1級フィクサー ヒンドリー   作:LAN_0704

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続きです。
今回は長め........早く展開を進めたいのですが、急ぎすぎでも良くないということで悩んでいます。原作キャラなども多く登場させたいので、機会を伺っています。話の構成を考えるのは本当に難しい........。


虐殺

 

 

殴る。蹴る。払う。突く。躱す。防ぐ。

徒手空拳で可能な所作は限られていたが、こいつらのような雑輩(ざっぱい)相手にはそれだけで十分だ。仲間が吹き飛ばされ、驚愕で身を固めている隙を見逃すつもりもない。

 

コンマ数秒、俺が吹き飛ばした壁の方向に気をとられている女相手に一瞬で距離を詰める。それに気がついた男の方は間に割り込もうと動いていたが──遅い。間隙を縫うようにして繰り出された攻撃を、頭を屈めて回避し、女が筆を持っている左手の根本を掴んだ。

 

「────────!クソッ!(はな)

 

言い終わる前に、関節と真逆の方向へ力を込める。

 

パキ、という小気味良い音が鳴った。

骨が折れた音。手首が曲がった音。そして女が悲鳴をあげるよりも早く腹を蹴り飛ばし、吹き飛ばす。そして「く」の字に折れ曲がった体勢のまま、電柱か何かに激突して意識を失ったようだった。

 

 

「レヴァンッ!!!!!」

 

遅れて、男が女の名前と思わしき言葉を結ぶ。既に二人倒した。もしかしたらもう死んでいるかもしれないが、それでも僅かばかりの希望に賭けたのだろう。俺と女の間に入ろうと駆けていた髭の男は、急転換して電柱の方へと駆け出した。

 

俺もそれに倣い、追撃の為に男の背を追う。

1秒足らずの時間で追いつき、肩を強引に掴む事で女と男の距離を無理やり引き剥がす。憤怒に表情を染めてはいたものの、この時点になってようやく彼我の差を理解したのか及び腰となっていた。

 

奴の赤色の(まなこ)が煌めく。

怯え、怒り、少しばかり垣間見える理性の光。

俺を倒す為、僅かな時間の内に打開策を必死に見つけようとしているのか、慎重にこちらを観察している。仲間二人が脱落したこの状況下でも諦めない胆力は........流石指の構成員ってとこだけども。

 

しかし、いくら何でも限度がある。

いくら頭を捻ったところで、圧倒的なまでの戦力差はどうしようもない。

 

 

...........勝負ありか。

 

男を始末し、念のため先ほど吹き飛ばした痩せた男と女にもトドメを刺しておけば、依頼はほぼ確実に片付くだろうから──そうやって考えをまとめた瞬間、眼前の髭の男が筆を引くように構えて飛びかかってきた。いつでもカウンターを合わせられる姿勢で。

 

迎撃する為、拳を握りしめる。

足腰に力を貯める。

近づき、そのまま返す刀で顎を蹴り砕こう。

 

 

 

 

 

そう考え────とっさに飛び退いた。

 

 

後方から飛んできた何かを顎を引いて躱す。

少し気づくのに遅れたのか頬には赤色の液体が付着していた。やけに乾いたような感触だ。

 

これは、絵の具か?

 

一瞬、子供の頃に嵐が丘(あの家)の風景を眺めながら絵を描くのにハマっていたことを思い出した。母さんが生きていた頃で、当時はよく褒められて喜んじゃいたが、今となっては苦い思い出の一つ..........なるべくあの家のことは考えたくない。

 

第一、今はそんな場合じゃないだろ。

 

逸れた気を戻す。

この液体が何なのかアレコレ考えていると、攻撃が飛んできた方向から甲高い声が飛んできた。

 

「ククッ...........クハハッ!!!良い、良いぞ。これだ。私に足りなかったもの。あの方──マエストロ様にあり、私にはないもの!!!圧倒的な破壊と暴虐、そして死の味!そうか、こんな場所に答えが.........!」

 

「お前────最初にぶっ飛ばした奴か」

 

俺が内蔵を抉ったスチューデント.......だ。

ベレー帽は脱げ落ち、無口という印象からは一転。堰を切ったように言葉が口から溢れ出てくる。負傷などまるで感じさせないかのように歪んだ笑みを顔に貼り付けていて、一瞬別人かと見(まが)うほど雰囲気は一変していた。

