深海棲艦って怨霊の類じゃんよ   作:鳩胸な鴨

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海からやってくるモノvs海より出るもの

「今日は『出る日』でな。わしはここから先に入れん。すまんが、海まで歩いてってくれ。

…くれぐれも、顔を見んようにな」

「はーい」

「ありがとうございます」

 

街中で私たちを降ろしたハゲさんの車がUターンして引き返していく。

姿が見えなくなるまでソレを見送ると、白鳥さんが露骨に顔を歪めた。

 

「チッ!せめて送りなさいよ…」

「顔見たらアウトなんだから、仕方ないんじゃ…」

「じゃ、私たちはいいっての?」

「そうは言ってないけど…」

 

ハゲさんは何か対策があるのかと思っているんだろうけど、星子さんはそう言った類の道具や知識を与えなかった。

おそらくは、現時点の私たちでもなんとかできると踏んだのだろう。

顔を見ずに倒すって出来るのかな、と疑問に思っていると、浮輪さんが姿を見せた。

 

『大丈夫だぜ、ぶりっ子ちゃん』

「あ゛ん!?」

『…かわい子ちゃん。俺らには「フィルター」がある』

「フィルター?」

 

白鳥さんの圧に屈した浮輪さんが取り出したるは、黒いマスク。

鬼のようなツノが伸びるそれを前に、白鳥さんは露骨に眉を顰めた。

 

「何この趣味の悪いマスク」

『つけてみな、鎮守府ちゃん』

「う、うん」

 

浮輪さんからマスクを受け取り、目元に付けてみる。

瞬間。私の体から「ぐきっ、ばきっ、ぐちゃ」と音が響き、激痛が走った。

 

「あだだだだだだだだっ!?!?」

「ちょっと、音!音がグロい!!」

『鎮守府ちゃんだとこうなるか…。

その艤装に合うよう、骨格からバキバキに改造されてるみてーだな』

「さ、き、に、い、えぇぇぇぇええっ!!」

『今知ったんだもん』

 

もんってなんだ、もんって。中身成人男性なの知ってるんだからな。可愛くないからな。

無限に湧き出る激痛と怒りに意識を持ってかれそうになっていると、すぐに体の痛みが治る。

 

「っはぁ、はぁ…、死ぬかと思った…」

「髪が真っ黒になったわね…」

「ちょっと、浮輪さん…!?」

『すまんすまん。今叱る。

…おい、軽巡。お前、勝手に自分好みに改造すんなよな』

 

浮輪さんが体を向ける先は、私の腕。

ガントレットのように鎮座する深海棲艦が剥き出しの歯を開き、申し訳なさそうな声音を漏らした。

 

『ゴメンナ、鎮守府チャン。ツイ』

「ツイデ済ムカァ!!」

『ゴメンッテ』

 

腕に現れたそれに怒号を放ち、顔面を密着させる。

ついであんな改造されたらたまったモンじゃない。軽く三途の川見えたぞ。

消えていく激痛の余韻に反比例し、怒りが高まっていく。

その一方で、浮輪さんは私から露骨に顔を逸らし、白鳥さんに白いマスクを差し出した。

 

『さ、かわい子ちゃんもつけときな。でなきゃ、まともに戦えねーぞ』

「さっきの見てつけるわけないでしょ!?」

『だ、大丈夫、大丈夫だからっ!

かわい子ちゃんはもうアクサラの力が住み着いてるから!人ん家を勝手に改造するよーなバカはしねぇよ!』

「信用できるか!!」

「オウコラ私ダッタラエエンカ、エェ?」

 

私の体を持ち家みたいに言うな。

彼らの言い分に文句を垂れていると。

唐突に、私たちの周りを生魚を100倍濃くしたような悪臭が駆け抜けた。

 

「ゔっ!?生臭っ!?

