響みどり先生・・・漫画版のキャラですが出してみました。
だってふつくしいんだもの。
「てっきり仕事もテキトーなものと予想していたのだけれど、存外本腰を入れて取り組んでいるのね」
デスクに向かう九鬼優亜を横目で観察しつつ、響みどりは彼女の隣にある自分の席まで颯と歩く。
気取らない、それでいて凛とした佇まいは、彼女の誠実な性格を物語っている。
軽く椅子の表面を撫でるように埃を払ってから、悠々と腰掛ける姿が様になっている。
「そりゃあ、生徒たち(ガキども)の人生が掛かってるからな。さすがにそれを疎かにするほどの外道じゃないじゃん、私は」
「まるで教師みたいね」
「残念だったわね。教師なんだよ。不本意だけど」
目は書類や授業で使う教科書から離さないが、台詞だけはみどりに向けられている。
もっともな言葉にみどりは苦笑しながら、優亜がにらめっこしている教科書をのぞき込む。
あちこちに見られる×印と専門用語の数々。
それが何なのか考えていると、先程の会話を聞きつけたのか、クロノス教諭が声をかけてきた。よろしいならば戦争だ。
「ふん。先刻の職員会議で瞼に目を描くなんて化石のような子供騙しで熟睡していたヒトが言うことじゃないノーネ」
「仕方ないじゃん。二日酔いで頭がガンガンしてそれどころじゃなかったんだし」
などと嘯く優亜。
どう考えても自業自得である。
クロノスの額に血管が浮きでたところで。
それに、と優亜は続ける。
「あんなハゲの戯言なんて聞く価値ないし。何が健全なデュエリストを育成するじゃんよ、アホくさい」
この時、優亜の言葉には明らかに怒気が含まれていた。
優亜は、友人や親しい人を馬鹿にされても怒らないが、自分やゲームを冒涜されるとブチキレるという極めて自己中心的な一面を持っている。気になる方はためしに彼女に「お前の母ちゃん赤い帽子の髭男」と言ってみよう。
そんな彼女にとって、鮫島校長の言う健全なデュエル―――つまりはリスペクトデュエルは激昂に値するものだった。
相手が全力を出すまでわざと待ち、それをこちらの全力で叩き潰すという彼らの述べるリスペクト。優亜にしてみればこんなのは尊敬でもなんでもなく、舐めプレイも同然。
デュエルモンスターズにプロと呼ばれる者が存在し、全国にオンエアされる世の中なので、エンターテイメントとしての側面で魅せるプレイは必要なのかもしれない。
しかし。それを生徒に強要するのは、彼女の持つゲーマーとしての魂と、鋼鉄で出来たミジンコ並みの教師’sプライドが許さない。
そんなのものは洗脳だ。戦時下ではあるまいし。
そう考え、鮫島校長に直訴したところ。
『ふむ…なるほど、あなたの(意外な)情熱はわかりました。よろしい。では、あなたの望む、あなたの決闘(デュエル)を生徒たちに教えて上げてください。九鬼先生の受け持つ科目の授業方針はあなたに一任します』
というセリフを告げられた。
なんとも気前のいい校長だ。むしろそれでいいのか。不安だ。行き着く先はアポリアか。
そんなやり取りがあったことなど、みどりが知る由もなく、クロノスと共に悩ましげな溜息をつくのだった。
――――――――――――――――――
遊城十代と呼ばれる少年がいる。オシリスレッドに所属する1年生の一人。
入学試験にてアカデミアの実力派教師『クロノス・デ・メディチ』を破った生徒。
アメコミ風のカードデザインが特徴で、『融合』により真価を発揮する『E・HERO』デッキを扱う決闘者(デュエリスト)だ。
筆記試験の成績は110番とかなり低く、ドロップアウトとしての印象を与えるかもしれないが、実技に関しては、文句なしの実力者。
彼の扱うこの『E・HERO』は、各モンスターが多種多様な融合モンスターの融合素材になり、状況に応じて融合モンスターを使い分けられる。
それにより腐ることも少なく、融合素材代用モンスターを用いることでの同じ切り替えも可能で、クロノスが虚をつかれたのも無理はないと言える。
魔法カードを封じ融合を使用できなくする『ホルスの黒炎竜 LV8』や『魔法族の里』のほか、手札の消費が多いというのが弱点ではあるが、この世界に置いて前者のカードを使うものはほとんどおらず、後者も遊城十代の引きの良さでカバーできる。
そういった意味を含めて、この『E・HERO』は彼に相応しいデッキといえた。
「くっそー、あともうちょっとだったのに…」
「しょうがないよ、兄貴。あのままだったら警備員に捕まってたよ」