 

壁に吹き飛ばされ気絶したか、あるいは力尽きたか?そう思ったけれど.......まさかそのまま戦闘に復帰してくるとは。無論、口からドバドバと吹き出していてとても無事とは呼べない。満身創痍だ。

 

液は........あの男の持っている筆が出所、だ。

筆先から、ぽたぽたと血が垂れ落ちる。

それは絵の具ではなく、赤色。

20区固有の、色が回収されて若干くすんだ赤色。

男自身の口から流れ出たものが、筆を伝って滴っている。ただの血じゃない。筆の効果か、何か.........何かしらの方法を用いて、血を絵の具のような性質に変えているのだろうか。

 

髭の男、痩せた男。

ピンピンしてる前者はともかく、後者はもうまともに戦えない筈だが、何の手品を使ったのか闘志は未だ衰えていない。

 

痛みを無視している?

何かしらの道具を使った?

特異点──(ワン)かK社の再生アンプルでも使ったのか?

 

色んな考えが頭を(よぎ)った..........まあ、結局こういう時の定石は頭、つまり脳を潰すこと。まさか禁忌に反する力を使っている訳でもあるまいし。あれこれ深読みする必要はない──はず。

それに、無限に回復できる類のものにも見えなかった。このままダメージを与え続けるか、もしくは脳を破壊するかすれば、問題なく殺すことができそうだ。

 

しかし..........それにしても....................,。

 

 

「.........まだ立てんのかよ」

 

「ハァ、ハァ.........ハハッ..........近頃、はッ、ハァ......スランプに陥っていたが......そうか、これだ。これだったんだ..........!」

 

 

血走った目。こちらの話が通じているようには思えない。真っ赤に濡れた歯の隙間から漏れる息は、もう呼吸というより一種の咆哮のように低く音を漏らしていた。死ぬ寸前の獣が最後に見せる意地......底力のようなもの。

 

重症だ。肋骨も何本か逝っているだろう。内蔵もとても無事とは思えない。だというのにそんなそぶりを少しも見せず、まるで何でもないように男は筆を構え、重心を落とした。

 

姿勢は崩れていたが、その眼だけは鷹のように鋭い。それは、動ける限界まで削り切った人間特有の──極限まで研ぎ澄まされた集中力の(たまもの)だ。

 

「次の.......ハハッ。次回の提出作品はき、決まった。貴様が私にしたように、私も、貴様を壊そう。そして.......飾る。苦悶に歪めたその顔を剥ぎ取り装飾すれば.....ああッ!今にも目に浮かぶようだぞッ!高明なる方々が私を賞賛する姿が.........光が!名も知らぬフィクサーよッ!!!」

 

痩せた男は吠える。

唾と血を混ぜたその叫びとともに、筆が突き出された。軸は削られ、槍のように尖っていた。狙いは喉。紙一重の精度だ。斜め後方には、軌道から外れた動きを補うように髭の男が陣取り、いつでもカバーに入れる体勢を整えている。

 

統率の取れた動き──明らかに洗練された連携だ。

阿吽の呼吸.......とでも言うべきなのか?

髭の男は前衛、痩せた男は後衛。呼吸の合い方が尋常ではない。攻撃の軌道が入れ替わり、まるで一つの生き物のように襲いかかってくる。

 

筆の突きが一閃、前方と後方から同時に襲来。

俺は半身でそれを外し、足を滑らせるように地面を蹴って反転する。だがそのわずかな退きの動きを髭の男が見逃さない。空いた死角を踏み抜き、振り下ろされる筆軸を肘で受け止める.......そうした攻防が、何度も何度も続いていった。

 

突き、回避。

払い、回避。

足払い、回避。

再び突き、反撃。躱される。

体当たり、更に足蹴。どちらも回避し、反撃。

 

互いの動きがぶつかり合い、打撃音と息遣いが交錯する。

俺の周囲を二人の筆が舞う。まるで、狭い空間の中で何十もの線が一斉に引かれていくようだ。筆先は風を切り、壁に叩きつけられた痕跡が血のように広がっていった。

 

