アルトルージュの呼びかけに応じ、世界中から名だたる大死徒たちが続々と彼女の城に集結しつつあった。
彼らが通されたのは巨大な円形の広間。まるで古代ローマのコロッセオを彷彿とさせる闘技場のような場所だった。そしてその中央に、それは鎮座していた。
巨大なガラスの檻。
その中で、岸波白野は力なくうなだれていた。
豪奢な黒いドレスは、彼女の絶望をより一層際立たせるための小道具に過ぎない。
檻の周囲には二十七祖に名を連ねる者や、それに匹敵する力を持つ古参の死徒たちがずらりと集まっている。
「――皆様、本日は私の『黒血劇場』へようこそ」
広間にアルトルージュの声が朗々と響き渡る。
彼女はまるでサーカスの団長のように両手を広げ、集まった死徒たちに嬉々として解説を始めた。
「ご紹介しましょう! 今宵の主役、世にも珍しい『子を孕んだ死徒』でございます!」
その言葉に、死徒たちの間にどよめきが広がる。
彼らは白野を、まるで見たこともない珍獣でも見るかのような好奇と侮蔑の入り混じった視線で、値踏みするように見つめた。
「そしてこの女が産む子! その子には父である人間の『太陽の力』が凝縮されているはず! 私はその子を喰らい、我ら死徒の永年の悲願である太陽の克服を成し遂げます!」
おお、と観客席から感嘆とも嫉妬ともつかない声が上がる。
アルトルージュはさらに声を張り上げた。
「ですが皆様、見世物はこれだけではございません!」
「なんと、この哀れな女を助け出すために、愚かな人間たちが今この私の城へと向かっているとのこと!」
彼女は心底楽しそうにクスクスと笑う。
「愛する女とまだ見ぬ我が子のため、死地に飛び込む勇敢な男! ああ、なんて素晴らしい物語でしょう! これからもっと面白い、感動のストーリーが皆様の目の前で繰り広げられるかもしれませんわ!」
その言葉を聞いた瞬間、白野の顔がはっと上がった。
士郎が、ここに向かっている。
絶望の闇の中に一瞬、確かな希望の灯が灯った。
だが、死徒たちはそんな彼女の僅かな変化を見逃さなかった。
彼らは白野の希望の光を嘲笑った。
「クク……まだ助かると思っているのか、この女は」
「哀れなものだ。己がどのような状況に置かれているのかも理解できぬとは」
「人間が、我らの姫君に勝てるはずもなかろうに」
その嘲笑は容赦なく白野の心を抉っていく。
そうだ。ここは敵の本拠地のど真ん中。
集まっているのは伝説に語られるような化物ばかり。
いくらあの人たちが強くても、この状況はあまりにも絶望的すぎる。
灯ったはずの希望の光が、再びかき消されそうになる。
白野は悟った。
自分はただ見世物にされているのだ。
愛する人が自分のために絶望的な戦いを挑み、そして無残に散っていく様を特等席で観覧させられる、哀れな道化として。
白野は再び深く、深くうなだれた。
ガラスの檻にぽつり、ぽつりと涙の跡がついていく。
その涙すらも、死徒たちにとっては極上の娯楽でしかなかった。