「弔ァァァァァアアア!!!!!」
純度百パーセントの怒りが、森そのものを侵していく。
オールフォーワンの絶叫。
空気を震わせ、
木々を軋ませ、
その場にいない者たちの本能すら刺激する恐怖だった。
魔王という存在そのものが激昂しているかのような圧が広がる。
だが、
そんなものは一切気にしない。
「ゼェッイ!!!!」
「死に晒せ!!!!」
出久と勝己は止まらない。
むしろ加速する。
「ハッ、ハハハハハ! ツヨ、イ。ツヨイナ、オマ、オマエラ!」
フードちゃんと呼ばれた脳無も、
笑っていた。
主人の絶叫になど興味はない。
歓喜。
興奮。
純粋な闘争欲。
それらを剥き出しにしながら、出久と勝己へ突進する。
巨体に見合わぬ速度。
さらに、
ビルすら薙ぎ払えそうな伸縮自在の剛腕が唸りを上げた。
だが、
悪魔の炎を宿した剛脚が、それを真正面から打ち砕く。
衝撃で空気が弾け飛ぶ。
さらに、
スピード自慢のヒーローたちを置き去りにするであろう加速も、
閃光のように煌めく超爆速を振り切れない。
「ツ、ヨイ。………ツヨイ。ハ、ハッ、ハハハハハハハ! ツヨイツヨイツヨイツヨイツヨイツヨイツヨイツヨイ!!」
歓声のような笑い声。
フードちゃんは、心の底から喜んでいた。
強者。
自分が最強だと証明するための強者が目の前にいるのだから。
しかし、
初撃こそ奇襲が成功した。
まだまだ調整中の未完成体。
真正面から出久と勝己の二人を同時に相手取り、
最強を証明するには、
性能が足りていなかった。
それでも足止めが成立している理由。
それは、
「クソが! 再生速度が異常過ぎて、ダメージ入ってんのか分からん!?」
「カッちゃんが吹き飛ばした手も、気づいたら治ってる!」
「面倒くせぇな!?」
再生。
その一点だった。
爆破で肉を抉る。
蹴りで骨を砕く。
普通の生物なら、それだけで何度止まってもおかしくない。
それでも、
「オレ、おっ俺ト、タタカ、戦エェェェェ!」
肉が千切れようと、
骨が砕けようと、
再生途中だろうと関係ない。
フードちゃんは止まらない。
脳無の前進は、
決して止まらなかった。
故に、
「コイツとオールフォーワンに組まれたら厄介だ。ヤレ、出久。」
勝己が短く告げる。
「これ、僕にとってトラウマの技なんだけど。」
「リハビリだ、リハビリ。」
「ハァ。………セントエルモス」
出久が息を吐く。
次の瞬間、
燃え盛る炎が、更に噴き上がり、
一瞬で圧縮。
炎熱が刃へと変わる。
焔が凝縮され、
灼熱へ昇華された。
「カ、カリョ、火リョクガ、マダ、アガ、上ガルノ、カ!?」
フードちゃんが驚愕する。
だが、
もう遅い。
「クロスファイア!!!!」
焔の斬撃が二閃。
空間ごと焼き裂くような十字炎牙が、
脳無の両足と右腕を切断した。
肉が焼け、
骨が断たれ、
巨体が大きく傾ぐ。
さらに、
「シィッッッ!!!」
容赦無用の三撃目。
左腕が爆ぜ、吹き飛ぶ。
四肢を一瞬で無力化された。
だが、
「(ココダ。)」
フードちゃんは思考していた。
強敵。
最高の獲物。
どうすれば勝てる?
どうすれば自分が最強だと証明できる?
