未来視で幼馴染のことが分かるんだが、絶望しかない()   作:うずつるぎ

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未来視とかいう地雷スキルを持たされた子の結末
エピローグ


 

 あれから、世界には何度か日が昇っては沈んだ。

 

 季節はすっかり温暖となって、今や夏虫が草原をひしめくようになった今日この頃、オレを含めた勇者御一行は飛竜に跨って聖都へと向かい、日夜、英雄凱旋に身を投じていた。

 

「おかしい。魔王を倒したら自堕落生活を送れるんじゃないのか」

 

 聞いていた話と違うぞ。

 

 やれ、祝賀会に出ろ。やれ、聖女様に謁見しろ。

 英雄となったオレ達は生涯汗水垂らすことなく聖女様に飼われて幸せ日向ぼっこを出来るはずが、現状は舞踏会やらなんやらに出席させられて非常に窮屈な毎日である。

 

 その魔王討伐の立役者である当の本人のルルアは、ぷくりと真っ白な頬を膨らませて、どこかご機嫌斜めなご様子である。

 

「なんか……ボクの思ってた勇者と違う!!」

「まぁ、言いたいことは分かるが」

 

 オレ達は速攻で魔王倒したからな。

 聖都に住む連中からしてみれば、なんか、ネオ・フロンティアが潰れたってヤベー噂にオロオロしてたら、いつの間にか事件が解決していたようなものだ。

 それ故に勇者ルルアを見ても衆人はなんだか微妙に感謝しきれないと言うか実感がないと言うか、とにかく、勇者っぽくない状態なのである。

 

 でもお前、森の枯れ木みたく名声に支配されてるわけじゃないだろ。

 

「そうだけど~……うー……!!」

 

 納得いかないのか、可愛い唸り声を上げて威嚇する幼馴染であった。

 そんなこんなでお偉いさんとお顔を合わせたりなんだったりで忙しい日々。

 

 今日もこれから凱旋パレードがあって、どうしてオレはこーんな良い客室に泊まらせてもらっていると言うのに、一日も自堕落出来てないんだろうか。

 

 というか、ルルアさえ出席すれば、オレとか居なくても良いんじゃないだろうか。

 

「そうだな。そうに違いない」

 

 誰もいないシャンデリアの輝く宿泊室でうんうん頷く。

 よし、そうと決まればさっそく自堕落を。

 

「やぁ、バカ弟子。そろそろパレードの時間だから迎えに来てあげたよ」

 

 客室のカギはしっかりと閉めたはずが、枯れ木の囁きが聞こえた。

 

 振り返ると、客室の窓を強引に開いた師匠がそこに。

 ここは地上3階。常識を知らぬ森の魔女様はまーた風魔法を悪用したようだった。

 

 或いは病み上がりの癖に色々といちゃもんを付けてオレ達に同行してきた、もう完全老害と化してしまっているオレの師匠とも言う。

 

「いい加減、堂々と不法侵入するのはやめて欲しいんだが」

「だったら少しはその自堕落性をどうにかしないと。まったく、私がお世話してあげないとキミは……」

「一応言っておきますが、これは師匠の年ボケを防ぐためにわざわざですね」

「ふむ。キミはいつになってもそのふざけた論調をやめるつもりがないらしいね」

 

 床へと叩き伏せられるいつものやつである。

 今や魔力量バカクソなオレはその気になれば師匠の愛の鞭にも反抗できるというのに、大人しく受け取ってやっているこの健気さ褒めて欲しい。

 

 だが少しは加減しろ! 普通に身体に響くんだ!! 反撃としてオレの圧倒的魔力でその♂とは思えんケツを揉みしだいてやってもいいんだぞッ!!

 

「わ、私は男だぞ……!」

「でも生涯、超絶美人男の娘であることはやめられないんですよね」

 

 この拗らせ魔女め! でもそんな師匠が好きだ!!

