ぶっちゃけ作者自身の人生観以外の何者でもない。
…逃げて、逃げて、逃げ続けて。走って、走って、疲れて走れなくなって。歩いて、歩いて、そして倒れて。どこまでも逃げ続けてきた。
恥の多い生涯と一言で片付けるには、あまりにも恥を上塗りしすぎた。悔やんで、振り返って走って、過去を償いに行くにはあまりにも遠くに来すぎた。今更止まることなんて、できるはずがない。
そうして走り続けていたら、いつしか暗闇の中を走っていた。一寸先すら見えない真っ暗闇。それは、かつての自分が忌避して逃げたはずの、人生のどん底のようだった。
逃げ場なんて無かった。何せ周り一面真っ暗だ、逃げ場所なんてあるわけない。だから、一心不乱に走った。走った先に出口があることを信じて、方向すら分からずに走り続けた。
…どのくらい走ったか分からなくなった後。暗闇の中に、一筋の光を見出した。おそらく、あれがゴールだ。終着点の先にある、新たなスタート地点なんだ、と。擦り切れた頭でも理解できた。そのまま光に向かって走り続ける。
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…辿り着けない。おかしい。光は変わらず灯っている。少し走るだけで辿り着けるはずなのに。
…いや、違う。距離が変わっていない。走り続けてるのに、距離が変わっていない。まるで、自分自身が走り続けながら静止してるかのようー
ーああ、そういうことか。この暗闇は、かつて自分が逃げたはずの谷底の暗闇のよう、じゃない。そのものなんだ。
なら…ここは、人生の終着点そのもの、なのだろう。逃げ続けて、いつの日か呆気なく死んだ後、自分の死にすら気づかず、いつものように、何かから走って逃げてたのか。
…誰かが言った。人は何かを成す為に生を受け、成し終えた時、死んでゆく、と。逆に言うなら、成し終えるまで死なない、ということだ。それが世界に残ったものが残留思念、所謂幽霊や亡霊と呼ばれるのだろう。なら、ここにいる自分は既に亡霊だ。いや、亡霊以外になれるはずがない。
自分は、全てから逃げてきた。簡単な雑事から、やらなければいけないことまで。何かと自分に理由をつけて、成し得なければならないことにまで目を背け、背を向けた。そんな自分が、どうして何かを成すことができようか。
…なら、あの光は。恐らく来世か極楽かの類いに繋がっているであろうあの光は、何故此方に姿を見せた?決して届くことが無いなら、此方に姿を見せる必要は無いだろうに。
…もしかして、これが地獄なのか?希望を一切見せず、ただひたすらに責め苦を与えるのではなく。目の前にあるかのようにチラつかせて、浅ましく走らせて、その実永遠に届きやしない。真の地獄というものは、希望を見せてしまうのか?まるで天から垂れる蜘蛛の糸のように。
…ああ、止まれない。今更、止まれるはずが無い。あんな光を見せられたら、止まれるわけがない。いや、それ以前に。
恐らく、この残酷な真実に気付いた自分からも、逃げてしまうだろうから。光なんか無くとも、元より、止まれないのだ。
…
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…これは、誰でもない誰かの、短い絶望。
何かを成し、価値のある「誰か」になることもなく。凡ゆることから逃げ続けて、終ぞ誰になることのできなかった、名前すら残らない誰かの、価値のない独白。
墓碑銘には何も刻まれず、その存在を覚える者は誰もいない。そして、何処とも知れない地獄で、誰にも見つかることのなくただ1人、決して届くことのない光を追って走り続ける。
……若しくは、その現実からも、逃げ続ける。行き先も逃げ場も無い虚空で、自分を追い詰める凡ゆる現実から。
故にこの物語は、誰か1人のための物語ではなく。古今東西凡ゆる人間が辿り得る、末路の1つを語ったものである。