Fate/Cross Dimensions   作:水成

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第二十三話:新時代の世界

「――ガハッ……!」

 

固有結界を内側から破壊されるという、ありえない現象。それは、衛宮士郎の精神と魔術回路に、致命的なダメージを与えた。彼は大量の血を吐き、地面に崩れ落ちる。もはや、指一本動かすことすらできない。

 

「士郎っ!」

 

その惨状を見て、今まで息を殺して戦いを見守っていた岸波白野が、悲鳴に近い声を上げて駆け寄った。彼女は、倒れた士郎の身体を抱きかかえ、必死にその名を呼ぶ。

 

「士郎、しっかりして!士郎!」

「……はく……の……」

 

士郎は、かろうじて目を開けるが、その瞳は虚ろだった。自分の全てである「無限の剣製」が、まるで子供の砂の城のように、いとも簡単に破壊された。その事実が、彼の心を、誇りを、粉々に打ち砕いていた。

 

白野は、士郎の無事(とは到底言えないが)を確認すると、その顔を上げ、ゆっくりと立ち上がった。そして、その瞳で、元凶である男――五条悟を、強く、強く睨みつけた。

その瞳には、恐怖はなかった。ただ、大切な人を傷つけられたことに対する、静かで、しかし燃えるような怒りが宿っていた。

 

その純粋な敵意を受けて、五条は、わざとらしく両手を広げた。

 

「おっと、そんな目で見ないでよ。まるで僕が悪者みたいじゃんか。ただの『実力測定』だって、最初に言ったでしょ?」

 

その態度は、どこまでもふざけていて、白野の怒りをさらに煽る。

 

「……まだだ」

 

その時、絞り出すような声がした。

見れば、衛宮士郎が、白野の肩を借りて、震える足で、ゆっくりと立ち上がろうとしていた。その身体はボロボロで、立っているのがやっとの状態。魔術回路はズタズタで、もはや投影魔術の一つも使えるかどうか怪しい。

 

「士郎、もうやめて!あなたの身体が……!」

「うるさい……!まだ……まだ、やれる……!」

 

彼は、諦めていなかった。

たとえ、自分の世界が壊されようと、理想が踏みにじられようと、この目の前の理不尽に、屈するわけにはいかなかった。それは、セイバーと交わした約束を、自分の生き様そのものを、否定することになるからだ。

 

「……へぇ」

 

その姿を見て、五条悟は、初めて少しだけ感心したような表情を見せた。

 

「ボロボロじゃん。もう何もできないくせに、まだやる気?根性だけは、認めてあげるよ」

 

だが、その評価は、次の瞬間、冷たい宣告に変わった。

 

「でもね、根性だけじゃ、どうにもならないことがあるんだよ。特に、僕みたいな『本物』を相手にした時はね」

 

五条は、静かに指を組んだ。

 

「君たちが信じてるその魔術が、どれだけ時代遅れの化石なのか。僕が、直々に教えてあげる。これが、『新時代の魔術』だよ」

 

彼は、かつて遠野志貴に見せた時と同じように、しかし、目の前の二人を壊さないよう、完璧に出力を調整する。

 

「領域展開――『無量空処』」

 

次の瞬間、士郎と白野の世界は、反転した。

夕暮れの丘は消え去り、二人は、無限に広がる宇宙空間の中心に立たされていた。

 

「――な……」

「――あ……」

 

美しい。

だが、その美しさに心を奪われた、次の瞬間。

――知覚が、始まった。

 

生きるために必要な、ありとあらゆる情報が、二人の脳に、止めどなく流れ込んできた。

士郎の脳裏には、彼が理想とする「正義の味方」の、ありとあらゆる可能性、その成功と、それ以上の無数の失敗の光景が、無限に再生される。

 

白野の脳裏には、彼女が追い求める「赤い外套の背中」の、その正体に至るまでの、全ての情報、全ての記録が、ムーンセルのアーカイブを遥かに超える密度で流れ込んでくる。

思考が、完結しない。

 

行動が、できない。

 

ただ、無限の情報を受け取り続けるだけの、生きた彫像と化す。

やがて、領域が解除され、世界は元の丘に戻った。

 

「……」

「……」

 

衛宮士郎と岸波白野は、一言も発することなく、その場に糸が切れた人形のように、静かに崩れ落ちた。その瞳からは光が消え、焦点が合っていない。

 

「どう?分かったでしょ」

 

五条は、行動不能になった二人を見下ろし、静かに告げた。

 

「君たちの戦場は、あまりにも狭い。もっと、世界は広いんだよ」

 

最強の男が与えた、あまりにも理不尽な個人授業。

それは、二人の心に、決して消えることのない「絶望」と、そして、まだ見ぬ「世界」への渇望を、深く刻み込んだのだった。

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