 自分で自分を抱きしめながら、仄かに頬を赤らめた師匠へ一歩迫る。

 あっ、ちょっと言い過ぎたか。軌道修正が必要だな。チラリと見上げると──。

 

「…………ん?」

 

 なんか……師匠が金糸の触角を指先に捩じりながら、モジモジとしてるんだが……。

 

「ま、まぁ……キミは私を救ってくれたからな。ど、どうしてもと言うなら、私は、その、キミの……」

「……うわっ(笑)。樹齢千年にてようやく乙女心を思い知りましたかwww」

「なッ!!」

「でも樹齢千年男の娘系師匠とか特殊過ぎてオレ以外に受け皿、」

 

 気が付くとオレは暴風に目を回されて、客室から大聖堂へと送還されていた。

 

「よし、勇者一行が揃ったぞ。着替えさせてパレードの準備だ!」

 

 この数日でオレがぐるぐる目をしている時に何が起こっているのかを理解してしまった関係者一同はオレを治癒することすらないまま手取り足取り物々しい服装に着替えさせ、そのままルルア達の待つ馬車へとぶち込みやがる。

 

「……ハッ!」

 

 結果、オレが意識を呼び覚ました頃にはパレードは終了してしまっていて、オレは衆人に情けない姿を披露しただけなのだった。

 

「照れ隠しが下手な師匠はこれだから困るぜ」

 

 なお、オレも照れ隠しをしていたという事実は棚に上げるものとする。

 

 パレードが終わればお次はまた祝賀会。一体何度繰り返せば気が済むのか。レッシュに叩き込まれた礼儀作法がこんなところで役に立つとは思わなかった。

 お行儀よくグラスを片手に佇んでいると、何やら、ベールに隔てられた最奥の御席でごにょごにょと囁く兵士と聖女様の影を見つける。

 

「聖女様。どうやら、宝物庫に侵入した賊は勇者一行に成りすましていたそうです。とりあえず牢獄に放り込みましたが、いかがなさいますか」

 

 うーん。世界は平和になったというのに、世の中は変わらず物騒なものである。

 

 また新たな汗水の始まりとかじゃないと良いんだが。

 

「犯人は『少年を! 少年を呼んでくれ! お姉さんのこと弁解してくれるはずだから!』などと供述していたそうです」

「あのカスが……」

 

 魔王討伐の報酬に研究費をしこたま受け取っていた癖に、まだ金が必要だと言うのか。

 

「だがこれは良いことだな」

 

 世に放ってはいけないカス過ぎる存在は、たった今、聖都でお縄に掛けられているのだから。

 そしてその封印は、二度と解いてはいけない。

 

「分かっているぞ。それが世のため人のためだ」

 

 数分後、オレの隣には、ヤサグレ目元をニヤリと細めるカスねぇがいたのだった。

 

「いやぁ、助かったよ、少年。やっぱりお姉さんのこと大好きじゃないか」

「……クソッ!」

 

 オレはこの人にも脳みそを破壊されているので、オレが聖女様に懇願して諸悪の根源を大復活させてしまったのは当然の帰結である。

 

 さっきまで牢屋に捕まっていたというのに、我が物顔で祝賀会に参加し、持参したお持ち帰り用の容器にまでおかずを詰め込むカスねぇの肝っ玉には感心の念を抱かずにはいられない。 

 ドラ猫の背中を掻いてやるようにお口の周りを汚したカスねぇを白いナプキンで拭いてあげていると、カスねぇはふと、背を屈めてオレの耳元に囁く。

 

「というか、少年は早くルルアくんと結婚してよね」

「……カスねぇに催促される理由が分からないんだが」

 

 いきなり爆弾を放り込まないで欲しい。喉が詰まって死ぬかと思ったぞ。

 オレは慌てて水で流し込んで胸を抑え、ふぅ。

 不満の視線を返すと、カスねぇはあっけらかんとした笑顔で続ける。

 

「お姉さん、堂々と少年のヒモになりたいな」

「頼む。誰か助けてくれ」

 