アンタらじゃないでしょうね、これ!?」

『違ェよ!俺らはちゃんと脱臭済みだわ!』

「臭くはあるんだ…」

『言イ争ッテル場合ジャネェゼ。構エナ』

「えっ…?」

 

それが現れたのは、唐突だった。

海から伸びている太く、長い身体。ぬめりを感じられる光沢。びっしり並ぶ鱗。

蛇のような印象を受けるそれが、私たちの声に気づいてか、ゆっくりと動き出す。

 

『誰だァ?そこでくっちゃべってるドグサレヒコクミンはよォ…?』

 

ぐるり、と振り返り、その顔面が顕になる。

その膨れ、爛れた形。例えるなら、ぐつぐつと煮えたぎるお湯のよう。

赤黒いそれがこぼれ落ちそうな瞳を、ぎょろっ、と動かし、蛇のように大きく裂けたその口を開いた。

 

『お"オレ"の為に、死んでこいやァアア!!』

 

怒号を放ち、これでもかとグロテスクな顔面を見せつけてくるソレ。

それを前に思わず不安が湧き、私は慌てて軽巡さんたちに問いかける。

 

「顔ッ、顔見チャッタ!?ドウシヨ!?」

『落チ着ケ。平気ダロ』

「……あっ、ホントだ…」

『おい、軽巡!そっちは平気でもこっちがやべーぞ!!』

 

よかった、なんともない。

そう安堵するも、浮輪さんの焦る声に思わずそちらを見やる。

そこには、「自分の髪」で首を絞める白鳥さんの姿があった。

 

「か、ぁ…っ」

「し、白鳥さん!?なにやってんの!?」

『フィルター無しで見ちまったらこうもならァ!だから被れっつったろうがよ!!』

『コノママダト窒息スルナ…。オイ、「雷巡チ級」!

テメェラノ誰カ1人、嬢チャンニマスク寄越シナ!』

『アイアイサー!』

 

私の影から出てきた「何か」が青白い手を伸ばし、手に持っていた仮面を白鳥さんに被せる。

すっぽりと顔面を覆うそれが肌に引っ付くと同時、白鳥さんの首を絞めていた髪が緩み、彼女の咳き込む声が響いた。

 

「ぶっはっ…!?げほっ、げほっ…」

「白鳥さん、大丈夫!?」

「……こ」

「こ!?」

「これ、被ってても見えるんだ…」

「………確かに」

『ソンナ場合カッ!!来ルゾッ!!』

 

顔面をすっぽり覆っても、裸眼のように全体が見える不思議に感心する私たち。

そんな私たちを律するように、軽巡さんが怒号を放つ。

それに驚き、慌ててバケモノの方を見ると、アスファルトを這うようにして猛スピードで突っ込んでくる顔面と目があった。

 

『このクソヒコクミンが!!

素直に死なんかァい!!』

「わ、わわっ、わっ!?」

「歯をお食いしばりなさい!」

「ぐぇっ」

 

向かってくるバケモノのグロテスクな顔面にビビっていると、ぐんっ、と身体にGがかかる。

腰を見ると、白鳥さんの髪が巻き付いている。どうやら助けてくれたらしい。

白鳥さんは着地すると同時、私を乱暴に解放した。

 

「お借りはお返ししましたわ!」

「あ、ありがと、白鳥さん…」

『待たんかァ、ヒコクミンどもが!!』

「っ!?」

「白鳥さん!?」

 

着地狩りを狙っていたのだろうか。白鳥さんだけがその口に咥えられ、攫われていく。

それに焦る私を咎めるよう、軽巡さんが声を張り上げた。

 

『鎮守府チャン、砲身ヲ向ケロ!!』

「お、お願い!」

 

腕についた軽巡さんを突き出すと、その砲身全てがバケモノへと向けられる。

爆発音と軽い衝撃が伝わる。

その刹那、白鳥さんを掻っ攫ったバケモノの身体に爆発が突き刺さった。

 

『あぎゃあっ!?』

「このっ、よくもっ!!」

『ぐべっ!?』

 

よろめいたことで解放された白鳥さんの鋭い蹴りが数発、顎に叩き込まれる。

普通の人間なら気絶確定。しかし、目の前のモノにはそこまで通じず、うねり、周囲に殺意を撒き散らす。

 

『ションベンタレのヒコクミンがよォ…!

