1級フィクサー ヒンドリー   作:LAN_0704

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続き。
次回、初戦闘描写となります。


駆け出しフィクサーとして
都市怪談「病む者」


 

 

 

ハナ協会が発行するフィクサー免許を取得したことで、俺は正式に9級フィクサーとして登録された。本来もう少し複雑な手順を踏む必要があるらしいが、これに関しては裏路地ではなくある程度社会的信用のある巣出身の人間ということが良い方向に働き、手続きを滞りなく進めることができた。つまり今日から俺のフィクサー街道がスタートした、ってことだ。

 

一般的にフィクサーに割り当てられる依頼は事務所、あるいは協会を通して伝わるというイメージが殆どだろうし、実際間違ってはいないのだが、俺のように事務所を持たず、また協会にも所属していない実績ゼロのフィクサーに対しては、救済措置としてハナ協会から都市怪談以下限定の依頼を受けることができる。そこで実績をいくつか積めば都市伝説、都市疾病、という風に受けることができる依頼のランクも上がっていく。

 

ハナ協会からの依頼ということで実績に確かな信用が生まれる為、本当に駆け出しの中の駆け出しフィクサーたちからは人気の制度だ。無論、その分競争率も高いらしいが。幸いにも偶然枠が空いていたということで、その内の一つを出して貰えた。

 

ランクは下から二番目の都市怪談。

20区の裏路地の、さらに端に住む住民からの依頼のようで、とある隣人が越してきてから体の不調が止まらないらしい。被害は依頼者だけに収まらず、半径50m以内にある民家の住民が不調を訴えていたそうで、町がフィクサーを雇用して調査したところ、隣家........ゴミ屋敷に住む人物に原因があると判明したようだ。協会はこれを「病む者」と名付けて、正式に都市怪談として認定した。

 

具体的な被害としては、吐き気や嘔吐、発熱、軽度の躁鬱など。風邪に似た症状が多い為、名前もそれに倣ったものとなったのだろう。それが大規模に、数十人規模まで拡大したというのなら........被害は相当なものとなっている筈だ。ただし、どうやってそのような症状を引き起こしているのかは不明。そのような不透明性がある為、都市怪談の中では比較的高額の依頼となっているらしい。

 

依頼書の概要を読んだ時は、初めに被害の割にランクが低すぎる、と疑問に思ったが、これに関しては担当職員が解説してくれた。といっても解説するようなほど複雑でもない。都市災害ランクはあくまでも出せる金額に依存する。どれほど被害が起きても、拡大しても、それに出せる金額がはした金程度しかないのなら都市怪談止まりにしかならないのだろう。フィクサーを雇用したという町が依頼するならともかく、依頼者は特に被害が大きかっただけの1個人だ。ましてや裏路地の人間が出せる金額などたかが知れている。

 

「こうしたケースは多くありますね」と付け加えた職員だったが、それを聞いてからはまた別の疑問が浮かび上がった。なぜ、直接それを......「病む者」を殺さなかったのだろうか。依頼者本人は症状から無理だとしても、別の人間も複数被害を受けているなら誰かしらは殺そうという動きがありそうなものなのに。

 

その疑問を素直に伝えると──今までにこにことしていた担当職員の顔が初めて陰った。まるで、触れられたくないようなものに触れられたような..........

 

「どうかしました?」

 

「は............いえ、そのですね」

 

そう言う職員の顔は、明らかに良くないものだった。反応から見るに、依頼に関して何かしらの厄ネタがあるのはもうこの時点で大体察してはいたが、隠されたまま挑んで死亡、なんてことになったら洒落にならない。いっそ全て包み隠さず打ち明けてくれた方がマシだった。

 

何とか躱そうとしていた職員だったが、俺の追及から逃がれられないと悟ったのか、観念してポツポツと口を開き始めるまでにそう時間はかからなかった。

 

「実は.....病む者は指の保護を受けているようでして」

 

「は─────指?」

 

指というのは言われずとも分かる。

親指、人差し指、中指、薬指、小指。

裏路地を牛耳っている五つの組織を総じて五本指と呼び、何かしらの対価を支払えばその保護を受けられる。なるほど。直接殺すという手段も、そのバックを恐れて使えない、ってことらしい。ますます都市怪談レベルの案件ではないなと考えたが、それにしたって中々厄介な依頼だ。指に絡む、となると相応の対価は支払わなくてはならないだろうから。

 

「どの指です?」

 

「薬指です。薬指の概要については.......話さなくても大丈夫そうですね。病む者と呼ばれる人物は、薬指の保護を確かに受けています。殺さない──というより殺せないのはその為でしょう。もしバレたりしたら報復を受けて一貫の終わりですから」

 

 

薬指。

芸術を重んじる組織として知られている五本指の一角で、保護の条件は定期的な芸術作品の提出、そこで高評価を受けること──そして、もし何度か落第すればその場で命を落とす羽目になる。人差し指と並んで保護の条件が緩い為、何かと薬指に頼る人間も多いらしいが、殆どが落第して死ぬのがオチだ。

 

依頼の内容は、病む者の()()

対処や解決ではなく、処理という言葉を使ってるってことは............つまり、そういうことなんだろう。邪魔だから殺したいが、手を出せば薬指が出張ってくる。内容を考えればシ協会に依頼して暗殺して貰うのが最適なんだろうが、協会を通して依頼する金もない。そうした諸々の事情が相まって────こうして、危険度や被害に対して不釣り合いな都市怪談の案件が出来上がったのだろうと容易に想像がついた。