 ヤバい人に沼ってしまったかもしれない。ウィッカさんは時々神ねぇになるし定期的に弱った姿を見せてくるし、総じてヒモ適性が高すぎるんだ。

 

 やっぱり前世は近所で愛されてきたドラ猫だろ。

 

「うかうかしてたらルルアくんがお貴族様と結婚しちゃうかもしれないよ~? 少年はそれでいいのかなぁ~??」

「カスねぇとは二度と口を効かない」

 

 オレのデリケートゾーンに触れやがって……。

 

 肘でぐいぐいと背中を突いてくるカスねぇを押し退ける。

「あぅぅ……!」とか言いながら崩れているが、気にせずその場を離れてやった。

 そしてオレの足取りは真っすぐに、お貴族様や司祭の方々に囲まれてアセアセしている当代勇者なルルアの元へ。

 

 

 向かわない。

 

 

「……」 

 

 オレは人混みと大聖堂を流れる優雅な音楽に身を隠し、そっと、会場を発った。

 

 会場にたくさんの人が集まっているからだろう。大聖堂の広間は、音を奪ったかのような静寂に微睡んでいる。

 鳴り響くのは、無人の螺旋階段を昇り詰める音だけ。やがてたどり着いた尖塔の最上階。外の光が漏れ出す扉の前で一度立ち止まり、押し開く。さわりと、湿っぽい香りが頬を撫でた。

 

 小さな高台から見下ろすのは、聖都の洗練とした街並みだ。

 オレは徐に高台を歩いて、低い塀に足を掛ける。そして風魔法を発動し、聖都の外壁の向こうを目指そうとして。

 

「まったく、君はどこに行くつもりなんだい?」

 

 我が友の声が耳に届く。

 

 振り返ると、旅人服に身を包んだシリウスは、いつものように笑っている。

 

「僕の伴侶として放浪に付き合ってくれるのかい? それならそれで、僕は構わないけれど」

 

 その格好の通り、シリウスはこれから、流浪の旅に出るつもりのようだった。

 

 それは──いかに魔王メーダという真の悪が居たとは言え、シリウスがネオ・フロンティアを破壊した罪は消えないから。

 コイツは、勇者の傍に居るには闇が濃すぎる。こうして事実上の放免が許されているのが奇跡的過ぎるほどに。

 

 そしてそれは、オレもまた同じくであり。

 

「あぁ──」

「馬鹿だね」

「いだっ!?」

 

 ぺしんと、おでこを指先で弾かれた。痛いじゃないか。いきなり何をするというのか。眉を顰めてシリウスを見上げる。

 

 夏風が、吹く。

 

 さらりと、シリウスの長い前髪が揺れて虚空な左眼を映す。そしてオレの右眼も虚空で、互いが鏡合わせのように、オレ達は向かい合う。

 

「確かに僕と君は、大勢不幸にしたさ。その十字架を一生背負って歩かなきゃいけないのは、紛れもない事実だろうね」

「……あぁ」

 

「だけど」

 

 シリウスはニヤリと、いつものイイ笑顔で片目を瞑った。

 

「それを理由に、君が幸せにしてあげなきゃいけない人から目を背けるのは、違うだろう?」

「……」

 

 そう、なんだろうか。オレなんかが、誰かを幸せにすることは許されるのだろうか。

 顔を伏せたオレを見て、シリウスは呆れたように嘆息する。

 

「まったく、君は優しすぎるよ」

「……そんなことは」

「まぁ、僕を救ってくれたぐらいだ。それもそうか」

「お前は友達だろ」

「……そういうところだよ」

 

 ふぅとため息を吐く我が友である。

 訳が分からない。

 シリウスはオレの隣に立ち、青い、青い空を眺める。

 

「君の十字架は、半分ぐらいは僕が背負っておいてやるからさ」

 

