冒険者育成機関の奥、埃っぽい第三訓練場。
そこはパンドラズ・アクターの言葉通り、既存のパーティーから追放された者や、協調性がなくどこにも所属できない『訳ありのソロ』たちの吹き溜まりだった。
俺がモモン(中身はパンドラズ・アクター)と共に姿を現すと、訓練生たちの態度は見事なものだった。
「お、おお……! 漆黒のモモン様だ……!」
全員が背筋をピンと伸ばし、憧れと尊敬の眼差しでモモンを見つめている。
「皆、励んでいるようだな。本日は私に代わり、彼……特別教官の『ハチ』殿が指導を行う。彼の言葉は私の言葉と思い、心して学ぶように」
モモンが重厚な声で俺を紹介し、マントを翻して訓練場から去っていく。
カチャン、と重い扉が閉まり、モモンの気配が完全に消えた瞬間。
訓練場を支配していたピンと張り詰めた空気が、一気に弛緩した。
「……なんだよ、あのヒョロガリ。モモン様の知り合いって言ってたけど、全然強そうじゃねえぞ」
「ただの付き人じゃないの? だいたい、なんだあの死んだ魚みたいな目は」
最前列の連中が、あからさまに俺を値踏みし、小馬鹿にしたような笑いを浮かべる。
さらに視線を後ろに向けると、訓練の輪に入らず、壁際で腕を組んでいる連中がいる。前髪をやたらと長く伸ばし、『俺はお前ら有象無象とは違う』『俺の真の力はこんなところでは見せられない』といった、強烈な中二病オーラを漂わせている痛い連中だ。
(……なるほどな)
俺は、死んだ魚の目をさらに淀ませた。
実力もないのにプライドだけは高く、仲間を見下しているから追放される。なろう系小説ならここから「実は最強のユニークスキルが!」と覚醒するのだろうが、ここは現実だ。身の程を知らない勘違い野郎は、ただの足手まといにしかならない。
軽くイラッとした俺は、訓練場の真ん中に歩み出た。
「……はぁ。お前ら、とりあえず全員武器を持て。剣でも杖でもなんでもいい」
「あァ? なに言ってんだ教官サマ」
「いいから持て。準備ができたら……全員、いっぺんに俺にかかってこい」
俺が気怠げに手招きすると、訓練生たちの顔色が変わった。
「三十人以上いるんだぞ!? 怪我しても知らねーからな!」
「俺の隠されし魔力を味わうがいい……!」
血気盛んな若者たちが、一斉に武器を振りかぶって群がってくる。
だが――妖怪であり、数々のアサシンスキルを持つ俺の目から見れば、彼らの動きは止まっているも同然だった。
「遅い。大振りすぎる。仲間と射線が被ってるぞ」
俺は一歩も退かず、群れの中へ滑り込んだ。
右から来る大剣の横っ腹を軽く叩いて軌道を逸らし、左の奴の足元に投げ飛ばす。
背後から魔法を詠唱しようとしている奴の顎を指先で弾いて気絶させ、「暗殺者」を自称して背後に回り込もうとした奴の足を引っかけ、見事に顔面から転ばせる。
打つ、蹴る、投げる。
一切の技も魔法も使わず、ただの体術と『重心操作』だけで、次々と彼らを無力化していく。
――ちょうど三分後。
「「「ぐぇぇぇ……」」」
「あ、足が、いてぇ……」
訓練場の床には、三十人以上の『元・自信過剰なソロ』たちが、一人残らず這いつくばって呻き声を上げていた。
「……はい、終了。全員、そこに一列に並んで正座しろ」
俺が見下ろしながら命じると、彼らは恐怖と圧倒的な実力差に顔を引きつらせながら、慌てて綺麗な正座の列を作った。
さっきまでのナメ腐った態度は微塵もない。
「じゃあ、面談(ヒアリング)を始める。右端の奴から順に、自分が希望している職業(クラス)とポジションを言え」
俺が名簿らしき紙を片手に尋ねる。
「お、俺は前衛で剣を振るいながら魔法も使う、華麗な『魔法剣士』に……」
「却下だ」
「えっ?」
「お前、さっき俺に投げ飛ばされた時、受身の取り方が無駄に上手かった上に、やたらと打たれ強かった。今日からお前は、一番前でデカい盾を持って味方を守る重戦士(タンク)だ。死ぬ気で殴られろ」
