0
愛・ラブ・JANE DOE
1
デンジは結局、日本で暮らすことにした。東南アジアでの暮らしも悪くはなかったけれど、日本の方が色々と便利で、仕事の給料も高い。その分物価も高いけれど……それを鑑みても、子育てをする上では、日本の環境は魅力的だった。
何より、頼れる友人がいる、というのも大きい。
アキは今も公安に所属している。銃の武器人間としての力を振るい、多くの悪魔を地獄に叩き返しながら。
武器人間となったおかげで、すり減っていた寿命の問題も解決し、また二十八パーセントとは言え家族の仇を取ったからか、アキは以前のように、切羽詰まった焦燥に駆られることもなくなった。端的に言えば、丸くなった。物理的にも、少し太りつつある。以前が痩せすぎだっただけなのだが、パワーや天使からはよくからかいのネタにされているようだ。
そう、パワーと天使は、今はアキと暮らしている。パワーはともかく、なぜ天使が? とも思ったが、デンジが知らないところで、アキと深い縁が出来ていたらしい。何より、アキは武器人間だ。触れても寿命がどうこうなる心配はない。パワーも魔人だし、つまり天使にとっては、接触を気にせず他人と暮らせるまたとない機会な訳で……そのおかげなのか、最近は、笑顔が増えた。いつも不機嫌そうなやつ、と思っていた過去の印象は、すでに消え去って久しい。今では、よく笑うやつ、だ。それはパワーも、アキも……デンジが知る、多くの人が。そういう暖かい環境が、彼らのもとにあること。それがたまらなく嬉しい、とデンジは思う。今度こそ、もう二度と。それが壊れないように、と願うとともに。
岸辺は、あれから父親になった。……一応言うが、相手はクァンシではない。そもそも、相手がいない。単為生殖をした、という意味ではなく、つまり拾ってきたのだ。あるいはより正確な言葉を使えば、攫ってきた、と言うべきかもしれないけれど。
岸辺の名誉のために言えば、何も彼は両親のもとで幸せに暮らしているいたいけな子供を拐かし、己のものとするような極悪非道の行いを働いたというわけではない。
あの戦い——マキマとの決戦に於いて、デンジたちはマキマに勝利した。マキマは内閣総理大臣との契約により自らの死を日本国民に押し付け、擬似的な不死身となっていたのだが——それを突破するために、デンジは彼女を食べた。比喩表現ではない。文字通りに、腹の底に収めたのだ。そして消化し、吸収した。そうすることによって自らの体と一体化させ、マキマを生きているとも死んでいるとも言い切れない状態にした。その結果——おそらく。マキマは消滅した。誰かの死を代償に、デンジが入った後のトイレから蘇ってくるなんてこともなく、綺麗さっぱりに消え去り——その代わりに、新たな『支配の悪魔』が発生した。
それが岸辺の娘、ナユタである。
中国政府に囚われていた彼女を、いかなる手段によってか彼は奪還。当初、彼女のことはクァンシが育てると主張していたのだが——嫌な予感を覚えた岸辺は、自ら育てることを決意。父親というより祖父と言った方が相応しいような歳の差であるが、それでも必死に、不恰好にも愛情たっぷりに、彼は『父親』を務めている。
ビームは、今もデンジのそばにいる。最初は海に返してやろうと思ったのだけれど、そう思って港に連れて行ったら泣かれた。仕方がなく、デンジは今も彼をそばに置いている。最近は、彼はデンジのことを『チェンソー様』と呼ばなくなった。『デンジ』と。そう呼んでくれる。なんとなく……そう。いつか、ポチタがそばにいた頃を思い出すような、なんて、今も彼は、己のそばに居てくれるのだけれど。
胸の上に手を当てる。心臓の鼓動は今日も、弾むようなリズムを奏でている。
デンジは働きながら、定時制の高校に通っている。学歴はあった方がいい、特に日本で働くならば。岸辺の勧めに従って、デンジは働きながら学業に勤しんでいた。