 正午の鐘音が、聖都を響いた。

 出発の時間だ。

 シリウスはふわりと風魔法を纏い、軽く宙を浮く。

 

「偶には様子を見にきてあげるね」

「あぁ。待ってるぞ」

 

 そしてゆるりと、シリウスは風に流れるように尖塔を飛び立った。

 発ったのだが……途中でくるりと、こちらへ引き返してくる。

 

「なんだ。忘れものでもしたのか?」

「うん。一つ、忘れていたことがあったよ」

 

 案外、抜けている奴である。

 せっかくならオレが取って来てやろう。

 

 と思って踵を返そうとしたのだが、シリウスはそっとオレの頬へ両手を添えたものだから、動けない。

 なんなのだろう。

 穏やかな漆黒の瞳が、オレを映す。

 

「それじゃあ、またね。僕の……わたしの、たった一人の同胞よ」

 

 そっと、柔らかい感触が、唇に余韻した。

 

……おい待て。それはズルいだろ。勝ち逃げする気か。

 固まるオレを尻目にシリウスはニヤニヤと笑って、振り向き様に手を振る。

 

「次に会う時は何人子供がいるかな? 僕は三人だと予想しよう」

「お前合わせて四人にするぞ」

「ははっ、前向きに考えておいてあげるよ」

 

 オレの言葉に軽い笑声だけを残して、シリウスは聖都の空を消えていった。

 

 

 ♦♦♦

 

 

 別れとは、寂しいものだ。

 

 けれどその分、再会した時の喜びも大きくなるものなのだろう。

 だから、オレはこの決別を悲しまない。これは次のための喜びの準備期間だと思う。

 

「さて」

 

 雲の彼方へ消えたシリウスを眺めて、しばらく。

 背後には、出るタイミングを失ってオロオロとしている純白ドレス姿の幼馴染の気配がする。

 

 そろそろ声を掛けてくる頃合いだろうか。

 アイツはコミュ障だからな。ちゃんと丁寧に対応してやらないといけない。

 ということで、オレはゆっくりと背後を振り返り。

 

「どうした」

 

 そこにルルアはいなかった。

 

「……おかしいな」

 

 確かに幼馴染の気配がしたんだが……。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……ばぁっ!!

「ヒョッ!?!?」

 

 オレは驚きのあまり、重心を崩して尖塔から真っ逆さまに転げ落ちたね。

 

 あわや地面にぶつかりそうになったところで、ルルアの風魔法に救出されて尖塔へ舞い戻る。

 殺す気か!! と叫び出したいのはオレの方なのに、なぜだか息を切らしているのは、慌てて風魔法を行使したルルアの方である。

 

「な……なんで自分で魔法使わなかったの!?!?」

 

 おいおい、今更なにを基本的なことを。

 

「確かにオレは魔法をバカスカ使えるお前好みの強い男になったが、それはそれとして、極力汗水を垂らしたくない。出来ることなら一生誰かに介護されながら生きていこうと思う」

「うわぁ……」

 

 頬を引き攣らせて、一歩退かれた。そういう反応も嫌いじゃない。むしろもっと供給してくれ。

 終わっている性癖の持ち主であるオレから逃げ出すべく、更に距離を取るルルアだったが……おや、急いでこちらへ戻ってきたぞ。

 

 ちょんと、捕まえるようにオレの服の裾を掴む華奢な手。

 

 ルルアはおずおずと上目にオレを覗いて、声を小さく震わせる。

 

「…………シアン、どっか行っちゃうの…………?」

 

 どうやら、シリウスとのやり取りを聞かれていたらしい。

 

「……あぁ」

 

 青空を見上げ、呟く。

 そうだ。オレはお前の傍から姿を消そうと思っていたさ。世界の放浪者にでもなって、時たま大陸の各地でギャン泣きを響かせる奇妙な生物にでもなろうと思っていたんだ。

 

 だけど。

 

「シリウスに怒られた。ちゃんと、現在(いま)を見ろって」

 