その答えを。
そして今、
自分はダルマ状態。
対する相手は、
大技を放った直後で隙を晒している。
「(超再セッ、)」
再生。
それこそが、
パワーやスピードすら凌駕する、
フードちゃん最大の武器。
首から下が消し飛ぼうとも、
瞬時に再構築する超再生。
四肢を失ったその瞬間から、
肉が、
骨が、
神経が、
爆発的な勢いで再生を始める。
相手が一人であれば、
ベストジーニストだろうと、
ナンバースリーのホークスだろうと、
エンデヴァーだろうと、
たとえオールマイトだったとしても。
決まっていたであろう、
完璧な強襲。
それを、
「沈め。」
勝己は赦さない。
超爆速。
爆炎を噴き上げながら、勝己が上空から急降下する。
空気を突き破り、
一直線に。
フードちゃんの脳天へ向けて、
「ダッ!!!」
踵落としを叩き込んだ。
「イ、ッギャッ。」
空襲蹴撃。
凄まじい衝撃が脳天へ突き刺さる。
本来、
殺されない限り止まることのないフードちゃん。
だが、
完全ダルマ状態から、
脳天へ直撃した強烈な一撃は、
その意識を強制的に刈り取った。
巨体が沈む。
そして、
暴れ狂っていた脳無は、
静止した。
ーーーーー
「フゥ。」
荒い呼吸を無理矢理息を整える。
「ナイス、カッちゃん。」
「おう。分かりやすく回復頼みで助かった。」
強敵を撃破した。
本来なら、
安堵してもいいタイミングだ。
だが――
それを許してくれない存在が、まだ目の前にいる。
俺も出久も、
正直、限界が近い。
いくら発目の発明品を身に付けていても、
フルクラスターは、そもそも限界を超えて個性を発動する技だ。
痛みは制御に必要。
だが、
そんなもん、とっくに許容限界なんざ超えている。
出久に関しても同じだ。
身体操作の達人とはいえ、
あれだけの強打を連発している。
疲労とダメージは、
確実に身体を蝕んでいた。
対して、
目の前のラスボスは――
大したダメージも入っていない上、
俺たちが脳無とやり合っている間、
ほとんど動いてすらいねぇ。
ん?
脳無をぶっ潰してから、
既に数十秒。
オール・フォー・ワンを警戒するが、
「………動かねぇな。」
「………うん。」
先ほどの絶叫。
そして森中へ圧を撒き散らした当人は、
「………………。」
無言で立ち尽くし、
偽の麗日を掴んでいた手を見つめていた。
………まあ、
目は無さそうだが。
「オイ、出久。麗日たちはマジで無事なんだろうな。」
「………多分。」
「多分だぁ?」
「正直、死柄木弔を信じるしかない。」
「ハッ、さっきまで殺し合ってた奴を信じるしかねぇとはな。」
だがまあ――
勝己は鼻を鳴らす。
「出久、テメェはアイツを信じたわけだな。」
「うん、信じた。」
「なら、俺は死柄木を信じたテメェを信じるだけだ。」
「カッちゃん………。」
方針確認は終わった。
後は――
「指導者として、教え子の成長を喜ぶべきなのか。」
………ずっと黙っていた奴が、
唐突に口を開いた。
「だが、そうだね。」
圧が増す。
空気が重く沈み込む。
森全体が、
野郎の感情に引き摺られるようだった。
「せっかくだ。怒り、という感情を解消する方法の一つを試してみよう。」
両腕が前へ突き出される。
ゾッッッッッ!!!!!
全身の細胞が警鐘を鳴らした。
出久も同時に駆け出している。
感じる気配がヤバいのもある。
だが――
奴の腕が、
俺たちに向いてねぇ。
「八つ当たりだ。」
異様に巨大な槍が出現する。
薙ぎ払いと同系統。
異骨と鋲突の合わせ技。
骨とも金属ともつかない巨大槍が、
禍々しい音を立てながら形成されていく。
それが向けられている先。
森。
いや、
その更に先。
……………広場。
間に合え!!
「カッちゃん、逸らす! 一瞬止めて!」
出久の声が響く。
だが、
駄目だ。
確実に被害を出さないためには――
打ち砕くしかねぇ。
「消し飛ぶが良いさ!!」
奴が槍を射出した。
なんで槍にブースターなんか付いてんだよ、クソが!?