「や、デンジくん」
吉田ヒロフミとは意外な場所で再会した。どこであろう? なんて、隠す意味もない。まさしく、その定時制の高校で、だ。半分はデンジの監視、ということらしいが……つまりもう半分は、普通に。学生として、通っている。
「おう、吉田」
ぱん、と手を叩き合って、挨拶。彼はデンジの隣の席だった。多分、監視のためってことだろう、と思いつつも、しかし悪くはない。友人と隣の席、というのは。
定時制の高校には、本当にいろんな人が来る。まず、年齢層からしてさまざまだ。普通の学校に通う年齢の生徒はむしろ少数派で、もう少し年上の社会人や、五十過ぎのおじさんだって生徒としてやってきている。服装もバラバラで、制服を着て授業を受ける、というような環境ではない。
デンジとて、昼間は働いている。工事現場や工場で、汗水垂らして労働をして、その後、この高校に登校するのだ。日が暮れた後、夜に。
夜の学校というと、彼女のことを思い出す。あの時は電気も消えて真っ暗で、窓から差し込む月明かりばかりが頼りだった。ここは、電気が付いている。先生もいて、生徒もいる。時間帯こそずれているけれど……そう。あの時夢見た『学校』に、デンジは確かに通えているのだ。
「レゼちゃんは?」
「今日は家」
ヒロフミの問いにデンジは答える。レゼもまた、同じくこの高校に通っている。同じ学校に、同じように通う。そんな夢が叶って、けれど。
「ああ、ケンジくんのお世話あるもんね」
彼は合点がいったとばかりに頷く。
ケンジ。
それがデンジとレゼの子供の名前だった。
一度死にかけたとは思えないほど元気に生まれてきた、体重三四五〇グラムの男の子。金色の髪に、緑色の瞳。二人の特徴を受け継いで生まれてきた、可愛い息子。
デンジとレゼは、交代でケンジの世話をしている。デンジが学校へ行く日はレゼが、レゼが学校に行く日はデンジが、それぞれ面倒を見ながら暮らしている。たまに、ベビーシッターを呼べる日には、二人一緒に学校に通える日もあるのだけれど、残念ながら今日はその日ではない。そう、人生とは、何もかもがうまく行くものではなくて、けれどその辺りが、幸せの源だったりするものなのだ。
「あ、チェンソーマン!」
ガラリと扉を開けて、教室に入ってきたのは黒い髪の少女だった。結んだ髪の先端が、もう一つの『口』になっている。人間ではない、魔人。クァンシが引き連れていた魔人の少女、ピンツイだった。
「チェンソーマン!」
その横にもう一人。角の生えた癖毛の魔人——ロンだ。彼女もまたクァンシが引き連れていた魔人で、つまり彼女たちは今、クァンシの夢を叶えている最中なのだった。人権を持ち、学校に通い、教育を受ける。そんな『普通』の生活を、彼女たちは享受している。
「今日はレゼじゃなくてチェンソーマンの来る日だったんですね!」
嬉しそうに言いながら、ピンツイはロンと共にデンジの元へ近づいてくる。背後からさらに二人、魔人の少女たちが教室へ入ってくる。「…………」「ハロウィン!」死体を繋ぎ合わせたようなツギハギの魔人と、顔の半分が崩れた宇宙の魔人。二人は楽しげに腕を組んでいた。
「で、なんでレゼは『レゼ』で俺は『チェンソーマン』なんだ?」
「だって、チェンソーマンはチェンソーマンですから! 私たちのヒーロー!」
「またそんなことばっか言いやがって、クァンシに浮気だって泣かれても知らねーぞ」
「うっ!」
デンジの言葉に、過去の記憶が蘇ったのかピンツイは顔を苦々しく歪める。
「俺ももうあいつの矢でハリネズミにされんのはごめんだぜ」
ついでに、レゼの爆弾に焼かれるのも。浮気は命懸けなのだ。
「いや、大丈夫です、これは浮気じゃありません! チェンソーマンは……」
「チェンソーマンは?」
「私の『推し』です!」
なんじゃそりゃ。
訳のわからないことを言い出したピンツイに、デンジは呆れの顔を返す。