お"オレ"さまに逆らいやがってェ…!』

「嘘、効いてない…!?」

『中枢さんみたいなバ火力期待してくれてたんならごめんだけど、こいつの砲撃そんなに強くないからな。強いのは魚雷の方だ』

『魚雷ハ海ジャナイトマトモニ進マナインダヨナァ…。ゴメン』

「うっそぉ!?」

 

視界の奥に見えてはいるが、ここから海はかなり遠い。走ってる間に追いつかれてむしゃむしゃ行かれる光景しか見えない。

突撃を繰り返す化け物を避け、私は肩に乗る浮輪さんに迫る。

 

「ちょっ、中枢さん呼べないの!?」

『多分、呼ぶと鎮守府ちゃんの仮面外れるぞ』

「なんで!?」

『中枢さんがオレらの中で一番権限強いから』

「そういうシステムなの!?!?」

 

要するに、このフィルターを使うなら軽巡さんより下の権限の深海棲艦しか呼べないと。

なんて不便極まりない体だ。

 

「わぁっ!?」

『ちょこまかと避けんじゃねぇぞ!!

だからテメェはヒコクミンなんだよ!!』

 

私たちは避けながら砲撃、殴打を繰り返すも、化け物にはまるで通じてない。

白鳥さんもジリ貧だと思ったのか、私の体をさらい、大きく距離をとった。

 

「わたくしのアクロバティックも、あの巨体だと通りがお悪いですわね…!」

「えーっと、えーっと…、あれないの!?

飛行機飛ばすとか、そういうの!!」

『もちろんあるぜ』

「出して!!」

『ほっぽちゃんスタンド、カモーン!!』

『アラホラサッサー!イクゼ、ヤロードモ!!』

 

浮輪さんが叫ぶと、ネコミミらしい突起がついた球体が群れを成して化け物を翻弄する。

ツッコミどころが多いが、私は一番気になった単語を返した。

 

「……………ほっぽちゃん?」

『アー…、マァ、気ニシナクテイイ』

「あ、そう…」

 

深海棲艦の中にも人型っているんだろうか。

「ほっぽちゃん」という可愛らしい名前からして、アイドルのような可憐さを誇るのだろう。

まだ見ぬ「ほっぽちゃん」に想いを馳せていると、顔を歪めた化け物が大きくうねった。

 

『ぬぐ、ぐぉっ…、ぶんぶんとぉ…!うるさいんじゃ!ヒコクミンの羽音がァ!!』

『大したダメージにゃなってなさそうだな…。

やっぱ弱点突かないと無理くさいぜ。内臓とか』

「内臓…」

 

そういえば昔、友だちに連れられて何かの映画で見た。相手の口の中に炎を吐く怪獣がいたっけか。

私は白鳥さんに目を向け、声をかける。

 

「………白鳥さん」

「奇遇ね。トドメは鎮守府ちゃんがお刺しになって」

 

白鳥さんも同じ考えだったらしい。

私たちがその場から駆け出すと、ぐるり、と化け物の目が周囲を一瞥する。

 

『なぁにを企んどるかァ、ヒコクミンが!!』

「軽巡さん!!」

『オウヨ!』

 

狙うは目元。何発か喰らわせるも、爆炎を切り裂き、顔が迫る。

 

『効かんわ、そんなしょっぺぇ花火!!』

「ほっぽちゃんスタンドさん!!」

『ホイサッサ!!』

『ぬぐっ、サカしいヒコクミンが…!!』

 

顔周りに集まり、撹乱するほっぽちゃんスタンドさんたち。

煩わしく思ったのだろう。化け物がうねうねとそれを払っていた、その時だった。

 

『ぐぇっ!?』

「首をお絞めるとお口が開くのは、妖怪も同じですのね!」

 

