出来るからじゃん…?」
彼女はすっかり脱力し、その場に膝をついてしまったのだった。その瞳には涙さえ浮かんでいる。
「ひっく・・・えぐ・・うぁ・・・うあぁぁ・・・」
「…え」
『そ、そこまで働きたくなかったかの…!?』
これにはさすがに別世界から様子を見ていた神もドン引きだった。ガチ泣きである。
鮫島校長からしてみればたまったものではない。
しばらくして。
涙と共にアルコールも抜けきった優亜はスクッと立ち上がる。
ちなみに校長は彼女の背中を摩っていたりする。優しい。
「えー、ゴホン。落ち着きましたかな、九鬼先生。まったくびっくりしましたよ、いきなり泣き出すものですから…」
「悪かった。ちょっと現実からは逃げられないと思い知って」
「よ、よくわかりませんが、話を続けてもよろしいかな?」
もう何度目かもわからない咳払いをして、校長は改めて九鬼を見据える。
「ようこそデュエルアカデミアへ。校長として新任教師であるあなたを歓迎します」
「……」
「もうすぐ生徒の入学実技試験が行われます。そこで、さっそく九鬼先生に仕事をしてもらおうと考えているのです」
「えぇ~…いやでござる~はたらきたくねーじゃんよ~…」
教育者としてあるまじき発言に面食らったのか、鮫島校長の顔から一瞬表情が消える。
しかしすぐにニコリとわらって(こめかみに血管が浮き出ているようにも見える)、彼は告げた。
普通の教師ならすくみ上がるようなセリフを。
「…ごほん。すべての試験が終わった後、クロノス教諭と模範デュエルをしてもらいます。このデュエルにはあなたの実力を見る意味もありますので、新入生の見本となる立派なデュエルを期待していますからね」
クロノス教諭。遊戯王GXに登場するキャラクターで、アカデミアでは高い実力を誇る人物。
赴任早々生徒の前で、実力者と決闘させられる。新人にとってはプレッシャー以外の何物でもないだろう。それはもうキャ〇ジンが必要なくらいに。
しかし優亜は嗤う。
(血だ!血を見るまで私の怒りは収まらない…グギャギャギャギャ!!)
血走った眼で虚空を睨め付けながら舌なめずりをする。
九鬼優亜は、盛大な八つ当たりの実行を決意していた。
グギャギャギャギャギャ!!
感情的になって素がでると女性的な口調がいいなぁ・・なんて・・・