五条悟が穿った巨大な穴から、四人は一斉に城内へと雪崩れ込んだ。
その瞬間を待ち構えていたかのように、城の奥からおぞましい絶叫と共に無数の影が津波となって押し寄せてくる。
「――来たか、雑魚どもが!」
士郎は黎明を抜き放ち、群れの先頭にいた一体をヒノカミ神楽の剣閃で一刀両断にする。
灼熱の刃に焼かれ、死徒は塵も残さず消滅した。
「邪魔よ!」
アルクェイドはただ指を振るっただけ。それだけで不可視の衝撃波が走り、彼女の進路上にいた数十体の死徒が肉片となって弾け飛んだ。
「――死ね」
志貴はその間を縫うように駆け抜ける。すれ違い様に彼のナイフが、死徒たちの身体に走る「死の線」を的確になぞっていく。斬られたことにすら気づかぬまま、死徒たちは次々と崩れ落ちていった。
「はいはい、どいたどいたー」
悟は掌から蒼い光――術式順転「蒼」を放ち、周囲の死徒たちを一点へと吸い寄せ、圧縮し、消滅させる。
目指すは城の最上階、玉座の間。
四人は群がる死徒の群れを、まるで障害物ですらないかのように蹴散らしながら、そのスピードを一切落とすことなく突き進んでいく。
だが、アルトルージュがそう易々と玉座への道を通すはずもなかった。
城の中枢へと続く巨大な広間。
その中央で、三つの影が彼らの行く手を塞いでいた。
その三体から放たれるプレッシャーは、今まで相手にしてきた雑魚の死徒たちとは比較にすらならない。
空気が鉛のように重くなる。
一体は、全身を禍々しい黒の甲冑で覆った巨大な騎士。その手には自身の身の丈ほどもある巨大な魔剣が握られている。
死徒二十七祖・第六位、『黒騎士』リィゾ=バール・シュトラウト。
もう一体は、その黒騎士と対をなすように純白の美しい鎧を纏った女騎士。その腰には優美なレイピアが差されている。
死徒二十七祖・第八位、『白騎士』フィナ=ヴラド・スヴェルテン。
そして、最後の一体。
それは他の二体のような人型ですらなかった。
アルトルージュの足元に常に寄り添っていると言われる、巨大な白い獣。
その姿は犬のようにも狼のようにも見える。
だが、その瞳に宿る光はただの獣のものではない。明確な殺意と知性。
そして、その存在そのものから放たれる圧倒的なまでの「殺戮」の概念。
『ガイアの怪物』。
『人類悪』の顕現。
死徒二十七祖・第一位、『霊長の殺人者(プライミッツ・マーダー)』。
三体の怪物は、ただ静かに侵入者たちを見据えている。
それは玉座へと至る最初の、そして最大の関門だった。
「……黒騎士」
志貴は黒騎士を見て、忌々しげにその名を呟いた。過去に幾度となくその刃を交えた因縁の相手。
「……なるほどな。こいつは面白くなってきたじゃねぇか」
五条悟はプライミッツ・マーダーを見据え、その口角を楽しげに吊り上げた。最強の呪術師は最強の殺戮者を前に、その闘争本能を隠そうともしない。
「――ここはあなたたちに任せて、私は先に行くわよ!」
アルクェイドが士郎に鋭く告げた。
「あいつ(アルトルージュ)の相手は、私じゃなきゃ務まらないわ」
士郎は一瞬躊躇する。
だが、アルクェイドの揺るぎない瞳を見て覚悟を決めた。
「……分かりました。必ず、追いつきます」
「行かせると思うか?」
白騎士が優雅な所作でレイピアを抜き放ち、士郎の前に立ちはだかる。
「――お前の相手は、俺だ」
士郎は黎明を構え、白騎士と対峙した。
「じゃあ俺は、こっちのワンちゃんと遊んでやるとするか」
悟がプライミッツ・マーダーの前に歩み出る。
「……ケリをつけようぜ、黒騎士」
志貴もまた忍刀を抜き、宿敵である黒騎士と向き合った。
「しき、死なないでよ!」
「言われなくてもな」
アルクェイドは志貴にそう言い残すと、三組の死闘が始まろうとしている広間を一気に駆け抜け、玉座の間へと続く階段を駆け上がっていった。
衛宮士郎 vs 白騎士フィナ=ヴラド・スヴェルテン。
遠野志貴 vs 黒騎士リィゾ=バール・シュトラウト。
五条悟 vs プライミッツ・マーダー。
それぞれの場所で、それぞれの宿命を懸けた三つの死闘の火蓋が、今同時に切って落とされた。