領域「真贋相愛」の中、戦いの様相は一変していた。空には亀裂の入った月、大地には無数の刃と化した彼岸花。ここではアルクェイドのあの理不尽なまでの攻撃力も防御力も鳴りを潜めていた。
必中の斬撃が容赦なく彼女の白い身体を切り刻んでいく。
「――ッ!」
アルクェイドは苦悶の声を上げながらも、その身を瞬時に再生させる。だが斬撃は止まらない。一つ傷が癒える間に十の新たな傷が刻まれる。徐々にその驚異的な超再生が追いつかなくなってきていた。
しかし彼女も黙ってやられるだけではない。再生の僅かな合間を縫って、志貴へと鋭い攻撃を繰り出す。志貴もそれを忍刀で受け流し応戦する。
一進一退。
だが志貴の表情は晴れない。
(……これでも駄目なのか……!)
領域を展開し、彼女を弱体化させても、なお「死」が見えない。このままでは領域の維持が限界を迎え、先に力尽きるのは自分の方だ。
絶望が再び志貴の心を覆い尽くそうとした、その時。
唐突に彼は昔を思い出していた。自分に人生のイロハや生きる術を教えてくれた破天荒な先生。最強の魔法使いの一人、蒼崎青子。彼女がいつか自分に言った言葉。
『――かみさまはね、余分な力なんて与えないのよ』
『だから、志貴に、その、ヘンテコな眼があるってことは、きっと何かしらの意味があるってことなの』
その言葉が今、雷のように志貴の脳天を貫いた。
そうだ。意味がないはずがない。この忌々しい直死の魔眼を自分が持っていることには、絶対に意味があるはずなんだ。
「――見えろ」
志貴はその言葉を信じ、全ての意識を眼に集中させた。アルクェイドの存在そのものを殺すのではない。もっと深く。もっと根源を。その魂の在り方を見つめる。
すると。
見えた。
それは今まで見てきた死の線や点とは全く違うものだった。アルクェイドの魂の中心。その輝く生命力にまるで黒い茨のように絡みつき、根を張っているおぞましい何か。
それは彼女の生命とは明らかに異質な存在。
(……あれは……)
志貴は直感した。あれこそがアルクェイドの心を蝕み、彼女を暴走させている元凶。アルトルージュが植え付けた呪いそのものだ。
(……あれを殺せば……!)
アルクェイドは元に戻るかもしれない。助かるかもしれない。確証はない。ただの希望的観測かもしれない。もし外れれば自分は死ぬ。
――でも、やるしかない。
志貴は覚悟を決めた。彼岸花の猛攻でアルクェイドの動きを一瞬止める。そしてその懐へと一直線に飛び込んだ。
「――これで終われッ!!」
忍刀の切っ先がアルクェイドの胸元へ。しかしその狙いは心臓ではない。その奥にある魂に絡みつく黒い茨。
直死の魔眼が捉えた呪いの死を殺すために。志貴は最後の力を振り絞った。