「ふふん! 今はわからなくたっていいんですよ。いずれ、そう……今から二十年後くらいには、誰もが心に推しを抱く大推し活時代がやってくるのですから……」
「ピンツイが故障してやがる。直してやってくれ」
言えば、ロンがバシバシとピンツイの頭を叩いた。「痛い! 痛い!」可哀想に、ピンツイは涙を浮かべる。
「——え、えっとぉ、皆さん……」
そうこうしているうちに、いつのまにか。教壇の上に、教師が立っていた。背が低い。長い髪をピンとゴムで止めている。女性だ。その顔には、デンジはとてもよく見覚えがあった。
「あのっ、そろそろ授業なのでぇ……そのぉ……」
「コベニ先生ー! もっとはっきり喋ってくださーい!」
「えっ、あ、あっ……!」
デンジのヤジに、彼女は上擦った声を上げる。完全に怯えていた。哀れなことだ。
東山コベニ。彼女は、かつてデンジの同僚だった。つまり、公安のデビルハンターだ。デンジがレゼと逃げ出した頃には、まだ公安に勤めていたはずなのだけれど、いつのまにか退職し、そして路頭に迷っていたらしい。それをヘッドハンティングしたのが岸辺だった。
この定時制高校は、普通のそれではない。
通っている面々が面々だ。『何か』が起こった時、問題をスムーズに解決するために、教員には戦闘能力も求められ、故に、コベニに白羽の矢が立ったのだった。
「そうですよ先生、生徒の規範なんですから、もっと背筋伸ばしてください!」
「そうだそうだ!」
「…………」
「ハロウィン!」
「ゆぇぇ……聞いてない……聞いてないぃぃ……こんなヤバいのだらけのクラスだなんて聞いてないぃ〜!」
教壇の上で、彼女はエグエグと涙をこぼす。もはや見慣れた日常風景だった。
「助けてください岸辺隊長ぉぉ〜!」
教卓に突っ伏して、彼女は助けを乞う。ちょうどチャイムがなって、授業の時間が始まった。今日も、楽しい学校生活になりそうだ。デンジは思う。それを一人で楽しまなければならないのが、少しだけ寂しかったけれど。
2
帰り道。すっかり暗くなった夜の中を、デンジは少しだけ早足で歩く。東南アジアにいた頃は、この時間でも寒くはなかったのだけれど、日本では流石にそうも言っていられない。まだ冬が来るにはだいぶと遠いけれど、それでも。
闇色のアスファルトを踏みしめながら、一人、歩く。最中——
闇の中に浮かび上がる、小さな花屋を見つけた。
店を構えてのそれではない、露店。
レジャーシートに直接座って、店主は路上に花を並べている。
意外なことに、花は綺麗だった。そこらの、ちゃんとした生花店にだってまるで負けない。束ねられた色とりどりの花たちは瑞々しく、色艶も良い。
そういえば、結局。
あの時、渡しそびれてからずっと——レゼに花を贈れていなかった。
それを唐突に、思い出して。
デンジは花を買って帰ることに決めた。
そして店主に声を掛けようとして——気付く。
それは、デンジのよく知っている男だった。
「どうも」
男は皮肉げに微笑んで言う。
「託した願いがなかなか果たされなかったものだから、急かしにきたんだ」
忘てただろう。なんて問われて、デンジは苦笑するほかない。そう、ずっと前に、デンジはそれを頼まれたのだ。頼まれたのに、このいつのまにか、それを忘れてしまっていて。気が付けば、こんなにも時間が経っていた。
「選んで行きなよ、彼女に似合う花を」
前分けのうねる髪に、泣きぼくろ。いつかとまるで変わらず、男は——後悔の悪魔は、デンジに言った。
「お代は?」
「とびっきりの、ハッピーエンドを」
「良いね」
デンジは笑って、花を見る。
目が止まったのは、一つの花束。初めてレゼと出会った時に渡した花と、同じそれ。デンジは名前を知らなかったけれど、色とりどりのガーベラが束ねられたその花束を、デンジは手に取った。
「もう」
「うん?」
「俺たちは多分、二度と出会わない」
後悔の悪魔は微笑みと共に言う。