その洗練された連携に多少のやりにくさを感じたが、18区で培った戦闘経験のおかげか、未だに優位は崩していない。事実、こちらは傷一つ負っていないにも関わらず、彼方側は少しづつ息が上がっているようだ。

 

再び突きが.......みだれ突きが襲ってきた。

一歩、踏み込む。半身で軌道を逃がし、痩せた男が弧を描くように筆を振る。俺はその動きを読んで体を傾け、刃の先を躱した。

 

そして隙を突くように髭の男の筆が、別角度から襲いかかる。避けられない。そう判断して腕で受け止め、反射で拳を返す──が、髭の男は読みを入れており、紙一重のところで直撃を避けていた。

 

 

これを..........躱すのか。

拳が耳を掠め、頬を裂いた。温かい血が飛び散る。

先程俺に殴られたのが嘘かのように、格段に二人の動きの質が跳ね上がっている。空気が振り抜いた拳に共振するように震え、男の髪をふわりと巻き上げると、若干の冷気を含んだそれが俺の肌を撫でた。

 

口元を拭いもせず、踏み込み返す。

再び拳を突き出す。だが相手は受けに回らず、踏み込みながら筆の軸で俺の腕をいなす。力の加減が絶妙だった。腕の軌道をずらされた俺の拳は、空を切り、受け流された。

 

「............っ!」

 

息を呑む。

しかし────何事にも終わりがあるように、敵もそろそろ限界に近いのだろうか。肩で荒く呼吸をする姿が目に入る。あれほど健闘した二人も、度重なる反撃でダメージが蓄積し、既に死屍累々のような様相を呈していた。

 

痩せた男が、わずかな隙を突いて体当たりを仕掛ける。肋骨が折れているとは思えないほどの勢いだ。反射的に膝を上げ、顎先を蹴り上げる。

ガンッ、と乾いた音。男の顔が上を向き、数歩よろめいた。

 

「ぐ、が...........ッ」

 

よろめく体を逃さず、腕を掴む。

さっき女にしたように、関節を逆方向へねじ上げ──今度は、躊躇なく肘を折った。

 

「アアアアアアアアアアアアッ!!」

 

悲鳴と同時に筆が落ちる。痩せた男は折れた腕で震えながらも武器を拾おうとしていた。血を撒き散らし、なおも筆を握ろうとするその姿に、狂気と執念が混ざり合う。まるで、痛みも限界も存在しないかのように──必死に肉体の限界を越えようとしていた。

 

「私は.......描き切る.......!そして.......ぐッ......マエストロ様にご照覧頂くのだ........こ、この身が朽ちても.......!」

 

その瞬間、男の身体が痙攣し、床に倒れ込みながらも最後の力で筆を振りかざす。俺の拳にわずかに触れ──かろうじてかすった瞬間、男は全身を小さく震わせ、地面に膝から崩れ落ちた。

 

「................大したもんだな」

 

拳を引かずに最後の一撃を叩き込む。骨が砕け、歯が飛び、肋骨が悲鳴を上げる音が響く。

 

痩せた男の身体は、最後まで抵抗するかのように蠢き、床に血を撒き散らしながら一瞬だけ空を仰いだ。

だが──次の瞬間、力尽きるように全身が沈み込み、地面に叩きつけられる。体の中で、空気が完全に凍りつくかのような、静かで重い沈黙が夜を満たす。

 

輝きが失われていくその瞳には、まだわずかな執念の光が残っていた。すぐに消え、赤い血が地面に広がるだけとなる。しかし、波が全てを呑み込むまでのほんの僅かな間ではあったが、その意志は裏路地の片隅にしっかりと刻まれていた。

 

 


 

 

 

 

 

沈黙。

夜風が生温く頬を撫で、頬の血を乾かしていく。

残りは一人だが.........これに関しては、わざわざ戦うまでもなさそうだ。痩せた男を倒した後、必死の表情で襲いかかってきたものの、一対一なら相手になる訳もない。蹴りで臓物を踏み抜き、血反吐を吐き散らかした時点で完全に心が折れたみたいだ。既に腰を抜かし、武器である筆を取る気概もない。這いずるようにしてたどり着いた先で、さっき蹴り飛ばした女を静かに抱き止めていた。

 

