ドライブレコーダーの安心感を日常生活でも感じたいと、ドライブレコーダーを頭に付けて外出してみた満田はお巡りさんからこっ酷く叱られる。それならばとレコーダーを内蔵した眼鏡を完成させるのであった。

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ライフレコーダー

今や標準装備となったドライブレコーダー。

不意な事故の記録や危険運転の抑止にも貢献して自動車を運転するドライバーにとっては必需品となっている。

ドライブレコーダーの付いていないとなにも証明できなくなると、未装備の車の運転を拒否する者まで現れる様になった。

満田大介もその一人だった。

「何かあったらどうするの?死んだら誰が証明してくれるの?自分を交通事故に合わせた奴のことなんて信用出来ないでしょ」

とドライブレコーダーに全幅の信頼を寄せていた。

ある日、満田は気付いた。

車に乗っていない時、俺の潔白を誰が証明するの?

満田は無防備な自分に気付き、急に怖くなる。

満田はすぐさま日常生活でもドライブレコーダーを装着する事にした。バッテリー式のドライブレコーダーを買って来て帽子の上に取り付け、意気揚々と家を出る。

しかし、その行為はすぐに巡回中のお巡りさんに止められる。

「君、頭に何つけてるの?」

「何って、ドライブレコーダーですけど」

「ダメだよ!勝手に撮っちゃ。盗撮だよ!と•う•さ•つ!

女の子の映っちゃいけないとことか、あと肖像権とか色々ややこしいんだから外しなさい!」

と取りつく島も無い。

結局、ドライブレコーダーは外されてしまった。

 

そこで満田は考えた。

どうやらレコーダーは日常生活に持ち込んでいるのがバレると怒られる様だ。

レコーダーがある事で犯罪の抑止にもなるのに愚かな事だ!

と憤慨もしたが、国家権力がそう言うのだから仕方がない。

犯罪抑止の効果については諦めるしかない様だ。

満田は身の潔白の証明の為にバレない工夫をする事にした。

伊達メガネと針の穴ほどのレンズで撮影出来る盗撮カメラを手に入れると、フレームと呼ぶにはちょっと太すぎるが、ギリギリおしゃれメガネと言えなくもないクオリティーのものが完成する。

 

早速、試運転がてらそのメガネを装着したまま一日を過ごしてみた。中にはフレームの太いメガネに違和感を感じこちらをチラッと見てくる人もいたが、ほんの僅かだったし、見られても一瞬見られるだけでそれ以上の接触はして来なかった。

満田の予想以上に他人は他人に無関心なのだ。

こうして満田は無事1日を過ごすことが出来た。

 

その日の夜は帰って、早速、動作チェックがてらメガネで撮った映像の鑑賞会を一人行った。

観てみて自分でも驚いたのだが、いつもと同じ日常が映し出されているだけなのに、カメラを通すと新鮮に感じるのだ。

毎日通る風景のはずなのに、知らない店とか、いつも同じ電車の同じ車両に乗ってる美人が映像でよくみるとさほど美人じゃなかったりとか、ツバメの巣とか。新たな発見がいくつもあった。

満田は夢中になった。

気付いた時には朝になってしまっていた。

初日の記念だと、その日の映像データを満田はパソコンに保存した。

 

次の日もその次の日も、結局、一人鑑賞会をやってしまう。

同じ通勤風景、変わり映えなどしないはずなのに、新鮮さが衰えないのだ。むしろ、昨日と今日では通勤電車の乗客の顔に元気がないとか、同僚の誰それが昨日と同じ服着てるとか細かい違いを見つけては一人悦に入っていた。

そんな時間が満田にとって貴重な時間となった。

彼にとっての宝物となったその映像データは結局毎日保存されることとなった。

 

ちなみに初日に眠り損なった反省から3倍速にして観るようにしたが、気になる所が映るたびに通常の速度に戻したりしたので、寝るのはだいぶ遅くなり、睡眠時間は3時間に満たなかった。

それでも彼は鑑賞会を辞めなかった。

 

睡眠時間の不足を補う為に、満田は数駅を戻って起点駅から乗るようにした。そうすれば座って眠れるからだ。

 

ある日、いつものように電車で眠っていると、横に座っていた女性から罵声を浴びせられていた。

女性は満田が痴漢をしたと喚いていたのだ。

満田は自分は寝ていたのでそんな事はしていないと弁明したが、女性は狸寝入りをしていただけだろうと食い下がる。周りの乗客も女性に同情的なようだ。

満田はメガネにつけられたレコーダーをスマートフォンに接続し、レコーダーの映像を女性と周りの乗客に見せる。

そこには椅子に座って眠っている満田の視点、すなわち膝の上で組まれた両腕がしっかりと映し出されていた。

乗客たちもそれを見て満田が無実だと理解する。

女性は悔しそうに「こんなの盗撮だ!無効だ」と叫びながらも、そのままスタコラとその場から逃げ出した。

満田は九死に一生を得たのだ。

 

この出来事はその日のうちにSNSを通じて広がり、夜にはニュースで流れるほどの反響があった。電話ではあったが、満田もテレビ局から取材を受けて当時の心境や、レコーダーを装着するに至った経緯などを話した。

レコーダーの存在が世間に知られるや否や、多くの人が欲しいと声を上げた。

ストーカーやDVの被害者、大事な商談が控えている商売人、果ては浮気を疑われている恐妻家の男性まで、犯罪の記録や、約束事の証拠、自らの潔白を証明したいと言う人達が必死に合法化を求めた。

 

結果、メガネ内蔵型レコーダーは、映画館などの所定の施設を除いて、使用を認められる事になる。所定の施設では、特定の電波が流れ、その電波を受けると撮影が停止するという機能を必ずつけるという条件を飲ませた方が、このまま野放しにするよりも良いと判断されたのだ。

 

主に防犯目的で人々はレコーダーを身に付けたが、街にカメラが溢れている事で、犯罪そのものが激減した。悪用を考える者も少なからずいたが、それすらも別の人がカメラにおさめる事で未然に防止された。

犯罪に限ったことではない。

常に撮られているという緊張感は人々を礼儀正しくした。

みんな少しだけお行儀良くなったのだ。

夜の街でも、泥酔した所を撮られては一大事とお父さん達は前より早く家に帰る様になった。家の中なら家族だけなのでまだ安心できるのだ。

人間の歴史上で最も穏やかな時代となったのであった。

 

平和へと世界を導いた満田を人々は救世主と呼び、彼が毎日保存していた映像データは救世主の人生の記録だと丁重に扱われた。

しかし、その映像を観た人は余りにも退屈なその内容にその記録映像を「バイブル」と呼んだ。


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