「俺は少しばかり、反則をやり過ぎた」
現実に干渉しすぎたんだ。
苦笑と共に、その体が少しずつ、闇に溶けていく。
「それが、だから最後の餞別だ」
デンジが手に取った花束を、崩れかけた指で彼は指差した。
「これからは、もう手を貸せない。だからどうか、デンジ。その幸せが、末長く続きますように。君が君の幸せを、永劫守り続けることができますように。それをただ、祈る」
君のファンより——愛と真心を込めて。
そんな言葉を、最後に。
一条の風が吹いて。
後悔の悪魔は、闇の奥へと消え失せた。
「ありがとな」
何も残らない虚空へ向けて、それでもデンジは礼を言った。
デンジが今。笑って生きていられるのは、きっと彼のおかげだった。
時に。
物語には読者がいて。
その祈りが、誰かを幸福に導くこともあるのだろう。
ガーベラの花束を持って、デンジは帰り道を急ぐ。
今はただ、レゼの顔が見たかった。それだけが、今のデンジの願いだった。
3
赤ん坊を抱きながら、レゼはソファに座っていた。赤ん坊——ケンジは授乳を終えたばかりで、満足そうに顔を緩めている。その頬があまりにも愛おしくて、レゼはそれに口付けを落とした。
ラジオから、最新のヒットチャートが流れている。
レゼは過去を想った。
銃の魔人による襲撃を受けた時、レゼはもう全てが終わったと思った。お腹の子供だけは守ろうとして、けれどそれが叶わなくて。血の魔人、パワーがいなければ、きっとレゼの世界は完全に壊れ切っていただろう。幸せな生活なんて、もう二度と望めはしなかったはずだ。
こんなふうに、子供と一緒に時を過ごすことも。普通の人間みたいに、学校に通うことも。愛する夫と、共に暮らすことも。きっともう二度と、できなかったに違いない。
だから、それができているのは、きっと一つの奇跡だ。レゼがつかんだそれ——では、ない。きっと、そんなふうに語るのは烏滸がましい。
きっとこの奇跡は、無数の人の手によって、レゼの元に運ばれてきたそれなのだ。デンジが、そしてその友、アキが、パワーが、守ってくれた、幸せなのだ。
昔なら、きっとこんなふうには考えられなかった。
自分が……誰かのおかげで幸せになる、なんて、そんなことは想像も及ばない概念だった。
幸せとは勝ち取るもので。奪い取るもの……それがレゼの価値観で、けれど多分、その『レゼ』のまま生き続けていたのなら、レゼはきっと終生、幸せにはなれなかっただろうと思う。
いつのまに……自分はこんなに変わっただろう?
何が自分を、こんなにも変えただろう?
思い浮かぶ原因は——だから一つ。
ハチミツみたいに甘くて、バカで、向こう見ずで、一途で——愛おしい少年。
彼の帰りを、レゼは待つ。そろそろ帰ってきてくれないと、作った晩御飯が冷めちゃうよ? なんて思いながら——気が付けば。
ピンポン、とチャイムが鳴り響く。
レゼはケンジを抱いたまま、立ち上がって玄関へと向かう。
鍵を開けて、扉を開けば——
「ただいま」
「おかえり」
そこに立つのは、ハチミツ色の髪をした、レゼの最愛の人。デンジ。初めてその名を呼んだのは、いつのことだっただろう? 彼はその手に、ガーベラの花束を持っていた。
「……今日、なんかの日だっけ?」
思わず、レゼは問いかける。
結婚記念日……じゃあないし、レゼの誕生日でもデンジの誕生日でもない。もちろん、ケンジのでも。
「あー、なんの日、ってわけでもないんだけどさ」
困ったように頬を掻きながら、デンジは言う。
「レゼ」
「う、うん!?」
改まって名を呼ばれ、その琥珀色の瞳に見つめられて、レゼは思わず顔が熱くなるのを感じた。
「俺は——レゼのことが好きだ」
デンジは言って、その花を、レゼに差し出す。
「これからも、ずっと——俺と一緒に、居続けて欲しい」
跪いて、言われ。
レゼは思わず——
「え、今更?」
なんてツッコミを入れてしまった。
「その、今更っつーか、改めてっつーか……」