「そうよ。入学した瞬間に退学なんて間抜けにはなりたくないでしょう?」
通路を走り抜けながら、十代がポツリともらし、共に走っていた翔と明日香がそれをなだめる。
この日、十代は万丈目に呼び出され、決闘を行なっていた。
互いのカードをかけた賭け勝負(アンティルール)である。
当然賭け勝負(アンティルール)は禁止であり、時間外に施設を使用するのも禁じられている。
あともう一歩遅れていれば、雷が落ちることは必然だった。
「――――お?」
その時、アカデミア各地に配置されている自販機から声が上がる。
3人がヒヤリとして振り向くと、新任の九鬼優亜教諭が、奇妙なラベルのついた缶ジュースを片手にこちらを眺めていた。
翔が慌てて逃げ出そうとするのを明日香が捕まえ、優亜におずおずと頭を下げる。
優亜は返事がわりに軽く片手を上げ、ゆったりとした動作で彼らに歩み寄る。
3人は退学になるんじゃないかと薄氷を履む思いでいたが、それを見透かしたように優亜が笑う。
「私の業務時間は5時で終わってるじゃん。時間外に仕事なんてお金にもならないあだ花はいらないじゃんよ」
プシュッと、奇抜な缶ジュースの蓋を開けながらヒラヒラと手を振る優亜を見て、ようやく十代達の緊張がほぐれ、安堵のため息が溢れる。
しばらくして。
明日香はブルー寮のため別れ、十代と翔は九鬼教諭と共に帰路につく。
「うげ…やっぱりハズレだったか、『いちご小豆おでんミルク』…」
「あ、それ今日おれも飲んだぜ。とても飲めなかったけどな…」
「だから僕が止めたじゃないか。人の話を聞かないんだから、兄貴は」
とりとめもない話をしながら続く街灯の照らす道すがら。
やがて自然と万丈目との決闘(デュエル)の話になる。
「あぁ…それでこんな時間に」
何が楽しいのか、カラカラと笑う九鬼。
しかしその笑顔も、『いちご小豆おでんミルク』をもう一口喉に注ぎ込むことで掻き消える。無表情。
模範デュエルでクロノスを手玉にとった謎の新任教師。
十代は戦ってみたいという欲求を内心で抱きながらも、先程の事件と時間の関係でそれを我慢する。
そこで、九鬼が初めて十代に向き直った。
「それと十代。死者蘇生でフレイムウィングマンを特殊召喚するつもりだったといったけど、ソイツ、融合召喚でしか特殊召喚できないじゃん?」
「…あっ!三沢も言ってたな、すっかり忘れてたぜ…」
「『融合召喚のみ』だからな。召喚条件を1度満たしても蘇生はできないじゃん。この辺り面倒くさいけど、ちゃんと覚えておくじゃんよ、テストに出すから」
「じゃあ、あのまま続けてたら、やっぱり俺は負けてたのか…悔しいぜ…」
地団駄ふむ十代を流し目で見る優亜。
『いちご小豆おでんミルク』を喉に流し込みながら、彼の背中を軽く叩く。
「クレイマンを蘇生させればまだチャンスはあったかもじゃん。何にしろ、勝敗は最後までわからないさ」
「まるで先生みたいっす」
「残念な事に先生なの。ぶち殺すぞチビ」
「教師のセリフじゃないっす!?」
――――――――――――――――
翌朝。アカデミア。
その教室には、1年の生徒が集まっていた。
レッド、イエロー、ブルーの制服をまとった生徒たち。
すでに時計の針は授業中であることを示している。初めての九鬼優亜の講義。
だというのに、
「いったいどうなってるの?」
と声を上げたのは天上院明日香というブルー寮の女子生徒。昨日十代たちと走っていた少女である。
金の髪を背中まで伸ばし、整った顔立ちは男子生徒のみならず、同性からも高い人気を得ている。
彼女が憤っている理由はごく簡単なことで、優亜がこないのである。
授業が開始してから既に10分がたつ。
模範デュエルを見ていた彼女は密かにこの講義を楽しみにしていたぶん、余計に苛立ちがつのる。
結局、優亜が教室に入ってきたのは、それから5分後のことだった。
「遅れてすまんじゃんよー。なかなかモ〇ハンの緊急クエストがでないもんで」
悪びれもせずに教卓につく九鬼に生徒があきれかえるが、適当な調子で付け足されたセリフに生徒は唖然とすることになる。
「あぁ…教科書しまえ。いらんそんなの。その代わり私が言うこと書くこと実践すること全てノートにとるじゃんよ。でなきゃ進学できないと思え」
こうして『こちら側』での。
彼女の初めての授業が始まった。
~九鬼先生の噂話~
「先生の実家はすごいお金持ちなんだって!成金会社って言ってたよ!でも、先生は出来の悪いお兄さんを気遣って家出しちゃったんだって!」