Fate/Cross Dimensions   作:水成

64 / 72
第六十二話:真贋相愛、彼岸花の誓い

志貴は絶望的な戦いを続けていた。左手の指輪がタイムリミットの終わりが近いことを告げている。残り時間はもう半分もない。

 

「――御廚子!」

 

放たれた無数の斬撃は、しかしアルクェイドに届く前に霧散する。彼女の身体から溢れ出す、あまりにも強大な魔力が不可視の刃を全て防いでいるのだ。

 

そして何より絶望的なのは。

 

(……死の線が見えない……!)

 

暴走しかかっている直死の魔眼をもってしても、目の前のアルクェイドのその暴力的なまでの生命力のどこにも、「死」を見出すことができない。

 

殺せない。このままでは時間切れで自分が殺されるだけだ。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

アルクェイドの猛攻を避けるだけで精一杯だった。一撃でもくらえば即死する。指輪の超再生能力すら意味をなさないだろう。

 

「なによ、逃げてばっかりで、面白くなーい!」

 

アルクェイドは唇を尖らせて挑発する。その仕草は、かつての彼女のままだ。だが、その瞳に宿る光は冷たく、残忍だった。

 

「私の力を奪ってるくせに、そんなゴキブリみたいな戦い方しかできないの?」

 

その言葉に志貴は確信した。アルクェイドは止めようと思えば、指輪への魔力供給を止められるはずだ。それでも止めない。

 

それは彼女の心の奥底で、かろうじて残っている本当の彼女が、「私を止めて」と叫んでいるからではないのか。

 

(……賭けるしかない)

 

志貴の脳裏に、五条悟から聞いた領域の極意が蘇る。自らの心象世界を具現化する究極の魔術。

 

俺の心象……。

 

それはいつだって死と隣り合わせだった。

 

志貴はアルクェイドから距離を取ると、その指で印を結んだ。それは彼が無意識のうちに掴み取っていた、彼の領域の掌印。

 

荼枳尼天印。

 

「領域展開――」

 

志貴のその言葉と共に、世界が塗り替えられていく。崩れかけた城の瓦礫は消え、代わりにどこまでも続く幻想的な光景が広がった。

 

空には無数の亀裂が走った巨大な月が青白い光を投げかけている。それは千年城で眠り続けていたアルクェイドの儚い生命力の象徴。

 

大地は見渡す限りの真紅の彼岸花の野原。この彼岸花は、志貴がこれまで殺してきた、あるいはこれから殺すであろう全ての「死」の概念が花開いたもの。

 

鮮やかな色彩を持つ世界。だが、その全てが「死」の気配に満ちており、美しければ美しいほど、見る者に根源的な恐怖を抱かせる。

 

「――『真贋相愛(しんがんそうあい)』」

 

ここは遠野志貴の心の中。愛と死が入り混じる矛盾の世界。

 

「……なに、これ……?」

 

アルクェイドは初めてその表情に困惑を浮かべた。そして気づく。この領域内では自分の魔力が思うように使えない。代わりにこの彼岸花たちが自分に敵意を向けている。

 

「――お前の我儘にも付き合ってやる」

 

志貴は静かに告げた。彼の領域は五条悟の「無量空処」のように相手を直接害するものではない。その本質は必中の刃。この領域内に存在する全ての「死」の概念が、彼の刃となる。

 

「御厨子」

 

彼岸花が一斉に刃と化し、アルクェイドへと襲いかかる。

 

朱い彼岸花の花言葉は「情熱」「独立」「再会」そして――

 

「――あきらめ」

 

志貴は愛する人を殺す覚悟を決めた。その悲しいまでの決意が、今、無数の刃となって彼女に襲いかかる。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。