 だから、オレはこれから言い訳するのをやめようと思う。

 これはすごいことだぞ。

 常に誤魔化したり茶化したりするオレが、真正面から心の声を告げるということなんだからな。

 

「……」

 

 ルルアも、予感しているのだろう。

 蒼穹の瞳は瞬き一つせず、オレの言葉を待っている。

 

 オレはルルアへと身体ごと向き直り、初めの一声を告げる。

 

「なぁ、ルルア」

「……な、なにかな……っ」

 

 あっ、コイツ、分かっているくせに気が付いていないフリしやがったな。

 まぁ、これはそういう儀式だ。

 オレは一歩前に出て、ルルアの華奢な肩へ手を乗せる。

 

 そして。

 

「オレは──」

 

「あっ、少年がもうおっ始めてるよ」

「師としてしっかりと見守らないとね」

「結果は決まり切っているがな」

「僕も、勇者にはもう将来の人がいるってことを聖女様に報告しないといけないしね」

 

「……」

 

 恥ずかしいから見守らないで欲しいんだが。

 

「んん゛っ」

 

 一度咳ばらいを挟み、オレはすぅと、改めて大きく息を吸い込む。

 

「オレは──」

「……うんっ」

「──性格カスナチュラル煽りモンスターとして成長してしまうお前をどうにかこうにか生かすためだけに、未来の見える右眼を使ってクソほど汗水を垂らす人生を送らされる嵌めになったことは既に知ってのことだと思うが」

「……え˝っ。なんか思ってた出だしと違う」

 

 奇妙な声を上げて、ぽっかりと口を開く幼馴染である。

 

「結果としてオレの左眼は戻ったが右眼を失い、五代目勇者一行が一人、隻眼のシアンとして名を遺す悲しき結末になってしまったわけだ」

「……あっ、う、うん。それはごめん……」

 

 もう、百年の恋も冷めたって感じの反応である。

 だが、仕方がないだろ。この愚痴まがいの現状説明は、儀式の言葉に必要なんだ。

 

 自然と、華奢な肩を掴んだ手に力が籠る。声が震える。心臓が破裂しそうだ。顔は熱いしあまりの動悸に視界がぼやけて、この場から逃げ出したくなる。

 それでも──オレは幼馴染から逸らした目を真っすぐに向けて、声を一つずつ紡ぐ。

 

「だから……その、なんだ」

 

 

 

 

 

 

 

「オレの右眼になってくれ、ルルア」

 

 

 

 

 

 

 

 世界は、静寂だった。

 風が止んだ。時が止まっていた。そこには、オレとルルアしか居なかった。

 

 

 

 

 

ヤダ!!

 

 

 

 

 クソデカボイスが、良い感じの雰囲気を粉々にぶっ壊した。

 

 

 コイツ……。

 

 ドチャクソ元気なコミュ障の笑顔にはピクリと笑みを引き攣らせざるを得ない。

 訳が分からん。三日三晩考え抜いた愛の言葉なんだぞ。何が気に食わんと言うのか。

 

 ルルアは乳白色の頬を林檎色に染めながら──オレを見上げて破顔する。

 

「だってボク、シアンのお嫁さんになりたいもん! 右眼じゃなくて隣に立ちたいっ!!」

 

 

 アァァァアアア~~~~!!!!

 

 

 オレは尖塔の高台をのた打ち回った。

 

「少年、壊れちゃったね」

「完全に堕ちたな」

「元からバカ弟子はルルアちゃん一筋だけどね」

「これは良い土産話が聖女様にできそうだよ」

 

 駄目だ。もうまともにコイツの顔が見れん。

 これまで散々他人に脳を破壊されまくってきたオレだったが、やはり最後に止めを刺すのは幼馴染の告白だったのだ。

 息をぜぇはぁと切らして立ち上がるオレの両手を包み込み、ルルアは真っすぐに蒼穹の瞳を見上げる。

 

「あのね! シアン!!」

 

 その顔は真っ赤で、それでもルルアは、精いっぱい大声を叫ぶ。

 

「ボク、シアンのことが好き! すっごく好き!! やっぱりボクの特別だった!!!」

「ほぎゃぁ……!!」

 

 火力オーバーも良いところだぜ。

 クソッ、オレも好きだ。カッコいい言葉とか要らん。それで十分だった。

 

 オレは感極まって抱き締めようとしたところ──ぐっと、引っ張られる右腕。

 

 

 

 

 

「だからさ! ()()()()()()()()()!!」

 

 

 

 

 

 

……ん?

