五条悟による「地獄の個人授業」は、翌日から早速始まった。
その指導法は、二人の特性に合わせ、全く異なるものだった。
「はい、月チャン!もっと速く!思考と行動を直結させる!」
村はずれの森の中。五条は、白野に一対一の戦闘訓練をつけていた。
彼の攻撃は、単純な体術のみ。だが、その一挙手一投足は、白野の思考の僅かな隙間を突き、的確に急所を狙ってくる。
「くっ……!」
白野は、必死にその攻撃を捌こうとする。彼女には、士郎のような魔術回路も、志貴のような暗殺技術もない。あるのは、かつてムーンセルで培われた、膨大な情報の並列処理能力と、マスターを勝利に導くための最適解を導き出す、卓越した思考能力だけだ。
「違う違う!君は、頭で考えすぎなんだよ!」
五条は、白野の蹴りを軽くいなすと、デコピン一つで彼女の体勢を崩した。
「君の魂の本質は、情報体だ。なら、人間の脳みたいに、いちいち『考えてから動く』なんて、非効率なことしちゃダメ。君の『思考』そのものが、君の『動き』になるんだよ。分かる?」
彼は、白野の魂の構造を正確に理解した上で、彼女だけの戦い方を指導していた。
それは、肉体の反射神経に頼るのではなく、魂の情報処理速度そのものを、戦闘速度に直結させるという、常識外れの戦闘理論だった。
「敵の動きを『見て』から『判断』するんじゃない。敵が動く『未来』を『予測』して、その結果に『先回り』するんだ。君なら、できるはずだよ」
白野は、何度も地面に倒されながらも、食らいついていく。
守られるだけの存在ではいたくない。彼の隣に立つために。
その一心で、彼女は、自身の魂の可能性の扉を、必死にこじ開けようとしていた。
一方、その頃。
士郎は、コテージの縁側で、ただひたすらに座禅を組んでいた。
五条から彼に与えられた課題は、「イメージトレーニング」。それだけだった。
「君は、まず自分の力を理解するところから始めな。ヒノカミ神楽も、君の『日』の属性も、まだ全然、本質を掴めていない」
五条は、そう言うと、一つのヒントだけを与えた。
「太陽ってのは、ただ燃えてるだけじゃない。その輝きは、『始まり』の光であり、『存在』の熱であり、『破壊』の厄災であり、そして『救済』の恵みでもある。それが、君の力が目指すべき、太陽の持つ四つの側面だ」
士郎は、その言葉を頼りに、自身の内なる「太陽」と向き合っていた。
ヒノカミ神楽の呼吸を整え、意識を、自らの魂の奥深くへと沈めていく。
(始まり、存在、破壊、救済……)
イメージする。
始まりの側面。
それは、夜を切り裂き、朝を告げる、地平線の最初の光。何者にも遮られぬ、絶対的な一閃。
その力を宿した剣は、触れるもの全てを消滅させる、無慈悲な刃となるだろう。
存在の側面。
それは、宇宙に君臨する太陽そのものの、圧倒的な熱量。近づくことさえ許さない、不可侵の輝き。
その力を宿した剣は、あらゆる攻撃を寄せ付けない、絶対的な防御の鎧となるだろう。
破壊の側面。
それは、太陽フレアの如く、全てを焼き尽くす厄災の炎。地上に顕現した、終末の劫火。
その力を宿した剣は、広範囲の敵を平等に灰燼へと帰す、殲滅の斬撃となるだろう。
救済の側面。
それは、生命を育み、世界を照らす、暖かな恵みの光。死と闇を否定し、希望を紡ぐ輝き。
その力を宿した剣は、傷ついた者を癒し、仲間を支え、絶望を覆す希望の領域となるだろう。
士郎の脳裏に、まだぼんやりとではあるが、四つの奥義の輪郭が、確かに浮かび上がっていた。
それは、彼が編み出した「黎明」を、さらに昇華させた先にある、ヒノカ-ミ神楽の極意。
彼はまだ、その具体的な形も、名前も知らない。
だが、この道の先に、五条悟という理不尽な「最強」に、一矢報いることができるかもしれない力が眠っていることを、確かに確信していた。
絶望の底から始まった特訓は、二つの才能を、それぞれの形で、着実に開花させようとしていた。