1級フィクサー ヒンドリー   作:LAN_0704

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「ヒンドリーがもっとまともだったら?」をコンセプトにした小説です。原作6章での彼は飲んだくれのろくでもない人物ですが、父親の愛に飢えた哀れな一面も持ち合わせているキャラクターです。若い頃に強化施術や戦闘訓練を受けたりと、もっとまともに鍛えていたらかなり強かったのでは?と思い、ifの物語として書き始めました。楽しんでいただければ幸いです。


序章
異物


 

 

11歳の頃、父さんが裏路地から薄汚いボロきれをまとった、褐色の肌の子供を拾って、出張から帰ってきた。歳は、4つ下の妹──キャサリンと同じくらいだろうか。少なくとも俺よりはずっと小さくて、不安気な顔で俯いている。

 

名前はヒースクリフというらしい。

帰ってきた父さんは「土産はないんだ」と小さくこぼして俺とキャサリンに謝り、その代わりと言わんばかりにヒースクリフの手を引いて「今日から彼もここで暮らすことになる」と告げた。

 

本来、父さんがその手に持っているのは俺がねだった新しいバイオリンのはずだった。練習して、いつか曲を披露しようと、楽しみに父さんの帰りを待っていたのは、今でもよく思い出せる。

 

だが、代わりに連れてこられたのは、薄汚い.......子供。

父さんと手をつないだその子供は、どう控えめに言っても浮浪者そのもので、見るからに汚く、不衛生で、正直に言えば気持ち悪かった。

おまけに、余所者のくせにまるで父さんの子どもかのように振る舞っているのが、心底気に食わなかったのを覚えている。

 

今思えば、あいつも初めて会った他人の前で緊張していただけなんだろうが、当時の俺に、そこまで察してやれる気遣いなんてあるはずもなく、初対面だが既にそいつのことが嫌いだった。

 

キャサリンの反応はもっと露骨だ。

というか、はっきりとヒースクリフの目の前で「こんな乞食みたいな子と一緒に住みたくない」と不満を口にしている。

 

俺も全面的に同意したかったが、流石に11歳にもなれば人の機微くらいは読み取れるし、無駄に反発しても父さんの決定が覆らないことぐらいは分かっていた。

 

だから口には出さなかったが、表情には出ていたのだろう。俺を一瞥した父さんは、低く唸るように息をついて、短い沈黙のあと「仲良くするように」と冷たく言い放った。

それが、そのヒースクリフとかいう奴を、父さんの子供である俺より優先されているようで、余計に癇に障った。

 

ぶつぶつと文句を垂れる妹をネリーっつうバトラーが宥めるのを横目に、

俺は歯ぎしりしながら階段を駆け上がり、自室へと逃げ込んだんだ。

 

扉を乱暴に閉める。

鈍い音が壁を震わせ、棚の上の写真立てがかすかに揺れた。ベッドに腰を下ろすと、胸の奥がざわざわして落ち着かない。

 

────仲良くしろ、だって?

どの口が言うんだ、クソが。

 

母さんがいなくなってから、父さんが誰かを連れて帰るのは初めてだった。それが、どこの馬の骨とも知れないガキだったことが、どうしようもなく癪に障った。

 

ベッドの軋む音が耳障りで、思わずシーツを握りしめる。外からは、玄関のほうでネリーの声がかすかに聞こえた。

 

「さ!お風呂に入りましょうね、ヒースクリフ」

 

その言葉を聞いて、ますます気分は悪くなった。拳を強く握り、ベッドに力任せにバンバンと叩きつける。父さんだけじゃなく、あんな薄汚い奴に親切してる奴が他にもいるかと思えば、ますます苛立って仕方がない。

 

時間の感覚がぼやけるほどに、腹の底で小さな苛立ちが燃えていた。

そうして暫く、ベッドに伏せ──チクタクと時計の音を聞いていると、やがて、廊下を歩く足音がした。

軽い、ためらいがちな足取り。そしてそれが、俺の部屋の前で止まった。

 

ノックの音が、ひとつ。小さく、控えめに。

 

「...........あ?誰だよ」

 

返事をする前に、扉がわずかに開く。

隙間から覗いたのは、あの拾い子──ヒースクリフ。

目が合った瞬間、空気が張り詰めた。

 

「...........あの」

かすれた声で、あいつは言った。

「アーンショウさんが.........その、"挨拶しろ"って」

 

その瞬間、俺の中で何かがぷつりと切れた。

誰のせいで────誰のせいで!

こんな気分になっていると........!

 

「勝手にしとけよっ!!!」

 

吐き捨てるように言い、開いていた扉を思いっきり蹴り飛ばして無理矢理閉める。しかし扉の向こうの気配はしばらく消えなかった。

やがて、足音が遠ざかり、あいつが去った後も、灯りを消した闇の中で、ヒースクリフの影がじっと俺を見つめている気がした。

それがなぜか、息苦しいほど重く感じられ...........。

 

──その夜、俺は眠れなかった。

明かりを消したまま、あの薄汚い奴の名を頭の中で何度も反芻していた。

 

ヒースクリフ。

あいつと出会ったことが、きっと俺の人生の分岐点だったのだろう。





本作では、キャサリン、ヒースクリフは同い年。ヒンドリーとは4歳差ということにしています。時系列としてはL社の前身である研究所が襲撃された時点でヒンドリーは13歳、そこから数年以内に煙戦争が勃発し、L社設立、TT2プロトコルによる一万年の繰り返し(現実時間10年経過)、白夜・黒昼→さらに10年経過(この期間に図書館)→リンバスという流れになります。よって、リンバス時点で彼は33歳ということになります。
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