伸びた白鳥さんの髪が、その喉元を締め上げたのは。

苦しさ故か、それとも条件反射なのか。化け物は、がぱっ、と口が開く。

私がその下唇に飛び乗ると、彼は口を開きながらも罵倒を口にした。

 

『ご、ごの、ヒコクミン…』

『そのセリフを何度も聞いててわかったぜ。

テメェ、生前はそうやって戦争に否定的なヤツんとこに押しかけて怒鳴り散らした挙げ句、リンチにしてたタイプのクソだな?』

『ぞ、ぞれが、どゔじだ…!?』

『ビンゴ。ブチ殺シ確定ダゼ、軽巡』

『アタボウヨ』

 

どうやら、深海棲艦たちの地雷を踏み抜いていたらしい。

腕の軽巡さんを開いた口に突っ込み、叫ぶ。

 

「軽巡さん!!!」

『タラフク食エヨ!!』

 

開いた口に何発かの魚雷が放り込まれる。

喉を締められている分、多少引っ掛かりはしたが、一つが通り過ぎるとスルスルと魚雷が奥へと飲み込まれていく。

それを見届けて飛び降りると同時。爆発音が響き、海からやってきたモノの体が急激に膨れ上がった。

 

『おぼ、ぼぼ、ぼっ、ぼば、ばばぼ、ぼばぁあっ!?』

 

内側からの衝撃に耐えきれず、ぱぁん、と弾け飛ぶソレ。

残ったのは、問題の顔面だけ。

やはりここだけは特別頑丈なのだろう。私と白鳥さんは並んで立ち、アスファルトに転がる顔面を見下ろす。

 

『ぢぐじょぉ…、ぢぐじょぉ…!テメェらみたいなクソ非国民のせいで負けたんだぞ、ちくしょおおおっ!!』

「…これ、どう処理する?」

「…お火力が足りないけど、こいつのおキモい顔面のせいでお強いのが呼べないのよね?」

「うん」

「じゃあ、こうしてあげるまでよ!」

『むぎゅっ!?』

 

言って、白鳥さんが顔面をぐるぐる巻きにして隠し、吊し上げる。

先ほどよりは弱い痛みと共に体が戻ると、ぬっ、と複数の影が姿を見せた。

 

「あとはよろしく」

『ま、待て、待って…』

『鎮守府チャンノタメニ死ネ、愛国者(マケイヌ)

『待ぁあーーーっ!?待ァアアーーーーっ!!?』

 

その汚い絶叫を掻き消すように、延々と続く爆炎が顔面を覆い隠した。




海からやってくるモノ…生前は訳あって戦場に行けなかった人たちの家を訪問しては「非国民が!」と大声で罵倒し、結果的に村八分にしていた、戦時中によく見かけられたであろうクソ。戦後は帰ってきた兵士たちの家を訪れては、理由もなく罵詈雑言を浴びせていた。そのためいろんなところから恨みを買い、寝床に毒蛇を放たれて死亡。死体を海に沈められ、その逆恨みで妖怪となった。深海棲艦によって粉々に砕かれ、資材行き。

深海棲艦…「コイツ俺殺したクソだな。殺す」という個体が何体かいた。その中には軽巡棲姫のスタンドも入っていた。

軽巡棲姫のスタンド…生き残って帰ってきたけど村八分にあって海に沈められた。それでも恨むのは原因を作ったタコと戦争とそれを望むブタ野郎だけ。

浮輪さん…ナレーション役。自認は弁当に入ってるギザギザの葉っぱみたいなやつ。

鎮守府ちゃん…使う艤装に合わせて改造される可哀想な子。今回は軽巡棲姫に近い姿になった。

ほっぽちゃんスタンド…どうすればほっぽちゃんが顕現するか、四六時中考えているアブナイ奴ら。今のところ有力なプランは「鎮守府ちゃんほっぽちゃん化計画」。乗り気な奴らが何人かいるものの、良識が残ってる方の連中に睨まれて身動きが取れない。
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