残念美女教師の決闘日記   作:もちマスク

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脳トレしたら脳味噌まで筋肉になった

 

恐らく、どの学園でも正午の購買部と言うのは戦場ではないかと、九鬼優亜は考える。

少なくとも、自分が通っていた一貫性の学園はそうだったし、前世にて従事していた高校も例に漏れない。

昼食を求める生徒たちによる、血を血で洗う闘争。

我先にと人気の食品や食券に手を伸ばし、飢えた瞳で職員に訴えかける。

『飯を、栄養をよこせ』と。

育ち盛りゆえに仕方のないことだが、やはり好きになれない。喧しいのは苦手だ、喧騒が治まるころに出直そうか―――。

 

そこまで思考して、彼女はふと首をかしげる。

 

 

「………あんぱんを」

 

 

時計は既に正午を指し、この場は既に購買部(せんじょう)のはずだ。

しかし、青春溢れる醜い争いは行われておらず、むしろ寮を問わず死んだ目をした生徒たちが、みな仲良く幽鬼のような足取りで行列を作っている。

 

 

「……なんでもいい、脳に、糖分を…」

 

 

いわずもがな、優亜の講義のせい―――優亜の講義の賜物である。

彼女のスパルタ(?)教育によって極限にまで精も根も尽き果てた彼らにはもはや争うだけの気力が残っていないのだ。

 

遠目から優亜を視認した一人の生徒は「ひっ」と息を呑む。

まるでライオンに睨まれたチワワのようだ。

ダークガイアに睨まれたマシュマロンと言い換えてもいい。

とかく、記憶領域がパンクし机に倒れ伏した時に言われた一言がトラウマになっているのかもしれない。

 

 

『豚めが死んだぞ』

 

 

教育者にあるまじき暴言である。全生徒の顔が引きつったが、彼女はまったく気にも留めず、ただつまらなそうにカロリーメ○トを口に放り込むのみだった。口がパッサパサ。でもうまい。

もっともこの後、この生徒を含めた多くの脱落者に対して付きっ切りで講義を行ったところを鑑みるに、根はしっかりと教師なのかもしれない。

 

 

「…そんなにきつかっただろうか。初めから詰め込み過ぎてもと思って、あまり多くは語っていないはずだったが」

 

 

怪訝そうに眉をひそめながらポツリともらした言葉。

そんな言葉に異を唱えたのは、生気の感じられない丸藤翔―――を親指で指しながら苦笑を浮かべる遊城十代だった。

 

 

「そのセリフはこの翔を見てから言ってくれよ、先生…」

 

 

なるほど、確かに他の生徒同様翔の目からハイライトが失われている。やはりペース配分を誤ったか。いやしかし教えるべきことが沢山ありすぎてこれくらいしないと間に合わない。おのれコンマイ。

だがしかし、その前に。恨み言をいうその前に。

遊城十代。その声色に、優亜は激しい違和感を感じた。

なぜ貴様・・・生きている・・・死んだはずでは・・・!

 

「ん? でもお前は平気そうじゃん、十代。意外だな」

 

 

ダメじゃないか。死んだ奴が出てきちゃあ。死んでなきゃ。

 

 

「あぁ。だってさ、今まで自分がやってきたこと整理してみたらなんとなくわかってさ。筆記は苦手だけど、先生の講義はちょっと楽しかったぜ」

 

 

ちなみに彼女の初回講義を受けてなお、未だ気力が溢れているのは三沢を除けば十代のみだったりする。

天才肌というのはこういうところでも発揮されるものらしい。

優亜は彼に対する認識をすこし改める。

 

 

「まぁ、初めにすこし脅かしておくとお前たちも気合が入るじゃん。それに、不本意とはいえ、仕事は仕事だ。手を抜くつもりは一切ないよ」

 

「…だからってアレはやりすぎだよ。あんなの理解できっこないし、実際デュエルするのにも役に立つはずないッス」

 

 

ようやく少し気力が戻ったか、はたまた優亜に対する不満が彼を死の淵より呼び戻したのか。

恐らくは後者であろう、翔は批難に満ちた眼で優亜を見ていた。

そんな彼を優亜はまっすぐと見据え、告げる。

 

 

「流石だ、まともにデュエルもできんガキは言うことが違うな。ではお前が言うデュエルに役の立つ講義とはどんなものだ?クロノス教諭のようにフィールド魔法の説明でもしたほうがいいか?まさかな、それこそ万丈目のいう初歩中の初歩だが、そんな講義をお前は受けたいのか?」

 

 

はっきりと攻めるような言葉に翔はたじろぐ。元々気の弱い彼が文句を言えるはずもなかったが、なにより、何をどう言い返せばいいのかすらも思いつけなかった。

 

 

「理解できっこないか。すばらしい負け犬根性だ、流石に私も端から理解する気のないやつには何も教えられんな」

 

 

どうやって理解する気にするか、それも教師の仕事ではあるが。

と、内心で優亜は付け足したが、当然それを知るものは誰もいない。

 

 

「はっきり言っておくぞ。私はこの学園の連中すべてを下せる自信、確信がある。貴様の兄とて例外ではない。当然だ、ここの連中はリスペクトだのなんだの言って、肝心の知識も構築力もろくに伴っていない」

 

 

自信過剰としか取れない発言。優亜自身もそう理解しているし、すこし強引だったとも思う。

しかしコレは彼女の嘘偽りのない本心であるし、なにより。

翔に、その他自信のない生徒に。

否、この学園のすべての生徒に自分の存在を知らしめるため。

そして、自身の講義を受けるすべての生徒に向上心を持たせるため。

彼女はここで一発かますことにした。

 

 

「あ、ありえないっス!クロノス先生に勝ったのは確かだけど・・・お兄さんはプロ入りがほぼ決まってるデュエリストっス、そう簡単に――――」

 

「なら。試してみるか?なあ、丸藤亮」

 

(ちょっと挑発がすぎたけど・・・でもコレくらい派手にいくのが私流じゃん)

 

 

内心でそんなことを思っているのを億尾にも出さずに、翔の訴えを遮り、既に注目の集まる購買部(このば)で、静かに、しかしよく通る落ち着いた声で告げる。

 

しばらくの静寂の後。

 

「・・・・・・いいでしょう。俺も先生には興味があった。なにより、俺のデュエルを侮辱されて黙っているわけには行かない。」

 

生徒を掻き分け現れたのは、静かな闘気をその身に纏った、アカデミアの帝王(カイザー)

丸藤亮、その人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本気で挑発するならハザマさんとかベクターとかいろいろ混ぜた挑発にしますがね

エヌアインを仲間から薦められた結果、ペル子がツボにはまりました。
なんだあの可愛い生物

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