「――これで終われッ!!」
志貴の魂からの絶叫が彼岸花の領域に響き渡る。その最後の力を振り絞った一撃は、アルクェイドの心臓を僅かに逸れ、その奥にある魂に絡みつく黒い茨――アルトルージュの呪いの「死」を正確に貫いた。
ブツンッ、と。まるで古くなった太い蔓が引きちぎられるような鈍い感触。次の瞬間、アルクェイドの魂に寄生していた黒い茨はその根元から光の粒子となって霧散していく。呪いは殺された。
それと同時。今まで鬼神の如き力で暴れ回っていたアルクェイドの身体からふっと全ての力が抜け落ちた。彼女はまるで操り人形の糸が切れたかのようにその場に崩れ落ちる。
アルクェイドの暴走が止まったことで、志貴の左手の指輪もまたその役目を終えたかのように輝きを失った。魔力の供給が途絶え、志貴の領域「真贋相愛」もまたガラス細工のように砕け散り、元の半壊した城の広間へと引き戻される。
「はぁっ……はぁっ……!」
志貴は激しい消耗で膝から崩れ落ちそうになるのを必死に堪え、よろめきながら倒れ伏すアルクェイドの元へと駆け寄った。
「……アルクェイド……!」
その呼びかけに彼女はゆっくりと顔を上げた。その真紅の瞳からどす黒い狂気の光は消え、代わりに志貴がよく知る澄んだ光と大粒の涙が溢れていた。
「……ごめ……なさ……しき……」
か細い掠れた声で彼女は謝罪の言葉を口にする。自分がどれほど恐ろしいことをしてしまったのか、その全てを思い出したのだろう。その痛々しい姿に志貴はわざと悪態をつくように言った。
「……ホントだよ、バカ。死ぬとこだったぞ、こっちは」
だがその声は安堵で震えていた。彼はゆっくりと彼女の隣に膝をつくと、その金色の髪を優しく撫でる。
「……だが、気にするな。もし今後、お前がまたああいう風に堕ちるようなことがあったら」
「俺が何度でも止めてやる。殺してでも止めて、お前を連れ戻してやる」
だから、と彼は続けた。その声はどこまでも優しかった。
「安心して眠ってくれよ」
その言葉が引き金になったかのようにアルクェイドの瞳から涙が堰を切ったように溢れ出した。彼女は子供のようにしゃくり上げながら、しかしその表情には安堵の光が宿っていた。やがてその泣き声も小さくなり、彼女は深い深い眠りへと落ちていく。
その安らかな寝顔を見届けた瞬間、志貴の張り詰めていた緊張の糸もぷつりと切れた。身体の節々が悲鳴を上げ、意識が急速に遠のいていく。
(……悪いな、衛宮……)
薄れゆく意識の中で彼はまだ戦い続けているであろう友の姿を思った。加勢に行かなければならない。だがもう指一本動かせない。
(……あとは、頼んだ……ぞ……)
心の中での最後の謝罪を最後に、彼は眠り続けるアルクェイドを抱きかかえるようにその場に崩れ落ちた。
遠野志貴とアルクェイド・ブリュンスタッド。最も悲しい死闘を演じた二人は、こうして戦場からその姿を消した。彼らは戦線離脱という形で、しかし確かに愛を取り戻したのだ。