後ろ頭を掻きながら、デンジは恥ずかしそうに言った。
「ほら、ずっと……渡せてなかったから」
「何を?」
「花だよ」
デンジは言う。
「あの日……一緒に逃げようって言った日。本当は喫茶店で渡すはずだったんだ」
花も、言葉も。
でもそれは叶わなくて——気が付けば、随分と長く時間が経ってしまっていた。
だから今更でも——改めて。
デンジはレゼに——思いの丈を伝えたのだ。
遅れに遅れ、何度もそびれて。
それでもようやっと——JANE DOEに花束を。
その約束を、デンジは果たした。
「これからも俺と……一緒にいてくれるか?」
改めて、問われて。
差し出された花を——レゼは片手で受け取った。
「そんなの、当たり前じゃん」
なんて言いながら、微笑んで。
「いつまでも、どこまでも、一緒だよ、デンジくん」
笑う顔が、あまりにも愛おしくて——だから。
デンジはそっとレゼに顔を寄せ、その唇に、口付けを落とそうとし——
「——ふにゃぁ、ふにゃぁ!」
両親に挟まれたケンジが、泣き出した。
「あ、っと!」
「わわ、よしよし」
慌てて、レゼはケンジを揺すり、あやそうとする。渡した花束は、玄関脇の靴箱の上に置かれてしまった。
キスを逃したデンジは、玄関で立ち尽くす。
全く上手くいかないことばかりで——幸せだ。
「ね、デンジくんも中入って。ご飯、できてるから」
ケンジを泣き止ませることに成功したレゼは、そんなふうに言ってデンジを招く。
言葉に甘え、デンジは部屋の中に入ろうとし——
背後で。
強烈な——爆発音。
振り返れば、背後、ずっと遠く。
街中で、巨大な悪魔が暴れ始めていた。
「あ」
反射的に、デンジは胸元に手をやって——けれど同時に、レゼに視線を向ける。
「大丈夫だよ」
視線を向けられて、レゼは言う。
「ちゃんと待ってるから——行ってきて、デンジくん」
そんなふうに背中を押されて、デンジは。
「ああ」
と、頼もしく頷いた。
「ケンジに言っといてくれ。父ちゃん、悪い悪魔をぶっ倒してくるから、ってよ」
「まだ言ってもわかんないよ」
そんな軽口を叩き合って——デンジは胸元のスターターを引く。ヴヴン。エンジンの音色と共に、デンジの姿は一変した。
赤い、チェーンソーの頭を持つ、異形の武器人間——チェンソーマンへと。
「行ってらっしゃい、デンジくん」
「ああ、行ってきます」
その言葉を最後に、デンジは街へと飛び出した。名残惜しくもその背に手を振って、レゼは部屋の中に戻る。
何が起こったのか分からず、ケンジはきょとんと瞳を丸くしていた。いつか、言葉がわかるくらいに大きくなったら、教えてやらねばなるまい。君のお父さんは、世界で一番かっこいいヒーローなんだぞ、なんて。
リビングに戻れば、つけっぱなしのラジオが、最新のヒットチャートを奏でていた。ランキング、堂々の一位。ヴヴン、と。エンジンがかかるような音色から始まるイントロが紡がれ——その曲は、レゼの大好きな曲だった。
自然と、頬が緩む。レゼはラジオのボリュームを大きくして——
「——君の人生は、幸せだったと言えるだろうか?」
そんな問いかけが、どこかから聞こえてきたような気がして。
「さあ、まだ分からない」
レゼはそんな風に答える。
「でも今はきっと、幸せだよ」
その答えに、安心したように。
声の気配は遠く消えていった。
イントロが終わり。ラジオから歌声が——響き始める。
〝——努力 未来 A BEAUTIFUL STAR〟
〝——努力 未来 A BEAUTIFUL STAR〟
〝——努力 未来 A BEAUTIFUL STAR〟
〝——努力 未来 A BEAUTIFUL STAR——〟
これにて完結となります。ご愛読、ありがとうございました!
感想、評価、お気に入り登録、ここすきなどなど、してもらえると嬉しいです!
いつかまたどこかで、お会いできることを願います。