部室の放課後で自分一人だけしかいないと思っている西木野真姫が、恥ずかしい欲望を口にして隠れてるμ'sメンバー全員に聞かれてしまう話です。
放課後の音楽室。
静まり返った部室の扉を開けると、ひんやりとした空気とほのかな木の香りが漂っていた。
「……あれ、誰もいないの?」
真姫は赤い髪を揺らして辺りを見回す。
いつもなら穂乃果の声が一番に響くはずなのに、今日は妙に静かだった。
(海未、今日は遅れるって言ってたけど……他の子までいないなんて珍しいわね)
机の上には譜面と飲みかけのペットボトル。どうやらみんな近くにはいるらしい。
真姫は鞄を置き、椅子に腰かける。
その背後では――。
(ことり)「しーっ、まだ出ちゃだめだよっ。驚かせるんだから……!」
(凛)「にゃー……でも真姫ちゃん、来ちゃったにゃ……」
(海未)「穂乃果……本当にやるのですか、このサプライズ」
(穂乃果)「うんっ、真姫ちゃんびっくりさせよ!“ハッピーお疲れサプライズ”ってことで!」
(絵里)「……あなたたち、本当に学生アイドルなの?こんな隠れ方して……」
(希)「まぁまぁ、たまにはええやん。真姫ちゃん、最近ちょっとお疲れっぽかったし」
(にこ)「ふふっ、ロッカーの中から『おつかれさまー!』って飛び出したら絶対かわいい反応するわよ」
(花陽)「ひゃぁ……でも、閉じ込められてるみたいでドキドキするね……」
そんなふうに、μ’sの全員が部室のあちこちに隠れていた。
ロッカーの中、机の下、ピアノの後ろ。まるでスパイごっこのように。
真姫だけがそれを知らない。
椅子に座り、少し頬杖をつきながらスマホを取り出す。
「……暇ね」
指が無意識にアプリを開き、スクロールしていく。
やがて、ふとした興味で開いたサイト。
(凛)「(ま、真姫ちゃん、なに見てるの……?)」
(海未)「(画面が、なにやらピンク色っぽい……?)」
(絵里)「(ま、まさか……恋愛小説……?)」
数分の沈黙。
ページを進めるたびに、真姫の頬がほんのり赤く染まっていく。
「……ん、なにこれ。設定はベタだけど……悪くないじゃない」
小さな声で呟きながら、真姫は脚を組み替え、無意識に前髪をいじる。
(希)「(あかん……真姫ちゃん、なんか雰囲気が乙女モードや)」
(にこ)「(あれ絶対、恋愛モノ読んでるわね……って、あれ?……え、えっちなやつじゃない?)」
(穂乃果)「(え、え〜!?ま、真姫ちゃん、そういうの読むの!?)」
(花陽)「(し、知らなかった……!)」
時間がゆっくり流れる。
部室には真姫が身動ぎする音だけが静かに響く。
そして――。
「……あーもう!」
突然、真姫が声を上げた。
μ’s全員が思わずびくりと体を硬直させる。
「エッチしたい……かわいい女の子と……μ'sのみんなと、めっちゃエッチしたい……」
沈黙。
誰も息をしていないような数秒。
「だいたいμ’sは皆かわいすぎるのよ。ムラムラするっていうか……わたしを誘惑してんじゃないでしょうね。スカートの中もいつもチラチラ見えるし。あれ私に見せてるでしょ絶対。」
(にこ)「(!?!?!?!?!?!?)」
(希)「(ちょ、ちょっと待って、うち聞き間違いちゃうよね?)」
(絵里)「(……え、えぇぇ!?)」
(海未)「(は、破廉恥です……)」
(穂乃果)「(ま、真姫ちゃん!?!?)」
(花陽)「(ど、どうしようどうしようどうしよう)」
(凛)「(え、真姫ちゃん……大胆すぎるにゃ……!)」
(ことり)「(えっ……真姫ちゃん……!? そんなこと言っちゃうなんて……どうしよう……びっくりしすぎて、なんて言ったらいいかわからないよ……! でも……ちょっと、かわいいかも……うぅ、顔まで熱くなっちゃう……!)」
静寂。
風が窓の外を抜ける音が、やけに大きく感じられた。
――この状況から、もう誰も動けなかった。
部室の空気が、一瞬で凍りついた。
真姫の「エッチしたい……」という言葉は、まるで時間を止める呪文のようだった。