「わ、私は影に潜み、敵を背後から葬る『暗殺者』を……」
「却下。お前、隠れようとしてたけど足音がドスドスうるさすぎるんだよ。でも踏み込みの筋力だけはあったから、デカい斧を振り回す狂戦士(アタッカー)になれ」
「ふっ……俺の右手に封印されし、この暗黒の魔力を解き放つ『黒魔道士』に……」
「痛いからやめろ。お前の魔力特性、どう見ても回復寄りだろ。大人しく一番後ろで回復と支援(バッファー)だけやってろ」
俺は、彼らの「希望」など一切無視し、先ほどの三分間の乱闘で得た『身体的な癖』や『無意識の防御行動』をもとに、強制的に職業を割り振っていった。
本人の希望(やりたいこと)と、適性(やれること)は違う。自分の適性を履違えているから、パーティーで浮いて追放されるのだ。
「よし。これで全員の職業が決まったな。じゃあ、俺が今決めた通りの役職で、適当に四人〜五人のチームを組め」
無理やり組まされた即席チームの面々は、「なんで俺がタンクなんだよ」「俺が主人公じゃないのかよ」と不満げな顔をしている。
「文句があるなら結果で見せろ。お前ら、そのまま第一訓練場でエリート気取ってる連中に、模擬戦を挑んでこい」
俺は彼らを訓練場から叩き出した。
まあ、いくら適性を指摘したところで、昨日までバラバラだった連中だ。連携なんて取れるはずもなく、第一訓練場のエリート候補生たちにボコボコにされて「チームワークの重要性」と「現実の厳しさ」を知るのがオチだろう。
――そう思っていたのだが。
「……あれ?」
第一訓練場の観客席から見下ろしていた俺は、予想外の光景に首を傾げた。
『おい! 右から来るぞ、盾を構えろ!』
『分かってる! 回復頼む!』
『ここで俺の斧を食らいやがれぇぇ!!』
なんと、俺が適当に組ませた即席チームたちが、第一訓練場のエリートチームを相手に、互角以上の善戦を繰り広げていたのだ。
魔法剣士(主人公)になりたかった男は、巨大な盾で必死に仲間の壁となり。
暗殺者になりたかった男は、その筋力を活かして前線の突破口を開き。
黒魔道士(中二病)になりたかった男は、後方から的確に回復魔法を飛ばしている。
個人の無駄なプライド(希望)をへし折られ、「強制的に割り振られた、自分にしかできない適材適所の役割」を与えられたことで、彼らの中で奇妙な連帯感と、歯車が噛み合うようなシナジーが生まれていた。
「……なるほどな。元々『自分は特別だ』って腐ってた連中だからこそ、『お前の適性はこれだ』って強制的に居場所(役割)を与えられたことで、迷いが消えたのか」
模擬戦が終わり、勝ったり負けたり、引き分けたりした彼らは、息を弾ませながらもお互いの健闘を称え合っていた。
そこには、少し前に壁に寄りかかって斜に構えていた「追放系ソロ」の面影はない。泥臭く、必死に自分の役割を全うした『冒険者』の顔があった。
「……まあ、案外悪くないな」
なんだかんだで、俺の「適当な職業斡旋(という名の理不尽な強制)」は、結果的に最高に上手く機能したらしい。
彼らが清々しい顔で笑い合っているのを見て、俺は少しだけホッと胸を撫で下ろした。
これでパンドラズ・アクターへの義理も果たせたし、エ・ランテルでのボランティアも無事に終了だ。
「よし。これであいつの借りも返せたろ」
俺は誰にも気づかれないように《無音歩行》を発動させ、達成感に包まれる訓練場を後にした。
さあ、宿へ帰ろう。
全てをやり遂げた男の、清々しい帰還である。
……ナザリックで待ち受けている、アルベドとの『地獄のワンオペ内政』という現実から、今はただ全力で目を背けながら。
挿絵のリクエストです。
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