Fate/Cross Dimensions   作:水成

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第十七話:赫い檻と最強の介入

「……やめておけ、秋葉。お前では、俺は殺せない」

 

その言葉は、忠告ではなかった。ただの事実。そして、志貴の揺るぎない決意の現れだった。アルクェイドを救うという目的。その邪魔をするのなら、たとえ血を分けた妹であろうと、容赦はしない。彼は、とうの昔にその覚悟を決めていた。

 

「黙りなさい!」

 

秋葉の絶叫と共に、赫く染まった髪が、無数の槍となって志貴に襲いかかる。遠野の血が持つ「掠奪」の権能。触れた対象の熱(生命力)を根こそぎ奪い取る、必殺の「檻髪」。

 

書斎は一瞬にして破壊された。本棚は引き裂かれ、床や壁は檻髪が通った軌跡のままに、赤黒く焦げ付いていく。

 

志貴は、その猛攻を、ただひたすらに回避する。七夜の体術は、襲い来る赫い槍の僅かな隙間を縫って、彼の身体を闇の中へと滑り込ませる。

 

(速い……!昔とは比べ物にならない!)

 

秋葉は内心で戦慄していた。かつてこの屋敷にいた時とは、比べ物にならないほどの洗練された動き。だが、攻撃の手を緩めはしない。屋敷全体が、彼女の力に呼応するように軋みを上げる。彼女のホームグラウンドであるこの場所では、彼女の力は無限に近い。

 

「逃げてばかりで、どうするのですか!」

 

檻髪の密度が増し、ついに志貴の死角を捉えた。数本の赫い髪が、彼の肩と脇腹を貫く。

 

「ぐっ……!」

 

常人ならば、その一瞬で全身の熱を奪われ、即身仏と化す。だが、志貴の身体は、左手の指輪が一瞬だけ淡い光を放ち、奪われた生命力を瞬時に補った。

 

「その指輪……!やはり、その女の力ですか!」

 

秋葉の嫉妬が、さらに炎を燃え上がらせる。

 

「他人の力に頼らなければ、妹一人にも勝てないのですか、兄さんは!」

 

その言葉は、図星だった。そして、志貴の逆鱗に触れた。

 

彼は、肩に突き刺さった髪を引き抜くと、初めて反撃に転じた。

 

「――うるさい」

 

志貴の身体が、消えた。

 

秋葉の「掠奪」は強力だが、その分、動きが大振りになる瞬間がある。戦闘経験の差。志貴は、その一瞬の隙を見逃さなかった。

 

「なっ――」

 

気づいた時には、もう遅い。

 

志貴は、秋葉の懐、そのゼロ距離に立っていた。

 

そして、その手には、いつの間にか抜かれた忍刀が握られている。

 

「あ……」

 

秋葉の瞳が、見開かれた。

 

目の前の兄の、赤い包帯の下から覗く、直死の魔眼。

 

その瞳が、自分の胸の中心――心臓の「死の点」を、正確に捉えているのが分かった。

 

(死ぬ)

 

本能が、そう告げていた。

 

だが、身体は動かない。恐怖ではない。兄の瞳に宿る、あまりにも深い絶望と、悲しみの色に、心を奪われてしまったからだ。

 

「さよならだ、秋葉」

 

志貴は、何の躊躇もなく、忍刀を振り上げた。

 

妹を、殺すために。

 

その、刹那。

 

「――はい、そこまで」

 

場違いなほど、軽薄な声が響いた。

 

次の瞬間、志貴の身体は、まるで不可視の壁に阻まれたかのように、その動きをぴたりと止めた。いや、違う。彼の身体と、秋葉の身体の間に、「無限」が生まれたのだ。振り下ろされる忍刀は、秋葉に近づけば近づくほど、その速度が無限に遅くなっていく。決して、届かない。

 

「な……んだと……!?」

 

志貴は、人生で初めて、理解不能な現象に遭遇した。

 

書斎の、崩れた天井の上。月光を背に、一人の男が立っていた。

 

雪のように白い髪。黒い布の目隠し。そして、ニヤリと笑う口元。

 

「いやー、危ない危ない。僕が来なきゃ、お嬢ちゃん、死んでたよ?」

 

男――五条悟は、ひらりと地上に降り立つと、パンパン、と服の埃を払った。

 

「さて、と。まずは自己紹介からかな。僕は五条悟。見ての通り、ただの良い男さ」

 

彼は、信じられないものを見る目で固まっている志貴と秋葉に、にこやかに笑いかけた。

 

「君が、噂の『直死の魔眼』クンだね?で、そっちが遠野の『紅赤朱』のお嬢ちゃん。いやー、二人とも、良い術式持ってるじゃん」

 

五条の「六眼」は、二人の能力、その根源に至るまで、全てを視ていた。

 

「で?兄妹喧嘩も大概にしなよ。こんな派手にやらかして、近所迷惑だって分かってる?」

 

志貴は、ゆっくりと忍刀を下ろした。目の前の男は、次元が違う。本能が、警鐘を乱れ打っていた。こいつは、自分が今まで出会った、どんな死徒よりも、どんな人間よりも、危険だ。

 

「……お前は、何者だ」

 

「だから、五条悟だって。まあ、君らみたいな『魔』を狩るのが、僕の仕事の一つでね」

 

五条は、肩をすくめた。

 

「遠野の次期当主が、正体不明の侵入者に殺されかけてるって、僕の『眼』が教えてくれたもんでさ。ちょっと様子を見に来てやったってワケ」

 

彼は、志貴に向き直ると、その笑みを消した。

 

「ま、理由はどうあれ、僕の目の前で人は殺させないよ」

 

「邪魔をするなら、お前も殺す」

 

「おっと、威勢がいいねぇ。でも、無理だよ」

 

五条は、人差し指を立てて、静かに告げた。

 

「君じゃ、僕には触れることすらできないから」

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