爆炎を噴き上げ、
超爆速で槍の正面へ回り込む。
そのまま、
爆破で高速回転を開始。
爆撃の連鎖を纏いながら、
死の槍へ真正面から突っ込む。
「言ったはずだぜ、オールフォーワン。」
悪ぃ、出久。
「目の前に現れた理不尽だけは、見過ごせねぇ。」
先に、
全部出し尽くす。
「俺は、キャプテン・ダイナマイト。全身全霊で、」
今の俺の、
最大打点。
「手の届く範囲の理不尽は確実に、殺すってなぁ!!」
「ハウザー・インパクト・フルクラスター!!!!」
ーーーーー
カッちゃんは、
逸らすことではなく、
砕くことを選んだ。
お互い、
もう余力はほとんど残っていない。
カッちゃんはここで、
全てを出し切る気だ。
確かに、
仮に逸らせたとしても、
オールフォーワンが遠距離操作可能だった場合、
あの槍が広場を襲う可能性はゼロじゃない。
「ハウザー・インパクト・フルクラスター!!!!」
爆炎が渦を巻く。
爆撃の連鎖が、
巨大な爆破の竜巻を形成する。
そして、
異形の槍と、
爆破の竜巻が激突した。
一瞬の鬩ぎ合い。
直後、
カッちゃんが槍を、
弾き返した。
が、
「まだ!」
弾かれた槍の表面が割れる。
しかし、埋め込まれていたブースターが火を吹き、
矛先を再び森へ向かわせた。
カッちゃんの懸念通り、操作可能な攻撃!?
だからこそなのか。
ハウザー・インパクトが直撃した後も、
カッちゃんの攻撃は止まっていなかった。
爆破の竜巻が、
死の槍へ追撃する。
最大威力の爆破を叩き込む両掌が、まるで星空を作るかのように輝く。
爆破の回転率を極限まで高めるため、手の甲が火を吹く。
爆破しても、
爆破しても、
爆破しても、
前へ出続けるため、背中が爆ぜる。
攻撃姿勢を維持するため、両腕両脚から火花が散る。
勝己は、
己の全てを費やして、
オールフォーワンの槍を打ち砕かんとしていた。
「くぅぅだァッけぇぇェ、ろぉぉぉぉ!!!!」
爆撃。
連打。
連打。
連打。
連打。
連打。
連打。
連打。
連打。
連打。
ビシィッ!
「………何?」
オールフォーワンが怪訝そうな声を漏らす。
だが、
カッちゃんは止まらない。
「アイツらの物語は、まだ!」
連打。
連打。
連打。
連打。
連打。
連打。
連打。
連打。
連打。
連打。
連打。
ビシィッッッ!!
「序章なんだよ!!」
連打。
連打。
連打。
連打。
連打。
連打。
連打。
連打。
連打。
連打。
ビビッシィィィッッッ!!!
先ほどのような表面だけじゃない。
内側。
それも、
深い、
深い位置まで届くような亀裂音。
「ラスボスなんざ、お呼びじゃねぇ!!!!」
爆破。
爆炎。
爆撃。
爆砕。
爆散。
爆裂。
爆塵。
爆滅――――爆轟!!!!!
「死に、失セロォォォォォオ!!!!!」
カッちゃんの叫び。
轟音。
その全てと共に、
死の槍は、
木っ端微塵に爆殺された。
次は――
「今のを、一発しか撃てないなんて言っッッッ!?」
「その為の、僕だ!!」
崩れ落ちるカッちゃんを庇うのではなく、
僕は超神速で前へ出る。
カッちゃんが作ってくれた、
オールフォーワンへの直線コースを爆走する。
瞬きするより先に、
奴の眼前へ辿り着いた。
奴が突き出した腕を、
「スマッシュ!!!」
まずは一本、蹴り砕く。
そこから超神速の二撃目――
「片腕で撃てないとも言っていないんだよねぇ!!」
奴の左腕から、
既に死の槍が形成され始めていた。
不味い。
予想より早い。
「このタイミング。迎撃は出来ても、僕への追撃は出来なッ、」
光が走った。
威力は、
カッちゃんのブラスター程度。
でも、
その光線は、
レーザーは、
確かに、
魔王の腕を撃ち抜いた。
形成中だった槍が崩れる。
表情は見えない。
それでも、
僕らには分かった。
奴が、
オールフォーワンが、
『信じられない』
という反応をしたことを。
「青やッ!?」
奴が何かを叫ぶ。
だが関係ない。
明確な隙を晒した。
なら、
打ち抜くだけだ!