(花陽)「……き、聞いちゃった……?」
(凛)「にゃっ、真姫ちゃん……!」
ロッカーの奥、机の下、ピアノの後ろ――隠れている全員の心臓が、同時にバクバクと跳ねた。
誰も声を出せず、息をひそめるしかなかった。
(ことり)「(今は隠れていなきゃ……他のみんなも気まずそうだし……落ち着かないと……うぅ、真姫ちゃん、大丈夫かな……)」
(海未)「……出たら、どう反応したら……破廉恥すぎです……」
(穂乃果)「そ、それにしても……恥ずかしすぎるっ」
(絵里)「…み、みんな…お、落ち着きなさい……」
しかし、その場に立ちすくむだけでは、ますます状況は悪化する。
にこと希は互いに小さく目配せをした。
(にこ)「ねぇ希、そろそろ出たほうがいいんじゃないかしら……このままだと、真姫ちゃん、一人ではじめちゃうんじゃ」
(希)「せやな……そんなことになったら、気まずすぎやし。最悪の展開になるわ、真姫ちゃんが立ち直れなくなっちゃう」
二人は互いに小さく目配せをしてロッカーからでる。
そのとき、隠れている他のメンバーに軽く手を振り、目で合図を送った。
『うちらがフォローするから、動かないでね』
ロッカーから出てきた二人に気づき、赤面しながら立ち尽くす真姫。
視線が泳ぎ、言葉が出ない。
二人はそんな真姫を見て、少し笑みを浮かべながら軽くポーズをとる。
「うちらってそんなに魅力的……?まいっちゃうなぁ」
「大銀河宇宙No.1アイドルのにこにーにドキドキしちゃうのは当然よね」
真姫は顔を真っ赤にし、胸の奥が熱くなるのを感じながら、必死に言い訳を探す。
「ち、違うのよ……あの……その……あの……エッチ……じゃなくて……」
言葉がつっかえ、手で顔を覆いたくなる。
「そ、そうよ!あっち! エッチじゃなくて、あっちぃことなのよ!鍋とか!!」
赤面と動揺で声も震え、息が少し荒くなる。
しかし、東條希と矢澤にこの視線が、まるで“かわいそうなものを見てしまった”ように真姫に向けられる。
(……あ……やっぱり、自分でも言い訳が苦しい……もう、いいわ……)
真姫は顔を手で覆い俯き、諦めたように静かに座り込む。
「そうよ、私は仲間に欲情しちゃうド変態なのよ……」
にこと希は慌てて肩に手を置き、微笑みながら声をかける。
「そんなこと、よくあることだよ。年頃なんだから、気にしなくて大丈夫」
「しかも聞いたのは、にこたちだけだし、安心して」
そして、外の風にあたるように二人は真姫を屋上に誘導する。
部室に残る他のメンバーたちも、少しずつ姿を現す。
笑いと少しの赤面が入り混じった、微妙に気まずくも和やかな午後。
(花陽)「……あの、ほんとに……びっくりしちゃったね……」
(ことり)「うん。でも、さっきの真姫ちゃん……赤くなってたし……ちょっと可愛かったかも」
(凛)「にゃー、にゃんであんなこと口にしちゃうにゃ……真姫ちゃん、可愛いけど、恥ずかしいにゃ」
(穂乃果)「でも、ちょっと面白かったかも……あんな真姫ちゃん、滅多に見られないし」
(海未)「……破廉恥ですが、仕方ありません。年頃の女の子のただの独り言です。」
(絵里)「……ええ、そうよ。年頃なら自然なことよ」
(花陽)「……でも、希ちゃんとにこちゃんがフォローしてくれてよかった……」
(凛)「ほんとににゃ……あの二人、頼もしいにゃ」
(穂乃果)「うん、さすがリーダー格の二人って感じかな。私たちもも少しは見習わないとね」
(ことり)「真姫ちゃん、外に出てる間に……落ち着けるよね」
(海未)「ええ。あまり詮索せず、そっとしておくのが一番です」
(絵里)「……海未の言う通りよ。私たちは何も見ていないし、何も聞かなかった。いいわね、皆」
(花陽・ことり・凛・穂乃果・海未)「うん!」「そうだね!」「わかった!」「そうそう!」「もちろんです」
メンバーたちは笑顔を交わし、互いに軽く肩に触れたりしながら、部室の空気を少しずつ和ませていく。
赤面と戸惑いの余韻は残るものの、今は皆で穏やかな時間を取り戻していた。