Fate/Cross Dimensions   作:水成

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第十一話:真祖の姫の寵愛

「――行くぞ」

「――来い」

 

短い言葉を合図に、衛宮士郎の黄金の炎と、遠野志貴の死を断つ刃が、激突した。

 

キィン、と甲高い音が響き渡る。士郎が投影した黎明と、志貴の忍刀が火花を散らす。初撃の威力は互角。だが、戦いの様相は全く異なっていた。

 

士郎の「ヒノカミ神楽」は、炎を纏い、円を描くように舞う、動の剣。大振りだが、一撃一撃が必殺の威力と浄化の力を秘めている。

 

対する志貴の七夜の体術は、一切の無駄を削ぎ落とし、最短距離で相手の「死」を狙う、静の剣。その動きは最小限だが、全ての太刀筋が急所へと吸い込まれていく。

 

「くっ……!」

 

士郎は焦っていた。神楽の舞は、強力だが消耗も激しい。何より、相手の動きが異常だった。自分の剣が触れる寸前、まるで未来予知でもしたかのように、最小限の動きで回避される。そして、カウンターで放たれる忍刀の切っ先が、自身の身体に走る「何か」を的確になぞろうとしてくるのだ。

 

(こいつ、俺の急所じゃない……もっと別の何かを狙っている?)

 

直死の魔眼。その存在を知らない士郎にとって、志貴の動きは不気味なほど正確無比に見えた。徐々に、しかし確実に、士郎は追い詰められていく。防御に回る時間が増え、神楽の流麗な舞が乱れ始める。

 

「終わりだ」

 

志貴は、士郎の呼吸が一瞬乱れた隙を見逃さなかった。地を這うような低い姿勢から、忍刀が士郎の心臓に走る「死の点」を正確に穿たんと突き出される。

 

(――殺される!)

 

死を直感した士郎は、思考を放棄し、本能で叫んだ。

彼の心象世界が、現実を侵食する。

 

「――――投影、開始」(トレース、オン)

「――――憑依経験、共感終了」

「――――工程完了。全投影、待機」(ロールアウト。バレット、クリア)

 

士郎の背後に、無数の剣が投影された。宝具の原典、名もなき剣、ありとあらゆる刀剣が、まるで墓標のように林立する。それは、彼の固有結界「無限の剣製」の、不完全な顕現だった。

 

「停止解凍、全投影連続層写!!」(フリーズアウト、ソードバレルフルオープン!!)

 

命令を叫ぶ。

 

次の瞬間、林立していた全ての剣が、一斉に志貴へと射出された。回避も防御も不可能な、全方位からの飽和攻撃。鉄の豪雨。

 

「……ちっ」

 

志貴は舌打ちした。これは、物理的に避けられない。そして、一本でも受ければ、その身体は原型を留めないだろう。

 

彼は、静かに目を閉じた。

 

そして、左手の薬指にはめられた、白い指輪にそっと触れる。

 

(悪い、アルクェイド。また、お前の力を借りる)

 

心の中で、愛しい人の名を呼ぶ。

 

(でも、すぐに終わらせる。5分だ。5分で、全部終わらせるから)

 

彼が、再び目を開いた時。

 

その赤い包帯の下から、世界そのものを殺す、直死の魔眼が覗いていた。

 

「――目覚めろ、全部だ」

 

指輪が、満月のような眩い光を放った。

 

志貴の身体から、人間が発するとは到底思えない、凄まじいまでの魔力が噴き上がる。全身の筋肉が悲鳴を上げながら隆起する。

 

「なんだ、あれは……!?」

 

士郎は、目の前の光景に戦慄した。

 

鉄の豪雨が、志貴に到達する、その寸前。

 

「――御廚子(みずし)」

 

志貴が、静かに呟いた。

 

すると、彼の周囲の空間が、まるでガラスのようにひび割れた。無数の「死の線」が、空間そのものに走り、射出された全ての剣が、その線に触れた瞬間、存在を「殺され」、塵となって消滅した。

 

「なっ……!?」

 

「残り、4分50秒」

 

志貴の姿が、消えた。

いや、違う。士郎の動体視力を遥かに超える速度で、地を蹴ったのだ。

 

「――烈日紅鏡!」

 

士郎は咄嗟に神楽の型を放つが、志貴はそれを鼻で笑うかのように、身体を僅かに逸らしただけで回避する。そして、すれ違いざまに、忍刀を振るった。

 

その一閃は、士郎の左腕を狙ったものではなかった。志貴が狙ったのは、士郎の腕の「機能の死」の線。

 

ザシュッ、と肉と神経が断ち切れる鈍い音が響く。

 

士郎の左腕は繋がったままだ。しかし、そこから先の感覚が完全に消失し、力なく垂れ下がった。まるで、自分のものではない肉の塊のように。

 

「ぐ、あああっ……!腕が……動かない……!」

 

激痛と、それ以上に自身の身体を制御できないという未知の感覚に、士郎は膝をついた。

 

「なぜ……とどめを刺さない……」

 

「お前の心臓の『点』は、まだ殺していない。それに、お前は俺の敵じゃない」

 

志貴は、蒼い瞳で、士郎の背後――物陰に隠れる白野を見つめていた。

 

「俺の目的は、吸血鬼と、それに連なる者だけだ。……その女、何者だ?その魂、ただの人間のものじゃない。俺の『眼』が、そう告げている」

 

5分間の王様となった志貴の問いに、士郎は、動かなくなった左腕の痛みの中で、絶望的な戦力差を悟るのだった。

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