「イフリート・スマァァァァッシュ!!!!」
燃え盛る灼熱の蹴りが、
魔王の土手っ腹へ叩き込まれた。
ーーーーー
「ゴパァァァッ!?」
オールフォーワンとて人間。
腹を打ち抜かれれば、
口から大量の血と酸素が漏れる。
鉄仮面の裏には、
呼吸を補助する器具が備え付けられている。
だが、
「(不味い!?)」
補助器具が、
自らの吐血によって機能不全を起こす。
そして、
呼吸機能に関しては、
今のオールフォーワンは常人より遥かに劣っている。
かつて、
オールマイトが負わせた傷。
それが確かに今、
出久たちを後押ししていた。
「まだぁぁ!」
首狙いの蹴り。
異骨で外骨格を形成し、辛うじて防御する。
だが、
バキィィン!
その装甲すら、
一撃で砕け散った。
「(でも、腕は無事だぁ!)」
即座に手を出久へ向け、
鋲突で牽制しようとする。
だが、
パシッ、
「は?(掴まッッ!?)」
一本背負い!
「(触れることで個性を奪ってきたんだろ。掴まれる、なんて発想、お前にはない!)」
A.Tによる加速。そして、出久の異次元の身体操作。
それらが合わさった背負いは、
凄まじい勢いでオールフォーワンを回転させた。
「(受け身をッ)ヴォガァッ!!?」
長年、裏社会へ君臨し続けたオールフォーワンである。
受け身の一つくらい取れる。
だが、
脳天から地面へ投げ墜とされたのは、人生初だった。
「(………雄英は、なんて技を生徒に教えているんだ!?)」
…………冤罪である。
後頭部がひび割れているとはいえ、
頭部を完全に覆う鉄仮面のおかげで致命傷には至らない。
しかし、
相手は緑谷出久。
戦闘において、
憧れの相手にすら容赦しない男。
「バレット!!!」
「ボッッッ!?」
放たれた真空弾。
ゼロ距離で放たれたそれは、
天地が逆転しているオールフォーワンの腹を、
貫通した。
「(コイツ本当にヒーロー志望か!?)」
…………まったくである。
即座に痛覚を遮断するオールフォーワン。
「(さっきの吐血に、今の貫通での出血。常人なら普通に死ぬぞ。)」
出久という存在は、
狂気に満ちている。
つい先ほど、
相棒が皆を守るため命を賭けた。
なら出久は、
目の前の敵を完膚なきまで叩き潰すため、
その魂を賭けて駆ける。
故に、
「限界の更に向こうへ!」
その身が焼けようが、
「プルス」
その身が砕けようが、
「ウルトラァァァァァ!!!!」
魂で疾走する。
「(全身最大硬化!!!!)」
外骨格。
今度は全身へ展開。
鋲突と異骨を組み合わせ、
全身を覆う。
完全防御。
燃え盛る悪魔が、
魔王を追い詰めていた。
そして、
運命の女神が微笑む。
おそらくその微笑みは、
悪意に満ちていたのだろう。
「オレガ、おっ俺ナンダ。俺ガ、サイ強、サ、最強ナンダァァアァァァ!!!!!」
意識を取り戻した脳無。
考えての行動か。
本能か。
四肢の再生すら覚束ない状態でありながら、
突撃を敢行した。
狙いは、
先ほど自身へ手痛い一撃を入れた男。
オールフォーワンの死の槍を打ち砕くため、
全てを出し尽くし、
それでも倒れまいと足掻く、
勝己へ。
出久は猛攻を中断し、振り返る。
そして、
再び光線が煌めいた。
プロヒーローすら一蹴する脳無に、
『喰らいたくない』
そう思わせる一撃。
瞬きにも満たない時間。
その僅かな時間が、
勝己の命を救った。
「エアフォース・バレット!!!」
既に満身創痍だった脳無は、
出久の放った真空弾を後頭部へ受け、
再び沈黙する。
出久は即座に振り返る。
だが、
勝己を守るために使った一瞬。
それは、
魔王へ逃亡の機会を与えるには、
十分だった。
ーーーーー
広場
「ケロッ、止みましたね。」
「止んだな。」
ここまで絶えず鳴り響き、
轟き続けていた戦闘音が止む。
森に、
静寂が戻った。
評価、感想お待ちしております。