レヴァン、と呼ばれた女だ。

打ちどころが悪かったのか起き上がる気配すらない。

うわごとのようにその名前を呟いている男を嬲るような趣味は持ち合わせていなかったし、消えゆく命を求めてもがくその姿に僅かながらも憐憫を覚えた。早く楽にしてやろう。そう考えて、地面に転がっている筆を一つ取った。

 

瞬間、一閃。

流石は薬指というべきか、下っ端が手にしているような獲物でも並のフィクサーが手を出せないような性能をしているらしい。初めて手に取った俺でも簡単に首を落とせるほど、鋭利な先端だった。

 

ごとん、と首が床に落ちる音が思ったよりも鈍く響いた。転がった頭を突き刺さし、生命保険でも復活できないようにする。血の海に沈んだ筆の柄が、手元で小さく震えていた。指に伝わる血の温度はまだ熱い。心臓が奥で脈打つたび、その熱が指先へと滲んでくる。掌にまとわりつく血の感触は、濡れた麻布を握るようにざらついていた。

 

床に転がる首を、俺は視界の隅で確かめる。瞳はすでに焦点を失っており、唇が乾いている。死体──思えば殺した死体をまじまじと眺めたのは初めてかもしれない。17歳で初の殺人となると、早いのか、はたまた遅いのか。巣の中じゃ殺人に手を染めることは稀でも裏路地じゃ誰もが経験しているような事らしいが。

 

生気を失った表情をしばらく見つめる。石のような冷たさも、生花のような艶やかさも感じない。

 

女の方はまだ微かに体を捩じらせていた。どうやら生きていたようだ。死ぬまで時間の問題だろうが、電柱に打ち付けられた衝撃のせいで脳が揺れたのだろうか。唇が不気味に痙攣していた。抱きかかえられていた状態で胸がわずかに上下するのを見て、じっと、再起可能かどうかをじっと眺めて吟味する。けれども、再び動くことは.......不可能だろう。

 

終わりだ。

かくして、三人のスチューデントは打ち倒した。後は「病む者」をこの場に引き摺り出すだけ。

 

先程顔を砕いた男の方は既に終わっている。死にかけだ。地面に倒れ伏していた為仰向けにしてみたが、血が喉元から大量に流れ落ち、口や鼻の周りを赤く縁取っている。吐血の匂いと油の混ざった筆の匂いが、裏路地の冷気に混ざってつんと鼻を刺す。奴は腕を組むようにして呻き、口から出る言葉は断片的だ。片言の名前、誰かの断末魔に似た懺悔、あるいは祈り。

 

念の為、とどめを刺すことにした。先程簡単に髭の男の首を引き裂いたのと同じように、金属製の先端部分はいとも簡単に胸の肉と皮を貫き、心臓まで到達する。肉が搔き分けられるような嫌な感覚だけが手元に残ったが、その感触は機械のように無機的で、何度も突き刺す度に脳のどこかが一列に整理されていくような感覚を覚えた。

 

刃が肉を割く音、軟らかな組織が裂ける音、喉の奥で気管が潰れる音。全てが近づいて、耳の中で重なっていく。最後に筆を深く押し込み、心臓の脆い鼓動を完全に止める。そして使い終わった筆をどこかへ放り投げ、ころん、という床への響きが耳の中に余韻として残った。

 

時刻を確認する。時計の針はゆっくりと、しかし確実に進んでいる。2時29分。3時13分までの猶予はまだあるが、それでも81分間の波は刻一刻と近づいてくる。予断を許さない状況だ。

 

瓦礫の山、破れたビニール袋、飛び散った血の斑点。壁にへばりついた血飛沫は、街灯の光を受けてまるで乾いた赤絵の具の塊のように煌めく。足元には幾つかの小さな足跡──もしかすれば自分のものしかない。証拠は残したくないが、掃除屋が来れば、ここにあったものは全て波のように攫われるだろう。

 

血が、ポタポタと拳から滴った。

あの男の、砕いた頭から流れ出た血だ。生を実感させてくれる暖かさで、拳を包み込んでくれている。

 

...........残した仕事を、始めよう。

 

 






戦闘描写めちゃくちゃ難しいですね......アドバイスなどあれば感想欄にて是非お願いします。毎度感想来るたびに励みになっております!
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