「……何しに来たんです、天哭星『ハーピー』の『バレンタイン』さん?」
セーラームーン達と激闘を繰り広げていた美春は、新たに現れた
冷たい表情のまま『ハーピー』の
そして気掛かりなのが、突然のセーラームーンの不調だ……新たに現れた
「……セーラームーン、あの人のことを知っているの?」
セーラームーンの変化に気付いた ちびムーンが心配そうに問い掛ける……ちびムーンだけではなく、他のセーラー戦士も心配そうにしている中、幾分落ち着きを取り戻したセーラームーンが、ぽつりぽつりと話し始めた。
まだ、セーラームーンが戦士として覚醒して日が浅い頃、家族と共に行った温泉旅行の旅先で巨大なエナジーを感知して、正体を確かめる為に、相棒の黒猫ルナと共に少し離れた所にある山へと足を踏み入れ――地滑りを起こした事で剝き出しになった大きな石の層と、それを見上げる金髪の男性と遭遇した。
「……その人は突然襲い掛かって来た……人を大きく超えたその戦闘力は、今にして思えばあの人も
「――もういい、セーラームーン! 無理をしなくて良いんだ」
表情を曇らせながら、ぽつりぽつりと話すセーラームーンを抱きしめて気遣うタキシード仮面と、心配そうにしている他のセーラー戦士達……つまり、彼女達がセーラームーンと出会う前に、セーラームーンは
セーラームーンの説明を聞いていたのは彼女仲間達だけではなく、美春や新たに現れた
「……あのまま くたばったかと思っていたが、しぶといな――ならば、今度こそ冥界の門を潜らせてやろう」
「――こ、これは!? みんな気を付けて!」
『バレンタイン』が
「――くらえ、これが全力の『グリード・ザ・ライヴ』だ!」
『バレンタイン』が高く掲げた両腕の先――両手を交差させることで、極限までに高められた
「――させるかよ!」
うみへび座『ヒドラ』の
……後に残るは、攻撃の態勢を解いた
「……何のつもりです、バレンタインさん」
クロスさせた両腕を解いて、バレンタインを睨み据える美春……今の攻撃はセーラー戦士だけではなく、確実に美春も攻撃の対象に入っていた……厳しい口調で問い掛ける美春を、鼻で笑ったバレンタインは嘲るような笑みを浮かべる。
「……紛いモノの分際でよく耐えたものだな……ちょうど目ざわりだと思っていた所だ――この場で葬ってやろう」
突然現れた『ハーピー』の
両目を動かして周囲の様子を探るが、まわりにはセーラー戦士達や地場先輩の姿はなかった……あいつらは無事だろうか? ……しかし何だろうか、やたら頭が回らず、気を抜くと眠気が襲ってくる。
このまま眠気に抗わずに眠ったら気持ちが良いだろうが、流石にこの状況下でのんきに寝るなど責任感が無さすぎる……そう思って身体を動かそうとするも まったく動かない……『ハービー』の
視線を動かして周囲の様子を伺おうとするが、視線を動かす事も億劫になって来た……そんな市だったが、視線の端にひび割れて見る影のない「ヒドラ」の
「……市くん?」
それは この黄泉平良坂に迷い込んで、ただ一人行方が分からなかった元麻布高校の先輩 天川 美夏だった。敵として立ち塞がった地妖星『パピヨン』の
何とか美夏の方に視線を向ける……見れば彼女の服装の所々には汚れが付いており、この冥界への入り口をさ迷っていたのが分かる……こちらを見つけたのがよほど嬉しかったのか、こちらに駆け寄ってきた深夏だったが、近づくにつれ市の残状に気付いた深夏の足が止まって口に手をやって息を呑む――それほどまでに市の姿は酷かった……手足はかろうじて繋がってはいるが、彼の身体を守る
「……市くん…」
大地に力なく倒れ伏すその姿は、素人である美夏の眼で見ても致命傷である事は明白であった……かける言葉が見つからない美夏は、ただ市の名を呼ぶことしか出来なかった。
大量の血液を失って霞む眼で深夏を見ていた市だったが、ふいに気付いてしまった……彼女はこの冥界への入り口の傍にいるというのに何故 何の影響も受けていないんだ? この黄泉平良坂は冥界の法則に支配されて、死者の群れが延々と歩く死の匂いに満たされた場所であり、生者といえど死の匂いに満たされたこの場所にいれば体調を崩してもおかしくない筈だ。
「……あ…まか…わせん……」
「――市くん?」
口を開こうにもその余力すら残ってはいない市の声にならない声に、眉を寄せて訝しげにする美夏……彼は一体なにを言いたいのだろうか、と。
――だが、市の心情はそれどころではなかった――美夏に向けていた視線の端に、『ヒドラ』の
……なにが、地上の覇権を巡る神々の戦いの先兵として参加する権利を得た、だ。
なにが、地上の愛と正義を守る
……倒した相手の返り血を浴びた
「……市…くん――まさか!?」
反応を見せない市に早合点した深夏が駆け寄って傷だらけの身体を抱き起こして必死に呼びかけてくる……天川先輩、そんなに揺さぶられると痛いでやんす。
実際には痛覚すら鈍くなり、痛みを感じる事が出来なくなっていたが、市は最後の力を絞り出して深夏に語りだした。
「……あ…まかわ……せんぱい…」
「――市くん、喋っちゃだめだよ!」
「……いいん…だ……それよりも……美春ちゃんのこと……だが、今……新たに出てきた……
「……新たな
さぁな、あの新たに出てきた『バレンタイン』という
「……だから……先輩…アンタが……戦うんだ……」
「――えっ?」
俺が“生け贄”だとしたら、この冥界の入り口近くにいるのに何の影響も受けていない天川 美夏こそが、この世界の主人公なのかもしれない――市は最後の力を振り絞る。
――さあ、いけ! 『ヒドラ』の
ありったけの
「――こ、これは!? 市くん! ……市くん?」
突然自分の身体に装着された躍動感溢れる『ヒドラ』の
「……市くん………」
彼と出会ったのは、狂った人達が起こした、狂った事件の中であった……屈強な男達に警護された屋敷にたった一人で乗り込んだらしい彼は、不思議な鎧を纏って屈強な男達を瞬く間に制圧して“食材”として囚われていた自分達を開放してくれた。
そんな彼が、学校の後輩として再び姿を現した時には心底驚いたものだ……妙に馬が合って、たまにつるむ様になった彼は普通の学生と何ら変わりはなく、事件の時に見せた超人的な力を見せた彼と同一人物とは思えないほどであった……とはいえ、内面はノリの良い面白い人なのだが、目つきが悪く強面の顔をしている事もあって、中々クラスに馴染めなかったようだが、最近では自分や地場 衛が懇意にした事で、少しずつクラスメイトを話すようになってきたと、極悪な表情を崩して照れくさそうに笑っていた。
「……なのに、こんな何もない所で死んじゃうなんて……君はそれで良かったの?」
見るものによっては穏やかな……まるでやり切って満足したかのような、穏やかな表情のまま命を燃やし尽くした土浦 市の死に顔を見た深夏は一筋の涙を零した……。
どうも、しがない小説書きのSOULです。
戦いの渦中で市は倒れ――『ヒドラ」の
――さあ、天秤はどちらに傾くでしょうか?
今回はこれでストックがすっからかんです。
これからもぼちぼち書いていきますので、出来れば気長にお待ちくださいませ。
では、また。