「悪鬼め……! 貴様は必ず、俺がこの手で斬る!」
士郎の魂からの咆哮が、瓦礫の広間に響き渡る。
だが、その悲痛なまでの決意とは裏腹に、戦況は絶望的だった。
白騎士フィナ=ヴラド・スヴェルテンの剣技は、あまりにも完璧すぎた。
士郎の振るうヒノカミ神楽の太刀筋はことごとく見切られ、捌かれ、カウンターの鋭い突きが彼の身体に新たな傷を刻んでいく。
(くそっ……! なぜ、届かない……!)
焦りが士郎の心を蝕む。
このままではジリ貧だ。
白野を助けに行く前に、ここで力尽きる。
その絶望が脳裏をよぎった、瞬間。
ふと、あの最強の男の不遜な声が蘇った。
『――型に囚われてんじゃねぇよ。大事なのは、その本質だろ?』
五条悟との地獄の特訓。
あの時、彼が言っていた言葉。
(本質……ヒノカミ神楽の、本質……?)
そうだ。
ヒノカミ神楽はあくまで「型」。動きも剣の振りも、全てはその力を引き出すための手段に過ぎない。
その本質は、もっと根源的なもの。
自らの魂を燃やし、その命の輝きを太陽の如き熱と光として、刃に宿すこと。
「……そうか」
士郎の心に一筋の光が差した。
俺は、ずっと型をなぞることばかりに囚われていた。
だが、俺の「太陽」は俺だけのものだ。
俺の魂の形は、誰とも違う。
ならば、俺だけの太陽の燃やし方があるはずだ。
「――I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている)」
士郎は詠唱を始めた。
それは彼の原点。
彼の全て。
白騎士は、その隙を見逃さない。
「今更、何を!」
彼女はとどめを刺さんと一直線に突撃する。
だが、その瞬間、白騎士の周囲360度、全ての空間に無数の剣、剣、剣が出現した。
それは士郎が投影した偽りの宝具たち。
それらが時間差で一斉に白騎士へと襲いかかる。
「小賢しい!」
白騎士は卓越した剣技でその全てを弾き、砕いていく。
だが、その対処に追われたほんの一瞬。
彼女の意識が士郎から逸れた、その刹那。
士郎は、その一瞬のために全てを懸けていた。
彼の右手に握られた「黎明」の刀身が、にわかには信じがたいほどの輝きと熱を放ち始める。
それはもはや炎ではない。
凝縮された太陽、そのもの。
周囲の空気が歪み、瓦礫がその熱に耐えきれず溶け落ちていく。
「――悪鬼滅殺」
士郎は静かに呟いた。
それは型ではない。
彼の魂の誓い。
そして、彼はその究極の一刀を放つ。
ヒノカミ神楽の奥義、残火の太刀。
4つの技から構成される、その奥義の一つ。
残火の太刀・東――『旭日刃(きょくじつじん)』
それは斬撃ではない。
全ての炎と熱を刃の先端、ただ一点に極限まで凝縮し、触れるもの全てを原子レベルで消滅させる、絶対的な「攻撃」。
白騎士は、その異常な熱量に気づき咄嗟にレイピアで防御の構えを取る。
彼女の騎士としての誇り、鉄壁の防御。
だが、それは意味をなさなかった。
黎明の切っ先がレイピアに触れた、瞬間。
音も衝撃もなかった。
ただ、白騎士のレイピアが、その美しい鎧が、そして彼女の存在そのものが、光の中に溶けるように蒸発した。
跡形もなく。
後に残されたのは、壁まで一直線に続く灼熱の傷跡と、呆然と立ち尽くす衛宮士郎だけだった。
彼は、自らの魂が生み出したあまりにも強大な力に戦慄しながらも、確かに勝利を掴み取ったのだ。