Fate/Cross Dimensions   作:水成

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第三十一話:集う者たち

「嫌……! 嫌よ……!」

白野の悲痛な叫びも虚しく、彼女の瞳から再び理性の光が急速に失われていく。

士郎の血によって得られた、あまりにも短い安寧。その効果が切れ、再び荒れ狂う吸血衝動の嵐が彼女の魂を支配しようとしていた。

 

「ア……ァ……ゥ……」

白野は頭を抱え、必死に本能に抗おうとする。

だが、一度知ってしまった極上の「餌」の匂いが、彼女の思考を麻痺させていく。

獣のように四つん這いになり、涎を垂らしながら、ゆっくりと倒れている士郎へと這い寄っていく。

 

(……それで、いい)

士郎は、その光景を朦朧とする意識の中で見ていた。

不思議と恐怖はなかった。むしろ、安堵に近い感情があった。

自分の血で、彼女が「岸波白野」でいられる時間が少しでも生まれるのなら。

この身が朽ち果てようと、それで本望だ。

 

白野の牙が、再び煌めりと光る。

今度こそ、本当に終わりだ。

士郎は静かに、その時を待った。

 

だが、その意識が完全に途切れる、まさにその寸前。

 

『――士郎!』

遠くで、理性が戻った白野が必死に自分の名を呼んでいる声がした。

 

そして、もう一つ。

 

『――間に合わなかったか。やれやれ、面倒なことになったね』

聞き覚えのある、軽薄で、しかし絶対的な強者の声が、すぐ側で呟いたのが聞こえた気がした。

 

次に士郎が目を覚ました時、そこは見慣れない、しかし清潔なシーツの敷かれたベッドの上だった。

身体の痛みは驚くほど引いている。夥しく流したはずの血液も補充されているかのように、身体が軽い。

 

「……っ!?」

士郎は勢いよく身体を起こした。

そして、部屋の中にいる二人の男の姿を見て絶句する。

 

一人は、見覚えのある胡散臭いアイマスクをつけた白髪の男。

「よっ、お目覚め? 太陽クン。丸1日も寝てたよ」

五条悟が、ひらひらと手を振っている。

 

そして、もう一人。

赤い包帯を目に巻き、此岸の全てを拒絶するかのような冷たい空気を纏った、黒衣の青年。

 

「……遠野、志貴……」

かつて、圧倒的な力で自分をねじ伏せた「殺人貴」。

 

「なぜ、お前たちがここに……」

士郎は警戒を露わにしながら問う。

だが、それよりも先に確認しなければならないことがあった。

部屋を見渡し、そして廊下にも気配を探る。

 

しかし、どこにも彼女の気配がない。

 

「……白野は?」

士郎の声が震えた。

「白野はどこだ! お前たち、まさか……!」

最悪の可能性が頭をよぎり、士郎は激昂してベッドから飛び降りようとする。

 

その肩を、遠野志貴が静かに、しかし有無を言わせぬ力で押さえた。

「落ち着け。殺してはいない」

志貴は淡々とした口調で告げた。

「あの女なら、地下室にいる」

 

「地下室……?」

「ああ。日が昇っているからな」

志貴は窓の外に広がる青空に、忌々しげに目をやった。

「理性が戻っただけで、人に戻ったわけじゃない。あいつはもう『死徒』だ。日の光を浴びれば、塵になる」

 

その言葉が、士郎の胸に改めて重く突き刺さる。

白野は、もう太陽の下を歩けない。

 

「まあ、そういうこと」

五条悟が話を引き継いだ。

「僕らが駆けつけた時、君は瀕死。月チャンは、正気と狂気を行ったり来たり。危うく、君が喰い殺される寸前だったってわけ」

 

五条はそこで一度言葉を切ると、残酷な事実をあっさりと告げた。

「で、色々調べてみたんだけどさ。月チャンの理性を保つ方法、やっぱり一つしかないみたいだね」

 

彼は人差し指を立てて、にっこりと笑う。

「恐らく、一日に一回以上、君の『太陽の血』を吸うこと。それが、彼女が『岸波白野』でいるための、唯一の条件だよ」

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