他の三人がそれぞれの死闘を繰り広げている頃、アルクェイド・ブリュンスタッドはただ一人、城の最上階へと続く長い螺旋階段を駆け上がっていた。
彼女の行く手を阻もうとする下級の死徒たちは、その姿を捉えることすらできずにすれ違い様、肉塊へと変えられていく。
そして、ついに彼女はその扉の前にたどり着いた。
城の最上階、玉座の間へと続く巨大な黒曜石の扉。
アルクェイドは躊躇なくその扉を蹴り破った。
轟音と共に扉が砕け散る。
その先に広がるのは、異常なまでに広大な空間。
天井には血のように赤いシャンデリアが鈍い光を放ち、壁には歴戦の戦士たちの肖像画とも剥製ともつかないものが無数に飾られている。
そして、その広間の一番奥。
幾重にも重なる階段の上にそれはあった。
人間の白い骨を組み上げて作られた、おぞましい玉座。
そこに彼女は座っていた。
アルトルージュ・ブリュンスタッド。
漆黒のドレスを身に纏い、その銀色の髪を退屈そうに指で弄びながら。
彼女は玉座の前に浮かぶ巨大な水鏡のようなものに映し出される三つの戦いを、まるで芝居でも観るかのように観戦していた。
「……いいわね、あの人間。あの『殺人貴』。とても美味しそう。あの男を私の直系の死徒にして配下に加えたら、きっと面白いでしょうねぇ……」
その言葉は、アルクェイドの逆鱗に触れた。
「――誰に向かって言ってんのよ」
瞬間、アルクェイドの姿が消えた。
次の瞬間には、彼女はアルトルージュの玉座の目の前に立っていた。
そして、その白い腕が不可視の速度で振り抜かれる。
「この、クソ姉がッ!!」
激昂と共に放たれた渾身の一撃。
それは城そのものを粉砕しかねないほどの破壊の力を秘めていた。
だが。
「――来たのね、愚妹」
アルトルージュは、その一撃をこともなげに片手で受け止めていた。
衝撃波が玉座の間全体を揺るがし、壁に無数の亀裂が走る。
しかし、二人の姉妹が立つその場所だけは時が止まったかのようだった。
「白野はどこにやったのよ! それに、志貴は絶対にあんたなんかに渡さないんだから!」
アルクェイドは怒りのままに叫び、攻撃の手を緩めない。
拳が、蹴りが、爪が、神速の連撃となってアルトルージュに叩き込まれる。
一撃一撃が山を砕き、海を割るほどの純粋な「破壊」。
玉座は瞬く間に粉微塵になり、床は巨大なクレーターのように抉れ、天井は崩落し星空が覗き始める。
壮麗だったはずの玉座の間は、瞬く間に嵐が過ぎ去った後のような瓦礫の山へと変貌していく。
しかし、その猛攻の中心にいるアルトルージュは涼しい顔を崩さない。
彼女はその場から一歩も動くことなく、アルクェイドの攻撃を捌き続ける。
拳は、突如として現れた血の盾によって受け止められ。
蹴りは、空間そのものが歪むことでその軌道を逸らされ。
避けきれないと判断した爪による攻撃の射線上には、どこからともなく配下の下級死徒が召喚され、身代わりの盾となって引き裂かれていく。
「……ふふっ」
アルトルージュは瓦礫の山の中で楽しそうに笑った。
「相変わらず脳筋ね、愚妹。その力、もう少し頭を使って使ったらどう?」
その言葉は火に油を注ぐ。
アルクェイドの攻撃はさらに激しさを増す。
だが、その全てがアルトルージュの掌の上で踊らされているかのようだった。
「怒りに任せてただ力を振り回すだけ。だからあなたは、いつまで経ってもただの『お姫様』なのよ。本当の『王』にはなれない」
アルトルージュはアルクェイドの攻撃の合間を縫って、その耳元で囁く。
その声は甘い毒のように、アルクェイドの冷静さを確実に蝕んでいく。
最強の姉妹の戦いはまだ始まったばかり。
しかし、その主導権は完全に姉であるアルトルージュが握っていた。