 

 

「.................................」

 

改めて、依頼について考えてみる。

俺は今日、フィクサーになったばかりの新人で........まだ何の実績もないペーペーの9級フィクサーだ。明らかに報酬に見合わない依頼を無理に受ける必要はない。薬指に絡まれるリスクを考えれば、むしろ断って当然だった。

 

が────しかし。

それは裏を返せば、成功した場合はその分協会側高く評価される、ということだ。難易度の高い依頼をこなせば、その次も割りの良い依頼を優先的に回してくれるようになるだろう。昇級の際も、有利に働くかもしれない。実際、この職員だって手をこまねいているからこそ指に関する情報を伏せようとしたのだろうから、その案件を解決したともなれば心証はかなり良くなる...........筈。

 

成功すれば良し。

失敗しても新人なんていくらでも代えが効くので問題ない。万が一病む者の処理に成功した後、俺が薬指の報復に遭ったとしても、それはハナの預かり知らぬところとして終わらせる。

 

ハナとしては、何のデメリットもない話だ。

流石12協会を統括する立場というべきか、その手法には多少なりとも狡猾さが伺える。まあ、この職員──おそらく新人──は、隠し事が下手だったようだけれども、もっと経験豊富な職員ならこちらに気づかせることもなく円滑に事を運んでいたんだろうな。

 

 

しかし..........とすれば。

 

「確認ですが、あくまでも依頼の内容は"処理"ですよね?事態の解決──つまり、不調の原因を明かしたり、治したりする訳ではなく」

 

「はい、それは勿論です。万が一依頼成功し、尚且つ依頼者の体調が治らない場合でも其方に依頼未達成のペナルティは発生しません。これは依頼発行時に確認している事実です」

 

「.............なるほど」

 

薬指と抗争している自分の姿が頭に浮かんだ。

おそらく、保護といっても裏路地の人間一人消えた程度では悪くてもスチューデントクラス数名争うことになるだけだろう。間違ってもそんな些事でドーセントやマエストロが出てくるとは到底思えなかったし、過去に聞いた話を参照しても、概ね正しいように思える。ただし、それはあくまでも()()()()()()()()()()()()()の話で────完全に、何の証拠も残らないのなら、報復を恐れる必要は全くない。もしこれが人差し指、あるいは中指だったのなら断っていただろうが、薬指相手──それも下っ端相手なら、何かとやりようもありそうだ。

 

「分かりました、受けます」

 

「...........!感謝します。しかし......宜しいので?」

 

「ええ、構いませんよ。やり方にもある程度目処がつきましたし──ただ、成功した場合はある程度こちらに便宜してくだされば」

 

「それは.........はい。そうですね、()()()()()()()()()、こちらでも良く覚えておきます。私にできる範囲であれば..........その」

 

職員は最後まで言いはしなかったものの────明らかに今後のことについて触れた内容だった。当初指に関することを隠そうとした負い目もあるのか、躊躇いつつも断れない、というように見える。あるいは、ハナとしても誰も受けたがらないような依頼を受けてくれるフィクサーと懇意にすることは悪くないと考えてくれたのだろうか?文脈から取れば、今回の依頼を解決し、尚且つ生きているというのはつまり、薬指から逃がれられる、または対処できるという証拠でもある訳だし。成功すれば、の部分を念押したのもそういうことだろう。

 

まあ、ハナの人員と良い関係を持つのはそう悪い事じゃない。この職員は事務員のようだが、依頼発注に対してある程度差配できる立場なのだろう..........多分。それを考えれば、高難易度でこそあったがフィクサー人生のスタートダッシュとしては悪くないように思えた。

 

それに、初依頼が高難易度ってのも、なかなかやり甲斐があって好みの部類だ。戦闘が起きそうなのも、試運転として丁度良い。

 

「では、契約書を────」

そう言って差し出された契約書──あくまでも都市怪談レベルなので、より高いランクのそれに比べれば簡易的なものではあったが──に一通り目を通した後、問題がないことを確認してサインする。これで正式に契約が交わされた。

 

立ち上がり、踵を返す。

社交辞令を何度か交わした後、事務局を出て依頼書に記された「病む者」の特徴や住所について改めて目を通してみる。ひときしり特徴を羅列すると長くなりすぎるので省略するが、60代から70代ぐらいの年齢の爺さんが、体に不調をきたす"何か"を引き起こしている。だから殺せ、ということらしい。概ね、説明を受けた内容を二度と読み返すような感じだったけれども..........調査に赴いたフィクサーの報告に病む者本人の戦闘能力は皆無らしい旨が記載されていると判明したのは収穫だった。

 

唯一、被害を引き起こしている"何か"については警戒する必要があるだろうが、それ以外は特に問題なさそうだ。その後──死体の処理。これについては方法があるので問題ない。

 

羽織っていたコートについているポケットから、時計を取り出す。20区の人間なら誰もが持っている、アレのことだ。俺は特に遺産を時間の購入に消費しなかった為、今なお一日は24時間であり──つまり実際の時刻と自分の持っている時間の擦り合わせをする必要はない。

 

取り出した時計を右手に持ち、その秒針を見た。

現在時刻はA社標準時間で16時43分。

 

 

────裏路地の夜(3時13分)まで、あと10時間半だ。

 

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