Fate/Cross Dimensions   作:水成

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第三十六話:涙と誓い

衛宮士郎の日常は、三つの要素で構成されていた。

一つは、昼間の情報収集。五条や志貴と共にアルトルージュの痕跡を求めて、あらゆる情報源を駆けずり回る。

一つは、夜の契約。地下室で待つ白野に自らの血を与え、彼女の理性を繋ぎとめる。

そして、もう一つ。深夜、誰もが寝静まった後に行う、孤独な鍛錬。

 

それは、新たなる武器の創造だった。

アルトルージュによって無残に砕かれた「黎明」。あの刀に代わる、いや、あれを遥かに上回る自分だけの「究極の一」を創り上げること。それが今の彼に課せられた、もう一つの目標だった。

 

「――投影(トレース)、開始(オン)」

工房と化したガレージで、士郎は様々な金属を幻視し、その構造を解析し、そして刀の形へと打ち直していく。

玉鋼、ダマスカス鋼、オリハルコン、ヒヒイロカネ――古今東西、あらゆる伝説の金属を素材として投影し、試した。

 

しかし、どれもうまくいかなかった。

形にはなる。切れ味も、強度も、黎明に匹敵するものは作れる。

だが、しっくりこない。

夢で見た、あの地獄の荒野に突き立っていた一本の刀。あの、闇を切り裂く黎明の光を宿した魂の具現。そのイメージには、どれだけ試行錯誤を重ねても遠く及ばなかった。

 

(何が足りない……? 素材か? 技術か? それとも、覚悟か……?)

成果の出ない日々が続き、士郎の心には徐々に焦りが見え始めていた。

アルトルージュという絶対的な脅威。いつまで保つか分からない白野の理性。そして、日に日に自分の身体を蝕んでいく失血による消耗。

時間は、有限だった。

 

そんな折だった。

その日も夜の契約を終え、白野の頭を優しく撫でていた時、彼女がぽつりと呟いた。

「……ごめんなさい」

その声は、涙で震えていた。

「私のせいで……士郎に、こんな……辛い思いばかりさせて……本当に、ごめんなさい……」

彼女は、自分の存在そのものが士郎を苦しめているという事実に、もう耐えられなくなっていた。

 

その言葉を聞いた瞬間、士郎は鍛錬の焦りも、身体の疲労も全てを忘れて、彼女を、その細い身体を力強く抱きしめた。

「――そんなこと言うな!」

士郎は全力で、彼女の自己否定を否定した。

「お前は、何も悪くない! 絶対に!」

 

その声は、怒りすら含んでいた。だが、それは白野に向けられたものではない。

「悪いのは、あいつだ! 人の心を、命を、なんとも思っていないアルトルージュだ! お前が謝ることなんて何一つない! お前は、被害者なんだ!」

 

士郎の、魂からの叫び。

その言葉は、白野の心を救うにはあまりにも優しすぎた。

彼女は士郎の胸の中で、ただ子供のように声を上げて泣きじゃくった。

「ごめんなさい……ごめんなさい……」と、壊れた人形のように謝罪の言葉を繰り返しながら。

 

士郎は、もう何も言わなかった。

ただ、彼女が泣き止むまでその背中を優しくさすり、ずっと、ずっと、そばにいてやった。

 

どれくらいの時間が経っただろうか。

ようやくしゃくり上げる声が小さくなった頃、白野は涙で濡れた瞳で士郎を見上げた。

その瞳に、士郎は吸い込まれそうになった。

守りたい。この少女を、何があっても守り抜きたい。

その想いが、彼の全てを支配した。

 

士郎はゆっくりと彼女の涙を指で拭うと、その唇に自らの唇をそっと重ねた。

白野は驚きに少しだけ目を見開いたが、やがてその目を静かに閉じ、彼の口づけを受け入れた。

 

その夜、二人は地下室の冷たい床の上で、初めて体を重ねた。

それは、情欲からではない。

互いの傷を舐め合い、互いの孤独を埋め合い、そして互いの存在を確かめ合うための、あまりにも切実で純粋な行為だった。

 

肌と肌が触れ合う温もりの中で、士郎は一つの答えにたどり着いていた。

究極の一。

自分に足りなかったもの。

それは、素材でも、技術でもない。

 

――この、腕の中にある温もりを、命に代えても守り抜くという、ただ一つの、揺るぎない誓い。

 

それこそが、彼の剣を本当の意味で完成させる、最後の「芯」だった。

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