 

「幻聴か?」

「今からボクとシアンで勝負するの!!」

 

 幻聴じゃなかった。

 

「ちょっと待て」

 

 ドチャクソ無邪気な笑顔の意味が分からず、額に手を当てる。

 

「なんでそこから戦闘に結び付く。どう考えてもこの流れは、このままお付き合いを始めてハッピーエンドを、」

「闘お!!」

「オレはもうこれ以上の汗水を、」

「闘うの!!」

 

 当然オレの意見が通るはずもなく腕を引っ張られ、オレは聖都にある神聖な闘技場へと引き摺られる結末である。

 やはり悪魔だ。コイツは青い悪魔なのだ。

 ルルアはようやく全力でオレとぶつかり合えるのがよほど楽しみなのか、その足取りは弾むようである。

 

「勇者ごっこの続き! ボクが勝ったらシアンのお嫁さんね! シアンが勝ったらボクのお婿さん!!」

 

 それだとどう転んでもオレは幸せになってしまうんだが。

 この後オレは、既に聖女様が根回し済みな観客溢れる闘技場でVS青い悪魔戦を決行させられ、幼き頃と変わらず衆人の前でボコカスに叩きのめされることになる。

 

 未来視じゃないぞ。分かるんだ……! そんな理不尽な未来がな……!!

 

 

 そうだ。

 

 

「……」

 

 オレはもう、未来を見ることはできない。

 

 だから、この先の幼馴染に絶望が待っていたとしても、オレはこれまでみたいに、幼馴染を救うことはできないのかもしれない。

 

 その当たり前が酷く恐ろしい。

 今だって、ルルアにどんな火の粉が降りかかってくるかが怖くて仕方がない。

 

 だから、未来視があればな。

 なんて、心のどこかで思ってしまうオレの弱さを、どうか許して欲しい。

 

 だけど。

 

 約束したから。

 現在(いま)を見つめて生きていくことを。

 今この瞬間を蔑ろにせず、共に歩いていくことを。

 

 

 だって、ほら。

 

 

 現在(いま)を見る左眼に隣を覗けば──ルルアはとても楽しそうに、笑っているのだから。

 

「……んへへ! ちゃんと本気でやらなきゃメッ! だからね!!」

 

 オレはもう、未来を見る必要なんてないのだろう。

 

 




 
 これにて『未来視で幼馴染のことが分かるんだが、絶望しかない』は完結となります。

 さて、早速ですが未来の話をしましょうか()
 
 次回作のお話です。

『廃品回収業者をしていた、勇者を回収していた』

 以前のアンケートで相談させていただいた結果を元に、最も票の多かったこちらを投稿しようと思います。

 次回作の連載開始日は、来週の土曜、1月31日(土)の午前9時台となります。
 筆者をお気に入りユーザーに登録するなり検索いただくなりして、新作にも遊びに来ていただけると嬉しいです。

 最後になりましたが、感想、お気に入り、ここすき、評価など、今日まで支えてくださった読者様には感謝の気持ちを禁じ得ません。
 その一つ一つが筆者の学びになると同時に、物語がより面白くなるアイデアに繋がり、また、筆者の心を温かくしてくれたものでした。

 ここに読者様への感謝を記させてください。

 では、4か月ほどの間、お付き合いいただきありがとうございました!

 また1月31日にお会いしましょう!

 
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