後に残されたのは、壁まで一直線に続く灼熱の傷跡と、呆然と立ち尽くす衛宮士郎だけだった。
「……これが、ヒノカミ神楽の……俺の本当の力……」
自らの右手に握られた「黎明」を見つめる。
その刀身は未だ仄かな熱を帯びていた。
自らが放ったあまりにも強大な力に、士郎は我知らず戦慄していた。
これが日の魔術の真髄。
これが五条悟が言っていた「本質」。
だが、いつまでも呆けている時間はなかった。
広間の反対側では、未だ志貴と黒騎士の激しい攻防が続いている。
そして、城のどこかでは悟があの白い獣と戦っているはずだ。
(……加勢はしない)
士郎は決意を固める。
彼らを信じる。
自分には自分のやるべきことがある。
一刻も早く白野を助け出す。
そして、全ての元凶であるアルトルージュをこの手で斬る。
士郎は仲間を信頼し、玉座の間へと続く階段を駆け上がった。
その途中、ふと頭上を凄まじい速度で何かが通り過ぎていった。
見上げると、それはアルクェイドだった。
彼女は自分たちより先にアルトルージュの元へ向かっていたはず。
それがなぜ今、ここを逆方向に飛んでいくのか。
(……何か、あったのか?)
一瞬、嫌な予感が胸をよぎる。
だが、士郎はその疑念を振り払った。
今はただ前へ。
白野の元へ。
その頃、遠野志貴と黒騎士の戦いは最終局面を迎えていた。
「――御廚子!」
指輪の力を解放し「五分の王様」となった志貴は、黒騎士を圧倒していた。
超高速で繰り出される不可視の斬撃が、黒騎士の漆黒の鎧を切り刻み、その肉体を削り取っていく。
「ぐっ……! この、殺人貴が……!」
黒騎士もまた魔剣「真性悪魔ニアダーク」の力を最大限に解放し、呪いの奔流を放つ。
志貴は、その呪いの「死」を殺しながらさらに踏み込む。
互いの全てを懸けた最後の一撃がぶつかり合おうとしていた、その時。
ドゴォォォンッ!!
突如として天井が崩落した。
そして、その瓦礫の中から一体の人影が流星の如き速度で降下してくる。
「――え?」
志貴がその影の正体に気づいた時には、もう遅かった。
その影――アルクェイドは満面の笑みを浮かべながら、黒騎士の背後へと着地する。
そして、その白い腕を何の躊躇もなく黒騎士の心臓へと突き立てた。
「が……はっ……!?」
黒騎士は信じられないという表情で、自らの胸を貫く白い腕を見下ろす。
そして、ゆっくりと背後を振り返った。
「……な、ぜ……アルクェイド、きさまが…ここに……?」
その問いに、アルクェイドは心底楽しそうに答えた。
その瞳は理性の光を失い、どす黒い狂気と独占欲に満ちていた。
「こんなのと遊んでないで……私と遊びなさいよ、志貴」
アルクェイドはそう言うと、黒騎士の身体をまるでゴミでも捨てるかのように投げ捨てた。
そして、その狂気に染まった紅い瞳で、ゆっくりと志貴の方へと向き直る。
「……アルクェイド?」
志貴は目の前の光景が信じられなかった。
彼女の変わり果てた姿に、ただ呆然と立ち尽くす。
最強の援軍は今、最悪の敵となって彼の前に立ちはだかった。